マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス 作:soul
サヨナラノツバサ編
「――簡単な話さ。ノノねぇ、君も歌うんだよ」
突然マイクを渡されて無茶ぶりを行う翡翠に、ノノの頬が引きつる……この義理の妹は時折こう言う無茶ぶりを振って来るからタチが悪い。この前だって商店街主催の大食い大会に優勝して来いなんて無茶ぶりを出して強制的に放り込まれた事も……ちょっと、あの子が楽しみにしていたスィーツを間違えて食べたくらいで関節技のオンパレードを繰り出してきて、「――そんなに食べたいなら、逝って来い」とばかりに蹴り出された……。
「――ちょっと、翡翠! 突然そんな事を言われても無理だよ!?」
「……大丈夫、ノノねぇなら何とかなるから」
「何とかなる訳ないでしょ! 私は一般人だよ、一般人!?」
「……決戦兵器が何言ってんだか」
翡翠の無茶ぶりに泡食って文句を言うノノ……姉を玩具にしている妹という、隣の家ではよく見られた光景に苦笑の様な物を浮かべていたランカが、前にノノと遊びに出かけた時にカラオケに行った事を思い出した。
「……そういえば、この前カラオケに行った時、ノノってけっこう歌が上手かったような……」
「――余計な事を思い出さないで、ランカ!」
顔を真っ赤にしてランカにかみつくノノ……そんなノノの肩に良い笑顔を浮かべたシェリルが手を置いた。
「……あの凶悪な宇宙怪獣すら倒せるあなたが居てくれれば心強いわ――それじゃ音合わせをしましょうか……時間はあまり無いわよ?」
「――いや、ちょっと待って、シェリルさん!? ランカも後ろから押さないで!」
いい笑顔を浮かべたシェリルとランカによりノノが強制的に連れて行かれた後はブリーフィング・ルーム内に微妙な空気が漂い、「姉を人身御供に出すとか鬼かお前は」とアルトは呆れ、慌てるノノの姿がツボに嵌ったのか にやにやとした笑いを浮かべながら、アルト相手にじゃれている翡翠にオズマは真意を問い掛ける。
「……それで、何を考えてお姉さんを売ったんだ? あんな強引な事をしたんだ、何か思惑が有るんだろ?」
「……奴ら、宇宙怪獣は恒星の膨大なエネルギーを利用して増殖する……つまり、時間が経てば経つほど奴らは数を増やして有利になる――ならば、早期に叩き潰すのが得策……その為には此方もそれれなりの勢力が必要だろう?」
「――君は、まさかバジュラを味方に付けようと……けど可能なのか、そんな事が……」
オズマの問いかけに翡翠は宇宙怪獣の驚異的な繁殖力――ノノより聞いた、恒星の膨大なエネルギーを利用して凄まじいスピードで増殖し――最終的には宇宙を埋め尽くすほどの数にまで膨らんだ大軍勢になる前にケリを付けなければ、奴らの物量に飲み込まれる事になる。
だがこちらは実験用の航宙艦と異世界の決戦兵器、そして『S・M・S』の攻撃空母だけ……これでは、ノノから聞いた億を超える規模の大軍勢を用意できる奴らには対抗できないだろう……ノノのサポートをする為に製造されたという無人バスターマシンによる星系防衛システム『バスター軍団』が失われた今、何処からか戦力を持ってくるしかない。
「…キノコによってバジュラは仲間の意識をコントロールされて、群れの勢力は減ってきている。当然人類に対して警戒感を持っている筈だ。『フロンティア』もバジュラを従えて戦いを優勢に進めている事からの高揚感に浮かされている。そんな戦いの中に飛び込むんだ……しかも、宇宙怪獣が何時襲ってくるか分からない」
バジュラに影響を与えるランカとシェリルの護衛がこの空母一隻だけでは心もとないと考えた翡翠は、ノノを護衛とする事を考えた――ノノ達の地球帝国が生み出した決戦兵器である彼女だが、その精神というかもはや心と言って良いモノはバジュラをコミュニケーション可能な生命体として捉え、宇宙怪獣によって命の炎が消え去ろうとした空母タイプのバジュラに寄り添うなど、兵器としては不必要な行動をしていた。
そして『アイランド1』で一年近く生活している間、妙に人との交流に慣れて、隣に住む監視対象であるランカ・リーとも良好な関係を築いていた……妙に冷めた所のある自分と違って、ノノはランカに友愛の様な物を感じているようだった――ならば、ランカとシェリルと共にバジュラを説得する側に置けば、例え説得が上手くいかなくても“ノノねぇ”ならば何とかするだろう。
「――だからバジュラを説得するのに力を入れる訳か……だが『フロンティア』はどうする? バジュラを説得する間、大人しくはしてくれんぞ」
「問題はないよ、オズマのおじちゃん。『フロンティア』には私が対応するから――説得している間、横槍なんか入れさせないさ」
オズマの懸念――襲ってきたバジュラをコントロール下において勢力を拡大した『マクロス・フロンティア』船団を止める事は容易ではない。1000万人以上が暮らす巨大移民船を守れるように。1600mもの巨体を誇るバトル級可変ステルス攻撃宇宙空母『バトル・フロンティア』を中核に、多数の新統合軍艦艇を要する『フロンティア』船団に加えてコントロール下のバジュラの軍勢をも引き連れてバジュラの母星に侵攻しようとしている……彼らがバジュラにチェックメイトをかけようというこの時にどう対処しようというのか。
「……翡翠嬢、『フロンティア』にたった一人で立ち向かおうというのか、容易な相手ではないぞ」
「……心配ないよ、艦長のおじちゃん――伊達に一年以上も『アイランド1』に住んでいた訳ではないからね」
疑念を示すジェフリー艦長に、翡翠はにやりと口角を釣り上げる……それは、とても悪い笑みを浮かべていた。
知的生命体の可能性があるバジュラを滅ぼそうとする『マクロス・フロンティア』――いや、レオン・三島一党に異を唱えて、『フロンティア』から離反した『S・M・S』の可変攻撃宇宙空母『マクロス・クォーター』と接触した翡翠は、存在が明らかになった新たなる脅威 宇宙怪獣への認識を共有した後、『クォーター』が行おうとしている事――バジュラの母星へと侵攻する『マクロス・フロンティア』を止めるべく、バジュラ達の母星へと向かう彼らに助力を提案した。
『実験艦―02』ブリッジ
『マクロス・クォーター』の首脳陣とバジュラと『フロンティア』船団の衝突を止めるべく協力体制の構築には成功した翡翠は、ランカとシェリルの二人にノノを預けて『実験艦―02』へと戻っていた……様子を見に行った際に文字通りシェリルのスパルタ教育に半泣きなったノノに助けを求められたが、笑顔で切って捨てると涙を流して喜んでいたから何とかなるだろう。
『実験艦―02』へと戻った翡翠は、宇宙怪獣によって負わされた『クォーター』船体の応急修理に今しばらくの時間がかかると言うので、その時間を利用して出来る事をする……バジュラと宇宙怪獣との戦闘を感知する前、この世界に来てから確保していた8つのゼントラーディの自動兵器工廠衛星が次々と宇宙怪獣の襲撃を受けて壊滅した件。
それぞれが戦闘用ドローンに守られてゼントラーディや監察軍とやらの攻撃にも耐えられるように縮退炉の大出力に裏付けされた強力なシールドを装備している……本当は亜空間潜航能力も付けたかったが、巨大な工廠衛星ゆえに亜空間へ潜るのは現実的ではなく、元々備え付けられていたフォールド航法システムで定期的に位置を変えるなどの外敵への備えはしていた。
だがそれにも関わらず、8つの自動兵器工廠衛星は宇宙怪獣の攻撃を受けて破壊された……それぞれの戦闘ログを確認すると、宇宙怪獣の総数は憶に届くかもしれない……ノノから得た知識では宇宙怪獣は恒星に卵を産み付けて爆発的に増殖していくらしい……ならば、奴らの根城を早急に掴んでおく必要がある。
破壊された自動兵器工廠衛星の戦闘ログを解析して、奴ら宇宙怪獣がどの方角からやって来たのかを解析して、8つの侵攻ルートを逆に辿っていった所で、翡翠の美麗な眉がぴくりと動く……8つのルートをたどった先には何の変哲もない恒星間空間だが、彼女には覚えがあったのだ。
「……この宙域って、私達が転移して来た宙域じゃないか」
――まさか、宇宙怪獣は『実験艦―02』を追ってこの並行世界に? いや、奴らの在り様は忌々しい
「……ならば、奴らは“何処から来たんだ” ――コンピューター、レベル4の探査用ドローンを用意、準備が出来次第に転移して来た宙域に向けて射出しろ」
しばらく考え込んでいた翡翠は、『実験艦―02』のコンピューターに各種センサーを搭載した長距離探査用ドローンの用意を指示する……発生源を特定しておかなければ、いずれは数の暴力の前に圧し潰されることが目に見えている……『アルテミス』がいれば、例え何十億、何千億と奴らが居ようが『
そんな他愛も無い事を考えている内に準備が整ったようだ、『実験艦―02』の船体から大型の探査用ドローンが射出されて虚空を進んで行く……『クォーター』を刺激しない為に少し離れた場所でワープに入るように設定してあるので大丈夫だと思うが、案の定『クォーター』から問い合わせの通信が入ったので素直に敵 宇宙怪獣の動静を探るべく探査機を出した事を伝える。
『……ふむ、君の懸念は理解した。敵勢力の総数を把握するのは必要な事だ……出来れば事前に通知してくれていれば、ありがたかったがね』
「……そんなに注目されているとは思わなかったよ」
美少女はつらいねぇ、と肩を竦める翡翠を冷めた目で見るジェフリー艦長。そんないたたまれない空気の中で翡翠は口を開いた。
「――で、ノノねぇの様子はどうかな?」
「彼女はシェリルのスパルタ教育に涙目になりながらもこなしているようだ……時折君への恨み言を口にしているようだがな」
あの子の無茶ぶりはいつも唐突でトンでもないんだ、と休憩時間の折にシェリルとランカにこぼしていると言う……それを聞いた翡翠は、後で〆ると報復を誓う。そして前々から気になっていた事を聞いてみる事にした。
「……そういえば、ランカねぇとシェリル・ノームの歌をあの甲虫どもに届けるのにサウンド・ブースター・システムを使うって言う話だけど、そのサウンド・ブースターってどんなモノなの?」
翡翠から投げかけられた疑問に ふむと顎に手をやったジェフリー艦長は、ブリッジ・オペレーターの一人であるミーナ・ローシャン伍長に視線を向ける――褐色の肌と黒目がちの瞳に眼鏡をかけた知的な雰囲気を持つ女性士官であり、多才な彼女にサウンド・システムんついての説明を頼むことにした。
「――ミーナ君」
「――了解しました、艦長」
こほんと一息を付いて、IQ180の才女は説明を始める。
「サウンド・ブースター・システム。これは第37次超長距離移民船団『マクロス7』の軍医であったガジェット・M・千葉 大尉によって提唱された
「……何でもないよ、続けて」
今回の作戦の要となる『マクロス・クォーター』に搭載されたシステムの説明をしていたミーナは、話を続けていく内に翡翠の機嫌がどんどん悪くなり、幼いながらも整った顔の眉が寄って不機嫌なのが丸わかりなので、何か気に障ったのかとミーナが尋ねるが当の翡翠はかまわず続けるよう促してくるので、訝し気にしながらも説明を続ける。
翡翠がこれほどまでに不機嫌になる理由――それは、『クォータ―』に搭載されたというサウンド・ブースター・システムに使われている理論が、奴らの
……気に入らない、とにかく気に入らない。
甲虫ともやこの世界の人類がどうなろうと、翡翠はそれほど関心が無い――だが、二つの種族の行く末を決める戦いの趨勢を左右するのが“あの”ナマモノどもと同じシステムが決めるなど、ムカつくほどに気に入らない……とはいえ、戦いを直前に控えているこの状況で、変更を要請した所で通る筈もない……ならば、ちょっと“手を加え”ようか。
「……つまり、そのサウンド・ブースター・システムとやらは、歌をフォールド波に乗せて直接相手に送り込む反面、物理的な攻撃力が無いでOK?」
「その理解でかまいません」
「――ならば、提案があるんだけど」
思いのほか長くなった『クォーター』との通信を終えた翡翠は、ふうと大きく息を吐くと水晶のような素材の割には柔らかいシートに体を預ける……予定にはない時間が掛かったが、『クォータ―』の方も準備が整ったらしい――ならば、始めようか。
誤解から争い、相互理解の努力を怠った者“同士”がぶつかる、この
“サンプルを構成する素材の固有振動数は、比較サンプルであるバスターマシン7号を構成する同質の素材の固有振動数と同一のものである”と。
どうも、しがない小説書きのSOULです。
翡翠がバスターマシン7号と宇宙怪獣が同じ世界から来たと推測する根拠である原子が同じである――格子振動とした方が正しいのかもしれませんが、固有振動数の方がゴロが良いので、こちらを採用しました。
姉貴分を売る翡翠の情け容赦のなさが際立つ今回ですが、宇宙怪獣の出所に疑問を持った翡翠は探査ドローンを射出して出所を探ります。
そして、クォータ―より歌を伝えるサウンド・システムの概要を説明された翡翠は、それが彼女の宿敵と彷彿させる物である事を知って機嫌が一気に悪くなりました。
では次回 第34話 第34話 for the sake of unwavering thoughts ゆずれない思いの為に 8/27 0時更新予定です。ではでは~。