マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス 作:soul
サヨナラノツバサ編
バジュラの母星近郊宙域
億を超える巨大なる悪意 宇宙怪獣の大集団の襲撃を受けた可変攻撃宇宙空母『マクロス・クォーター』は、ランカ・リーとシェリル・ノームの思いがこもった歌声とノノの真摯な説得により共に戦う事を選択したバジュラたちと、目の前に広がる重圧な壁の如き宇宙怪獣の大群を相手に激戦を繰り広げていた。
元々『マクロス・フロンティア』船団の侵攻に対抗する為に集結していた事もあり、『マクロス・クォーター』の周囲で轡を並べるバジュラ側の艦艇は無数の駆逐艦タイプだけなく『クォータ―』はおろか新マクロス級をも上回る3000mから4500mの威容を誇る空母タイプや『ギャラクシー』船団を壊滅させて『フロンティア』防衛線で姿を見せた戦艦タイプの姿が幾つもあり、三連装重量子生体ビーム砲の圧倒的な攻撃力と『マクロス・キャノン』すら防ぐフォールド・バリアを持つ強力な生体艦群の存在は、天文学的な単位の数を持つ宇宙怪獣との絶望的な戦の中では彼らの持つ強力な力は頼もしいモノであった。
だが、幾多の知的生命体の文明を滅ぼして来た宇宙怪獣群の脅威は今だ底を見せておらず、『クォータ―』とバジュラ艦の対空砲火を掻い潜って無数の宇宙怪獣が襲い掛かる――500mを越える上陸艇の半分ほどの大きさと巨大な宇宙怪獣の中では小型の部類に入るが、艦尾に当たる部分に複数の強力な推進機関を配置する事で凄まじいスピードを持ち、そのスピードを生かして対空砲火の火線の隙間を抜けると、空母タイプや戦艦タイプのバジュラ艦に襲い掛かり放熱板を重ねた強靭な薄膜でフォールド・バリアを突破しようと衝突して周囲に余波による激しい放電が起きる。
『マクロス・クォーター』ブリッジ
「――複数の敵ジャックナイフ級がバジュラの戦艦タイプと激突……戦艦タイプのフォールド・バリアと拮抗しています」
無数の光弾による攻撃を主体としていた宇宙怪獣群の行動に変化が起こり、バルキリー隊と激しいドックファイトを繰り広げている兵隊型宇宙怪獣とは別の250mと上陸艇の半分ほどの大きさの突撃型と思われる宇宙怪獣が、その速度を生かして防衛線を突破して対空砲火をも掻い潜ってバジュラ艦隊へと襲い掛かっていたが、バジュラ艦の張るフォールド・バリアに阻まれて、突破しようとする突撃型の宇宙怪獣との間に激しい激突が起きた。
ノノから提供された宇宙怪獣のカテゴリーによれば、あの突撃型は見た目からジャックナイフ級と呼称され、そのスピードを生かした突撃によって防衛網を突破すると、放熱板を重ねた強靭な薄膜で相手の装甲を貫いて内部深くにダメージを与えて――そのまま自爆して相手にさらなるダメージを与えるという。
「……バジュラの戦艦タイプの張るバリアは『マクロス・キャノン』すら防いだんだから、いくら宇宙怪獣だとしても突破は難しいわよ」
操舵稈を操作するボビーは、宇宙怪獣の放つ光弾を巧みに避けながら『フロンティア』防衛線の折に『バトル・フロンティア』の主砲『メガマクロス・キャノン』を完全に防いだフォールド・バリアの防御力に言及する――だが宇宙怪獣の能力は彼の予想を超えていた。
戦艦タイプの張るフォールド・バリアと拮抗していたジャックナイフ型宇宙怪獣の強靭な薄膜の先端が陽炎のように揺らめくと、何物をも寄せ付けないフォールド・バリアの内部へと浸透していき、遂にはフォールド・バリアを突破して戦艦バジュラの船体へと突き刺さり、装甲を切り裂いて内部構造にダメージを与えた後に爆発――爆発の光が収まった後には、戦艦バジュラの船体に大きな穴が開いていた。
『マクロス・クォーター』とバジュラの連合艦隊と共に戦う第六世代型恒星間航行決戦兵器バスターマシンことノノは、内蔵された超技術の結晶たる『ファジカル・リアクター』によって周囲の物理法則を操作して無数のマイクロ・ブラックホールを生成すると宇宙怪獣群へと撃ち出す――シュヴァルツシルト半径が量子サイズであるが故に、ホーキング輻射によって短時間で蒸発する(一説で10の-23乗秒)マイクロ・ブラックホールが進路上の宇宙怪獣に衝突するとその超重力で抉り取り、蒸発するまでの瞬きの間に宇宙空間で猛威を振るって周囲の空間に存在する全てのモノを超重力によって引き裂いて粉砕しながら進む。
――マイクロ・ブラックホールを射出したノノに向けて無数の兵隊型怪獣が群がるが、両脚に三重六連装ミサイルサイロを展開すると、襲い来る兵隊型へとマイクロミサイルを撃ち込んでその全てを迎撃したが、その爆炎から何かが飛び出して来た事に驚愕するノノ。
『――!?』
マイクロミサイルの直撃を受けて爆散した兵隊型の爆炎の中から30mの兵隊型よりはるかに巨大な250m級の鋭利な姿をした宇宙怪獣群が姿を現して猛スピードで接近してくる。
『――ジャックナイフ級!?』
船尾にあるノズルから大量の炎を噴出しながら猛スピードで宇宙空間を疾走するジャックナイフ級宇宙怪獣の放熱板を重ねた強靭ながらも鋭利な薄膜がノノの傍を一気に通り過ぎる……身長が2mもないノノを捉えるにはジャックナイフ級の船体でも大きすぎる……ならばその目標はノノではなく、その後方に展開しているバジュラたちの艦隊なのだろう。
案の定、戦艦タイプのバジュラ艦に複数のジャックナイフ級が襲い掛かかってバジュラ艦の展開するバリアと拮抗していたが、ジャックナイフ級の切っ先が陽炎のように揺らめくと、バジュラ艦のバリアを透過してその巨大な船体に突き刺さると爆発して船体に大きなダメージ跡を残し、その後も次々とジャックナイフ級が飛来して戦艦バジュラに突きささり、ダメージによって火砲もバリヤも弱った戦艦バジュラはジャックナイフ級の飽和攻撃を受けてあえなく爆沈する。
……今のって、“位相変換”!?
翡翠の乗る航宙艦『実験艦―02』に搭載されている亜空間潜航能力は、この世界に隣接する亜空間に周囲の位相を変換することにより通常空間から亜空間へと潜航しているという……彼女達の種族は重力や空間特性を操る技術に長けているようだ――そしてその対極に居るのが宇宙怪獣だ。
彼らの脈打つ肉体を覆う外皮は絶対零度に近い真空の宇宙を耐えて亜光速で進み、縮退炉なしでワープを行い、例え物理法則が何の役にも立たない亜空間内でもお互いや敵の位置を感知する能力を持つ――共生関係にある生物が群体を作り、恐ろしい力を持つ宇宙怪獣の体内にはそれを成しえるシステムと呼べるような物は存在せず、ノノの中に有るメモリーには、共生している生物の能力を統合して発現する“超・能力”と呼べる能力を有しているという情報が残されていた。
――かつて、共に生活していた少年少女が有していたトップレス能力を問題にしない程の超・能力を宇宙怪獣は有しているという。
あのジャックナイフ級が見せた超・能力は位相を変換する事でこの世界とは異なる世界へと転移してバジュラの戦艦タイプのフォールド・バリアが展開している空間を通過してから通常空間へと復帰する……いわば透過能力とでも言うべきか。
宇宙怪獣がこんな特殊能力ともいうべき力を発揮するなど、これまでのデーターにはない事だ……なんだこれは? この並行世界に来て新しい能力に開花したとでも言うのか?
……なんというか、胸の奥がムカムカする。この違和感はなんだろうか?
ステルス攻撃空母『バトル・フロンティア』戦闘指揮所
『マクロス・フロンティア』船団を守護しているステルス攻撃空母『バトル・フロンティア』の中枢である戦闘指揮所内は喧騒に包まれていた――バジュラどもを制圧するべく奴らの母星に侵攻した『フロンティア』軍の艦艇は人知れず艦内に設置されていたタンクから無味無臭の気体が混入して、その艦のクルー達はその影響により極度のリラックス状態になり、とても戦闘艦のクルーとは思えないような醜態をさらしていた……それを為したのは人知れず『フロンティア』船団に紛れ込んでいた一人の少女の仕業だと、誰が信じられようか。
バジュラ制圧作戦を立案した『フロンティア』行政府の大統領首席補佐官 レオン・三島は、作戦も大詰めとなったこの局面に現れた質の悪い冗談のような存在に、拘束した後にキツイお仕置きでもしたい衝動に駆られるが、実行に移す前に現れた深宇宙からの敵対勢力――宇宙怪獣と呼称される凶悪な宇宙生物の襲撃に対処せざる負えない状況に陥っていた。
「――兵隊級怪獣とバルキリー隊が接触!」
「――ブラボー、チャーリー小隊通信途絶!!」
「――バルキリー隊を突破した兵隊級怪獣により、FFM-795キャリスパー、FFM-863ブルーノア爆沈!」
「……防衛線を突破した兵隊級の一部が『アイランド1』に取り付きます!」
「――全デストロイド部隊に迎撃命令を出せ!」
突然外惑星圏より飛来して大気圏に突入して来た重巡級宇宙怪獣群は『フロンティア』軍とバジュラの巣(ネスト)からの攻撃で撃墜する事が出来たが、破片に紛れて地表まで到達した無数の上陸艇から放出された飛行能力を持つ兵隊級宇宙怪獣の大群が飛来して、船団を守る新統合軍と激しい戦闘を繰り広げていた。
体長30mとバルキリーより大きな身体を甲羅のようなモノで覆った兵隊型宇宙怪獣は、機動力はバルキリーの方が優れているが直線では兵隊型怪獣の方が早く、一旦防衛線を突破されるとバルキリーでは追い付けずに新統合軍艦艇に肉薄して装甲を破壊して内部に潜り込み――その場で爆発して新統合軍の船を道連れにしていた。
「……これが宇宙怪獣。自爆して道連れにするなんて、相手を破壊する事に特化しているのか」
バジュラとの初接触の折にも、重量子生体ビームや生体組織で作られたミサイルやフレアの様なモノを持ち、ゴーストやミサイル攻撃にはジャミング能力を持つなど、何処かの組織が作成した生物兵器かと疑ったが、この宇宙怪獣はバジュラなど問題にしないほどに相手を殺す事に特化している……まるで悪意を煮詰めて凝縮したかのように。
無数の兵隊型宇宙怪獣への対応に苦慮している『バトル・フロンティア』のクルー達を見ながら、レオン・三島はあの自称異星の少女は右往左往している自分達を見て、さぞ嘲笑っている事だろうと視線を向けるが、彼女が身体を預けていた壁に彼女の姿はなく、思わず翡翠と名乗る少女の姿を探して戦闘指揮所を見回したが、部屋の中に彼女の姿はどこにもなかった―― 一体どこに行った、あの少女は?
巨大都市型移民居住艦『アイランド1』は、超時空生命体バジュラの度重なる襲撃により居住施設を保護する大型のシェルに大きな損傷を受けて、防護状態でもシェルの破損個所から剥き出しの居住施設が見えるという有様であった。
最小限の補給で長距離の航海を可能にする閉鎖系バイオプラント方式を採用している『マクロス・フロンティア』船団は、大型都市船の後方に複数の環境艦を連結して一体の循環系を構成し、大気・水・有機物などが無駄なく完全循環するよう設計されている……しかしその反面、戦闘などの外的要因よる環境の変化には弱く、一旦循環のバランスが崩れれば回復には徒歩もない労力を必要としていた。
バジュラによる度重なる襲撃により大量の有機物を失った『アイランド1』は、このままでは人類が生存できる環境を維持出来なくなって全滅する可能性すら出ていた――故に早急にバジュラ達を制圧し、彼らの持つ資源『フォールド・クォーツ』を入手して、有利な条件で危機的状況にある『フロンティア』船団を立て直せるだけの援助を引き出す腹積もりであった。
だが実際にバジュラを制圧する為に彼らの母星に侵攻してみれば、その母星は地球型の惑星であり人類が居住するのに適した環境を有していた。
『フロンティア』上層部は狂喜した――これで『フロンティア』の人々は救われる。態々『フォールド・クォーツ』を交渉材料にして交渉しなくても、目の前に居住可能な惑星があるのだ。
移民船である『アイランド1』がバジュラの母星に降下したのは、バジュラをコントロールするフォールド・ウェーブ発生装置を稼働させる為に大型の熱核反応炉を複数必要としただけでなく、『アイランド1』自体が限界を迎えていたのだ――しかしその結果、『アイランド1』はバジュラとは別の生命体である宇宙怪獣の脅威に晒される事となった。
『アイランド1』居住区画
巨大な都市型移民船である『アイランド1』の表面には1000万人近くの市民が居住や活動が出来る都市部だけでなく、それに隣接する形で港湾部や丘陵地帯が設けられているが、都市部には度重なるバジュラの襲撃による破壊の跡が至る所にあり、今回のバジュラ母星侵攻時にはバジュラの激しい抵抗により、地表部に広がっていた都市部は見るも無残な瓦礫と化していた。
そんな瓦礫の中を一人の人間が彷徨っていた……藍色の髪と眼鏡をかけた理知的な雰囲気を持つ女性は申し訳程度のコートを纏っているもその下は全裸であり、皮膚に相当する部分には無数の銃弾の跡があるが、それでも女性は動きが鈍い身体を無理やり動かしながら瓦礫の中を彷徨っていた。
「……う…うっうう……」
動かぬ身体を少しづつ一歩一歩進んでいる女性の傍に大きな影が現れると巨大な何かが着地してその衝撃波で女性は吹き飛ばされる……大き目な瓦礫にぶつかって停止したが、その衝撃は傷んだ身体に更なる傷を与え、何とか身を起こした女性が顔を上げるとそこには巨大な影が姿を現す。
小山の様な身体を甲羅の様な物で覆い、強靭な脚部で立ち上がったその姿は甲羅を纏った巨大な蜘蛛の赤く並んだ複数の目がギョロギョロと動いていたが、瓦礫にもたれるように身体を預けている女性に複数の目が向けられると巨体がゆっくりと近付いて来る。
目の前に迫る小山の様な巨体を見ていた女性は小さく息を付くと達観したかのように目を閉じた。
「――諦めるのが早くない?」
突然第三者の声を聞いて思わず目を開いた女性が見たモノは、栗色の髪をウルフカットに整えた白いボディスーツの所々に青い結晶体を付けた少女が、自分と巨大な蜘蛛のようなバケモノの間に立っている姿だった。
「――逃げっ…」
思わず逃げるように声を掛けるが、その前に巨大な蜘蛛が大きな脚を上げると少女目掛けて一気に振り下ろす――大きさに見合うだけの質量のある脚を頭から振り下ろされては、華奢な少女では一瞬たりとも耐えられずに潰されてしまうだろう。
だがその予想は外れる――振り下ろされた巨大な脚は少女を捉える事無く激しい音と共にその横に振り下ろされる。それは巨大な蜘蛛にとっても予想外だったようで、再び脚を振り上げると少女目掛けて振り下ろされるが、結果は最初と同じく振り下ろされた脚は少女を捉える事はなかった。
「……どういうこと?」
目の前で繰り広げられている質の悪い冗談の様な光景に、瓦礫にもたれ掛かりながら女性は目の前で起きている光景が理解出来ずに呟く……巨大な蜘蛛の様な生物は目の前の少女を圧し潰そうと攻撃を繰り返しているがその全てが少女を捉える事はなく、少女にしても何かしている素振りは見えずにただ立っているようにしか見えない……そうしている内に少女は歩き出して何度も脚を振り下ろす蜘蛛の間近まで行くとその甲羅に覆われた身体にそっと手を添える――次の瞬間、蜘蛛は見えないハンマーに殴られたかのように吹き飛ばされて動かなくなる。
「……えっ?」
目の前で起きた光景が理解出来ずに呆けたような声を上げる女性……少女が手を添えただけで、少女の数十倍も大きな蜘蛛のような生物が吹き飛ばされて動かなくなってしまった。
蜘蛛を吹き飛ばした少女は振り返ると瓦礫にもたれ掛かっている女性の傍まで来て、そこで少女は疲労が激しい女性の顔をまじまじと見ながら首を傾げて顎に手をやって何やら考え込んでいるようだ。
「……どこかで見た顔だね……あっ! シェリル・ノームの付き人さん!?」
「……そこはマネージャーと言って欲しいわね」
崩壊した『アイランド1』の都市部を彷徨っていたのは、シェリル・ノームのマネージャーをしていたグレイス・オコナーであった。
どうも、しがない小説書きのSOULです。
宇宙と地上で激しい戦いが繰り広げられている間に、大きなダメージを負ったアイランド1の廃墟の中で翡翠とグレイスは出会いました……なぜだろう? この”混ぜるな危険”と言った感覚は。