マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス 作:soul
ゼントラーディと呼ばれる巨人達とのワースト・コンタクトを経て勃発した星間戦争によって滅亡の淵へと追いやられた地球人類は、再び星間戦争が勃発した場合に備えて、全宇宙への種の保存・拡散を目的とした「銀河播種計画」を立案して、巨大な居住艦を中心に大規模移民船団が次々と結成されて人の住める惑星を探して銀河の方々へと旅立つ――地球人類は銀河大航海時代を迎えていた。
数えて55番目の超長距離移民船団になる、第25次新マクロス級移民船団『マクロス・フロンティア』――全長15キロを超える閉鎖系バイオプラント都市型移民居住艦『アイランド1』とそれに接続する複数の環境艦を中心に、多数の護衛艦を従えた1000万人規模の巨大移民船団である。
そんなフロンティア船団の中心である巨大都市型移民居住艦『アイランド1』、500万人の住人が生活する中心艦の近くの
「……えらく古典的な街並みだねぇ……とても星の海を旅するような種族が建築したようには見えないほどに」
「……船で暮らす人のメンタルに配慮しているのかも」
長距離航行を想定して建造された移民艦ゆえに、メカメカしい景色は生物である人間の心理面に負担を掛けると配慮されているのかもしれない。
煌びやかな夜景を見ながら二人は、これからの行動について取り決めていく――目的はこの移民船団より流れて来たであろう『フォールド波』で宇宙に響く歌の歌い手を探す事。こちらから強力な『思念波』を発振させて共振を頼りに探すなどという目立つ行動は避けてあくまで隠密に……どうせ時間はたっぷりあるのだから。
クリスの乗る実験艦は『水の回廊』などという未知の空間からの転移途中での事故を起こし、その影響で実験艦の航跡をトレースするにしても時間が掛かるだろうし、まずはこの移民艦のシステムに侵入して、航海の目的地やこの種族の情報を探りつつ、移民船団内での身分の偽造と衣食住の確保――その為にも自称『すーぱーろぼっと』には頑張ってもらわなければならない。
にこやかな笑みと共に告げると、ノノの表情は引き攣っていたが些細な事だ――派手な事はせずに移民船団に溶け込みながら歌の歌い手を探す。ついでに捜索隊というか、十中八九『アルテミス』が迎えに来るだろうから彼女の目に留まるような何かを用意する……『実験艦―02』の救援シグナルの発信装置は、確保した自動兵器工廠衛星に設置しているが、それをキャッチしてくれるのは何時になるやら……ノノが属する時空を特定するのはその後になる。
行動指針を決めた二人は行動を開始する――
『ほれ、『すーぱーろぼっと』の出番だよ』
『……とことん引っ張るつもりね』
自己紹介の折に勢いでネタに走った事を後悔しながらノノは自らの能力を使用してシステム内に侵入して、この船団の住民台帳システムにアクセスすると二人分の戸籍を作成する――フロンティア生まれの姉妹 長女ノノ・エムと次女 翡翠・エム。クリスの偽名は本人の希望によるもので、なんでも馴染み深い名前なのだそうだ。
……余談であるが、なんで君が長女なんだ! と怒るクリスこと翡翠に胸を張って「むふふっ」と笑いながら身長差を利用して見下ろす事で散々からかわれた事への留飲をさげていると、怒った翡翠に関節技を決められてしまった……関節技に痛がるアンドロイド、技術の無駄遣いの様な気がしてならない。
それから身分証を所得した二人は簡易宿泊施設で寝泊まりしながら、まずは生活拠点を確保すべく不動産めぐりを行う……この移民船団は貨幣制度を運用しているようで賃貸物件を借りるには先立つものが必要なんだが、どんな手段を使ったのかそれなりの金額を用意していた翡翠が一括で支払った……その日のニュースには強盗の話はなかったので、まっとうな手段で取得したのだろう。
二人が斡旋されたのはサンフランシスコ・エリアと呼ばれる居住区にあるレトロなアパートであった。シックな作りの落ち着いた印象を受けるアパートであったが、二人が決めたのはそのエリアの交通機関であるケーブルカーを気に入ったのが大きな理由であった。
「さて、これで荷物の梱包は最後ね」
どこからか調達したのか多数の生活物資や調度品の梱包を解きながら、いい汗かいたと流れてもいない額の汗をぬぐう直ぐさをする翡翠をジト目で見つめるノノ。そんな彼女のモノ言う視線に気付いた翡翠がどうした? と問い掛ける。
「どうしたの、ノノねぇちゃん?」
「……貴方の本性を知っているだけに、違和感が」
年下の妹キャラを演じる翡翠に、出会いからこれまでの経緯ゆえに違和感を口にしたノノであったが、翡翠がきれいな笑みを浮かべている事に気付いて慌てて話題を変える。
「――この荷物なんだけど、何時の間に用意したの? そもそもこの物件を借りるお金だって」
「――ああ、資金の事? そんなモン、一発目当ての大勝負に勝利したからに決まっているでしょう」
――ああ、悪い顔して笑っているな……つまり、このフロンティア船団に来る前の戦いの折に見せた生身としては驚異的な身体能力に物を言わせて、どこかのカジノで軍資金を調達してきたと言う事か……それってイカサマなんじゃと思ったが、再びきれいな笑みを浮かべる翡翠にそれ以上の言葉は飲み込む。
一通りの梱包を解いて生活の場を整えた二人は、テーブルについて街を散策していた時に気に入ったカップにコーヒーを入れて一息つく。
「さて、これで生活拠点は整えた訳だけど。次にすべきことは――」
「あの『歌』の歌い手を探すのね?」
「――その前にご近所あいさつね」
……本人が言うには地球年齢で12歳だと言っていたが、何でこんなに翡翠は主婦くさいというか生活力があるのだろう? 呆れを通り越して感心するくらいに手際が良い翡翠は、購入した物の中から見栄えが良い物を見繕ってノノを連れて隣の部屋へと向かう。
「――頑張ってね、ノノねえちゃん」
「――えぇええ!?」
菓子折りを持たされて扉の前に立たされたノノは確信する――この娘は鬼だ……とはいえ、引っ越しのあいさつは必要だろう。肩を落としたノノは、諦めて隣の部屋のチャイムを鳴らす……暫くすると返答があった。
インターフォン越しに引っ越しのあいさつに来た事を告げると、暫くして扉が開くと中から精悍な顔つきをした若い男性が出て来た。がっしりとした体付きからかなり鍛え込んでいる事が分かるが……どうも堅気の人間には見えない。
「――は、初めまして。隣に越して来たノノ・エムって言います。こっちは妹の翡翠です。これからよろしくお願いします――あ、コレ。つまらない物ですけど」
やや早口でまくし立てたノノは、よろしくお願いしますと頭を下げながら持っていた菓子折りを突き出すように差し出した……何をやっているのだろうかこのバカ義姉は、いくら応対に出て来た男性の顔が怖いからと言って早々に切り上げようとしているのが丸わかりだ――見ろ、相手の男も困り顔になっているではないか……さて、これからどう話を収束させるかと翡翠が思案していると、部屋の奥からもう一人の人間が現れる。
「……どうしたの、お兄ちゃん?」
年の頃はノノと翡翠の間くらいか、緑色の髪をショートに揃えた大人しめの少女が学校の制服の上からエプロンを被った格好で出て来る……何というか第一印象は人見知りなわんこと言った感じか、出てきたは良いが見知らぬ他人である自分達を見た途端に兄と呼んだ男性の影に隠れてしまった。
世間話のついでに話を聞くと、彼女は男性オズマ・リーの妹でランカと言うらしい。あまり似て居ない兄妹であるが、それを言えば此方も叩けばホコリが出まくる身である。
挨拶が終わって、自分達の部屋に帰ったノノと翡翠は暫し無言のまま新しいコーヒーを入れてテーブルに着く……そしてカップに口を付けて気分を落ち着かせたノノが口を開いた。
「……あっさりと見つかったね」
「……あのランカとかいう娘から微弱なフォールド波が発せられている……」
「……この船団に居る人間は皆持っている訳でもなし、フォールド波を感知出来たのはあの娘だけ」
「……何か、厄介事の匂いがするな……そういえば、今気づいたんだが」
「……なに?」
「――あの“甲虫”どもからも微弱なフォールド波が出ていなかったか?」
「――はいっ?」
巨大廃棄艦――今ではそれがフルブス・アンファレス巨大母艦と呼称されるゼントラーディ艦隊の旗艦であった残骸で、甲虫達のテリトリーに侵入したクリスとノノは彼らの襲撃に合って返り討ちにしたが、その際に甲虫達の間に思念波――フォールド波によってリンクして連携した攻撃を行っていたのだ。
テーブルにカップを置いた二人は揃って天井を見上げると、深いため息を付いたのであった。
フロンティア船団に潜入して数か月 ノノと翡翠は、表面上は隣のオズマ・リー一家の良き隣人として過ごしていた。民間軍事プロバイダー『S.M.S』とか言うきな臭い企業で事務職に就いているというオズマ・リーに、その職種ゆえに多忙を極めて中々家に帰れない故に同じ女性であるノノや翡翠に妹のランカの事を気にかけてくれと頼まれて、引っ込み思案な所のあるランカに近所で安く買い物ができる場所を聞いたり、年下である翡翠が積極的に交流を持って、事前にリサーチした流行りモノの話題で親交を深めたりしていた。
「……で、どうだった。ランカ・リーとの買い物は?」
「ええ、ランカちゃんが教えてくれたスーパーは本当にお野菜が安くって――」
「――そうじゃないだろう!」
「――分かってますよ。会話の中に含ませて色々話を聞いてみたけど、ある年代まで遡ると言葉を濁すんですよね」
「……となると、過去で何か――あの甲虫どもと接触した訳か」
部屋の中でテーブルを挟んで先ほどまでランカと共に買い物に出かけていたノノに首尾を聞くと、若干ボケを挟みつつ会話の中に混ぜたランカ・リーの過去に関する情報収集の結果を答えるもあまり成果はなかったようだ……翡翠の入れたコーヒーを飲みながら、これまでに判明した調査の結果を話し合う。
挨拶の折に隣に住むランカ・リーから微弱なフォールド波が発せられる事に気付いた二人は、他にもフォールド波を発している人間がいないかを確認する為に手分けをして確認したが他にフォールド波を発している人間はおらず、ランカ・リー個人の特性であると断じた。
そうなると次に問題になるのは、フォールド波を発する能力は生来なものなのか、それとも後から得たものなのか、まずは閲覧可能な彼女の個人データーを調べ、第117次大規模調査船団で誕生するも、フォールド断層とやらの所為で船団は壊滅し、生き残ったランカは護衛任務に就いていたオズマに引き取られて『S.M.S』内の異動に伴いフロンティア船団へとやってきたようだ。
「……まぁ、生い立ちを見れば“あの”お兄ちゃんがシスコンになるのも理解は出来るな、理解は」
片手をフラフラと振って投げやりな言葉を紡ぐ翡翠……傍から見ていても義兄オズマ・リーのランカに対する過保護は度が越しているように思える。本人には悪意はないのだが、思春期まっさかりのランカにとっては、何をするにしても問い掛けて来る過保護に見えるようで、年の近いノノや翡翠によく愚痴をこぼしているのだ。
「それでね、ノノねえちゃん。ランカ・リーの周囲を調べていたら色々ときな臭いモノが出て来たんだ」
そう言って翡翠は数枚の空間投影型ウィンドウを立ち上げると、それをノノへと向ける――空間投影型ウィンドウは、このフロンティア船団でも幅広く使用されているが、それを翡翠がカスタマイズして何処でも展開出来るようにしたモノだ。ウィンドウに表示される内容を読んだノノであるが、翡翠の意図が分からず首を傾げる。
「……これのどこがきな臭いの? 単なる定期健診のデーターのようだけど」
「……検診自体は普通のモノだけど、そんな普通の健診結果が定期的に『L.A.I』に送っている所なんか匂うんだよね」
「『L.A.I』って、大手の機械メーカーの?」
「そ、この船団に拠点を置いて色々な物に手を出している節操のない企業……一体何を目的にしているのやら」
マクロス・フロンティア船団に拠点を持つ、マイクロマシンからこの世界の超光速航法フォールド・システムまで手掛ける総合機械メーカー『L.A.I』。この船団の行政府ともラインを持つ大企業がランカ・リーに着目している……きな臭いなんて物ではなかった……これは最悪の想定をしていた方が良いのかもしれない――この船団全てが敵に回る可能性を。
「ま、そこまでランカ・リーに肩入れする気は無いんだけど……気に入らないなぁ」
「――そうです! そんな事は“ノノリリ”なら絶対許さないと思います」
翠眼を細めて翡翠は呟くと、妙に力を入れたノノが追従してくる……しかし、時折出て来るのだがノノリリとはなんだろうか? ノノが言うには大昔にノノ達の地球を守る為に戦った伝説のバスターマシーンとやらのパイロットであり、彼女の憧れの存在だという……まぁ、ノノが変なのは何時もの事をして、これからどう動くかを考える時が来たようである。
最初はこの未知の世界で聞こえて来たフォールド波に興味を持ってこの船団へとやって来た訳だが、フォールド波の発信源はローティーンの少女であり、周囲にはきな臭いものが見え隠れしている……第三段階の亜空間跳躍実験の最中に突然現れたノノと衝突事故を起こして乗っていた『実験艦―02』は大きなダメージを負い、アクシデントにより流れ着いたこの世界に自分がいる事を特定して迎えが来るまでには時間が掛かるだろうという事は予想できた……ならば少し位ならバカンスと洒落こんでも良いのではないかと思っていたが……どうやら神と呼ばれる存在は、仕事に疲れた美少女にバカンスすら許してくれないようだ。
「……準備だけでもしておくか」
どうも、しがない小説書きのSOULです。
第5話にしてようやくフロンティア船団に接触したクリス達は、名を変え、住居を用意して暫く生活をしながら、宇宙に歌を響かせる存在の調査をしようとして、あっさり見つけました……しかし、歌を響かせたであろう彼女の周囲に見え隠れする不穏なる影。
本来この宇宙に寄る辺のないクリスは、ヤマト時代の失敗を鑑みて事前準備に力を入れます……何があっても良いように。
では次回 第6話 アドバンズ・プレパレーション 事前準備 5/24 0時更新予定です。ではでは~。