マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス   作:soul

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 サヨナラノツバサ編




第35話 Unreachable thoughts 届かぬ思い

 

 銀河系中心宙域にあるバジュラたちの生息地である緑なす惑星に、侵攻する『マクロス・フロンティア』船団――自分達の理解の及ばないモノを疎み、排除しようと攻撃を加え、相互理解を怠って、ただ相手を排除しようとする未熟な生命同士が争う悲劇。

 

 争いが争いを呼び、戦いの犠牲になったモノを哀しみ、怒りと共に相手への報復を誓う――最初のボタンの掛け違いが生んだ目を覆いたくなるような戦場に、一隻の航宙艦がデ・フォールドして来た――『S・M・S』所属 可変攻撃宇宙空母『マクロス・クォーター』だ。

 

 デ・フォールドした『マクロス・クォーター』は最大船速のまま左舷の飛行甲板上より次々と艦載機を発艦させていき、オズマ率いるVF-25による編隊が流星の如く駆け、続いてカナリヤが操る重可変爆撃機VB-6 ケーニッヒモンスターが続き、クランの駆るクァドラン・レアの部隊が真空の宇宙を突き進む。

 

 そしてリフトによって飛行甲板に現れたのはYF-29を託されたアルトと、強固なシールドに守られた特設ステージ上の“三人”の歌姫――目の前に立ちふさがる『フロンティア』側のバジュラの群れを決意の眼で見つめるランカとシェリル――そしてバスターマシンとしての正装である赤いラインの入った白いボディスーツと白いマフラーを纏ったバスターマシン7号――いや、ノノの姿。

 

『――さぁ、最初から全開でいくわよ!』

『――はい。シェリルさん!』

『――こうなったら、ノノも思いっきり歌います!』

 

 戦場に場違いな音楽が流れ、彼女達は己の全てを賭けて歌い始める……バジュラと『フロンティア』の無益な戦争を止める為に、彼女達は全霊を込めて歌う――バジュラたちとは違い人間は個々に意志を持って生きている事を、そして人間にも戦争を望んでいないモノが居る事を。

 

 YF-29を駆るアルトは、『フロンティア』軍のコントロール下にあるバジュラの防衛線を抜こうと足掻くが、バジュラの防衛網の層は厚く、対バジュラ用に開発されたYF―29と言えども防衛網を抜く事は叶わなかった――ランカとシェリルの歌を届ける為に、彼女達が乗る『マクロス・クォーター』の進む道を確保しなければならないの。

 

「――アルト、飛び出しすぎだ!」

 

 VF―25Gのスナイパーライフルで狙撃を行っていたミハエルが一機で先行するアルトを叱咤するが、彼の耳には届かない。

 

 ――もっと、もっと近くに行って、歌を届けないと!

 

 バジュラとの戦闘を想定して高い機動性を持つYF―29を駆るアルトは、無数の『フロンティア』側に操られたバジュラの群れを飛びながらシェリルとランカの歌を届けようと大出力のフォールドウェーブプロジェクターを全開にして彼女達の心を届けようとするが、バジュラたちの攻撃が緩むことはなかった。

 

「――くそっ、何でだよ!」

『――気負いすぎだ、アルト! いったん下がれ!』

「――でも!」

 

 焦るアルトにRVF―25で周囲の状況を精査していたルカより通信が入り、『アイランド1』より発せられる強力なコントロール・ウェーブによりシェリルとランカの歌声がバジュラたちまで届かない状況にあるとの事だった。

 

「――それで!?」

『――このままではランカさん達の歌声を届ける事は……』

『……やはり、『アイランド1』を何とかするしかないか……』

 

 ルカの分析に障害である『アイランド1』のフォールド・ウェーブ発生装置を何とかしなければ、バジュラたちとのコミュニケーションが取れない……『アイランド1』を担当する翡翠の手腕に期待するしかないのだが……一抹の不安がよぎるのはあの性格の所為かもしれない。

 

 


 

 

 『マクロス・クォーター』ブリッジ

 

 ルカの分析は『クォータ―』でも共有されていた。

 左舷飛行甲板に設置された特設ステージでは今もシェリルとランカそしてノノの三人がフォールドソングを全霊を掛けて歌い続けている……だが、このままではバジュラとのコミュニケーションを取る事は叶わない。

 

「――『アイランド1』を中心とした『フロンティア』軍は、すでにバジュラ母星の大気圏へと降下しています」

「――前方のバジュラによる防衛線は『アイランド1』のコントロール・ウェーブによって厚さを増しています」

 

 これまでに『フロンティア』船団を襲撃したバジュラを逆にコントロール下において戦力を増して来た結果、バジュラによる分厚い防衛網が構築されて、肝心の『アイランド1』を中心とした『フロンティア』船団は、すでにバジュラの母星の大気圏へと降下を開始していた。

 

 この困難な状況を前に『マクロス・クォーター』艦長ジェフリー・ワイルダーは打開策を思案する……『マクロス・フロンティア』船団と超時空生命体バジュラとの悲劇的な衝突を止める為に、バジュラと交信できる可能性のあるランカ・リーとシェリル・ノームそして外部協力者であるノノ・エム嬢の三人のフォールドソングをフォールド・ウェーブ発生装置で増幅してバジュラへと発信し、『フロンティア』船団に対してはノノ嬢と同じ外部協力者である翡翠・エム嬢が担当する事になっている。

 

 多数の戦闘用艦艇を要した『フロンティア』船団に翡翠嬢単独で対処する事には難色を示したが、一年以上前から大型移民居住艦『アイランド1』に潜伏していた彼女達が『フロンティア』行政府や総合機械メーカー『L・A・I』に不信感を抱いたが故に準備していた対策――オプションを装備する事で多目的に運用出来ると言う光学迷彩を装備したドローン群を『アイランド1』の艦内に温存している事を聞いた『クォータ―』側は、ある条件を付ける事でGOサインを出した――それは『アイランド1』に残留している民間人に極力犠牲者を出さない事。

 

 隣人としてそれなりの交友を持っていたオズマ少佐や、シェリル・ノーム救出作戦の終盤で翡翠嬢の介入を経験したアルト准尉が揃って主張した――翡翠嬢を信頼するのは危ういという認識……宇宙怪獣という新たな脅威に対抗する為に協力する姿勢を見せてはいるが、彼女自身が明かした未知の異星人である彼女の倫理観や根本的な思考形態には、自分達地球人とは齟齬がある可能性があるかもしれなかった。

 

 バジュラの防衛線を突破する為にも、ランカ・リーとシェリル・ノームのフォールドソングが届く事を願うしかなかった。

 

 


 

 

 『マクロス・クォーター』特設ステージ

 

 『マクロス・クォーター』の左舷飛行甲板に設置されたシェリルとランカそしてノノが歌う特設ステージは強力なバリヤーに守られながらルカより提供された『L・A・I』製のフォールド・ウェーブ発振装置によって、シェリルとランカのフォールドソングを増幅し、ノノは自前の思念波発生装置を以て全霊を掛けて歌い続けていた。

 

 目の前では『フロンティア』軍に操られたバジュラの群れが強力な生体重量子ビームが放たれ、幾つものビームが『クォータ―』の至近距離を通り過ぎていく。

 

 一発でも直撃すれば特設ステージを守るバリヤーなど紙の如く引き裂かれるだろう――それでも、彼女達は恐れてはいなかった。

 

「今日のオーディエンス(観客)はノリノリね――ビビッてないでしょうね、二人とも?」

「――はい、シェリルさん」

「――もちろんです! ノノはまだまだ頑張れます! なぜならば――」

「……それはまた今度ね」

 

 決め台詞を止められて しょんぼりするノノを尻目に、シェリルは目の前に広がる無数のバジュラの群れを見据える……先ほどからランカやノノと共に全霊を込めて歌い続けたが、バジュラたちの行動に変化は見られない……まるで何か大きな壁の様な物に阻まれているかのように、バジュラたちに自分達の歌が届いていないように感じる……こうなったら、奥の手を繰り出すしかないと決意する。

 

「――ノノ! あれをやるわよ!?」

「――えぇええ!? 本気なんですかシェリルさん!?」

「ランカちゃんも良いわね!?」

「――もちろんです! バジュラたちに絶対歌を届けましょう!」

 

 


 

 

 『マクロス・クォーター』ブリッジ

 

 前方のバジュラの防衛網は分厚く『クォータ―』はバジュラの群れを突破する事は出来ておらず、頼みのシェリルとランカのフォールドソングは、『アイランド1』より照射される強力なフォールド・ウェーブに阻害されて期待した効果は得られていなかった。

 

「やはり『アイランド1』に突入し、フォールド発信ステーションを制圧するしかないか」

 

 今だ翡翠嬢からの連絡はないし、やはりバジュラの防衛網を突破して、先に大気圏へと降下した『アイランド1』へと追いつき、内部へと突入してフォールド・ウェーブ発生装置を統括するステーションを制圧するしかないかと考えている時、通信を担当するラムより特設ステージのシェリルより状況を打開する案が有ると言ってきたと報告して来た。

 

 『クォータ―』のブリッジにホロ・スクリーンが立ち上がってシェリルが表示される。

 

「……何か案があると聞いたが」

『――このままじゃバジュラたちに歌が届けられないから、直接歌いに行ってくるわ!』

 

 シェリルはそう宣言するや、ジェフリー艦長が止める間もなくオペレーターのミーナより特設ステージのバリヤーを破って三人がバジュラたちへと向けて飛び立ったとの報告が入る。

 

「――なんだと!?」

 

 


 

 

 砲火が飛び交う宇宙空間をバリヤーに守られた三人の人影が飛ぶ――恒星間航行用決戦兵器としての能力を発揮したノノがシェリルとランカをフィールドで包んで『マクロス・クォーター』の特設ステージから飛び出してバジュラたちの下へと向かう。

 

「……良いのかなぁ、後で艦長さんに怒られそうな……」

「――何を言ってるのよ。目の前に大勢のオーディエンス(観客)が居るなら、全霊を掛けて歌う――相手に歌が届かないなら、届くまで歌い続ける! バジュラたちの“心”を震わせる事が出来なきゃ、銀河を震わせる事なんで出来ないわ!」

「――そうです、私達の歌は必ず届きます!」

 

 歌姫たちは諦めるという事をしないようだ――ならば自分は持てる力の全てを以て、彼女達の歌を届けよう――目の前に立ち塞がる無数のバジュラの群れを見据えながら、バスターマシン7号は――いや“ノノ”は思考主推進機関によって迫りくる生体重量子ビームの嵐を掻い潜りながら、人間が活動出来る環境を維持したフィールドでシェリルとランカを保護しながらフォールド・ウェーブ発振装置を『ファジカル・リアクター』で生み出して進む。

 

 後方から此方を追いかけて来る『クォータ―』より特設ステージに残っているフォールド・ウェーブ発振装置より大出力で音楽が流されている……最初はアカペラで歌を届けると豪語していたシェリル達だったが、これはありがたい……後でジェフリー艦長に怒られそうだが、それはバジュラ達と和解が出来た後に考えよう。

 

 後は『アイランド1』のフォールド・ウェーブ波(雑音)を翡翠が止めてくれれば言う事はないが……どうもあの子が絡むと“やりすぎない”かが不安になる……願わくば、あのひねくれモノ(翡翠)がやりすぎませんように。あの子の無事を願いながらも、どこかズレている翡翠が無茶をしないようにとノノの額に一筋の汗が流れる。

 

「――さあ、行くわよノノ! ランカちゃんも準備は良い!?」

「――はい、シェリルさん!」

「――いきます!」

 

  速度を上げてバジュラの群れに突っ込むノノ達――自分達に接近するモノに対して容赦なく砲撃を加えて来るが、人間サイズのノノ達を捉える事は難しいようで、砲撃の隙間を縫ってバジュラの包囲網の中へと突入していき、そんなノノ達をコントロールされた兵隊バジュラが強襲する。

 

『――あぶない!』

 

 天頂から急降下を掛けて来る兵隊バジュラが爆炎に包まれ――断末魔の叫びがフォールド・ウェーブで広がり、シェリルとランカはそれぞれ喉や腹部を押さえて歌が途切れる。

 

「「――うっ!?」」

「――ランカ! シェリルさん!?」

 

 ふらつく二人を支えるノノ。そんなノノの張るフィールドに白と赤に彩られたバルキリー YF―29が近づいて来る。

 

『――なにやってんだ、こんな所に来て!? 早く戻れ!』

「……アルト君」

「――アルト! バジュラたちに直接歌を届けるから、このまま私達を守って!」

『――なにを言って』

『シェリル! 無茶を言うな、早く『クォータ―』に戻るんだ!』

 

 シェリルの言葉に戸惑うアルトの傍にグレーのVF―25Sが接近して来てフィールド内にオズマの怒声が響くが、シェリルは引かず、ランカも決意に満ちた顔をしていた。

 

「……『アイランド1』のフォールド・ウェーブが強すぎて私達の歌が届かない――だから私達が直接バジュラに歌を届けるしかないわ!」

「――お願い! アルト君、お兄ちゃん。私達はどうしてもバジュラたちに歌を――私達の思いを届けたいの!」

 

 二人の思いの強さに言葉を失う二人……そんな二人にノノの静かな――だが決意に満ちた言葉が投げかけられる。

 

「……二人はノノが必ず守ります――なぜならば、ノノは人々を守る為に生まれて来たのだから!」

 

 此処とは違う世界の地球が持てる全ての力を結集して行った反抗作戦『カルデネアス計画』により敵宇宙怪獣を本拠地ごと消し去ったが、その後も宇宙怪獣の残党による度重なる襲撃に疲弊した地球人類は無人兵器による太陽系絶対防衛システムを構築して、その司令塔として製造されたのがノノ――第六世代型恒星間航行決戦兵器 バスターマシン7号なのだ。

 

 


 

 

 度重なるバジュラの襲撃を撥ね退けて、彼らのフォールド・ネットワークの通信プロトコルを解析した『マクロス・フロンティア』船団は、フォールド・ウェーブ発振装置とバジュラに直接撃ち込んでコントロールするインプラント弾頭を以て、襲い来るバジュラを逆に支配下に置いて、彼らの母星への侵攻を果たした『フロンティア』船団は、勢いのままに彼らの母星への大気圏への突入を果たした。

 

 

 可変ステルス攻撃宇宙空母『バトル・フロンティア』戦闘指揮所

 

 多数の戦闘艦艇と共にフォールド・ウェーブ発振システムを設置した大型移民居住艦『アイランド1』と共にバジュラの母星への降下を果たした『バトル・フロンティア』の戦闘指揮所は、喧噪に包まれていた。

 

「――すばらしい、なんて美しい星なんだ」

「――この星が私達の新しいふるさとになるのね」

 

 普段は冷静に戦況を分析している『バトル・フロンティア』のオペレーター達は、笑顔を浮かべて談笑し、戦闘状況とはとても思えぬ光景は球体上の巨大なホロ・スクリーンの周りで情報分析をしている筈の分析士官達が、まるで“熱にでも浮かされた”かのように至る所で談笑をしていた。

 

 その異様な光景は上級将校も例外ではなく、ホロ・スクリーン上に映し出されるバジュラたちを統括していると思われる女王バジュラが居るであろうネストを前に『フロンティア』新統合軍司令官や参謀達も思い思いに談笑していた。

 

「――遂にここまで、もはやバジュラなど恐れるに足りませんな!」

「――ああ、銀河系中心部を目指してはや18年――ついに我々は、居住可能な惑星を発見したんだ」

「……大統領。あなたのお名前は、未来永劫語り継がれる事でしょう」

「……ありがとう、三島くん。全て君のおかげだ」

「――後は、奴らの巣に部隊を送り込み、女王バジュラを制するのみ――その時、銀河は我々のモノになるのだ!」

 

 その異様な談笑の中には『フロンティア』第4代大統領ハワード・グラスや首席補佐官であるレオン・三島姿もあり、熱に浮かされたかのように己が妄想に酔いしれていた。

 

 


 

 

 巨大な『バトル・フロンティア』の艦内は広大で、多くの軍人がそれぞれの任務に就いている筈であったが、今艦内は浮かれに浮かれた人間達で溢れていた……ホロ・スクリーンに映るバジュラの母星の美しさに目を奪われ、外部が見える窓を持つ場所では多くの士官が外に広がる美しい大地に心奪われていた。

 

 そんな人々に加わっていた女性士官の傍に何時の間にか小さな人影が立っていた……肩口で揃えた栗色の髪をウルフカットにした、見慣れえぬ白いボディスーツの所々に青い結晶体を付けた可愛らしい顔立ちをした少女が、その深紅の瞳を女性士官に向けて問い掛けた。

 

「ねぇ、お姉さん。戦闘指揮所って、この道で良いの?」

「――ええ、そうよ」

「……ありがとう、お姉さん」

 

 礼を言った少女は戦闘指揮所へと向けて歩いていく……あんな小さな女の子が、何故『バトル・フロンティア』にいるのだろうか? ハイスクールの職場見学があるとは聞いていないし、誰かの家族だろうか? しばらくは見知らぬ少女の事を気にしていたが、すぐに気にならなくなった女性士官は窓に映る美しい大地に目を向けた。

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 インプラント弾頭によって操られたバジュラに対するクォーター。
 ランカとシェリルそしてノノの歌は、クォータ―に乗る彼らの思いは届くのか?

 そしてまかりなりにも枷となっていたノノから解き放たれた翡翠は、何をやらかすのか?


 では次回 第36話  Calamity Comes 災厄来る 9/3 0時更新予定です。ではでは~。
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