マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス 作:soul
サヨナラノツバサ編
長距離移民船団『マクロス・フロンティア』に駐留していた民間軍事プロバイダー『S・M・S』旗艦である可変攻撃ステルス空母『マクロス・クォーター』は、『フロンティア』政府の高官であるレオン・三島が企む超時空生物バジュラへの侵略計画を察知して、それを阻止すべく『マクロス・フロンティア』船団より離反して、『フロンティア』政府が行おうとしている事の顛末を地球の新統合軍と『S・M・S』本部に通報した。
知的生命体への侵略を禁止した銀河条約に違反する行為を見逃すわけにはいかず、例え『マクロス・クォーター』が撃沈されたとしても、事態を知った新統合軍と『S・M・S』本部がレオン・三島の企みを阻止してくれる事を願って。
フォールド航法により安全圏へと離脱した『マクロス・クォーター』は態勢を整えて、バジュラの母星へと向かう『マクロス・フロンティア』船団を追跡するべく再びフォールド航法へと移行しようとしたその時、通信・火器管制を担当するブリッジ・オペレーターであるラム・ホア軍曹が奇妙な通信を傍受した。
「……それは本当にオズマ少佐からの通信なのかね」
「……パーソナル・コードは確かにオズマ少佐の物なのですし、『S・M・S』の暗号通信を送る周波数を使用しているのは間違いがないのですが……発信元が不明なんです」
「……発信元が不明ねぇ…」
シェリル・ノーム救出部隊の増援に出たオズマ・リーより通信があったのは喜ばしいが、その発信元が不明なのが罠の可能性を匂わせて慎重になるシェフリー艦長と操舵士のボビー・マルコー大尉。
「……で、通信はなんと?」
「はい。外部協力者の助力によりシェリル・ノーム救出部隊は健在、詳細は合流後に説明を行うとの事です」
短い通信にはその内容と合流ポイントの指定がしてあり、罠の可能性を考えつつもシェフリーは指定されたポイントへと向かう事を決断した。
『実験艦―02』ブリッジ
成り行きで『アイランド1』から宇宙空間に流出したアルト達を救出した翡翠は、彼らを『実験艦―02』の艦内で保護しながらもその行動を監視している傍ら、銀河系中心宙域内に確保している十基のゼントラーディの自動兵器工廠衛星が巨大な宇宙生物に次々と襲撃されて、せっかく確保していた戦力を構築する為の手段が軒並み失われた事実に落胆しながらも、護衛として展開していたドローンから送られてきたデーターを詳細に分析していた。
「……今回襲撃して来たのはバジュラではないんだよね」
「……ああ。ドローンから送られてきた初期のデーターでは敵の規模は数百から数千の規模で、個体の大きさはバジュラが保有している航宙艦タイプより一回り以上大きく、その攻撃力は苛烈の一言に尽きるようだ」
青い光を発する水晶の様な構造物で作られたブリッジ内でパイロットシートに座った翡翠は、ノノの問いかけに答えながらブリッジ内に次々と展開される投影型ウィンドウに分析されたデーターを表示させる。
投影されたウィンドウの中に表示されたデーターと共に映し出された映像に、ノノは驚いてエメラルドグリーンの瞳を大きく見開く――そこに映し出された映像は、自動兵器工廠衛星を守る為に展開する無数のドローン部隊に向けて大量の光球が襲い、それに続いて30mを超える巨大な甲羅を付けたクモのような生物がドローンを蹴散らす光景が続く。
蹂躙されるドローン群を尻目に、巨大なクモのような宇宙生物が繰り広げる悪夢のような光景の後方から500mを超える細長い円錐形の巨大な航宙艦が恐ろしいスピードでドローン群を蹴散らしながら自動兵器工廠衛星へと肉薄――その恐ろしいスピードのまま自動兵器工廠衛星の外壁へと突き刺さって、体内からクモ型の宇宙生物を大量に吐き出して自動兵器工廠衛星へと襲い掛かっていた。
「……宇宙怪獣」
「――えっ?」
「――翡翠! これは宇宙怪獣だよ!」
「……宇宙怪獣……確かノノねぇの世界において人類の滅ぼそうとする天敵だったよね」
宇宙怪獣――こことは違う世界であるノノ達が存在していた世界において、強大な勢力を誇る地球人類――いや、“全て”の知的生命体の天敵である。
彼らが何時から存在していたのかは分からない――だが、彼らは銀河系中心部にて恒星に卵を産み付けては繁殖して数を増やして、知的生命体が宇宙に進出する際に発するワープの痕跡……主に縮退炉によるバニシング・ドライブ波を感知すると、無敵の大軍勢をもって進撃を開始して、知的生命体の勢力圏まで到達するとその天文学的な数の暴力をもって情け容赦なく知的生命体の文明を破壊して殲滅するのだ。
「――行かないと!」
「――待った、ノノねぇ。もうすでに衛星は破壊されて、敵は撤退している……やみくもに探すのは、いくらノノねぇが高性能だからって無理がある」
「――だけど!」
「……落ち着きなって……ノノねぇからの情報、奴らが知的生命体の殲滅を目的としているなら、ちょうど奴らの目を引く事が起きようとしているだろう?」
「……まさか」
翡翠の言う、宇宙怪獣の目を引く事が起きようとしている――それはバジュラの母星を目指して進撃している『マクロス・フロンティア』船団と母星を守るとするバジュラとの衝突――バジュラと『フロンティア』との戦いを餌に、何故かこの宇宙で確認された宇宙怪獣を釣り上げようというのだ。
「――翡翠、あなたバジュラたちと『フロンティア』船団を囮にしようというの!?」
厳しい表情で睨むノノに冷めた目で見ていた翡翠は、今の『フロンティア』船団に警告した所で、寄る辺のない自分達からの情報など黙殺されるか、下手をしたら悪質な欺瞞情報として敵対勢力のレッテルを貼られるのがオチだと笑う。
「……アルトにいちゃんやランカねぇちゃん達はバジュラとの戦いを止めたいと願っているようだし、オズマのおじちゃんが頻りに言っていた銀河条約違反という言葉――もしかしたら、『S・M・S』も衝突を止める側に立つかもしれない」
バジュラと『フロンティア』の戦いに宇宙怪獣という予想だにしない勢力が加わって三つ巴になれば、つけ入る隙も大きくなるというものだ――そして何より、何故ここに来て宇宙怪獣なんて代物が出て来たのかを調べる必要がある。
「『フロンティア』で調べた限りでは、この世界で宇宙怪獣なんてモノは認知されていないからねぇ……アイツらがこの世界由来の物であれば良し、そうでないなら……」
『アイランド1』でこの世界に付いて色々な情報を収集したが、宇宙怪獣などという巨大生物の存在は無かった。これまでの地球の歴史や古代に栄えたというプロトカルチャー遺跡の調査においても、バジュラのような存在の痕跡はあったが、宇宙怪獣のような天災のような生命体の事が記載されているようなモノが出土した事は無かったようだ……宇宙怪獣の性質上、悪戯に混乱を招くと上層部がその存在を隠ぺいしているのなら良いが、“アレ”がノノの知る宇宙怪獣そのものだった場合は話が違ってくる。
「……もしも、今回出現した宇宙怪獣がノノねぇの知るモノと同じだった場合――この世界とノノねぇの世界は繋がっているという事になる」
口角を釣り上げて三日月のような笑みを浮かべる翡翠の言葉に、ノノは背筋が寒くなるのを感じる――もし、あれが自分の知る宇宙怪獣だとしたら、絶頂期にあった地球帝国ですらも総力を挙げて戦わざるを得なかった、あの絶望的なまでの数で襲い来る宇宙怪獣軍団がこの世界へとやって来るのだとしたら。
「……この世界の地球の力では抗いきれない」
そこは銀河系中心部の近隣宙域であった。居住可能な惑星を求めて銀河系中心部へと旅する長距離移民船団『マクロス・フロンティア』船団から離れた宙域にデ・フォールドした『S・M・S』所属の可変ステルス攻撃空母『マクロス・クォーター』は、超時空生命体バジュラが精製するフォールド・クォーツを独占する為にバジュラの母星を攻め落とすべく進撃する『マクロス・フロンティア』船団に反旗を翻して、『フロンティア』の暴挙を止めるべく行動を開始しようとしていた。
船団を止めるべく、新統合軍と『S・M・S』本部に事の顛末を通報して援軍の要請をしたが、運が悪い事に現在地より新統合軍と『S・M・S』本部との間にはフォールド断層が横たわっており、通信が届いたかは分からない。
恐らく『マクロス・クォーター』一隻での孤軍奮闘な戦いになるだろうが、これから行われようとしている無益な争いを止めなければならない。
「フォールド航法終了、現在位置特定――あと2回のフォールドでオズマ少佐の指定したポイントに到達します」
「分かった。準備が出来次第、次のフォールドに入ってくれ」
「了解」
『マクロス・クォーター』のブリッジでは、オペレーターのモニカからの報告を聞いたジェフリー艦長は、準備が出来次第に再びフォールド航法に入る事を指示した後、艦内ステータスを管理するミーナに各セクションの状況――弾薬の備蓄やクルーの状態などを再調査するように指示をする……新統合軍や『S・M・S』本部からの返信はフォールド断層の影響からか今だ無く、『クォーター』単艦でバジュラと『フロンティア』船団を止めるしかない状況だ。
『マクロス・フロンティア』船団には彼らの家族や友人知人の多くが居住しており、バジュラとの全面戦争になれば『フロンティア』はフォールド・ジャミング装置とバジュラを操るインプラント制御装置を設置した都市型巨大移民居住艦『アイランド1』を切り札として戦場に置くだろう。装置を稼働させる為に複数の大型熱核反応炉を持つ『アイランド1』は必要不可欠である。
だが、そうなれば『アイランド1』以外に大量の市民を非難させるスペースがない以上は、多くの市民が戦場の砲火に曝される危険性があり、家族を、友人や知人を失わない為にも、レオン・三島の扇動に煽られた『フロンティア』上層部を止める必要がある……『S・M・S』に所属している彼らは多くの紛争などを経験して、戦いの悲惨さを十分に理解している……そんなモノに家族や友人知人が巻き込まれない為にも。
『マクロス・クォーター』に乗り込む誰もがそう決意している時、索敵を行っていたモニカは超時空レーダーに反応を感知して、即座にジェフリー艦長に報告する。
「――艦長! 前方にデ・フォールド反応、多数――これはバジュラです!」
モニカの報告に呼応するかのように、航行する『マクロス・クォーター』の進路上に無数の虹色に輝く同心円状のゲートが形成され、ゲートの中から赤とクリーム色をした兵隊バジュラの群れがデ・フォールドして一直線に此方を目指して飛び、それに遅れて先ほどよりも大きな虹色の同心円状のゲートが形成されるや、その中から巨大な空母タイプのバジュラが駆逐艦級を引き連れて通常空間へと出現していく。
「……空母級1,駆逐艦級が5。これまでとは小規模ですが、まっすぐ本艦に向かってきます!」
「――全艦、戦闘配備! バルキリー隊にスクランブルを」
突然の遭遇戦に、さしもの『マクロス・クォーター』といえども即座に迎撃とは行かず、ようやく対空ビーム砲やミサイル・ランチャーが旋回して照準を迫りくる兵隊バジュラの群れへと向ける――だが、射程に入ったはずのバジュラ達は攻撃をして来ることはなく、まるで『クォータ―』など目に入っていないようにスピードを緩めることなく『マクロス・クォーター』の至近距離を通り過ぎていく……そしてそれは後方から続く空母タイプや駆逐艦級も同様で、近距離まで近づいているのに一切攻撃してくることなく、『マクロス・クォーター』の近距離をただ通り過ぎていく。
「……なぁに、ただ通り過ぎるだけ。バジュラが?」
「あれほど攻撃的なバジュラが一つも攻撃をしないなんて……一体何を急いでるの?」
これまでにない行動をするバジュラの群れに、戸惑いを感じる『クォータ―』のクルー。こちらなど目に入らないかのようにわき目も降らずに『マクロス・クォーター』の傍を通り過ぎるバジュラの群れ――呆然としながらも職務を遂行していたモニカが、『クォータ―』のセンサーが未知の現象を感知した事により意識がコンソールへと向けられる。
「艦長! 前方の空間において重力傾斜が高まっています……これは、フォールド航法による物ではありません……まったく未知の現象です!」
「――なんだと!?」
モニカの報告を受けて警戒する『マクロス・クォーター』の前方宙域の時空境界面が揺らいで行き、空間がねじ曲がり無数の亀裂が形成されていく――この宇宙が押し広げられて、開口部からこの世ならざる場所――この宇宙に隣接する亜空間が見え、その亜空間内から巨大な影な現出する。
それは一見するとまるで巨大な航宙艦の様な姿をしていた。だがそのサイズは既存の航宙艦を遥かに超えて、その威容を通常空間へと進める――その表面は無機質な金属の光沢ではなく、脈打つ肉の様な素材で船体を形成してカラフルな警戒色を持つ異形なる存在であった。
それは恐らく巨大な生命体なのだろう。無限に広がる広大な宇宙には様々な生命体が存在しており、その中には宇宙空間を住処としている生命体も居るし、宇宙を回遊する銀河クジラなどの存在も確認されてはいるが――現れた巨大生物は何処かが違う――4000mを越えるほどの個体を持つバジュラをも遥かに超える威容を誇る巨大な生命体が周囲に放つのは底知れぬ意思――この秩序ある宇宙に生きて悪戯に騒乱を起こすモノを、存在することすら許さぬという決意――文明を起こして悪戯に資源を浪費して、喧噪を宇宙に伝播する知的生命体を攻め滅ぼすという一方的な身勝手な悪意――その存在を知るモノは彼らを彼らをこう呼ぶ、STMC(Space Terrible Monster Crowd)宇宙怪獣と。
『マクロス・クォーター』ブリッジ
「――未知の発光現象から未確認物体が次々と現れ――その数は既に千を越えています!」
『マクロス・クォーター』の進路上に突然現れた発光現象から出現した巨大な航宙艦の大艦隊……しかしセンサーによれば、現れた巨大な航宙艦群の構成素材は通常宇宙船の使用される構造材ではなく、バジュラ同様に一種の有機物によって構成されている事から、最初はバジュラかその亜種かと思われたが、先にデ・フォールドしたバジュラの群れが『クォータ―』に構うことなく離れて行っている所から、信じられないことだがバジュラは後から現れた巨大生物から逃げているようだ。
千を越えた現在でも今まだ未知の現象により数を増やし続けている巨大生物らしき存在を厳しい目で見ている『マクロス・クォーター』のジェフリー艦長は、彼らが何者で何の為に現れたのか、その目的を考える……先ほど現れたバジュラの群れは、こちらを一瞥する事すらせずにこの宙域から離れようとしているように見受けられ、それを追うように目の前の未確認生命体は現れてその数を増している……恐らくバジュラと彼らは敵対関係にあり、敗走するバジュラを追撃していたのではないか?
そうなると問題は彼らが『クォータ―』に対してどんな反応をするかだが、あの凶暴なバジュラを敗走させる相手が有効的だとはとても考えにくい――そう考えたジェフリー艦長が緊急フォールドの指示を出す前に事態が動く、『クォータ―』を素通りして後方へと逃れたバジュラの群れの先回りをする形で、後方の空間に前方空間と同じような未知の現象が現れて、その中から巨大な未確認生命体の群れが現出する――敗走するバジュラを包囲する形で出現した未確認生命体……最悪なのはバジュラを包囲するその陣形に『マクロス・クォーター』も巻き込まれている所だ。
「……本艦の後方にも未確認生命体の群れが出現、バジュラ達の進路を塞ぐ形で展開しています」
バジュラの進路を塞ぐ形で未知の生命体――宇宙怪獣の群れがワープアウトした事により、バジュラを完全に包囲した形になる……包囲されたバジュラの群れは、攻撃を仕掛ける事もなく空母級や駆逐艦級を盾に兵隊バジュラが隙間を埋める密集体形を取り、防御を固めている――そして包囲網を完成させた宇宙怪獣の群れは、その船体を構成する精製器官から無数の光弾を射出してバジュラを攻撃する。
「――未確認生命体よりバジュラに向けて攻撃が開始されました」
千を越える宇宙怪獣からの攻撃を受けるバジュラはその身を守るエネルギー転換装甲のようなものを有しているが、無数の光弾の飽和攻撃は転換装甲の防御力を越えており、空母級や駆逐艦級の身体に無数の爆発による傷をつけ、爆発に巻き込まれた兵隊バジュラは跡形もなく消し飛んだ。
「――バジュラが押されている……なんて攻撃力なの」
「……未確認生命体より小型の物体が多数放出されました!」
バジュラの群れを攻撃する宇宙怪獣の圧倒的なまでの攻撃力に操舵士のボビーが呆然としたように呟いていると、索敵を担当するモニカより、宇宙怪獣より多数の小型の物体――30m級の兵隊型宇宙怪獣が放出されて、光弾による猛攻にさらされるバジュラの群れの周囲を取り囲みながら周回する――そして兵隊型宇宙怪獣は一斉にバジュラの群れに襲い掛かった。
本体より射出された兵隊型宇宙怪獣は恐るべきスピードのままバジュラの群れに襲い掛かり、赤い兵隊バジュラが放つ重量子反応ビームや生体ミサイルで迎撃するが、襲い掛かる兵隊型宇宙怪獣の全てを迎撃できずに次々と兵隊型宇宙怪獣の体当たりを受けて、宇宙怪獣の触脚に捕まった兵隊バジュラはその怪力によって圧殺される。
兵隊型宇宙怪獣の筋力は同サイズの兵隊バジュラを遥かに上回り、捕まったら最後逃れる事が出来ずに触脚によって両断されて兵隊バジュラは絶命し、対空砲火を放つ駆逐艦級バジュラに取り付くと、その身を炸薬に変えて爆発して駆逐艦級バジュラにダメージを与えていく。
「――未確認小型物体がこちらにやって来ます!」
「対空迎撃! バルキリー隊の発進を急げ!」
今、『マクロス・クォータ―』は最大の危機を迎えていた。
どうも、しがない小説書きのSOULです。
遂に宇宙怪獣と接触したマクロス・クォーター。彼らの恐ろしさは、その巨体もさることながら、天文学的な数にあると思うんですよね。文字通り数の暴力の前には、さしものバジュラも無力なのではと推察します。
では次回 第28話STMC 8/6 0時更新予定です。ではでは~。