マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス 作:soul
アンコクノプリンセス編
『S・M・S』と『バトル・フロンティア』を中心とした新統合軍艦艇によって構成された連合艦隊は、銀河系中心宙域を航行して決戦の地を目指す――恒星間空間に開いた別の宇宙への回廊 次元の結節点へと。
大小さまざまな艦艇が轡を並べて進撃する中で、各移民船団や植民星に駐留する『S・M・S』の各支部より集結している可変攻撃宇宙空母部隊の一隻である第55次超長距離移民船団『マクロス・フロンティア』駐留の『S・M・S』部隊の旗艦である攻撃空母『マクロス・クォーター』の左舷飛行甲板の上には小さな人影な存在していた……その人物は真空の宇宙に長く紅い髪を靡かせて、無重力下であっても赤いラインの入った白いボディ・スーツに包まれた肢体は甲板上に立ち――バイザー越しに翠色の瞳は真っ直ぐに連合艦隊の進む銀河系中心宙域を見据えていた……地球の存在する銀河系辺境とは異なり数倍の密度を持つ星の光に充ちており、人間よりも遥かに広い波長の光を見る事の出来る彼女の翠瞳には銀河を支配する大質量ブラックホール『いて座A*』と、その超重力に捕らわれた大小さまざまな星やブラックホールの放つ強力なX線により、例えるならば夏場の夜空を彩る無数の花火のような光景が広がっている。
X線のみならず様々な波長の電波や星の光に照らし出された彼女――第六世代型恒星間航行決戦兵器バスターマシン7号ことノノは、『クォーター』の甲板上でただ一人“待って”いた。
『クォーター』の艦内で出会った謎の女性が語った翡翠の目的が自分だと言う事……宇宙怪獣達の本拠地が判明して、その説明をしている最中にランカに対して翡翠が本性を現した結果――彼女は『クォーター』と、ひいてはこの世界の人類と敵対関係となり――その際に見せた高い戦意が、翡翠が必ずこの艦隊の前に――自分の前に立ち塞がる事を確信させていた。
『……翡翠は、何故私との戦いを望んでいるの?』
何時の間にかノノの背後には、紫色の髪を靡かせた妙齢の女性が白衣を靡かせながら飛行甲板の上に立っていた……アンドロイドのノノと同じく、強烈な放射線が渦巻く銀河系中心宙域を航行する『クォーター』の船外で宇宙服を纏わず一見生身に見えるその姿に、ノノは翡翠と初めて出会った頃に感じた驚きを思い出しながら振り返り、翡翠と出会って――この世界に来てまだ二年弱しか経っていなかったと感慨深く感じていた。
『……驚かないのだな』
『……
白衣を靡かせる女性にノノは肩を竦めながら思念波にて返答し、そして今度は彼女の方から女性に問い掛ける。
『……真空の宇宙での活動を可能にする、それってたしか『
ノノの問いかけに白衣を纏った女性は にたりと唇を半月に開いて嗤う――最初に翡翠と出会った時、戦闘によって破壊された中型ボトルザー級要塞の格納庫内で隔壁によって減衰していたとはいえ致死量の放射線の渦巻く真空の中でも平然としていた翡翠の姿を思い出す……貴方もアンドロイドなの? という軽いジョークに対して関節技で答えた翡翠の腕をタップしながら聞いた話では、彼女の生来の皮膚の上に透明な素材で作られた『
『……仲間と言うか、あの小娘に色々と教えてやっている先生の様なモノだよ』
翡翠がこの場に居れば、どの口が言うかこのマッドが! と噛み付いただろうが、それは今のノノ達には分からない……だが、彼女が自分達よりも長い期間 翡翠との付き合いが有るのだろう……ならば、ずっと気になっていた事を聞いてみようとノノは思った。
『……翡翠はなんであんなにアンバランスなの? ノノと最初に出会った頃には、ちょっと変だけど子供らしい一面も見せていた――けれど宇宙怪獣との戦いが始まってから、翡翠は怪獣に対して強烈な敵愾心を見せた……』
危険極まりない放射能が渦巻く真空の宇宙空間の中でも飄々とした姿勢を崩さなかった白衣の女性は、ノノの問い掛けに少し思案する姿を見せると、懐から何か柄の長いモノを取り出すと口にくわえて ふぅ~と宇宙空間に細長い煙の跡が流れた。
『マクロス・クォーター』ブリッジ
今『マクロス・クォーター』の左舷飛行甲板の上にはバスターマシンとしての正装である赤いラインの入った白いボディ・スーツ姿のノノと、宇宙空間に白衣姿で泰然と佇む紫の長い髪を靡かせる謎の女性……甲板を監視するライブカメラを見るまでもなくブリッジから見下ろす飛行甲板上で相対する二つの人影。
「……アレが、お前達が出会ったという謎の人物か……」
ブリッジから見下ろしながらオズマは同じく見下ろしているランカに問い掛け、ランカは飛行甲板で対峙する二人から視線を外さず頷く事で返答する。
ノノと白衣を着た人物が対峙する飛行甲板の下にある格納庫では不測の事態に備えて武装した『S・M・S』隊員達が飛行甲板上を映すモニターを見ながら事態の推移を伺っていた……ノノの発案で彼女が一人になる時間を作って謎の人物をおびき出すと言う作戦が提案されたが、話を聞いたジェフリー艦長やオズマは本当に相手が出て来る確証もなく運任せな作戦など認める訳には行かないと反対の立場を示したが、あの白衣を着た女性は翡翠の縁者かもしれないし、彼女から翡翠の情報が聞けるかもしれない貴重な機会だと力説するノノ……前々から思っていたがどうやらノノは中々頑固な性格をしているようだ
『虎穴に入らずんば虎子を得ず――ノノ・リリも言っていました! 人生“努力”と“根性”だって』
「……前々から思っていたが、ノノちゃんって意外と熱血漢だよな」
「……考えなしの間違いじゃないか?」
飛行甲板上を写すモニターを見ながら不測の事態に備えてEX ―ギアにアサルトライフルを装備したミハエルがボヤいていると、同じような装備を持つアルトがそう突っ込む……そんなアルトを見ながらミハエルは数々の戦いを経験して漢の顔を見せるようになった友人に「……お前も似たようなモンじゃないか」と呆れたような笑みを浮かべる……耳が痛いセリフに「うるせぇ」とアルトが返していると、モニター越しの二人に動きがあるようだ――アルトを始めとした『S・M・S』隊員達の視線がモニター越しにノノと白衣の人物に向けられる。
『……この世界で宇宙怪獣を確認した当初から、翡翠は宇宙怪獣に対して明確な敵意を見せていた……それは何故?』
『……あの宇宙怪獣とやらの姿が、我ら『
『……“奴ら”って?』
『……それは我らの世界と何ら所縁の無い君達には関係ない事だ』
にべもなく拒絶する白衣の人物。クラシックなデザインの眼鏡の奥で冷たい光を浮かべる翠色の瞳がこの件については答える気が無いと如実に語っていた。
『我らの宇宙において邪悪の極致と呼ばれた『
『……どんな理由があろうとも命を選別するなんて許されない事です!』
クラシカルな眼鏡を怪しく光らせて にたりと半月の様な笑みを浮かべた白衣の人物は、翡翠が何故宇宙怪獣に対してあれほど敵愾心を抱くのかを説明するが……それはまともな神経をしていれば決して理解出来ず、正当化出来ない理由を聞いたノノは非難の声を上げ、二人の思念波を音声化して聞いていた『S・M・S』隊員達も顔を顰めて嫌悪感を露にしている……そんなノノの反応を予想していたのか白衣を纏った人物は肩を竦めてシニカルに嗤う。
『……まぁ、それがまともな反応だな……所詮は“人でなしの外道”と“道を外れたバケモノ”の争いだ、正道を行く君が理解する必要がない事だよ――バスターマシン7号くん』
『……その情報は翡翠から?』
『……いや、そこは蛇の道は蛇というヤツさ』
手に持っている柄の長い棒のようなモノ――太古の昔の地球でも使われていた煙管を口に咥えると真空の宇宙空間に向けて煙を噴出した。
『――この世界とは異なる世界において宇宙怪獣の脅威に晒された人々が願いを込めて生み出した守護の女神――無人兵器群の司令塔としての機能だけでなく自身も強大な戦闘能力を秘めている……銀河間空間すらまともに航行出来ないような脆弱な文明が未来を求めて幾つもの
『……翡翠の狙いは、ノノに搭載されている『
硬い表情でノノは白衣の人物に問い掛けるが、謎の人物はそんなノノの推測を鼻で笑った。
『――ふん、そんなモノ我ら『
『マクロス・クォーター』のブリッジに集まる面々――艦長であるジェフリー・ワイルダー大佐と実働部隊の隊長オズマ・リー少佐、操舵士であるボビーマルコー大尉と新統合軍からの出向という形で参加して何時の間にか馴染んでいる航空管制担当のキャサリン・グラス中尉は、思念波を音声化して流すスピーカーから聞こえてきたノノと白衣を着た謎の人物との会話を聞いて――命を選別すると言うそのあまりにおぞましい行為に言葉を失っていた。
――そして、親交のあるノノが一人で謎の人物と対峙するのを心配したランカは、白衣を着た謎の人物が語った翡翠が口にした『
「――ランカちゃん、大丈夫?」
抱き抱えるシェリルの腕の中で小刻みに震えるランカを見たオズマは「……辛いなら、ブリッジから出た方が良い」と気遣いを見せるも、小刻みに震えているランカは気丈にも最後までこの場に残る事を主張し、腕の中で未だ震えが止まらないランカを気遣ったシェリルが無理をしないように声を掛けると弱弱しいながらも笑みを見せるランカ。
――そして、白衣を着た謎の人物より翡翠の目的が
『……翡翠の目的がノノ自身? それは一体……』
『マクロス・クォーター』の飛行甲板上で白衣を着た謎の人物から翡翠の目的が自分自身であると聞かされたノノは、困惑したまま問い掛ける……戦いとは突き詰めると何かを得る為の手段であり、ひねくれては居るが何処か冷めた所があるあの翡翠が自分との戦いのみを目的にしているとは到底思えずに、目の前で煙管を吹かしている白衣姿の人物に続き促す。
『……異なる世界において宇宙怪獣と言う絶望的な脅威に晒された生命体が、未来が欲しいという切望を胸に持てる技術の全てを込めて生み出した未来への道を守る守護の女神……そこまでは、他の種族でも同じような存在を生み出している――だが決定的に違うのは、君が人と同じように憧れ、なりたい自分への明確なビジョンを持って努力しようという気概を持つという点だ』
『……なりたい自分……憧れ……』
『全身をナノマシンで構成して強力な動力源を持ち、自己進化を求める君は――何百年、何千年――それこそ何万年もの時の果てに、『
『マクロス・クォーター』のブリッジ内では、白衣姿の人物が語ったノノの可能性――ノノ・リリという人物に憧れを抱いて努力する彼女の姿を知る者はこのまま彼女が努力をしていく結果を想像し、ジェフリー艦長や技術部門に所属するルカなど一部の新統合軍の機密に触れえる者達は、20年近く前に起こった『シャロン・アップル事件』の事を思い出す。
当時政治や軍事の中枢であった地球のマクロス・シティにおいて、バーチャロイド・シンガーとしてプログラムされた一機の人工知能によりゼントラーディとの戦争からの復興の象徴であるマクロスの統合軍中枢コンピュータを乗っ取られ、その場に居た人々の全てをマインドコントロール下に置いた――人工知能の暴走事件であり、その影響で当時進行中であった無人戦闘機主力化の凍結という結果に及んだ。
2040年代レベルの人工知能ですら当時最高のセキュリティを誇る軍の中枢機能を掌握するなんて離れ業を行ったのだ――人工知能は、これからどれだけ進化するのか実の所は誰にも分からない……強大な戦闘能力を持つバスターマシンや『
『――あのバカ娘の目的は自らを凌駕する可能性を持つ君と戦い……
銀河系中心宙域にある名もない恒星間空間に開いた別の次元への回廊――次元の結節点の周辺宙域に待機する『実験艦―02』の艦内では、何度目かの宇宙怪獣の先行部隊を撃破したグレイス・オコナーが指揮下にある『Re:MODELERS・シリーズ』のコンディションを確認していた。
「……連戦なのに目立った損傷は無いか……基本性能の高さゆえかしらね」
投影型ウィンドウに表示されている数値を読み解きながら、別の宇宙との結節点である光の回廊から出現する巨大な宇宙怪獣の集団を一匹たりとも逃さぬように念入りに殲滅して来たが、光の回廊から何度も湧き出てくる宇宙怪獣の集団を迎撃し続けた結果――ようやく回廊から湧き出てくる影も途切れて一息つく事が出来るようだ。
「……それにしても そろそろ彼らがやって来るだろうに、この船の
『実験艦―02』のブリッジに一つだけ備え付けられている艦長席に座っているグレイスは、この船の本来の持ち主がちょっと用事があると言って船から離れてからまったく連絡の一つすら寄こさずに戻ってこない状況に呆れたような表情を浮かべる……連合艦隊相手に敵対を宣言したあの少女は、この次元の結節点付近の宙域に陣取って湧き出てくる害獣の対処をしながら彼らが来るのを待つ構えだと思っていたが……一体どこで何をしているのか。
『実験艦―02』に備え付けられている超長距離センサーは既に接近中の連合艦隊を捕捉している。どこで道草を食っているのやら、と嘆息するグレイス……『マクロス・クォーター』でのクリスの行動はこの『実験艦―02』でモニターしていたが、わざわざ見せつけるようにランカ・リーを害そうとしたり、しかも秘していた戦力を衆人環視の中で披露し――望んでこの状況を作り出しているのは分かるが“どこを”終着点にしようとしているのかが分からない。
そんな事をつらつらと考えていると、ブリッジの扉が開いてもう一人の共犯者であるブレラ・スターンが入室してくる……『マクロス・ギャラクシー』時代では部下であり、お互いインプラントで抑制されたドライな関係だったが、まさかこんな
ブリッジに入室して来た彼は周囲を見回しており、どうやらこの場に居ない誰かさんを探しているようだ。
「……あの子なら、まだ帰って来ていないわよ」
探し人が不在である事を告げると、ブレラは不満げな顔をしている……この男が感情を顔に出すなど珍しい。インプラント手術により全身が義体化しているブレラは、感情を表に出す事なく常にクールな雰囲気を纏っているのにこれほど感情的になるとは珍しい……よほどクリスが用意した機体がお気に召さなかったようだ。
「……機体に何か問題でもあったのか?」
「……いや問題ない…問題は無いのだが……」
『実験艦―02』の技術で再生したブレラは、船のレプリケーターで作成した馴染のデザインのパイロット・スーツを着込んで、クリスの用意した『IMPERIAL』の技術で再現したバルキリーもどきを与えられていた……『マクロス・ギャラクシー』において最新鋭のVF-27ルシファーに搭乗していた彼は、用意された機体を最初に見た瞬間に難色を示したが、他に機体は無いと切って捨てられて渋々用意された機体に搭乗したのだが……初フライトで機体の機動に耐えられずにブレラは気絶してしまったのだ。
サイボーグ兵士である自身が気絶してしまった事がブレラのプライドをいたく傷つけ、意固地になったブレラは用意された機体を乗りこなすべく時間が有れば搭乗して訓練をおこなっていたのだ。
「……しかし、クリスが用意したあのバルキリーもどきは、どう考えても嫌がらせにしか思えないな……」
「……それは同意する」
『――えらい言われようだな』
艦長席に座っているグレイスが苦笑していると、クリスの声が響いてブリッジの一角に光が灯って光が収まると、そこには栗色のミディアムボブウルフと翠瞳を持った少女クリスの姿があった。
「……ようやく帰って来たのね」
「……そろそろ、頃合いかと思ってね」
どうも、しがない小説書きのSOULです。
白衣を来た謎の人物(w の口から明かされる翡翠の目的。
究極の兵器が自己進化を行う事はよくある設定ですが、バスターマシン7号ことノノは伝説の少女ノノリリに憧れて彼女のようになりたいと憧れるという漠然とした思いを抱いて、彼女に近づきたいと考えている――それは、もしかしたら途轍もない存在へと彼女を導くかもしれません――それこそが、翡翠が求めているモノ。
次回は、翡翠の目的を知った人々の反応と、独りよがりな孤独な少女の独白になります。
現在、決戦編を書いてますが、少し時間が掛かりそうです……ではでは~。