マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス   作:soul

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 サヨナラノツバサ編




第26話 dark clouds 暗雲

 

 シェリル・ノーム救出作戦を遂行中の『S・M・S』の旗艦である『マクロス・クォーター』の艦橋では、『アルカトラズ』刑務所から首尾良くシェリルの救出に成功して地下搬入路を経由して『クォーター』へと向かうとの連絡を受けて、受け入れと共に出港の準備を急ぐように指示を出した――だが、出港の準備も終了する間際に最悪の知らせが艦橋に上ってきた。

 

 シェリルと共に『クォーター』へと向かっているアルト達を受け入れる為に待機している『アイランド1』との搭乗口付近に新統合軍の特殊部隊と思われる部隊が現れて、『クォーター』へと続く道を封鎖しているというのだ。

 

 だが、重火器で武装した新統合軍の特殊部隊は『クォーター』へと続く通路を封鎖するだけで、此方に仕掛けて来る気配は無いと言う。『フロンティア』行政府において首席補佐官の地位にあるレオン・三島の野望――バジュラを制して彼らのみが精製出来るフォールド・クォーツを独占しようという……他者よりも優れた力を有した後に何が待つのか、それは歴史が教えてくれるだろう。

 

「……とはいえ、このままではアルト准尉達との合流は難しい……シャトルを出して、安全なポイントで彼らを回収して宇宙で合流するか」

 

 妹が心配だと強引に偵察に出たオズマ少佐からの連絡もない所から、『クォータ』の外は混迷しているようだ。現在『マクロス・フロンティア』船団はバジュラの襲撃を受けて混乱の中に有る。混乱の隙を突いて出港して、アルト准尉達を宇宙で回収後に安全圏へとフォールド航法にて向かう案を考えていたジェフリー艦長に、オペレーターのモニカ曹長より物資搬入路近くの外壁に爆発を確認したと報告があった。

 

「――爆発?」

「はい。内部からの爆発のようですが、すでに空気の流出は充填剤により最小限に抑えられているようです」

 

 モニカ曹長からの報告を聞いたジェフリー艦長は思案する……『クォーター』の近くで戦闘が起きているのは間違いないが、新統合軍によって封鎖されていて此方から援軍を送るのは難しく、オズマ少佐からの連絡も今だ無い……『クォーター』を出港させて外から部隊を送る方が良いのか、もしかしたらアルト准尉達は既に新統合軍によって拘束されているのかもしれない……そうであれば、体勢を立て直して奪還作戦を立案する必要がある。

 

 『マクロス・クォータ―』艦長シェフリー・ワイルダーは難しい決断を迫られていた。

 

 


 

 

 『アイランド1』の地下に設置された物資搬入路にてブレラ・スターンの襲撃を受けた早乙女アルトとランカ・リーそしてシェリル・ノームの三人は、救出に来たオズマとブレラとの戦闘に乱入して来た翡翠の暴挙により宇宙空間へと吸い出され――そこを翡翠に救出された……『アイランド1』の外壁を破壊して自分達を危険に晒し、宇宙空間でも活動する翡翠の異常性を見たアルトは、見た目は年端もいかない少女である翡翠を警戒して、新統合軍を差し向けたレオン・三島と同じように「お前は何なんだ」と詰問し、さすがに言い訳のしようがない事を理解している翡翠より場所を変えて説明する事を提案された。

 

 水晶の様な素材で作られた通路を翡翠に案内された三人は一見普通の素材で作られた部屋へと通され、その部屋にはブレラとの戦闘で負傷していたはずのオズマがおり、彼と再会できた事をアルトとランカは喜んで――異常な能力を見せた翡翠に説明を求めた。

 

「――君には、いろいろと聞きたい事もあるしな」

 

 説明する気はあるんだろう、と先にこの部屋に通されて席に座っていたオズマはランカと再会した事に顔を綻ばせていたが、視線を翡翠に向けると真剣な表情を浮かべながら視線に力を込めて――言い逃れなど許さないとばかりに問い掛ける。

 

 オズマのみならずアルトやランカそしてシェリルの四人の視線を一身に受ける翡翠。重苦しい空気が流れる中、部屋の扉が開いて見知った女性が入室して来た。ピンク色の長い髪を持つエム姉妹の長女であるノノであった。

 

 硬い表情を浮かべたノノは、重苦しい空気を物ともせずに翡翠の前まで来ると口を開いた。

 

「……翡翠、『フロンティア』の現状は想像通りになったみたい」

「……そう。『フロンティア』から離れたのは正解だったようだな」

 

 姉妹の間で不穏な会話が交わされたが、それは後で説明すると言った翡翠は姿勢を正すと、ノノが着席するのを待って口を開いた。

 

「――さて、オズマのおじちゃんが疑問に思っている事、私達が何者で、何を目的に『フロンティア』にやって来たのか、それを説明しよう」

 

 彼女は語り始める――嘘ではないが全てではない、長距離移民船団『マクロス・フロンティア』船団へとやって来た経緯を――異世界において新型の亜空間跳躍実験の部分は省き、航行中に事故によってこの局部銀河系にワープアウトした翡翠とノノは、船体に負ったダメージを修復する場所を探していた事を説明している途中で、アルトから待ったがかかる。

 

「――何、アルトにいちゃん」

「――お前、それって地球人じゃないだけでなく、ゼントラーディやゾラ人とも違う、まったく別の異星人なのか!?」

「……何を今更、今回色々能力を見せただろうに」

 

 呆れ顔の翡翠が言うには、彼女とノノはやはり姉妹ではなく、今アルト達が居る場所――亜空間跳躍実験用の宇宙船『実験艦―02』に乗り込んでいたクルーだという。

 

「……“02”という事は、“01”も有るのよね? それはどうなったの?」

 

 翡翠の説明を聞いていたシェリルが素朴な疑問として聞くと、翡翠は苦虫をかみ潰したような渋面を浮かべて嫌そうな顔をしたが、オズマやアルトそしてランカが翡翠に視線を向けて、何故かノノまで嫌そうな顔をする翡翠を見ている……大きくため息をついた翡翠は、先進的な実験には犠牲が付きモノさと言葉を濁した。

 

「……ま、そんな訳でこの銀河に放り出された私達は船を修理しながら救援を待っていたんだが、そんな時にフォールド航法時に現れる超時空より強力な思念波が発生している事に気付いたんだ」

「――それって!?」

「――まさか、お前達はランカの歌に誘われて!?」

 

 翡翠の説明のあった強力な思念波……それはフォールド・ウェーブによって宇宙を伝播するランカの歌声の事だろう……シェリルとの縁を繋いだ紫の石のイヤリング――バジュラとの戦いを繰り広げている時に、遠く離れた『フロンティア』にいるランカの歌声をイヤリングに付けられた紫の石であるフォールド・クォーツの力によって聞いたこともあった。

 

 シェリル救出作戦を行う前、ブレラによってもたらされたランカの秘密――母親の胎内で感染したフォールド細菌の力によって超時空を超えて思念波-歌声を宇宙に響かせているという事。

 

 そしてバジュラもまたフォールド細菌の力でフォールド波を発生させて、超時空ネットワークを構成している……そこから導き出された仮説――バジュラはランカの発するフォールド波を感知して『フロンティア』へと来訪して、個別に乱雑に動く得体の知れない生命体の中から、同じようにフォールド波を発するランカを救出しようとしていたのかも知れないと……そして今回判明した事実、翡翠達もまたランカの歌声がフォールド波に乗って翡翠達にまで届いた……ランカの歌声はどこまで届いているのだろうか?

 

「……つまり、お前達はランカの歌声に導かれて『マクロス・フロンティア』船団へやって来たのか」

「そういう事だな」

「――あの時、『フロンティア』を襲ったバジュラの戦艦級を破壊したアンドロイドも君の仲間か?」

「……さあ、あの時は『アイランド1』の中に居たから、オズマのおじちゃんの言うアンドロイドって言うのは“見てない”なぁ」

 

 明らかに真実を語っていない事がまる分かりな翡翠の態度にさらに追及しようとしたオズマだったが、その前に翡翠は『フロンティア』船団に来てから知った事実――彼女達が来訪した時にはすでにランカは大企業『L・A・I』に注視されて、その『L・A・I』と太いパイプを持つ『フロンティア』行政府は襲い来る脅威バジュラへの対抗策として、彼らのフォールド・ネットワークを阻害するシステムを構築すると同時にバジュラと同じくフォールド細菌を体内に持ってフォールド波を発するランカの歌声を利用して超時空生命体であるバジュラを制する作戦を立案していた事を告げる。

 

「……あの、バジュラのフォールド・ネットワークを阻害するというシステムか」

 

 ブレラからの情報でランカがフォールド細菌を有しており、その歌声がフォールド波に乗ってバジュラへと届く事はオズマとアルトそして当人であるランカも知ってはいたが、翡翠の話したバジュラのフォールド・ネットワークを阻害するシステムは新統合軍が総力を挙げて『アイランド1』の各所に設置していた。

 

 システムの効果がどれほどあるのか、と疑問の声を上げるオズマ達の表情を見た翡翠は、『実験艦―02』のコンピューターに命じて部屋の中央部に投影型のウィンドウを立ち上げると、アルカトラズ刑務所からシェリルを救出する作戦の影響で起きたバジュラの攻撃を受ける『フロンティア』船団の映像が映し出された。

 

 無数のバジュラ側戦闘艦よりの砲撃によって護衛の新統合軍艦艇が次々と撃沈される中、強力な生体重量子ビームが防護シェルを貫通して『アイランド1』の市街地へと到達してて爆発を起こす光景に一同は息を飲む――あの爆発の下では一体何人の人々の命が消え去ったのか。

 

 太古に栄えた先史文明プロトカルチャーが恐れながらも憧れて崇拝した超時空生物バジュラの力は凄まじく、新統合軍の艦艇は次々と撃沈されて、赤とクリーム色をした兵隊バジュラの機動力について行けないバルキリーもまた撃墜されて幾つもの火球の中に消えていく……『フロンティア』船団が全滅寸前まで追い込まれている戦況に変化が訪れる――幾つもの生体重量子ビームを受けて破壊の跡が痛々しい『アイランド1』より強力なフォールド波が発せられると、優勢に戦いを進めていたバジュラたちが戸惑い痙攣を始めて、彼らを守るエネルギーシールドすらも失われて宇宙を漂いはじめた。

 

「――なんだ、何が起こった?」

「……あんなに優勢だったバジュラが、気絶したように まとめて漂い始めた」

 

 力なく宇宙を漂う兵隊バジュラにこれまでのうっ憤を晴らすかのように襲い掛かるバルキリー部隊。バジュラの砲火に押されていた新統合軍の艦艇もここぞとばかりに砲撃を加えてバジュラ側の戦闘艦を攻撃する――そして、隊列を組んだバルキリーの翼に装着された特殊弾頭が次々と発射されて、力なく宇宙を漂うバジュラ達に命中した。

 

 だが弾頭は炸裂してバジュラを倒す訳でもなく、推進部を切り離して目から光を失ったままのバジュラたちは身体の色を変化させながら宇宙を飛び、バルキリー隊の隊列へと次々に参列していく。

 

「……バジュラたちが次々と『フロンティア』軍に合流している」

「……どうして」

 

 これまで遭遇すれば必ず戦いになるほどの凶暴性を見せるバジュラが、粛々と『フロンティア』軍に付き従う姿に、戸惑いの表情を見せるアルトとランカ。そんな二人だけでなく驚きの表情を見せるオズマやシェリルの様子を見た翡翠は、投影型ウィンドウに映された映像を力なく漂う赤いバジュラに変えてバルキリーより発射された特殊弾頭が命中する瞬間をアップにした所で映像を止める。

 

「……これは」

 

 バジュラの強固な外骨格――関節部分に撃ち込まれて抜けないように深く突き刺さって外に出ている部分が展開して受信システムが『アイランド1』のフォールド・ジャミング装置からのフォールド波を受けていた。

 

「『アイランド1』の各所に設置されたフォールド・ジャミング装置から発生されるフォールド波によってバジュラたちのネットワークを分断して、関節部分に撃ち込まれた特殊弾頭によってバジュラたちを意のままに操ろうとは、あのキノコも中々やるじゃないか」

 

 『フロンティア』大統領首席補佐官レオン・三島の髪形を揶揄しながらも、心底楽し気に嗤う翡翠――彼女によれば、現在『マクロス・フロンティア』船団は襲い掛かってきたバジュラを従えながらバジュラたちの母星へ向けて進撃を開始しているという。

 

「――何だと!」

「――『フロンティア』がバジュラの母星に向けて進軍って、何でそんな事に!?」

 

 驚きを露にするオズマとアルトに向けて、翡翠は口角のつり上がった三日月のような笑みを浮かべると、翠眼を心底楽しそうに歪めて――文明を発展させる為に資源を求めるのは知的生命体の宿命だろう、と嗤う。

 

「……まさか、バジュラを滅ぼしてフォールド・クォーツを独占しようと……明らかに銀河条約違反だぞ、レオン・三島!」

 

 滅びを経験した地球人類は、種の存続の為に『銀河播種計画』を立案して銀河のあらゆる方面に移民船団を送り込んだ。銀河系各方面に移民船団を送り込んだ地球統合政府は、過去の愚行を鑑みて知性を持つ相手への侵略を禁じた銀河条約が締結されていた。

 

「……翡翠ちゃん。ここが船だと言うのなら、通信設備を貸してくれないか?」

 

 申し出を快諾した翡翠は、オズマの前に別の投影型ウィンドウを呼び出すと簡単に使用方法を教えて、それを聞いたオズマは『S・M・S』で使用されている周波数に合わせると『マクロス・クォーター』へと連絡を取った……レオン・三島の野望を阻止する為に、無益な戦争に巻き込まれようとしている『フロンティア』市民を助ける為に。

 

 


 

 

 『マクロス・クォーター』への通信を行っているオズマの邪魔になってはいけないと別室へと移動したアルト達だったが、隣の部屋へと着くなりアルト達を宇宙空間で謎の光で守った事で消耗していたのか黄緑色の体毛を持つ小動物『あい君』が目を覚ましてランカのポケットから顔を出して、あい君が無事目を覚ました事を喜んだランカが あい君を優しく手で包んで目の前まで持ち上げる。

 

「――元気になったんだね、あい君!」

「――へぇー、中々かわいいじゃない」

「……そいつが頑張ってくれたおかげで、俺たちは死なずに済んだんなからな、ありがとよ」

 

 嬉しそうにランカの頬に頭を擦り付ける あい君の愛らしさに頬を緩めるシェリルと、あい君が放った赤い光によって真空の宇宙空間から生還出来た事を理解しているアルトが礼を述べている傍らで、翡翠はランカに抱き抱えられている あい君を凝視しており、それを見たノノが何をしているのか問い掛けた。

 

「……どしたの、翡翠?」

「……いや、“焼いたら”旨いかな、と」

 

 あい君を抱えたランカはダッシュで逃げ出した。

 

「……冗談なのに」

 

 見事なまでの逃げっぷりに苦笑を浮かべていた翡翠だったが、『実験艦―02』のコンピューターから思念波による緊急連絡を受けて表情を真剣な物に変えると、アルト達に断りを入れてから退室して後を追って来たノノにどうしたのか? と問われて、真剣な表情で答えた。

 

「……自動兵器工廠衛星を守るドローンから緊急通信が来たんだ」

 

 自動兵器工廠衛星がバジュラとは別の巨大な宇宙生物の攻撃を受けて壊滅した、と。

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 宇宙を漂流していたアルト達を実験艦ー02の艦内へと誘った翡翠は、自分たちが異世界からの来訪者である事を隠しながらフロンディア船団へと来た経緯を説明します。
 そんな中で宇宙では別の動きがあり、翡翠とノノは警戒レベルを上げます……自動兵器工廠衛星には大型の縮退炉がありますからね、バニシングドライブ波も強力だったのでしょう。


 では次回 第27話 bottomless malice 底知れぬ悪意 8/2 0時更新予定です。ではでは~。



 没ネタ

  シェリル救出作戦を行う前、ブレラによってもたらされたランカの秘密――母親の胎内で感染したフォールド細菌の力によって超時空を超えて思念波-歌声を宇宙に響かせているという事。

 そしてバジュラもまたフォールド細菌の力でフォールド波を発生させて、超時空ネットワークを構成している……そこから導き出された仮説――バジュラはランカの発するフォールド波を感知して『フロンティア』へと来訪して、個別に乱雑に動く得体の知れない生命体の中から、同じようにフォールド波を発するランカを救出しようとしていたのかも知れないと……そして今回判明した事実、翡翠達もまたランカの歌声がフォールド波に乗って翡翠達にまで届いた……ランカの歌声はどこまで届いているのだろうか?

 ……それにしてもバジュラや翡翠達と、ランカの歌に引き寄せられるモノは厄介ごとしか齎さないのか。

「……アルト君、何か変な事を考えていない?」
「――いや、そんな事は無いぞ、ランカ」

 ランカの勘の良さに、素知らぬ顔をしながらも背中に冷たい汗を流すアルトであった。





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