マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス   作:soul

37 / 79

 サヨナラノツバサ編


第36話 Calamity Comes 災厄来る

 

 銀河系中心宙域のとある恒星系――超時空生命体バジュラたちが住まう惑星の周辺宙域では、『マクロス・フロンティア』船団の暴挙を止めるべく現れた『S・M・S』所属 可変攻撃空母『マクロス・クォーター』と、『フロンティア』軍にコントロールされたバジュラたちが激戦を繰り広げていた。

 

 異なる世界において決戦兵器として生み出された戦闘用アンドロイドであるノノの発するフォールドに包まれた二人の歌姫ランカ・リーとシェリル・ノームは自らが発するフォールド・ウェーブを込めて歌う事で、人間は多様な生命体でありバジュラたちとの戦いを望んでいない者もいる事を伝える為に、危険な戦場の中で全霊を上げて歌い続けていた。

 

 異なる世界の英知の結晶である思考主推進機関を巧みに操作してバジュラ達の生体重量子ビームの嵐を掻い潜るノノ――二人の人間を抱えて飛ぶ彼女の傍には、2機のバルキリーが四方から襲い掛かって来る兵隊バジュラを迎撃する――彼らは関節部分に撃ち込まれたインプラント弾頭が『アイランド1』の発するフォールド・ウェーブを受信する事によって操られている。

 

 ならば接近戦を仕掛けてバジュラに撃ち込まれたインプラント弾を排除すれば、彼らを『フロンティア』軍の呪縛から解放する事が出来るが、襲ってくるバジュラの数が多く寡兵の『クォータ―』実働部隊ではその全てを対処しきる事は出来ずにやむなく撃破するしかなかった。

 

 今も襲ってくるハウンド・バジュラをYF―29に装備された連装MDEビーム砲で撃ち抜き――バジュラの断末魔の叫びをシェリルより貰ったフォールド・クォーツ付きのイヤリングの力により全身に感じたアルトは、この無益な戦いに寂寥感を感じる。

 

 ――くそっ、お前たちとは戦いたくないのに! なんでだよ!?

 

 なおも襲い来る無数のバジュラの放つ生体ミサイルを回避しながら、ハウンド・バジュラの群れを排除していく……例え、戦いたくないと思っていても。人一人の力など些細なもので、その手は小さく短くて守れるものはほんの少ししかない――けれど思いを持たなければ何も始まらない――この悲しい戦いを止めるべく、アルトは諦めずにYF―29を操る。

 

 危険な戦場に身を投じても、けっして諦めずに全霊を込めて歌う歌姫たちと、戦いを止める事を諦めなかった男達の思いが――ついに実を結ぶ――これまで苛烈なまでの攻撃を行ってきたバジュラたちの動きが徐々に鈍くなって――ついに攻撃そのものが停止したのだ。

 

「――歌が、通じたの!?」

「――ランカちゃん!?」

 

 フィールド内で歌い続けていたランカとシェリルの表情が喜びに染まる――遂にバジュラとのコミュニケーションに成功したと思ったのだ。

 

 


 

 

 バジュラの母星へと降下した『マクロス・フロンティア』船団は、旗艦である新マクロス級25番艦『バトル・フロンティア』と旗下の艦隊や護衛のバルキリー部隊と共に女王バジュラが居るであろう(ネスト)を目指して進軍していた。

 

 多数の戦闘用艦艇とバルキリー部隊を引き連れた『バトル・フロンティア』は、マクロスの名を冠した艦の最大の特徴でもあるトランス・フォーメーションを行いながら巡航形態からより戦闘的である強攻形態へと移行する……それは最大の戦力を以て一気に女王バジュラを押さえて戦争に終止符を打つという意思表示であった。

 

 初代マクロスにおいてトランス・フォーメーションとは、最大の攻撃である主砲と動力炉との接続ラインを失ったマクロスが再び主砲を使用する為に取った苦肉の策であった。主砲と動力炉の間に存在していた超光速航法フォールド・システムを失って主砲へのエネルギー供給が出来なくなったマクロスは、主砲と動力炉を直接繋ぐためにブロック構造になっていた船体の利点を最大限に利用したものがトランス・フォーメーションであり、そのおかげでマクロスは再び主砲の発射が可能になった。

 

 だがトランス・フォーメーションが発令されれば、当時保護されていた民間人達が長期間の航海の合間に築いた民間人の居住施設に大混乱を巻き起こし――彼らにとっては恐怖の代名詞となったのだ……しかし主砲の攻撃力はゼントラーディの先遣部隊と交戦状態にあったマクロスには欠かせないモノであり、艤装前に交戦状態に入ったマクロスには有効な攻撃手段が乏しく、そして孤立無援であったが故に戦力の確保の為に事故で宇宙に放り出されていた航空母艦と強襲揚陸艦を接続して、マクロスの戦術の一つとして発案された強襲揚陸艦を使用した攻撃『ダイダロス・アタック』が思いのほか有効であった事から、代々マクロスの名を冠する航宙艦にはトランス・フォーメーションが採用されていた――そして、そのマクロスの名を受け継いだ新マクロス級『バトル・フロンティア』の艦内では静かに――だが確実に異変が起こっていた。

 

 

 可変ステルス攻撃宇宙空母『バトル・フロンティア』の艦内では、艦を運用する為に必要な多数の新統合軍士官達がそれぞれの任務に従事し、厳しい訓練によって効率良く任務を遂行出来るスペシャルな人材であった――普段なら。

 

 今、『バトル・フロンティア』の艦内では異様な光景が広がっていた――戦闘指揮所からの発令に従ってトランス・フォーメーションに必要な任務は遂行したが、それが終わると士官達はその場を離れて思い思いの場所でくつろぎ始める……まるで余暇のように。

 

 そんな異様な光景の中、軍艦の中には似つかわしくない背の低い人物が艦内通路を歩いているが、誰もその人物を咎める事はなかった――栗色の髪をウルフカットに揃え、白いボディ・スーツの所々に青く輝く結晶体を付けた少女は、幼さを残しながらも整った顔を正面へと向け、深紅の瞳は艦内通路の先――目的地である『バトル・フロンティア』の戦闘指揮所への扉を見据える。

 

 戦闘指揮所へと通じる扉の傍には2人の歩哨が立っていたが、その歩哨達も通路にもたれて思い思いに過ごしていた。

 

「――こんにちは、入っていいかな?」

「――ああ、どうぞ」

 

 普段の彼らならこのような会話が行われる筈もなく、不審者が近付いて来る前に警戒して対応している事だろう……だが今の彼らはそれが当たり前の対応であり、何ら疑問を持たずに目の前を通り過ぎる少女の――作り物のように冷たく、見るモノ全てをあざ笑う邪悪な笑みを見ても何の疑問を持たずに通してしまう……普段の彼らなら、悪魔の様な笑みを浮かべた者などけっして通しはしなかっただろう。

 

 労なく『バトル・フロンティア』の中枢である戦闘指揮所へと足を踏み入れた少女――翡翠は中央にある巨大な球体状のホロ・スクリーンの周りで談笑している情報士官達を冷めた目で見渡した後、少し高くなっている場所で機嫌良さそうに高笑いをしているキノコを発見して口角を釣り上げる――見つけた。

 

 少し高くなっている場所――高級士官達が多くいる場所で、自分に酔っているかのように自慢げに話しているキノコとその雇い主を見て、翡翠は仕掛けた身としては仕掛けが功を奏した事を喜べば良いのか、むさ苦しいおっさんが揃ってバカ騒ぎをしている光景に頭を抱えれば良いのか微妙な気分になりながらも目的の場所へと到達する。

 

「……楽しそうだね、キノコのお兄さん」

「――ん? 君は確か翡翠・エム嬢だったか、丁度良い見たまえ この美しい星を――この星を拠点に、フォールド・クォーツの莫大な資源を以て――我らは大きく飛躍するんだ!」

 

 熱に浮かされたかのように妄想を垂れ流すキノコ――レオン・三島の姿に深紅の瞳を細めた翡翠は、ケミカル物質が効きすぎたかと嘆息した後に右手を上げて パチンと指を鳴らすと共に周囲の景色が変貌して『バトル・フロンティア』の戦闘指揮所の床から見知らぬ大地に立っていると言うのに、レオン・三島や隣に居るグラス大統領を始め『バトル・フロンティア』の高官達は変わらず享楽的に騒いでいた。

 

 だが時間が経つにつれて高揚感は薄まり、冷静さを取り戻していった彼らは困惑したような表情を浮かべて、見知らぬ場所に立つ自分達の状況に戸惑う……ここはどこだ? たしか自分達は『バトル・フロンティア』でバジュラどもの母星に降下していたはずだが?

 

「……やっと正気に戻ったみたいだね」

「……君は!? どうやって、『バトル・フロンティア』に!?」

「……いや、此処は『バトル・フロンティア』じゃないから。ここは君達の世界から少しズレた世界だよ」

 

 声を掛けられて一番早く不審な少女に気付いたレオンが驚きの声を上げ、その場にいる新統合軍の士官達も隠し持っていた護身用の武器を取り出して不審な少女――翡翠へと向けるが、そんなモノなんら脅威にはならないとばかりに、ゆっくりとした足取りで近付いて来る十代前半の少女の姿に躊躇して手に持った護身用の武器を使用する踏ん切りがつかない。

 

「……ま、座りなよ」

 

 不審な少女――翡翠が指を鳴らすと何もない場所に白いテーブルと人数分の椅子が生み出され、最初に席に座ったのはコソコソとレオン・三島と小声で話をしていた『フロンティア』の大統領ハワード・グラスであった……翡翠の事を知っていた彼から事情の説明を受けていたのだろうが、最初に行政府のトップが座るとは大統領まで上り詰めただけあって胆力があるようだ。その彼の続くように傍にレオンが座り、他の新統合軍の高級士官達も渋々座っていく……巨大な『バトル・フロンティア』の最深部である戦闘指揮所より こうも易々と連れ出されれば、一見普通の少女の姿をしているが並々ならない相手であると理解出来る。

 

 そして表に出さないが彼らが混乱しているというのもある――先ほどまでの自分達――自分を含めて『バトル・フロンティア』に乗り込んでいるクルーの大半が、熱に浮かされたまるで夢遊病者のように現実感が無い世界を歩き、誇大妄想ともとれるずいぶんと都合のいい妄想を吐き出していた……そして夢遊病者達とは違い、自分たちが”それ“を覚えている事が、タチが悪い詐欺にでも引っかかったかのような気分にさせる。

 

 警戒しながらも翡翠の容姿を見て困惑しているのだろう。しばらくは何かを言いたそうにしながら、たまにレオンの方に顔を向けたりしたが、レオンが彼の傍に顔を寄せて何かを囁いた途端に、意を決したのか話し出した。

 

「……翡翠・エム君だったね。補佐官の話では軍の作戦を妨害した後に消息不明だという話だったが?」

「――ほう、彼女が。報告書は上って来たが、写真よりチャーミングじゃないか……ウチの天使()には負けるが」

「……いやいや、ウチの天使()も負けては居りませんよ、指令官閣下。こんど天使()達と一緒に食事会でも開きますか? どうかね、君も――ああ、招待状の送り先がなかったんだな、これは失敬」

 

 グラス大統領が先頭を切り、それに続いて新統合軍の高級士官達がウェットを含んだジョークまじりに『フロンティア』から逃げ出した者が何の用だ? と揶揄している……彼らからしてみれば翡翠とその姉を名乗る二人組は何時の間にか『マクロス・フロンティア』船団内に潜んで、コソコソと闇に潜んでハッキングなどの犯罪行為を行った犯罪者でしかなかった。

 

 そんな小悪党が厚顔無地にも『フロンティア』船団を守る自分達の前に姿を現したのだ、彼らの心情としては最悪だろう。そんな彼らの冷たい――侮蔑や蔑みすら含んだ視線を一身に受けても、件の少女は小ゆるぎもせずに一見にこやかな笑みを浮かべてはいるが、その紅い瞳にはどろりとした鈍い光が見える。

 

 「……おやおや、パーティー(バカ騒ぎ)の邪魔をされて、おじちゃんたちはお冠のようだ……」

 

 首をこてんと傾げながら毒を吐く翡翠……見えない殴り合いはここらで良いだろう。見知らぬこんな場所に自分達を隔離した所をみると、なにやら自分達に話があるのだろう……交渉事で自分達がこんな一見年下の少女に負ける訳はない――どんな隠し玉が有るのか、それだけだ。

 

「……さて、この見覚えのない場所に、先ほどまで我々を包んでいた根拠のない高揚感……あれは君の仕業かな――何をしたんだ?」

 

 疑念を混ぜ込んだ視線と共にレオン・三島は目の前に居る少女の姿をした“何か”に問い掛ける……レオンの問いかけに、深紅の瞳をした少女は肩を竦めて種明かしをした――『アイランド1』に設置されたフォールド・ウェーブ発生装置に細工をして、バジュラに向けて放たれていたコントロール・ウェーブを停止させると、周波数を変更して『アイランド1』の周辺に布陣する『フロンティア』軍の艦艇へと向けたのだ。

 

「……それだけで、あの高揚感は説明出来ないが……」

 

 ホロ・ウィンドウが開いて『アイランド1』の各所に設置されているフォールド・ウェーブ発振装置に球体状の機動兵器らしきものが取り付いている光景が流され、絶句しているグラス大統領や新統合軍の将校を尻目にレオン・三島だけは疑問に思った事を問いかけて来る……さすがはキノコと口角を動かして笑みを浮かべた翡翠は、もちろんそれだけでは無いと答える。

 

「私が『フロンティア』に来てから何もしていない訳がないだろう――『アイランド1』で生活している合間に、君達が敵対した時の為に色々と準備をしたのさ」

 

 ホロ・スクリーンに映し出された光景が切り替わり、『フロンティア』船団を守る新統合軍艦艇――ステルス・フリケードや護衛宇宙空母そして『バトル・フロンティア』に密かに取り付く球体状の機動兵器の姿が映し出され、翡翠よりこの機動兵器であるドローンは装備を換装してあらゆる状況に対処出来ると説明され、新統合軍の艦艇に取り付いているのは次元潜行能力を付加された偵察用装備に換装されたドローンであると説明される。

 

「君達の索敵能力では偵察用ドローンを感知するのは不可能――警戒網を突破した偵察用ドローンには、あるケミカル物質が充填されたタンクが内蔵されていたのさ」

 

 一見、無害無臭な物質だが、ある特定の周波数の電波に曝されると、化学変化を起こして人体の中枢神経に影響を与えて極度のリラックス状態へと導くだけでなく、精神にも影響を与える恐ろしい効果を発揮する。

 

 当然軍艦には艦内のステータスを監視するシステムを持っているが、艦内の消耗品に紛れ込ませた小型ドローンにより艦内監視システムに干渉して、監視システムに欺瞞情報を流してケミカル物質が検出されるのを防いでいたと言う。

 

「……なんと悪辣な」

「……これが、子供のする事か」

 

 淡々と己が策を語る翡翠に、その悪辣な策の用意周到さに恐ろしいモノをみるような視線を向けるグラス大統領そして新統合軍の将校達……自らも子供を持つ親が故に、年端もいかない少女がこれほどの事を行ったという事実に背筋が寒くなる。

 

「これだけの大仕掛けを君と同居人だけで行うのは無理がある。君の言うドローンやケミカル物質とやらを大量に用意するにはそれなりの組織のバックアップが必要だと思うが、君はどこの手の者だ? 最初は『ギャラクシー』の手の者かとも考えたが、あの後に『ギャラクシー』の首脳陣は謎のシステム・エラーによって壊滅し、ならば他の船団からの干渉かと思って調べたが、その形跡もない……」

 

 だが『フロンティア』の記録に残る君の足跡を洗ってみたら、興味深い事実が出て来たよ、とにやりと笑うレオン・三島。

 

「君は『フロンティア』で中古のフォールド航法可能な宇宙船を購入したな……中古の船の購入資金を捻出するのにずいぶんな手を使ったようだが?」

 

 カジノでの荒稼ぎに株の投資と、『フロンティア』経済市場で荒稼ぎをしていた事は調べが付いていると、レオンは淡々とした口調ながらも呆れ混じりに「……短期間の間に、よくこれだけ荒稼ぎしたものだ」といっそ感心していた。

 

「……管制局のログを調べたら定期的に船団の外へ出ていた――つまり君は船団の外――この近くでは惑星ガイノス3か、そこから来たのではないかと思うがどうかね?」

 

 レオン・三島の考察――現在 銀河系中心方面を航行しているのは三つの移民船団であり、一つは『フロンティア』船団と2つめは壊滅した『ギャラクシー』船団。そして最後に『フロンティア』の後方500光年を航行していたが、54年にM28球状星団内のガイノス恒星系にて惑星ガイノス3に入植した『マクロス・オリンピア』船団の合計3つの船団が銀河系中心宙域に存在していた。

 

 超光速航法可能な宇宙船とはいえ所詮は中古――船の航行ログなどは抹消されていたが、中古の宇宙船は長距離航行には向いておらず、翡翠と名乗る少女の申請ログでは『フロンティア』を開けていたのは長くて一週間……そうなると『フロンティア』から近い場所――例えば『フロンティア』と同じように銀河系中心宙域に存在している入植地との間を往復していたのではないかと。

 

 レオン・三島の追求と共に大統領や新統合軍の将校達の視線が集中する中、ワザとらしく片耳に指を突っ込んでいた翡翠は指を外すとにっこりと微笑む。

 

「――残念、外れ」

 

 ならば君はどこから来たのかとの問いに、翡翠はにたりと嗤った。

 

「……そんなに私の事が知りたいんだ……後悔するかもしれないよ?」

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。
 バトル・フロンティアを襲った災厄――それは宇宙怪獣か、あるいは……


 では次回 第37話 Malice kindness 悪意ある優しさ 9/6 0時更新予定です。ではでは~。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。