マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス 作:soul
亜空間を利用した新たな超光速航法の実験に駆り出されたクリスは、未知の存在と衝突事故を起こして見知らぬ世界へと迷い込んだ。未知の存在――ノノと名乗る女性型のアンドロイドとの衝突によって損傷した『実験艦―02』を修復できる場所を求めて見知らぬ世界をさ迷った結果、銀河系中心付近で廃棄された巨大な母艦クラスの残骸を発見して、応急修理をするべく損傷の少ない整備ドックへと進んだクリスはこの巨大な廃棄艦に巣くう無数の甲虫達と戦闘状態に陥り、修理を断念して巨大廃棄艦より離脱した。
そして巨大廃棄艦と共に行動していたであろう4000mはある大型戦艦の残骸から、この付近の航路図とこれまでの航行データーをサルベージして『実験艦―02』の進路を銀河系中心宙域へと向ける――大型戦艦のデーターの中にあった、彼らゼントラーディの造船設備を持つ工廠衛星を求めて――だが到達した工廠衛星は、彼らゼントラーディと敵対する監察軍の攻撃により廃墟と化していた。
この見知らぬ世界で孤立無援の状態であったクリスは、行動を共にするノノと共に破壊された工廠衛星を蘇らせるべく、奮闘を開始していた。
徹底的に破壊されている工廠衛星を蘇らせるべく、クリス達がまず手を付けたのは動力炉の再建である。備え付けられていた大型の熱核反応炉は監察軍の攻撃により完全に機能を停止しており、破壊の跡が著しいこの熱核反応炉を修復するのではなく、『実験艦―02』に備え付けられたレプリケーターを使用して部品を製造した後、異なる世界の地球で生み出された第六世代型恒星間航行能力を持つノノの真価――『フィジカル・リアクター』を用いて、破壊された反応炉の残骸をベースに製造した部品を用いながら、『実験艦―02』のメインAIが設計した新たな動力炉である『縮退炉』へと変貌させる。
『ふぅ~、良い汗かいたわ』
『――宇宙空間で、汗をかくか!』
やり遂げた表情で額を拭うノノに突っ込みを入れつつ、『実験艦―02』のセンサーで変貌した動力炉をチェックしたクリスは、残骸とは言え原形があって部品も用意しているとはいえ、これだけの規模の動力炉を再建するノノの能力に驚く。流石は自称『決戦兵器』、ノノ達の地球が総力を挙げて製造したアンドロイドの事だけはあると、妙な関心をしたクリスは最後の仕上げとばかりに、再建した動力炉を再起動するべく、『実験艦―02』の主機関である『縮退炉』の出力を上げて、生み出された膨大なエネルギーをあらかじめ接続されたチューブから再建された動力炉へと送って動力炉内の装置を起動すると、ノノの『フィジカル・リアクター』によって生み出されて内部に安置されている縮退物質『アイス・セカンド』が重力崩壊を起こして、工廠衛星の新たな動力炉『縮退炉』が起動する。
『縮退炉』が生み出す膨大なエネルギーによって、破壊を免れていた区画に数千周期ぶりに活動を再開する。長い年月の間、放棄されてメンテナンスもされていないにも関わらず、動力が送られて直ぐに起動するなどゼントラーディの技術は高く、かなりの耐久性を持つようだ。
まずはこの工廠衛星のシステムを調べると、艦船を製造するラインは自動的に稼動するようになっており、事前に入力された設計図に基づいて戦闘艦を建造して送り出すようになっている。湾岸設備の方は完全に破壊されているが、奇跡的に少しの修理で補給整備が可能な施設が残っており、修理後にその施設に『実験艦―02』を移してダメージを受けた船体の修理に入る予定だ。
動力炉を再建して比較的修理が容易な製造ラインの修理も終了する少し前、この自動工廠衛星の内部に隠されたような通路を発見する。巨人であるゼントラーディの規格ではなく、自分達のような2m前後の生命体の規格に合わせて作られている通路の先には、この自動工廠衛星の制御コンピューターへと通じているようだ。
「……どうやら、ゼントラーディ達を造った古代星間文明の担い手達は、私達とそう変わらない種族の様だな」
彼らの作り出したゼントラーディの兵士の遺体を調査した時にその遺伝子には強化の跡があったが、それでも地球人類と同じ部分は多々あった事から、この銀河に最初に星間文明を築いた種族は自分達とそれほど大差ない姿をしていると推察していた。
通路の奥まで行くと、それほど大きくない部屋の中に端末が一つ置かれていた……分析システムに換装したドローンで解析するまでもなく、クリスの傍には無駄に高性能なす~ぱ~ろぼっとであるノノが居る。彼女に解析を頼むと、クリスの予想通りにこの自動工廠衛星の制御中枢へのアクセス・ポイントのようだ。プロテクトが掛かってはいたが、それを難なく突破するノノの能力に感心する。
このアクセス・ポイントを発見した事により、この自動工廠衛星で製造される戦闘艦の設計のアップデートの方法が判明する――この世界の超光速技術であるフィールド技術を応用した通信技術フォールド通信によってこの衛星の制御中枢にアクセスして、記録された戦闘艦の設計データーを更新する仕様になっていた。
ならば、制御中枢に改造を施して直接設計データーを入力出来るようにすれば、此方の意のままの戦闘艦を建造させる事も可能になる……中々、良いじゃないか。その気になればあの『ヤマト』を量産して、轡を並べた『ヤマト』の大群から あの凶悪な『波動砲』を無数に撃ち込める……相手がどんな顔をするか、想像するだけでゾクゾクしてくる。
「……クリス、悪い顔しるよ」
「……失礼な、こんな美少女をつかまえて」
遥かな昔の戦いで破壊されて機能を失っていたゼントラーディの自動兵器工廠衛星――徹底的な破壊が行われて残骸ともいえる有様になった衛星に辿り着いた、異なる世界からの来訪者クリスとノノによって廃墟となった工廠衛星にヒカリが灯る。機能を停止した大型熱核反応炉に改造を施して以前とは比べ物にならない出力を持つ『縮退炉』へと変貌させたクリスとノノは、破壊された戦闘用航宙艦の製造ラインの中でも比較的損傷の少ないモノを修復して、クリスとノノ二人の知識を込めて再設計した新しい戦闘用航宙艦の一番艦がようやくロールアウトしたのだ。
ゼントラーディ用の待機室にてクリスとノノの眼下に進み出る巨大な戦闘用航宙艦――船体は細長い潰れた円錐型で上部にドーム状の構造物が三つあり、後部両舷にメインエンジンを備えた双発艦――ゼントラーディ軍においてスヴァール・サラン級標準戦艦と呼ばれる航宙艦をベースに、動力炉である熱核反応炉の代わりに縮退炉を装備し、その膨大なエネルギーによって装備されている誘導収束ビーム砲の出力が増し、『ヤマト』の波動防壁ほどではないが、惑星連邦のシールド技術に匹敵する防御シールドを装備している。
そして縮退炉を搭載した最大の利点は、この世界既存の超光速航法『フォールド航法』ではなく、ワームホールを利用しての超光速航法『ワープ航法』を使用出来るだけでなく、この世界の宇宙にも隣接している亜空間へと潜る事で遮蔽装置のように姿を消す事が出来る事である。
「……中々面白い船ができたじゃないか」
「……いや、この世界のパワーバランスを盛大に崩しそうな」
「……ノノだって、ノリノリで設計してたじゃないか」
「……いや~、あの時は徹夜続きでまともじゃなかったから」
えへへと愛想笑いをしながら後頭部を掻くノノ……アンドロイドに寝不足があるか! とクリスが突っ込みを入れると、アンドロイドだって寝不足ではお肌が荒れるんです! と妙な迫力で返すノノ……この大ボケアンドロイドは! と躍り掛かったクリスは素早く関節技を決めると、タップしながら涙目になるノノ……関節技を痛がるす~ぱ~ろぼっと。
傍からみれば じゃれ合っているようにしか見えないが、無駄に高度なテクニックを屈指して関節技の応酬をしており、対格差からマウントを取ったノノのエビ固めに床を叩いてギブアップを告げるクリス……そんな馬鹿な事をしている二人だったが、虚空から響いてくる“歌”にじゃれ合いを止めた。
「……また、歌が聞こえる」
「……これはフォールド波に乗って歌が宇宙に拡散しているのか」
時折この宇宙特有の現象であるフォールド航法によって圧縮された超時空とも呼ぶべき世界を伝達する波が、生命体の意思を波として広げるこの良く分からない現象によって届けられるメロディー……それを思念波としてたまに受信していたクリスとノノ。
時に喜びに満ち、時に悲しみに心を振るわせながら、このフォールド波に乗って広がるメロディーは、明確な意思を持つ何者かによって奏でられ、それはどんどん出力が強く――何者かが近付いている事を推察させた。
「……歌を追い掛けてみるか」
「……歌を?」
「――歌を謡うと言う事は、それなりの文明を持っているだろうし、この近辺の情報が無い状態で道しるべになりそうだし、そして何より……」
「……何より?」
「……戦力が整うまで、暇だ」
真顔で下らない理由上げるクリスに脱力するノノ。自動兵器工廠衛星を再稼働させて、ようやく戦力になりそうな戦闘用航宙艦の一番艦がロールアウトして、他の艦船の製造ラインの修理もまもなく完了する。これから量産体制に入るが、戦艦がはき出される間は二人ともやる事もなく、簡単に言えば暇なのだ。
あの『歌』を歌っているのは“何なのか”は分からないが、右も左も分からない状態で目指せるのは『歌』を歌う存在を突き止める位しかやる事がない……アクシデントでこの未知の世界に迷い込んだ以上、救援が来るにしても此方の居場所を知らせる手段を確保するのが急務だが、改良型の戦艦を建造する傍ら『実験艦―02』の修理も完了して救援シグナルを発しているが、救助の手が届くのは何時になるか分からない。
「……けど、『歌』を歌う存在はどれだけ離れているか」
「船の修理も完了しているし、この工廠衛星の警備用に戦闘用ドローンを置いて行けば、おいおそれとヤラれる事はないさ」
それにこの世界で宇宙空間を航行する存在に興味があると伝えるクリス。古代星間文明の戦闘用兵士であるゼントラーディと監察軍、そして強力な戦闘能力を持つ甲虫ども以外の、恐らく文明圏から聞こえて来る歌の歌い手に会って見るのも暇つぶしには丁度良いし、この世界の勢力図に付いて分かるかもしれない。
アクシデントによって漂着したこの世界にはどれだけの脅威が存在するのか、巨人同士の争いと強力な戦闘能力を有する甲虫どもの群れ。だが、この未知の世界にはそれ以外の脅威が存在する可能性は十分にある――ならば宇宙に流れるこの歌を辿って歌い手が属する文明圏に行って、この世界の情勢を調査はしておきたい。
修理が完了した『実験艦―02』へと乗り込んだクリスとノノは、スラスターを起動して係留施設から宇宙空間へと進む――後方には修復によって稼働状態へと移行している自動兵器工廠衛星と、それを警護する無数の武装ドローンの姿がある。指向性を極限にまで高めて貫通力を強化したビーム兵器を主武装に、相手の防御シールドのエネルギーを取り込んで破壊力へと変換する侵食魚雷で武装しており、巨人達の兵器や甲虫ども相手でも早々後れを取る事はあるまい。
工廠衛星から十分な距離へと移動した『実験艦―02』は、主機関である縮退炉の稼働率を上げると、亜空間航行へと移行する――目指すは、この世界特有のフォールド波に乗って流れて来る歌の歌い手を求めて。
自動兵器工廠衛星から飛び立った『実験艦―02』は、それ以降も何度かワープを行ったが直ぐに歌の歌い手と接触できるような都合の良い展開にはならず、歌の響いて来た方向へ向けてひたすら航海をする日々を過ごすクリスとノノ。
銀河系中心部は、巨大な無数の恒星が巨大なブラックホールの超重力によって振り回されて無秩序に強力な放射線を巻き散らす過酷な環境下にある――だが元々第三段階の亜空間跳躍実験の為に用意された『実験艦―02』の四重の防御シールドは、強烈な放射線を完全に遮断して突き進む。
そうして暫く航行していると、『実験艦―02』に乗る二人に再びフォールド波に乗った歌が聞こえて来る……何か温かいほんわかした気持ちになりそうな陽気な気持ちの籠った歌が。
「……何か良い事があったのかしらね」
「……そうかもな、何だか楽しそうだ」
この世界に迷い込んでから二人で生活する事に慣れた事もあって、手持ちぶたさの暇を持て余していたクリスとノノだったが、二人は遥か前方から再びフォールド波が流れて来る事に気付く。そのフォールド波はリズムを刻み、聞く者の心を揺さぶる何かを持った、まさしく『歌』であった――しかもその歌は、少しずつ強く大きくなっていく……歌の歌い手が近付いて来ているようだ。
『実験艦―02』の長距離センサーが此方に近付いて来る複数の物体を捉える――センサーの計測では構成物質の分布から複数の人工物――航宙艦の艦隊が此方に近付いて来ている事が分かる……最初はゼントラーディか監察軍とやらの艦隊かと思ったが、ノプティ・バガニス級指揮用戦艦の記録データーや工廠衛星で得たデーターと照らし合わせても記録に無い艦影から別の勢力の艦隊と予想する。
「……クリス。これって」
「――02,次元潜航開始」
クリスの指示を受けた『実験艦―02』は位相を調整して、この世界に隣接する
……そういえば、居たな『ヤマト』にも。高速で目の前を飛び去る機体を見ながら懐かしい思い出に浸っていると、続いて小型艦群の姿が現れる。それを前衛として本隊となる航宙艦の集団が現れた――その集団の中心には一際巨大な航宙艦が居た。全長は15キロくらいか円形の船体内に透明なドームで覆われた街並みが見えて、惑星上の環境を再現して乗り込む人々が暮らせるように配慮された様子がうかがえる。それを母艦として大小さまざまな航宙艦が艦隊を組んで長距離航海を行っているのだろう。
……まぁ、こんな放射線が荒れ狂う宙域を航行しようなんてご苦労なことだと嘆息していると、隣のノノが妙に大人しい事を疑問に思ったクリスは問い掛ける。
「――ノノ、妙に大人しいけど、何かあったのか?」
「……ああっ、ごめんクリス。あの艦隊を見ていると、古いメモリーが刺激されて……」
「ふぅん、まあ良いけど。ねぇ、ノノ。あの歌の歌い手に興味はない?」
「――えっ?」
「あれほど広範囲に歌を響かせるなんて、どんな人なのか興味がある」
どうせ救助は遅れるだろうから、とジトっとした視線をノノに向けるクリス。その視線の意味を十分に理解しているノノは引き攣った表情を浮かべた……この世界に迷い込んだのは、ノノとの正面衝突も大きな要因なのだ。
かつてゼントラーディと呼ばれる巨人達との戦争があった。
初めての地球外生命体との戦いで滅びの危機を経験した人類は大宇宙への進出に未来を託し、新天地を求め銀河の各方面へと進出していった。
西暦2057年 数えて25番目になる巨大移民船団マクロス・フロンティアは、銀河の中心宙域に向けて大航海を続けていたー―そして今、このフロンティアに二つの異物が密かに潜入する……彼女たちが齎すのは福音か、あるいは破滅への道か――それは神のみぞ知る。
どうも、しがない小説書きのSOULです。
次回第5話ディスタビング・シャドウ 不穏な影 5/21 0時更新予定です。ではでは~。