マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス 作:soul
未知の存在である宇宙怪獣の本拠地が判明したと『マクロス・クォーター』の格納庫に集められたクルー達に向け説明されたのは、彼らがこの宇宙とは別の宇宙にある直径800万光年もある巨大銀河を本拠地としており、そんな巨大な銀河内にはこれまで以上の無数の宇宙怪獣が巣くっていると判明した。
そして翡翠により明かされた驚愕の事実――『フォールド・ウェーブ』に乗って宇宙に伝播したランカ・リーの歌が別の宇宙への結節点を通って宇宙怪獣達の本拠地に届き、宇宙怪獣達はそれを辿ってこの宇宙へと侵攻して来たという。
――それを聞いた時、ランカは膝から崩れ落ちた……自分の歌が、しかも幼い頃の唯一の記憶であるアイモが、あの恐ろしい宇宙怪獣をこの世界に呼び寄せてしまうなんて。
恐ろしい事実を知って身体を震わせるランカに向けて透き通るような笑みを浮かべた翡翠は、優しく告げる――死ねばいいんだよ、と――ここに来て地球人と異星人である翡翠との価値観の相違が浮き彫りとなり――遂に決定的な
民間人であり外部協力者であるランカ・リーを殺害しようとしたとして実験艦―02という所属不明の航宙艦の主である翡翠・エムを拘束しようとしたが、彼女は光に包まれて『マクロス・クォーター』から逃げおおせたと言う――そして今、可変攻撃宇宙空母『マクロス・クォーター』と『S・M・S』と新統合軍の連合艦隊の前に、翡翠・エムが乗っているであろう実験艦―02がその姿を現した――両翼に宇宙怪獣群を撃退するのに大きく貢献した改修型のゼントラーディ艦隊を従えて。
対する『マクロス・クォーター』を含んでも連合艦隊の数は百隻前後――100倍の戦力を前に『MDE弾頭』を再搭載した各バルキリー隊が緊急発艦していく……相手は億を超える宇宙怪獣を相手に強大な戦闘力を発揮した改型ゼントラーディ自動制御艦隊――だがこちらにはその改型ゼントラーディ自動制御艦隊の上位存在として艦隊を旗下に置いたバスターマシン7号が居る
だが宇宙怪獣との戦いに置いて
『マクロス・クォーター』ブリッジ
「……宇宙怪獣との戦いでは頼もしいと思えた
戦闘態勢を整えた『クォーター』の舵を握った操舵士のボビーは目の前に広がる深緑の船体を持つ大軍団を見つめながら呟く……億をも超える強大な宇宙怪獣との戦闘の中で突如姿を現した、巨人兵士ゼントラーディ軍で運用されている戦闘艦に改修を加えた改型ゼントラーディ自動制御艦隊。バスターマシン7号ことノノをサポートする為に姿を現した自動制御の新たな艦隊は、動力を縮退炉と呼ばれる未知の機関に変更したばかりか内蔵された火砲もこれまでのモノとは一線を画した威力を見せて、宇宙怪獣軍団との戦いで大きな助けとなった。
「……あの子は一体何を考えているのかしら…」
同じく前方に展開する改型ゼントラーディ自動制御艦隊を従えた実験艦―02を見ながらキャサリン・グラス中尉は独りごちる……思い返せば翡翠と名乗るあの少女の登場は唐突だった。『フロンティア』船団から離脱した後に遭遇した千を越える宇宙怪獣の分艦隊相手に劣勢に陥っている時に突如として姿を現したバスターマシン7号ことノノと一緒に援軍として姿を現したのが最初だった。
その後も翡翠という少女は宇宙怪獣を脅威として協力体制を結んで共にバジュラの母星に侵攻した『マクロス・フロンティア』船団を止める作戦を行ったが、それまで『フロンティア』船団の陰に潜んでいた彼女達が宇宙怪獣との遭遇を機に表舞台へと出て来た。
それまで『フロンティア』船団の行く末には殆ど不干渉だった彼女達が積極的に干渉して来た……協力体制を結んだ彼女達は実に協力的で、二面作戦を強いられた『クォーター』に変わって翡翠の乗る実験艦―02単艦で『フロンティア』船団の暴挙を止める作戦を行い――見事『フロンティア』軍の暴挙を止めてくれた。
しかし、宇宙怪獣が撤退した後に査問会が行われる事となり、その際に『フロンティア』上層部に同行していた新統合軍時代の旧友と再会して翡翠が行った作戦の詳細を聞いたキャシーは頭が痛くなった……『フロンティア』船団に潜伏している間に、船団を守る新統合軍の艦艇に密かにケミカル物質なるアブナイ物を仕掛けていたと言うのだ……軍艦故にセキュリティは最高度な物が使用されており、その最高度な監視の目を掻い潜って物騒な代物を仕掛けていたなんて――もし仕掛けられていたのが毒物だったら『フロンティア』に駐留している新統合軍は戦わずして全滅していただろう。
そんな、色々とやらかしてくれたが一線は越えなかった彼女が、格納庫での舞台においてランカに殺意を向けた……あれだけ慎重だった彼女が、あの場では直接的な手段を用いて殺人未遂事件を起こした……これまでの彼女の行動パターンから考えられないような迂闊な行動に思える……なにか意味があるのだろうか?
『マクロス・クォーター』の格納庫内において宇宙怪獣達を呼び寄せる原因であるとして友人であるランカに向けて殺意を向けた翡翠を追って宇宙空間へと飛び出したバスターマシン7号ことノノは、目の前に展開する改型ゼントラーディ自動制御艦隊を従えた実験艦―02を前に赤いラインの入った白いボディスーツに深紅の髪を靡かせて、目の前に浮かぶ02を悲哀に充ちた目で見ながら白いマフラーにそっと手を添えていた。
彼女――翡翠との付き合いはそれほど長い訳ではない。
変動重力源との死闘の後に眠りに付いていたノノが目覚めた時、そこは実験艦―02と呼ばれる船の艦内だった……目が覚めた彼女が最初に見たのは、栗色をミディアムボブウルフに整えた翠色の瞳に怒りの炎を燃やした翡翠の姿だった。
翡翠の話によると新型亜空間跳躍実験の終盤に異なる時空より迷い込んで来た自分と衝突した事によって船の機能に深刻な障害が起きて、未知の宇宙へと迷い込んだというのだ……その後、損傷した船の修理の傍ら超空間を伝播して伝わって来るフォールド・ウェーブに導かれてたどり着いたのが超長距離移民船団『マクロス・フロンティア』であった。
銀河中心宙域を居住可能な星を求めて大航海を続ける移民船団の中で束の間の休息と洒落込んでいた翡翠とノノだったが、周囲に漂う不穏な空気を感知して彼女達はそれに備えていたが、事態は思わぬ方向に向かう――本来この世界には存在しない筈の全ての知的生命体の天敵である破滅の象徴 宇宙怪獣の大軍団が襲来したのだ。
億を超える規模の宇宙怪獣と死力を尽くして戦う『マクロス・クォーター』と『S・M・S』と新統合軍の連合艦隊……宇宙怪獣との戦いの推移を観察していた翡翠は、ノノより提供されたこれまでの宇宙怪獣との戦闘データーとの差異を感じ――億を超える敵と戦うバスターマシン7号ことノノの助けとして
――だがその
……そんな翡翠の行動に違和感を覚えたのは何時だっただろうか、『フロンティア』船団にたどり着いてフォールド・ウェーブの発生源であるランカを観察した時に彼女の周囲に見え隠れする総合機械メーカー『L・A・I』の影に気付き、それに対抗する手段を用意する過程で翡翠は独自の動きを見せ始め、戦艦タイプに率いられたバジュラの集団による『フロンティア』船団襲撃を時には戦闘への不干渉を宣言していた。
翡翠と自分との倫理観には確かに差があった――だが、それでも最終的には彼女は此方に歩み寄ってくれたと思っていたのに……結局分かり合えなかった事が悔しくて、悲しくて、やるせない思いを抱えながら前方に展開する実験艦―02を中心とする艦隊を見ていると、02より広域通信波が流れてきた。
……翡翠。
『マクロス・クォーター』を筆頭に『クォーター』級可変攻撃宇宙空母を中心とした『S・M・S』増援部隊と新統合軍による連合艦隊の前には、未知の勢力の船である実験艦―02と宇宙怪獣軍団との戦いにおいて大きな力となった
未知のテクノロジィで強化されたゼントラーディの戦闘艦艇の驚くべき戦闘能力は対宇宙怪獣との戦いで嫌と言うほど見た――そんな強大な戦闘能力を持つ改修型ゼントラーディ艦隊を相手に迂闊に仕掛ける訳にもいかず、戦力を展開しつつ相手の出方によって臨機応変に対処する消極的な行動しか出来なかった。
連合艦隊の総数は100隻前後であり、100倍もの戦闘艦艇を保有する改修型ゼントラーディ艦隊に無策で挑むのは無謀であり、対峙する両軍の間には一触即発ながら未だ戦端は開かれてなかった……そんな緊張感の中、突然 連合艦隊の艦艇の通信設備が強力な広域通信を受信して勝手にホロ・スクリーンが起動する……この状況には覚えがあった――改修型ゼントラーディ艦隊が出現した後に連合艦隊の艦艇の通信設備をジャックした“あの”少女が起こした現象だった。
立ち上がったホロ・スクリーンの中に光が灯り、それは水晶の様な素材で作られた部屋の中央に同じような素材で作られたシートに座った、栗色の髪をウルフカットに整えた翠色の瞳を持つ一見少女の姿をした異星からの来訪者 翡翠だった……不敵な笑みを浮かべた翡翠は笑みを浮かべたままシートから立ち上がった。
『勇敢なりし『マクロス』の名を受け継ぎし者達よ、まずは宇宙怪獣どもに抗った気概は見事と言っておこう――だが、まだ足りない』
そこで言葉を止めた翡翠は にたり、と笑みを浮かべた。
『害獣どもの本拠地である巨大銀河には銀河中を埋め尽くすほど大量の害獣ども存在しており、魔窟と言っても良いだろう――そんな途方もない数の害獣どもを相手に、小数すら切り捨てられない君達が勝てると本気で思っているのかね?』
「……勝手なことを」
こてん、と首を傾げて問い掛けという形を取ってはいるが毒を吐く翡翠。そんな彼女の物言いに『S・M・S』や新統合軍艦艇のクルーの表情が険しくなるが翡翠は構わず話し続ける。
『……だが人間は逆境を撥ね退ける力がある……私はそれを『ヤマト』で知った……だが今現在の君達にその力が有るとは思えない――』
――だから私が障害になろう。
かつてありえない事故により記憶を失った翡翠は、事故を起こした相手 宇宙戦艦『ヤマト』に保護された。古代アケーリアスにより設置された亜空間ネットワーク内で起きた衝突事故により量子的に不安定となった『ヤマト』は自分たちの世界から放り出されて、異なる世界へと流れ着いた。
元の世界へと帰還する為に未知の世界を帰還する術を求めて航海していく内に彼らは異なる世界において恐怖の代名詞となっている恐るべき種族『ボーグ集合体』と遭遇して危機的状況へと陥った。
『ボーグ集合体』が運用する巨大な航宙艦『ボーグ・キューブ』の前に敗北寸前にまで陥った『ヤマト』を救ったのは、異なる世界において一大勢力を築いた『惑星連邦』と、大切な人を取り戻すために たった二隻の船で巨大な『ボーグ』に立ち向かっていた『ナデシコ』であった。
運命に抗いながら元の世界へと帰還する術を探して航海する『ヤマト』の中で記憶を取り戻した翡翠は、強大な力を持つ『ボーグ』を相手にしている『ヤマト』や『惑星連邦』そして『ナデシコ』の戦力では『ボーグ』に勝てないと判断していた――だが、彼らは抗った――強大な敵に対して必死に抵抗し――か細い勝利への道を手繰り寄せて、翡翠の予測を覆した――その結果に翡翠は驚きを浮かべた。戦力的に絶望的な差があったのに、彼らは知恵を絞って力を合わせて勝利を掴み取ったのだ。
この世界の人間も小数ながらも力を合わせて能力以上の力を発揮した者も居る、『クォーター』の面々やランカやシェリルなど――この世界にも輝きを見せた者達が居る――だからこそ。
『――私が壁となり、障害となり、君達の前に立ち塞がろう』
困難に直面した時、人は団結して能力以上の力を発揮する――ならば自分が障害となって立ち塞がり、彼らに試練を与えよう。そうすれば彼らは団結して立ち向かい――かつて『ヤマト』のクルー達が見せた輝きを、翡翠を魅了したあの輝きを見せてくれるかもしれない。
『――抗って、輝きを見せてよ』
熱に浮かされた恍惚としたような表情を浮かべた翡翠……彼女の浮かべた表情を見た『S・M・S』と新統合軍のクルーは、幼い少女の姿をした翡翠が頬を染めながら夢見るような表情を浮かべて、それはまるで初恋を浮かされるように見えたが――その翠眼に浮かぶ どろっとした鈍い光を見て背筋に冷たいモノが走る。
多種多様な作戦に従事してきた『S・M・S』のクルーや、新統合軍の中でも特殊な作戦に従事した者は、彼女が浮かべる鈍い光に覚えが有った――あれは狂信者の眼に宿る光だ。
「……あんな年で、なんて眼をしてやがる…」
ホロ・スクリーンに映る映像を見ていたブリッジ・クルーの誰かが呟く……それほどまでに少女 翡翠の瞳に浮かぶ おぞましい輝きに嫌悪感を露にしていた――そんな誰もが嫌悪感を浮かべたブリッジに新たな通信が入る――それは先行して艦隊の最前線に立つ異文明の決戦兵器バスターマシン7号ことノノからの通信だった。
『……翡翠。貴方本気なの、本気でそんな事を考えているの――』
『ん? 当然じゃないか、ノノねぇの戦闘データーにもあった『銀河中心殴り込み艦隊』の戦いもそうだったでしょう』
『銀河中心殴り込み艦隊』――第五世代型恒星間航行超大型戦艦『エルトリウム」を旗艦とした大小一万の戦闘艦で構成されるノノ達の地球の総力を挙げた大艦隊……絶望的なまでの物量を持つ宇宙怪獣の前にノノ達の地球は全てを注ぎ込んだ反抗作戦『カルデネアス計画』を発動し、一万隻のエルトリウム艦隊は宇宙怪獣の本拠地である銀河系中心宙域へと侵攻し、数十億もの宇宙怪獣との壮絶な戦いの末に銀河系中心宙域にある宇宙怪獣の巣ごと銀河中心部を破壊してノノの地球は宇宙怪獣の脅威から生き残る事が出来たのだ。
『――ノノねぇのメモリーにある『銀河中心殴り込み艦隊』は死に物狂いで戦い、数十億の害獣どもを打ち倒して未来を勝ち取った――それは存続を遺伝子に刻まれた命の――』
『――あの人達の戦いを、そんな安い言葉で語らないで!』
したり顔で語る翡翠を叫ぶようにして止めるノノ――『銀河中心殴り込み艦隊』は未来を掴む為に群雲の如く襲い来る巨大な宇宙怪獣の大軍団を相手に主力を尽くして戦い、6割近い損害を出しながらも銀河系中心にある宇宙怪獣の巣の殲滅に成功した――だが、戦いはそれで終わりではなかった。
『カルデネアス計画』にて宇宙怪獣の巣を殲滅した後も、地球は宇宙怪獣の残党とも呼ぶべき脅威の襲来をたびたび受けた……いつ終わるともない戦いの日々に疲れ果てたノノの地球は、無人バスターマシンによる太陽系絶対防衛戦を構築した後に司令塔として第六世代型恒星間航行決戦兵器バスターマシン7号を置いて人々は太陽系に引きこもったのだ。
『――翡翠! 貴方が壁として立ち塞がると言うのなら、私はその壁を打ち砕く――なぜならば、ノノ・リリやお姉さまなら必ずそうするから!』
そう宣言するノノに向けて翡翠は心底楽しそうに嗤う。
『あはっ! 言うねぇ、さすがはノノねぇだ……だけど、この戦力差はどうする?』
翡翠の乗る実験艦―02の両翼は改型ゼントラーディ自動制御艦隊が待機しており、いくら第六世代型の超技術で生み出されたバスターマシン7号と『クォーター』を始めとする連合艦隊百隻程度の戦力では改型ゼントラーディ自動制御艦隊が見せた圧倒的な力の前にいかに立ち向かう気なのかと問い掛ける……そんな翡翠に向けてノノは凄みの在る笑みを浮かべた。
『……甘いよ翡翠、私が今まで何もしなかったと思うの?』
凄みの在る笑みを浮かべたままノノは頭頂部に生えているアホ毛――アドミラル・ホーンを振ると、その動きに呼応したかのように実験艦―02の両翼に展開していた改型ゼントラーディ自動制御艦隊が02の制御を離れて前進を開始して、ノノの傍まで来ると彼女の両翼を固める
『……これで戦力は逆転したよ、翡翠』
どうも、しがない小説書きのSOULです。
この「マクロス」の世界に流れ着いてからも共に行動していた翡翠とノノでしたが、彼女達は本当の意味では仲間ではありませんでした。未知の存在同士が言葉を持って探り合い(時に肉体言語で)、まかりなりにも姉妹として行動していました……裏で備えをしながら……。
では次回 第52話 IMPERIAL・GHOST ――帝国の亡霊 続けて投稿します。