マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス 作:soul
サヨナラノツバサ編
バジュラの母星が属する恒星系に突如侵攻して来た未知の敵 宇宙怪獣の大軍団を退けた『マクロス・クォーター』とバジュラの防衛艦隊、そして救援に来た『S・M・S』と新統合軍の連合艦隊は、残敵を掃討した後、銀河条約違反の嫌疑を掛けられた『マクロス・フロンティア』船団の首脳部を召喚して査問会が開かれていたが、そこに外部協力者となっている翡翠より連絡が来たのだ――未知の敵である宇宙怪獣の本拠地と、彼らが侵攻してきた理由が判明したと。
翡翠より語られた宇宙怪獣達の本拠地――それは別の宇宙に存在し、そこにはこれまで以上の規模を持つ宇宙怪獣の大軍団が存在していたのだ。
――そして、別の宇宙を埋め尽くす宇宙怪獣の大軍団の全てが不気味な波動を放ちながら超空間で同じフレーズを奏でていた――それは、
「……なぁ、これて以前にランカが公園で歌っていた…」
何とか聞き取りが出来たフレーズを合わせて頭の中で繋ぎ合わせると覚えのあるメロディーとなる――『S・M・S』に入隊する前に、戦う理由を自問自答していた時に公園で出会ったランカが口ずさんでいたあの歌――ランカとシェリルのみが歌える思い出の唄……アイモの歌詞であると気付いたアルトは傍に居るランカを見ながら呟く……まさか、なんで……何で、別の宇宙に居るバケモノ達がランカと同じ歌を歌っているんだよ? 状況がまるで理解出来ずに答えのない問答を続けるアルト達だけでなく、台座の上から周囲のギャラリーがとまどいの表情を浮かべているのを見ている翡翠。
――恐らく、これから話す話の内容を理解すれば“彼女”の立場は微妙なモノになるだろう、芸能活動で鍛えられたお陰か内向的な性格は改善されたようだが、妙な所で頑固な癖に打たれ弱い“彼女”は自分で自分を追い詰めていく事だろう……だが、いずれ判明する事である。
「聞くに堪えない雑音だが、ドローンの解析ではこの耳障りな合唱には元になるフレーズがあった」
それがこれだ、と思念波で実験艦―02のAIに指示を送ると宇宙怪獣達の闇の鎮魂歌の合唱の中に小さく響く音に焦点を当てる――02のAIがその音だけを拾い上げてノイズを廃除して流す……それは巨大な宇宙怪獣が奏でる闇の鎮魂歌の中で小さく、とても小さくか細く流れていたが、周辺のノイズを除去して増幅すると――最近『マクロス・フロンィア』船団だけでなく、銀河を繋いだ『ギャラクシー・ネットワーク』でもよく聞く歌声となった。
「……コレって、私の歌…」
「……ランカちゃん…」
表情が強張るランカをその横に居るシェリルが気遣わしげに見やる……この集まりは、宇宙怪獣の本拠地と彼らが来襲する原因に付いて説明をする会だと聞いた。台座の上に乗る翡翠から語られた事――宇宙怪獣の本拠地はこの宇宙とは違う宇宙にあり、そこにはこれまで以上の巨大さを持つ宇宙怪獣の大軍団が存在しており、そこでは何故か宇宙怪獣達がランカやシェリルの思い出の唄であるアイモを奏でていた――そしてそのアイモの元となったのが、自分の唄であると。ランカは気が遠くなり思わず倒れそうになった所をシェリルとアルトに支えられる……そんなランカの状態に確実に気付いているであろう翡翠は、そんな彼女の状態を一切考慮することなく説明を続けた。
「この世界とは別の宇宙のじょうぎ座銀河団の中心にある超巨大銀河『TGD』で害獣どもが奏でる闇の鎮魂歌に圧されながらも、か細いが確かに流れるランカねぇちゃんの歌声……」
自分達もまたランカの発した『フォールド・ウェーブ』を辿って『マクロス・フロンティア』船団へと辿り着いた……ランカ・リーの歌声はフォールド波に乗って宇宙を伝播して銀河中に広がっていた――その歌声の乗ったフォールド波は通常空間に隣接する超空間を伝って銀河系中心部にも広がり、何の変哲もない恒星間空間に開いた別の宇宙への結節点へと到達して、別の宇宙を繋ぐ次元回廊すらも伝播したのだろう。
「――ここからは推測なるが、別の宇宙への結節点を伝播して『TGD』へと到達した事によって、あの害獣どもはあの別の宇宙への結節点の向こうに知的生命体の文明が存在する事を認識したのだろう――」
「――待って翡翠!」
ノノは翡翠の言葉を制止するが、それに構わず――それどころか透き通るような笑みを浮かべたまま――決定的な事実を突き付けた。
「――つまり、あの害獣どもはランカねぇちゃんの歌を辿って、この宇宙に来たんだろうさ」
その言葉を聞いた時、ランカの全身から力が抜けて膝から崩れ落ちるように座り込む……あの大きくて恐ろしい数で襲ってきた宇宙怪獣を呼び込んだのが、自分が歌った歌だったなんて……巨大な宇宙怪獣の攻撃によって船体の中央部分が爆散しながら二つに折れるバジュラの船や、兵隊型宇宙怪獣に取り付かれて触脚によって破壊されるバルキリー……あの人達が犠牲になったのは自分の歌が宇宙怪獣を呼び込んだ所為だったなんて……全身が震えてランカは己が身体を抱きしめる。
そんなランカにシェリルやアルトが寄り添う姿を見つめながら、台座の上に居る翡翠は透き通るような笑みを浮かべたまま重圧に震えるランカへと優しく語り掛ける。
「……大丈夫だよランカねぇちゃん。害獣どもを呼び寄せない方法なら在るから――」
翡翠の言葉に顔を上げるランカ……そんなランカに向けて右手を差し出す翡翠――ランカを含めて、この場居る誰もが気付いていなかった――翡翠の服装が何時もとは違う白いボディスーツの所々に蒼い結晶を付けた服装のままこの場に現れた意味を――彼女と一番付き合いが長いノノすらも彼女の瞳が深紅に染まっていない事から気付くかなかったが――彼女の服装が白いボディスーツの――戦闘態勢のままこの場に現れた事を。
「……翡翠?」
「……簡単な事だよ――ランカねぇちゃんが“死ねば”いいのさ」
翡翠の右手から人差し指が伸びて、その指先に光が灯る。
「――翡翠!?」
指先にエネルギーが集まるのを見たノノが制止するが、翡翠は構わず指先に凝縮されたエネルギーを撃ち出した――紅い光を纏ったエネルギー波は一直線に呆然とするランカを目指して進み――ランカを庇うように射線上に強引に割り込んだノノの張るシールドと激突して、その運動エネルギーを相殺出来ずに吹き飛ばされたノノは、丁度後ろに居たミシェルとルカに抱き抱えられるようにして止まる。
「――お前、何を!?」
「――貴様!?」
ランカを狙った事に激高したアルトとオズマが拳銃を抜いて翡翠へと照準を定める……狙われた当のランカは事態について行けずに呆然とした表情を浮かべていたが、次第に状況を理解したランカの顔が信じられないとばかりに目を見開く。
……翡翠との出会いは隣に引っ越して来た日に挨拶に来たのが最初だった……同年代か少し年上に見えるノノと共にやって来た、あまり似ていない姉妹の妹の方……それが第一印象だった。
ご近所さんとしての付き合いが始まり、初めて出来た年下の知人にランカはお姉さんとして彼女を可愛がろうと思って何かと世話を焼くようになった……年の離れた義理の兄であるオズマとの二人暮らしをしていたランカにとって翡翠は初めて出来た妹分であり、妙に冷めた所を持ちながらもノリが良く、それが庇護欲を刺激して事あるごとに構い倒していたら鬱陶しがって邪険にする所が背伸びをしているようで可愛く、余計に構い倒すというエンドレスな関係になっていた――そんな彼女が、それなりに親交が深まったと思っていた翡翠に殺意を向けられるなんて、目の前で起きた事が信じられずに呆然としている間にも事態は進行していく。
「……貴様! どうゆうつもりだ!?」
「――お前! 何故ランカを撃った!?」
構えた拳銃で舞台上の翡翠に狙いを定めながらオズマとアルトは翡翠の本心を問い正す……なまじローティーンの少女の姿をしている即座に発砲は躊躇われるが――さりとてこれまでにも埒外の能力を示した翡翠故に照準を外すでもなく、彼女の真意を問い掛けるオズマとアルト……エネルギー弾の圧力に吹き飛ばされたがミシェルとルカのお陰で格納庫の床に叩き付けられる事は回避したノノが、舞台上でなお右指を突き出したままの翡翠に顔を向ける。
「――翡翠! なんで、こんな事を!?」
そう問い掛けるノノの表情は悲痛にまみれていた……信じたくはなかったが、翡翠がランカを狙ったのは事実――騒乱から事態を飲み込んだ『S・M・S』隊員達がそれぞれ武器を構えて翡翠へと向ける中、当の翡翠は こてん と首を傾げながら、別の宇宙に居る害獣どもをランカの歌が呼び込むのなら、その“元を”断つのが一番手っ取り早いと答える。
「……ランカねぇちゃんが死んで生命活動を停止すれば、体内に居る『フォールド細菌』も死滅するか、新たな宿主を探してフォールドするだろうから、害獣どもを呼び込むフォールド波は確実に止まる」
その後にランカを蘇生させれば害獣どもの脅威は完全に消滅すると語る翡翠の表情を見たノノは、翡翠が本当にそう思っている事を感じて絶望した表情を浮かべる……これまでにも兆候はあった、アルト達には秘しているがノノも翡翠もこの世界の存在ではない。
――そして翡翠とノノの属する世界も違う、彼女 翡翠は実験艦―02に乗って新型亜空間跳躍実験を行っていた地球とはまったく無縁な異星人なのだ……いくら同じような姿をしていても、彼女の価値観は地球人とは違う別の世界の人間なのだ。
「……翡翠。人間は死んだら終わりだよ」
「心配は無用だよ。私達のテクノロジィを使用すれば、死んで活動を停止した細胞だって修復出来るから」
医療区画においてオズマやシェリルを治療した時にも使用された細胞活性溶液の効力は壊死した細胞にすら効果があり、クローン技術と事前に登録したニューロンネットワークの複写技術を併用すれば、48時間以内に生命活動を停止した生命体すら蘇生してみせると的外れな事を言う翡翠……そんな翡翠を見ながらノノは悲しそうな表情を浮かべる……違うよ、違うよ翡翠、あなたはそんな事も分からないの、と。
「……違うよ翡翠。そうじゃないよ……分からないの、死ぬって事はとても痛くて怖い事なんだよ――たとえ後から蘇生出来たって、受けた心の傷は消えないんだよ?」
ノノは真摯に語り掛けるが翡翠は小首を傾げるだけでノノの言葉は全く響いていない事が分かる……借りとは言え姉妹を名乗った翡翠との距離の遠さにノノの表情は一層悲壮感を増す……そんなノノの肩に大きな手が置かれる。
「……もう良いノノ君――翡翠嬢、外部協力者を害そうとした君を拘束する」
ノノの肩に手を置いて彼女を止めたオズマは、手を離すと再び拳銃を翡翠へと向けて狙いを定める――それはアルトを始め他の『S・M・S』の隊員達も同様でその場に居る是認が携帯武器を抜いて台座の上に居る翡翠へと向ける――その場にいる者の全てが敵に回った四面楚歌の状況下でも翡翠は余裕な態度を崩さなかった。
オズマとアルトの他に数名の『S・M・S』隊員が台座の上に登って翡翠を拘束しようとした時、彼女の傍に光が灯り、それが収まった時にその場には一人の成人女性の姿があった。
170センチ以上の長身と長い藍色の髪を持つ眼鏡を掛けた理知的な雰囲気を持つ女性……その姿をオズマを始め『S・M・S』の主要隊員達は面識があったり、資料を通して良く知っていた――『マクロス・ギャラクシー』船団から来艦したシェリルのマネージャー業務を隠れ蓑に裏で色々と暗躍して、最終的には『フロンティア』船団を制圧しようとして『フロンティア』行政府の大統領首席補佐官であるレオン・三島の逆襲にあって拘束されている筈のグレイス・オコナーであった。
「――お前は、グレイス・オコナー!?」
突然の乱入者に驚きの声を上げるオズマを尻目にグレイスは台座の上を歩いて、途中で驚きに目を見張るシェリルを一瞥した後にシニカルな笑みを浮かべている翡翠の傍まで来た。
「……ずいぶんと遊んでいるようだけど、そろそろ潮時じゃない?」
「……そうだな、ここまでだな」
気安い口調で話しかけて来るグレイスに翡翠はそう答える。
「――このまま逃がすと思うのかよ!」
突然のグレイスの乱入に驚いていたアルトだったが、再び拳銃を構えて翡翠に狙いを定める――彼女は知人であり、時折利用していた中華料理店で顔を合わせてはミシェルと組んで碌な事をしない こましゃくれたガキンチョと言う印象であったが、シェリルが収監されていた『アルカトラス刑務所』からの脱出の折に『フロンティア』の特殊部隊に包囲されて『アイランド1』の外壁を破壊して宇宙空間へと投げ出された時に見た生身で宇宙空間を活動する翡翠の姿を見ているアルトは、翡翠を油断ならない相手と認識していた。
「……別に撃っても良いよ――効かないけどね」
にたり――口角を釣り上げて邪悪な笑みを浮かべた翡翠はそうアルトを挑発するが、さすがにローティーンの少女を撃つのは躊躇いがあるのか引き金を引く事はなかった……そんなアルトの葛藤を見ていた翡翠は へたれ、と一瞬呆れたような表情を浮かべるがグレイスと共に光に包まれる。
「――翡翠!」
「――ノノねぇ、続きは宇宙でね」
にこりと透き通るような笑みでノノに声を掛けた後に、翡翠とグレイスは転送ビームに包まれて『マクロス・クォーター』の格納庫から姿を消した。
実験艦―02 転送ルーム
『マクロス・クォーター』の格納庫より転送収容された翡翠とグレイスは、02の転送ルーム内に実体化した後、二、三言葉を交わした後に転送ルームを出た翡翠は水晶のような素材で出来た通路を歩いていると、通路の先に人影がある事に気付く……自分と新しい協力者となったグレイス・オコナーの他にはもう一人しかいないので自ずと誰が居るのか分かるというものだ。
「やあ、ブレラ・スターン。用意した機体の調子はどうだい?」
にこやかに語り掛けるがブレラはそれに答える事無く翡翠の傍まで歩いて来ると、拳を振り上げて翡翠の頬を思いっきり殴り飛ばし――衝撃で吹き飛ばされる翡翠。
「……これでランカを悲しませた事はチャラにしてやる」
そう言って立ち去るブレラ……ほとんど変化の無い頬を摩りながら立ち去るブレラの姿を見やる翡翠。オズマと言いブレラと言い、ランカの兄たちはブラコンをこじらせているようだ……将来大変だろうな、と他人事故に気楽に考える。
――さあ、種は巻いて来た。後はそれを育てる環境を整えてやるだけだ……なに、ちょっと昔に戻れば良いだけの話だ。
強大な宇宙怪獣の大軍団を退けて一時の平和を得ていたバジュラ達の星系に新たな緊張が生まれていた――異星からの来訪者である実験艦―02の主である謎多き少女 翡翠による外部協力者であるランカ・リー殺人未遂事件を受けて、『マクロス・クォーター』は臨戦態勢に移行していた……ランカの歌に誘われて、いつの間にか『マクロス・フロンティア』船団に潜んでいた彼女は、超時空生命体バジュラをめぐる『フロンティア』船団と『マクロス・ギャラクシー』船団の争いの裏で暗躍していた。
バジュラの猛攻に疲弊していく『フロンティア』船団を尻目に彼女は争いには不干渉を貫いていたが、突如襲い掛かって来た未知の生命体 宇宙怪獣の来襲を受けて、宇宙怪獣を脅威と感じた彼女の直接干渉によって『マクロス・クォーター』達は辛うじて億を超える規模の宇宙怪獣軍団を退ける事が出来た……だが、その彼女が敵対行為を行った後に光に包まれて姿を消したという報告を受けて、『マクロス・クォーター』より続々と艦載機が発艦していった。
『マクロス・クォーター』ブリッジ
「――スカル小隊の全機が発艦完了。続いてパープルトン小隊リフトアップ、発艦態勢に入ります」
「――『バスターマシン7号』より連絡、先行するとの事です」
可変攻撃宇宙空母『マクロス・クォーター』のブリッジでは、緊張した雰囲気の中で航空機管制を担当するキャサリン・グラス中尉の采配によって『クォーター』の艦載機達は効率良く発艦していく……先ほど通信を担当するラム軍曹が『クォーター』より出撃した『バスターマシン7号』ことノノより連絡が入った事を報告して来る……仮にも姉妹を名乗った翡翠の変貌に激しいショックを受けていたようだが、気丈にも彼女を止めるべく『マクロス・クォーター』と両翼に展開する『S・M・S』と新統合軍の連合艦隊の正面に先行して――目の前に展開する “改型ゼントラーディ自動制御艦隊”を従えた実験艦―02と対峙していた。
どうも、しがない小説書きのSOULです。
嗚呼っ、ウチのオリキャラはなんでこんなに悪役が似合うんだろうか。
翡翠の設定上、本来は敵キャラとしての立ち位置が正しいですよね、ヤマトに寄り添っていたのが例外中の例外……破滅の獣との戦いを経験していない彼女は、大きな挫折を経験していない事もあって唯我独尊な所があるのですよね。
これで、またストックが無くなったので暫く時間を頂きます。ではでは~。