マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス 作:soul
サヨナラノツバサ編
銀河系中心部に存在する名もなき星系――中心部に存在する超巨大ブラックホールの影響により超重力と強力な放射線が渦巻く危険な宙域である銀河系中心部の中でも奇跡的に穏やかな宙域に存在する奇跡のような恒星系――そこに超時空生命体バジュラの生息地である惑星が存在した。
広大な青い海と緑あふれる大地を持ち、清涼感あふれるその光景は、漆黒の宇宙の中で輝くまさに青い宝石とも言える惑星であった。その惑星の軌道上には星を一周するほどの白い素材で出来たリングがあり、そのリングの周辺にはバジュラたちの姿が見える……普段であれば、大いなる母の御許で穏やかな暮らしを送っていたが、今はみな殺気立って白いリング上に集結していた。
宇宙では仲間たちが次々と金属に囲まれた歪な生命体に捕らわれ、調和の歌から離れて此処へ向かって来ているという……その傍には金属に囲まれた歪な生命体もおり、此処に到達すれば悲しい事になるだろう……バジュラたちは周辺宙域にいる全ての同胞を集めて、金属に囲まれた侵略者を迎え撃つ準備を整えていた。
そんなバジュラたちの目の前に幾つもの虹色の回廊が開いて、金属で包まれた歪な生命体達と、調和の歌から外れた仲間たちの変わり果てた姿がデ・フォールドしてきた。
可変ステルス攻撃宇宙空母『バトル・フロンティア』戦闘指揮所
新マクロス級25番艦として就役した『バトル・フロンティア』は、銀河系中心宙域を目指して航行する巨大移民船団の守護神として長らく『フロンティア』船団の安全な航海を守るべく尽力して来た――途中、超時空生命体バジュラの襲撃を受けて多大な被害を出したが、人々のたゆまぬ努力が実を結んで――今、まさに緑あふれる居住可能惑星が目の前にあった。
「……これが、バジュラの母星」
「……なんという美しさだ」
『フロンティア』船団を統括する行政府の長 ハワード・グラス大統領がホロ・スクリーンに映し出されたバジュラの母星の美しさに言葉を失い、映像に心奪われた誰かが呟く。星の美しさに誰もが魅了され、それは大統領を補佐するという名目で『バトル・フロンティア』の戦闘指揮所に来ているレオン・三島も例外ではなく、星の美しさに目を奪われていたが、彼は心の奥底から湧き出る歓喜に震えながらも笑い出した。
「――素晴らしい、この星こそ500年前のコロンブスやマゼラン以来の最大の発見! フォールド・クォーツの莫大な資源と居住可能な大地の、大いなるフロンティアだ」
自身が描いた通りにバジュラをコントロール下に収め、目の前には手付かずの大地が広がり、今まさに彼は夢の中にいる気分だった――目の前をコントロール下にあるバジュラ達が進撃している。敵である時は脅威であったが、味方に付ければこれほど頼もしいモノはない。
「――さあ、行けバジュラ達よ! 我らに福音を齎すのだ!」
宇宙怪獣の攻撃による損傷の応急処置も終了し、『マクロス・クォーター』は決戦の地へと赴くべくフォールド航法へと突入しようとしていた。史実とは違いシェリルとオズマの両名との合流に成功した『クォータ―』は、十全とは言い難いが高い戦意を持って臨もうとしていた――レオン・三島一党の扇動により、知的生命体の可能性があるバジュラの母星に侵攻しようとしている『フロンティア』の暴挙を止めるべく、己が誇りにかけて戦いに挑むために。
『マクロス・クォーター』格納庫
格納庫の中には幾つものバルキリーが整備を終えて戦いの時を待っていた。これから迎える決戦は人類とバジュラの――銀河系の命運をかけた戦いになる。バジュラをも超える巨体を誇る凶悪な宇宙怪獣と戦うには、人類の戦力だけでは奴らの物量に圧し潰される事が目に見えている……だからこそ、超時空生命体であるバジュラや、それこそ はぐれゼントラーディであろうとも協力して戦わなければ未来はない。
ランカとシェリルの歌はその為の懸け橋になるかもしれない……その為に翡翠はノノを二人の傍において、人類の――『フロンティア』の侵攻を受けているバジュラと和解出来る可能性を少しでも高めようとしている……そしてこの格納庫にもその為の機体が一機待機していた。
YF―29 デュランダル 設計段階から対バジュラ戦を想定した初の機体であり、基本武装として多数の火器を搭載して超高純度の『フォールド・クォーツ』を用いた『フォールド・ウェーブ・システム』を機体の4か所に搭載することで、他の系列機を凌駕する高性能を発揮する試作機の一つである――そんなYF―29の傍にはスカル小隊隊長であるオズマと、彼に呼び出されたアルトが立っていた。
「――良い機体だろう。YF―29 25をベースに開発中の対バジュラ決戦用試作機だ。エンジンを四発にしただけでなく、バジュラの残骸から集めたフォールド・クォーツを使って攻撃力もエネルギー・シールド能力も大幅にアップしている――これをお前に預ける」
「――なんで!? そんなに凄い機体なら隊長が乗った方が戦いを有利に運べるんじゃ?」
「……確かに、腕の方はお前はまだまだだがな……」
これから始まる戦いで、ランカやシェリルそしてノノの歌を届けるには、お前が一番と考えた。白と赤に塗装されたYF―29の機体に手を触れながらオズマは答える。
ランカやノノと同じ時間を共有し、シェリルが『フロンティア』に来てから親しくしていたのはアルトであり、シェリル救出作戦の終盤で、翡翠がぶち抜いた『アイランド1』の外壁から大気が流出した時、命がけでランカとシェリルを守ろうしたのもアルトだ。
「……こいつの製造には多数の『フォールド・クォーツ』が使用されている……その『フォールド・クォーツ』があれば、『アイランド1』に設置された『フォールド・ウェーブ』のジャミング装置の出力に負けないくらいのフォールド波が出せる。そして多数の高純度な『フォールド・クォーツ』を用いて『フォールド・ウェーブ・プロジェクター』として使用する事も可能だ――コイツで、ランカとシェリルそしてノノの歌をバジュラに届けてやってくれ」
「……隊長」
オズマの心遣いに言葉に詰まるアルト……そんなアルトに近づいたオズマは、アルトの肩に手を置く……肩に置かれた手にどんどん力が入ってアルトの表情が戸惑う。
「……隊長?」
オズマは ずいっとアルトに顔を寄せると、据わった目でアルトに見据える。
「――そして、ランカを死ぬ気で守れ!――いいか、もしランカが怪我でもしたら――お前の(び~~~!)にガンポットをぶち込んでやるからな!」
「……りょ…了解」
……シスコン兄貴は、何処まで行ってもシスコン兄貴だった。
全ての準備が整い、『マクロス・クォーター』の反応炉の出力が規定値へと達し――フォールド航法へと移行可能となる。その傍には黒い船体に赤いラインが入った四つのシールド発生装置を備えた『実験艦―02』が並走していた。
『マクロス・クォーター』ブリッジ
「――こちらの準備は整った――これより本艦は、『フロンティア』とバジュラの戦いの場に乱入する――総員 決戦配備!」
「「「了解」」」
『クォータ―』艦長ジェフリー・ワイルダーの号令に、ブリッジ・クルーが気合を込めて答える。そんな戦意溢れるブリッジの中にホロ・スクリーンが立ち上がり、『実験艦―02』に乗る翡翠から通信が入る。
『やる気に満ちているねぇ、『クォータ―』のみんな』
にやりと笑いながらブリッジにいるクルー達を見回しながら翡翠は満足げに頷く。
「……本艦はこれよりフォールドに入り、バジュラ本星に展開しているバジュラ達へとシェリルとランカそしてノノのフォールド・ソングを用いて和解への道を探る――『フロンティア』は君に任せる」
事前のブリーフィングで、翡翠から『フロンティア』を制圧する自信の裏付けになる制圧の方法――『フロンティア』に潜入してから彼女達が行ってきた事、不穏な動きを見せる『フロンティア』行政府や総合機械メーカー『L・A・I』に対抗出来るように、長距離移民居住艦『アイランド1』内に仕掛けを施している事への説明を聞き、これならば無血制圧が可能だと判断したのだ。
「――『フロンティア』は任せたぞ、翡翠嬢」
『――任された』
ジェフリー艦長にそう答えた翡翠は通信を切り、並走していた『実験艦―02』に変化が起こる――艦の周囲に虹色の光が発生すると『実験艦―02』の船体はまるで波打つ海面に潜る潜水艦のように虹色の光の中へと消えていく。
「……これが亜空間潜航か、モニカ君?」
「……レーダー、重力波探知機、全ての探知機が『実験艦―02』の存在をキャッチできません」
虹色に光の中に消えた『実験艦―02』の存在を感知出来るかどうかを索敵を担当するモニカ・ラング曹長に尋ねると、パネルを操作しながら彼女は目の前で消えた『実験艦―02』が見えていた宙域を探査するが、あらゆる測定器を使用して痕跡を感知しようとするが、まったく存在を感知出来なかった。
「……これなら『フロンティア』を守る新統合軍の艦艇に探知される事無く、『アイランド1』に近づけるな」
翡翠嬢の説明では、『アイランド1』に潜伏していた期間の間に“色々”と仕掛けを施していたという……しかし自分たちの知らない間に『アイランド1』にはトンでもない“怪物”が潜んでいたものだ……ジェフリー・ワイルダーは知らず渋面を浮かべる。
フォールド・ウェーブが奏でるランカ嬢の歌に導かれて『マクロス・フロンティア』船団に来たと言う彼女の言葉を額面通りに受け取る訳にはいかない――彼女達が見せた能力は、『フロンティア』船団のみならず人類社会そのものにとっても脅威となる。
『フロンティア』の社会に溶け込んで、人知れず様々な仕掛けを施していた異星人の少女達……彼女達が少人数でなおかつ潜入工作に不向きな事もあって、彼女達の痕跡を見つける事が出来たが――もしも彼女達が潜伏に長けていて、彼女達が準備を全て整えて動き出したとしたら……
今だ新統合政府や『S・M・S』本部からの返信はない……この切迫した事態ゆえに彼女達の助力はありがたいが……この未曽有の事態が上手く収拾出来たとして、彼女達のと関係はよく考えないといけないようだ。
「――艦長、『実験艦―02』より通信がはいりました、「これより超光速航法に入る――星の導きの下、また出会える事を」との事です」
通信・火器管制を担当するラム・ホア軍曹より『実験艦―02』からの通信が読み上げられて、『実験艦―02』が消えた宙域に眩い光が現れると一瞬でその光が消える……超光速航法とやらに入ったのだろう……オペレーターの報告によると、フォールドに関連するような現象は確認されていないとの事なので、フォールド航法とは別の超光速航法技術を持っているようだ。
「……今は彼女を信じるしかあるまい」
バジュラの母星が存在する宙域では、バジュラと『フロンティア』軍との激しい戦いが繰り広げられていた。防護シェルに覆われた巨大移民居住艦『アイランド1』から発せられるフォールド・ジャミング波によってフォールド・ネットワークを乱されたバジュラたちの動きは精彩を欠き、対空砲火の甘くなったバジュラ艦に向けてVF―171の編隊がインプラント弾頭を射出してバジュラ艦をコントロール下に置いていく。
侵略者たる鉄の塊に包まれた凶悪な生物から巣を守る為に迎撃に出て来たバジュラ艦のみならず、それに随伴する兵隊バジュラすらもコントロール下に置いて旗下に加えて、戦力を増やしていく『フロンティア』軍の将兵たちは己が優位を疑いもせずに、これまで忸怩たる思いでバジュラの猛威に翻弄されてきた今までのうっ憤を晴らすかのようにバジュラ達に向けて過剰なまでにインプラント弾を撃ち込み、バジュラたちが持つ資源と緑あふれる惑星と奪うべく侵攻を続ける。
『バトル・フロンティア』戦闘指揮所
1600mもの巨大な新マクロス級25番艦『バトル・フロンティア』の巨大な船体を制御する戦闘指揮所では、中央に置かれた巨大なホロ・スクリーンの中に現在の戦況が表示されており、目まぐるしく変わる戦況をモニターする多数のオペレーター士官が刻々と変わる戦況に合わせてタッチパネルを操作して戦況を監視していた。
「――現在までに迎撃に出て来たバジュラ艦隊の半数がインプラント弾頭によるコントロール下にあります」
「……ふふふ、このままいけばバジュラを下すのに、そう時間はかからない――そうなれば、我々はバジュラの豊富な資源と居住可能な惑星の両方が手に入る……ハワード・グラス大統領閣下。貴方の名前は未来永劫語り継がれる事でしょう」
ホロ・スクリーンの前でオペレートする女性士官の報告を受けた大統領首席補佐官レオン・三島は、己の思惑通りに事態が進んでいる事に満足げに頷くと、グラス大統領の耳元で彼らの思い描く未来予想図を囁き、耳元で囁かれた甘い夢に未来永劫賞賛される己を思い浮かべて、熱に浮かされたかのように頷く第4代大統領ハワード・グラス――そんな甘い夢を見ている彼らの耳にホロ・スクリーンを監視していたオペレーターの報告が届いた。
「――戦闘宙域外縁に重力震発生……これは、デ・フォールドです」
バジュラの本星に侵攻する『フロンティア』軍の後方の小惑星宙域に虹色の輝きが現れ、その虹色のゲートの中から一隻の戦闘空母がデ・フォールドしてくる――ジェフリー・ワイルダー率いる可変戦闘空母『マクロス・クォーター』だ。
「――艦影照合――『S・M・S』所属『マクロス・クォーター』です」
「……『クォータ―』、反逆者どもめ」
オペレーターの報告を聞いたレオン・三島が不快そうに毒づく……『フロンティア』行政府の方針に反旗を翻した軍とは別組織である民間軍事プロバイダーの空母……だが、所詮は一隻。その程度の戦力でこの流れを止められるものかとレオンは鼻で笑い、『バトル・フロンティア』の将校達も大した脅威とは捉えなかった。
――だが彼らは知らなかった。
『マクロス・クォーター』に先行した異星の船『実験艦―02』が超光速航法ワープにてバジュラの母星の反対側にワープ・アウトした後。亜空間に先行したまま、バジュラの母星に侵攻する『フロンティア』軍のそばまで来ている事に。
どうも、しがない小説書きのSOULです。
バジュラの母星に侵攻したフロンティアを止める為に、マクロス・クォーターは単艦でバジュラの防衛網に突っ込み、バジュラをインプラントの呪縛から解放しようとします。そして、フロンティアをとめる事は翡翠に託しました……この決断は正しいのか、それとも……。
では次回 第35話 Unreachable thoughts 届かぬ思い 8/30 0時更新予定です。ではでは~。