マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス   作:soul

39 / 79

 サヨナラノツバサ編




第38話 A communicative heart, and… 通じる心、そして…

 

 バジュラたちの母星へと侵攻した『マクロス・フロンティア』船団の旗艦『バトル・フロンティア』へと侵入した翡翠は、『バトル・フロンティア』の中枢である戦闘指揮所にいた『フロンティア』行政府のトップであるグラス大統領と首席補佐官であるレオン・三島。そして『フロンティア』を守る新統合軍の将校を、位相の異なる世界へと誘い――彼らの前に、これから直面するバジュラを遥かに上回る脅威の姿を映し出した。

 

 暗黒の宇宙を切り裂いて群れを成す巨大な生物達、バジュラの空母や戦艦クラスとも遜色ない巨体を持つ警戒色に彩られた破滅の使者である巨大生物の姿を横目で見ながら翡翠はノノより得た全ての知的生命体の天敵である宇宙怪獣の脅威を語り始める。

 

 宇宙怪獣――それは知的生命体の文明を感知しては、その恐るべき力で破滅を齎す滅びの申し子。知的生命体がその知性を以て築いた文明の痕跡を感知すると、星に卵を産み付けてその膨大なエネルギーを利用して急速に勢力を拡大して天文学的な数にまで増殖した宇宙怪獣は、群雲の如く凶悪な牙を以て知的生命体の文明圏へと侵攻して、無慈悲に破壊の限りを尽くして文明を滅ばす。

 

「――奴らは滅びと言う現象そのものであり、ただ無慈悲に殺戮を行う。そんな存在がこの銀河系中心宙域に居るとしたら、どうする?」

「……なるほど。そんな存在がいるとすれば、確かに脅威となるな……本当に居ればの話だが。この映像だって欺瞞情報かもしれない」

 

 それにもし本当だとしても、女王バジュラを手中に収めてしまえば、銀河を支配するだけの力を手に入れる事が出来る――古代プロトカルチャーすら恐れて崇拝した至高の力を持ってすれば、どのような相手だろうと撃ち滅ぼして見せる。

 

 そう宣言したレオン・三島の顔には絶対の自信に充ちており、自分達がバジュラを支配して銀河系を手中に収める事に何の疑いも持っていなかった――そんなレオンの宣言を聞いた翡翠は、笑みを深めて半月の様な笑みを浮かべる。

 

「――よく言った、ならば抗って見せてよ」

 

 深紅の瞳を欄々と輝かせた翡翠は再び指を鳴らし――次の瞬間にはレオン・三島達は『バトル・フロンティア』の戦闘指揮所へと戻っていた。

 

「……ここは、『バトル・フロンティア』か?」

「……先ほどまでの光景は…夢か?」

「……我々全員が白昼夢を見ていたと、バカな?」

 

 突然周囲の光景が変わり、戸惑いながら周囲を見回すレオン・三島。同じように戦闘指揮所に戻って来ていたグラス大統領や新統合軍の将校達も戸惑ながら周囲を見回して不審者(翡翠)を探すと、少し離れた場所で壁にもたれ掛かって深紅の瞳でこちらを見ている姿を見つけ、警備の兵に彼女を拘束するように指示を出そうとした時――しばらく前にケミカル物質が停止したことによりその影響から抜け出した女性士官が、ホロ・スクリーンに表示された情報からバジュラの母星周辺宙域に未知の現象が発生した事を報告して来た。

 

「――なに?」

「ここから5.1天文単位の宙域に空間異常が発生――重力傾斜が高まり時空が歪んでいきます!」

 

 5.1天文単位、ちょうど地球と木星の距離に匹敵する先の空間が歪んで星空が捻じれて時空が悲鳴を上げるかのように亀裂が入る――その亀裂はどんどん広がっていき、その中から無数の巨大な物体が出現する――あらゆる脅威を撥ね退ける強固な外殻に続く警戒色に彩られた無数の放熱板。そして強力な推進機関生物が集中するノズル部分が姿を現す――そんな巨大な物体が数百、数千、数万、数百万と、宇宙を極彩色に染めながら亀裂から見える超空間より溢れ出て来る。

 

「――出現する巨大物体の数がどんどん増えていきます!」

 

 周辺宙域の情報を表示する球体状のホロ・スクリーンから情報を計測していた担当士官が、出現する巨大物体の数が計測限界を突破した事を悲鳴交じりに報告してくる。

 

 バジュラの母星から少し離れた宙域の時空が歪み、限界まで湾曲した事によって超空間への回廊が開いて巨大な航宙艦――強靭な外殻から見える船体が脈打ち、3000mを越える巨体そのものが蠢く様は巨大物体が生命体である事を物語っている。

 

 真空どころか超空間すらも踏破した強靭な外殻と、宇宙最強生物であると見るモノ全てに向けた警告である極彩色の肉体を持つ、『バトル・フロンティア』に代表されるこの世界の人類が初めて遭遇する、超時空生命体バジュラをも上回る規模を持つ巨大な生命体が宇宙を鮮やかに染め上げながら5.1天文単位 7億6500万キロの彼方に布陣するその異様に焦りをにじませながらオペレーターは可能な限りの情報を習得しようと他の『フロンティア』軍の艦艇と協力してセンサーの再調整などを行う。

 

「……センサーの再調整をした結果、出現した巨大生物群の数は5千万を超え、さらに増大中。現在の計測数は約6千300万……7千万……まだ増える……」

「……巨大生物群の船体はコンキオリンに類似したタンパク質と未知の物質による合金に覆われてその強度は不明……」

「出現した巨大生物群は高いエネルギー値を示しています――巨大生物群の一部がこちらに向けて近づいてきます……この速度なら約2時間後には此処に到達します!」

 

 計測された情報に息を飲んだオペレーターの悲鳴交じりの報告に『バトル・フロンティア』の将校やグラス大統領そしてレオン・三島首席補佐官の表情が強張る……ホロ・スクリーンに映し出された地球と木星の間の距離に匹敵する恒星系内宙域に出現した巨大な宇宙生物の大群の姿が、翡翠と名乗ったあの少女の姿をした怪物に見せられた、ゼントラーディの自動兵器工廠衛星を襲撃していた凶悪な宇宙生物――彼女は宇宙怪獣と呼称していた――その宇宙怪獣の群れが此方に向けて進撃してくる姿に緊張が走る。

 

「……これが宇宙怪獣……なんて数だ」

 

 調整されたセンサーによれば、この恒星系内に出現した宇宙怪獣の数は億に届く数が確認されている……バジュラの艦艇に匹敵する3000m級の怪獣だけでなく、10000mをも超える巨大な宇通怪獣も複数確認出来る。これだけの巨大生物の大群が存在していたなんて……一体“どこ”に潜んでいたのか? そして何の目的で姿を現したのか? これだけの規模を持つ宇宙生物が今まで何の痕跡も残さず、噂にすらならずに宇宙の深淵に潜んでいたとは。

 

「……これでもまだ序の口だよ。話によればあの宇宙怪獣は巨大な身体を覆う強靭な外殻によって嫌になるほど頑丈らしいし、奴らは身体に砲台型の小型生物を寄生させているからその攻撃力は苛烈の一言、そして最大の脅威はその数――現在この星系内に侵攻してきた宇宙怪獣の数は1億3452体」

 

 億を越える宇宙怪獣相手にどう戦うか、見せてもらうよ。

 

 警備担当の兵士に拘束されながらも、紅い瞳を爛々と輝かせながら翡翠は嗤う――宇宙怪獣と呼ばれる破滅の現象が、群れを成して群雲の如く襲い掛かって来るこの状況が心底楽しそうに――『ヤマト』は絶望的な状況に折れず、『ナデシコ』や惑星連邦は降り掛かる脅威を撥ね退けた――『フロンティア』は、この世界の人類は滅びを齎すべく迫りくる悪意の塊を撥ね退ける事が出来るのか? 彼が何を選択してどう動くのか、ここで見届けさせてもらおうか。

 

 警備の兵士に拘束され、戦闘指揮所から連れ出そうにも一歩も動かない、一見ローティーンの少女相手に顔を真っ赤にして動かそうと力を籠める警備兵を尻目に、翡翠は『バトル・フロンティア』の戦闘指揮所の壁にもたれ掛かりながら、これから始まる戦いを見守る事にした。

 

 


 

 

 バジュラ母星 衛星軌道上

 

 『フロンティア』軍によってコントロールされていたバジュラの群れを解放したバスターマシン7号ことノノと『S・M・S』部隊は、フォールド・ウェーブを発する事が出来るランカ・リーとシェリル・ノームの二人の歌姫の思いを乗せて歌を届けた――だが返って来たのは、操られて同胞と戦った痛みと悲しみの感情だった。

 

「……これは、バジュラたちの悲しみ」

 

 インプラント弾を撃ち込まれて同胞たちと望まぬ戦いを強いられた悲しみの感情がランカとシェリルを包む。

 

『……これが、バジュラたちの痛み』

 

 金属の塊を動かして無軌道にまとまりもなく乱雑に行動する彼らによって(ネスト)に灼熱の炎が撃ち込まれて、何の力も持たない幼生体たちが炎に包まれて息絶える断末魔の感情がアルトを包む。

 

 バジュラたちが受けた傷みと悲しみ……それを為したのは自分達と同じ人間――だが、それは突然バジュラたちの襲撃を受けて多くの人が犠牲になった自分達も同じ……バジュラたちの巣(ネスト)に攻撃を仕掛けたのだって生存権を脅かされた人間が生き残る為に抗った結果であり、双方とも未知の存在との対話を怠って安易な力による解決を求めたが故に戦いは激化して――『フロンティア』は道を誤った。

 

 移民船団である『フロンティア』は居住可能な惑星を探索するのが目的であり、決して戦闘を行う為に銀河系中心宙域を探索していた訳ではない――バジュラたちと遭遇して被害を受けたのなら、進路を変更して彼らとの戦闘を避ける道もあった筈である。しかし現実問題として『フロンティア』船団ほどの規模をフォールドさせる為には大量のエネルギーを必要とし、進路を変更するという事はこれまでの観測による安全な航路から離れて未知の領域を航行する事になる。

 

 ――そして何より、バジュラのみが精製出来るフォールド・クォーツの有用性を『フロンティア』の首脳陣が知っていた事が大きい。その利用価値は非常に大きく、重量子を制御する特性が極めて高いため、次世代の通信やフォールド断層の影響を受けない新たなフォールド航行を可能にするとされている。

 

 彼らはバジュラを資源としてしか見ておらず、バジュラの体内にあるフォールド・クォーツを手に入れて、銀河に広がる人類社会を主導する事を夢見た『フロンティア』首脳陣は襲ってくるバジュラとの戦闘を繰り広げながら彼らの死骸を回収して――遂には彼らのフォールド・ネットワークを解析して繋がりを断つフォールド・ジャミング発生装置と、彼らをコントロールするインプラント弾頭を以て彼らの自由意志を押さえて、手駒として彼らの母星に侵攻する尖兵として送り込んだ。

 

 人類とバジュラ双方が、自分達とは違う未知の存在を理解しようとはせず、歩み寄りではなく安易な力による排除を選択した事による悲劇。相互理解の努力ではなく、互いに相手を排除しようとし、相手を認めない狭量な心が導いた悲しい現実――今の状況は成るべくして成った状況。

 

 だからこそ、こんな悲しい戦いは止めなければいけない――ランカとシェリルはフォールド・ウェーブに思いを込めてバジュラに向けて訴え、バルキリーを駆ってバジュラと直接戦ってきたアルトも戦いを望んでいない……自分は誰かを守りたくてバルキリーに乗ったんだ……シェリルより譲り受けたイヤリングのフォールド・クォーツがフォールド・ウェーブに乗せてバジュラたちへと届ける。

 

 ――ランカとシェリルそしてアルトの思いを受けたバジュラは混乱する。複数の感情を向けられたバジュラは、この時初めて乱雑に行動する理解できない人間が、個別に思考する人々が集まった“集団”であると理解したのだ。

 

 戸惑いその場に停止するバジュラたち……そんな彼らを見ていたバスターマシン7号ことノノは、彼らに向けて『マクロス・クォーター』から提供された宇宙怪獣に追撃されたバジュラ空母たちの映像を思念波に乗せてこの宙域に居る全てのバジュラへと送信する――傷ついたバジュラ空母と駆逐艦バジュラを圧倒的な数で包囲した宇宙怪獣が砲台寄生生物から無数の光弾を射出して、傷ついた駆逐艦バジュラを次々と撃沈していき、最後に残ったバジュラ空母をじわじわと嬲るように包囲した宇宙怪獣から光弾が撃ち出されてスラスターや推進機関にダメージを受けて船体にも次々と命中して傷だらけになるバジュラ空母。

 

 そしてノノはメモリーの中に記録されていた大昔に地球に帰還した銀河中心殴り込み艦隊――エルトリウム艦隊の戦闘記録を思念波に乗せてこの宙域に居る全ての者――『クォータ―』を始めとする『S・M・S』の隊員とバジュラたちへと流す――ノノ達の種族が生き残る為の起死回生の作戦『カルデネアス計画』完遂の為に宇宙怪獣の本拠地と思われる銀河系中心部へと侵攻したエルトリウム艦隊は、迎え撃つ宇宙怪獣の大群相手に死力を尽くして戦う――敵の数は約80億。

 

 激しい砲火を交えつつ、数十キロを超える巨体を持つ宇宙怪獣はエルトリウム艦隊の攻撃を掻い潜って肉薄し、その巨体の体当たりを食らって青い菱形の巨大戦艦やそれ以上巨大な超ド級戦艦すらも圧し折られて爆散する――対する人類も持てる力の全てを以て抗い、満身創痍の巨大戦艦が自ら宇宙怪獣に向かって行って諸共爆散していく……そんな地獄の様な光景から、ノノは自らが経験した“あの敵”の映像を思念波で送る。

 

 それはこれまでの宇宙怪獣とは何かが違った――通常の宇宙怪獣より遥かに巨大な身体は天体規模の姿を持ち、巨体故か周辺の空間すらも歪ませて迎撃する地球側の攻撃を捻じ曲げている。

 

 ――誤解から始まった戦いは双方ともに悲しみと痛みを与えました……だけど、これから始まる戦いは双方が共に戦わなければ、生き残る事は出来ないでしょう。

 

 思念波に乗せてノノは訴える――今この時だけでも良いから、共に戦ってほしいと……ノノからの思念波を受けて戦いの激しさにショックを受けていたランカやシェリルそしてアルトを始めとする『S・M・S』のメンバーがノノの訴えを聞いて祈るように見つめる中で、バジュラの行動に変化が起きる――宇宙を疾走したバジュラたちは己意思を示すかのように、ランカとシェリルを抱えるノノや『S・M・S』のバルキリーや『マクロス・クォーター』と並走し始める。

 

「――みんな!」

「……歌が、私達の思いが通じたのね」

 

 共に宇宙を飛び始めたバジュラたちの姿を見て喜びに笑顔を浮かべるランカとシェリル……そんな二人の姿を見て共に喜びを分かち合おうとしたノノだったが、内蔵する亜空間ソナーが無数の巨大物体がワープで此方に近付いて来る事に気付いて表情を引き締めた。

 

「――来る、宇宙怪獣の大群が!」

 

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 シェリルとランカそしてアルト達の思いを受けたバジュラは人間が集団であると理解し、ノノの真摯な思いを受けたバジュラは今だけは人間と共に戦う事を選ぶ……人間とバジュラが相互に理解するには長い時間が必要でしょう。

 そして遂に到来した宇宙怪獣の大軍団――はたして彼らは生き残れるのか?

 続きを投稿したいところですが、ストックが切れてしまったので暫くお休みを頂いて書き溜めようと思うます。再開する前には告知しますので、こんな小説でも読んでくださるお優しい方がおられましたら、暫くお待ちくださいませ。ではでは~。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。