マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス   作:soul

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第63話 現実を歪めるモノ

 

 翡翠の全身を包む白いボディスーツに付けられた蒼い結晶体が増殖し、より鋭くより攻撃的な姿となって彼女の身体を包む――物理法則が意味をなさないブラック・ホールの重力の井戸の底で、超重力下において縮退崩壊を起こさずに凝縮した物質――重力結晶を身に纏った翡翠の周囲はその超重力によってさまざまな影響が出ていた。

 

 空間が歪み、周辺の物質が翡翠に引き寄せられる――その影響は対峙しているノノにも及び、第5世代の航宙艦で確立された『思考主推進機関』をフル稼働させて引き寄せる力に抗いながら、ノノは深紅の瞳とは対照的な蒼い結晶体で構成された鎧で全身を覆う翡翠の新しい姿――彼女達『IMPERIAL・GHOST(帝国の亡霊)』の戦闘形態『GRAVITY・ARMOR(グラビティ・アーマー)』を観察する……より攻撃的なフォルムとなった彼女に動きは無いが、纏う雰囲気がこれまでとは確実に違う。

 

『……その姿は』

『……これが私達が全力で戦う時の姿――物理法則が意味をなさない重力の井戸の底にある、超縮退物質を用いた不壊(ふえ)の鎧『GRAVITY・ARMOR(グラビティ・アーマー)』……私を覆う『SECOND・SKIN(第二の皮膚)』も本来はこの『GRAVITY・ARMOR(グラビティ・アーマー)』を纏う為にあるんだよ』

『……『グラビティ・アーマー』』

 

 瞳だけでなく髪まで紅く染めた翡翠は『『Re:MODELERS・シリーズ』艦隊と戦闘を繰り広げていた『S・M・S』・新統合軍の連合艦隊から『マクロス・クォーター』と、『フロンティア』軍より参戦していた『バトル・フロンティア』をこの戦場へと呼び寄せた。

 

『――さあ、私に人が持つ可能性を、輝きを見せてよ』

 

 後方に下がりノノ達から一定の距離を取った翡翠はそこで停止して戦う相手を見回した……奇妙な縁で行動を共にして、意見の相違から袂を分かった義理の姉ノノ。

 

 この宇宙に流れるフォールド・ウェーブを感知して、戯れにその発生源を探して辿り着いた移民船団の中に居た少女を監察する過程で交流を持った『マクロス・クォーター』と、船団を守護する大型宇宙空母『バトル・フロンティア』。

 

 生まれも立場も違うが、それぞれ譲れぬ何かを持って自分と対峙している……奇妙な“縁”だと思うが、彼らなら望みを叶えてくれるかもしれない――ノノねぇが言う可能性の光が、闇に包まれた未来を照らしてくれるかもしれない……しかし、闇を晴らすにはそれなりの力が必要だ、最低でも自分を超える力を示してもらわなければ信じる事が出来ないし納得も出来ない。

 

 ノノ達から距離を取った翡翠は、右手を高く上げると全身を覆う蒼い結晶――重力結晶が強烈な輝きを発し、右手の掌に眩い光球となってそれを撃ち出した――その数は八つ。撃ち出された八つの光球は天高く駆け上るとクルクルと回転を始めた。

 

 


 

 

 『マクロス・クォーター』ブリッジ

 

「対象より射出されたエネルギー体は八つ、対象者の直上で回転を始めています」

「……一体何をする気なのかしら?」

「……恐らく攻撃をする為の事前準備だろう」

 

 翡翠の意図を推察するボビーに厳しい表情のまま答えるジェフリー艦長。モニカからの報告を聞くまでもなく、『クォーター』のブリッジからも対峙する翡翠嬢の姿は小さな点にしか見えないが そこから八つの眩い輝きが打ちだされて回転しながら大きな円を描く――その回転はどんどん速くなり――何時しかソレは眩い輝きを放つ巨大なリングとなった。

 

「――エネルギー体の回転速度が上がるにつれて回転する軌道内部の次元境界線が歪み始めています!」

 

 エネルギー体の回転により巨大な輝くリングが形成されると、リングの内側の星の光が歪み始め――エネルギー体の回転により通常空間が湾曲していき――極限まで歪んだ空間は負荷に耐えられずにリングの中心部に亀裂が入ると――そこから今まで見た事もないような輝きが露出していく。

 

「……これは、通常空間が破れてフォールド空間が露出しているのか?」

「いいえ、これはフォールド空間ではありません。別の……別の何かです」

 

 

 それは幾つもの並行世界――泡宇宙が浮かぶ『BULK(バルク)』あるいは超空間と呼ばれるモノであった。

 

 


 

 

 鏡のような船体をした艦隊の中で距離を取って対峙する翡翠をノノは視線に力を込めて見詰める――ようやくここまで来た。あの強情でへそ曲がりの性格の捻くれた翡翠が歩み寄ってきた。

 

 あの子が何かを抱えている事は分かっていたが、それが何なのかは分からない……ただ彼女だけではどうにもならない事が有るのだろう。

 

 バスターマシン7号ことノノは、彼女の地球が総力を結集して行った『カルネアデス計画』によって銀河系中心部に存在した宇宙怪獣の巣ごと敵 宇宙怪獣の大半を殲滅したが、生き残った宇宙怪獣の残党による度重なる襲撃に疲れ果てた地球人類によって無人バスターマシンによる太陽系絶対防衛システムを構築し、 その中枢端末としての機能を与えられて製造された。

 

 それ以降、長い年月を宇宙怪獣の残党による太陽系への侵攻を阻止する為に戦い続けて来た――知性を持たず、反射や防衛と言った先天的行動のみで行動していると言われる宇宙怪獣との戦いは妥協点などなく、どちらかが滅びるまで戦うしかなかった。

 

 しかし翡翠は異星人とはいえ知性を持って言語で気持ちを表明する事が出来る相手なのだ――例え価値観が違えど言葉を尽くして歩み寄れる筈なのだ……唯一問題があるとすれば、相手が底なしのへそ曲がりな所か。

 

 ――さあ、ここが正念場だ。

 

 


 

 

 右手を高く掲げたまま八つの光弾を撃ち出した翡翠は目の前で対峙する戦うべき相手へと紅い瞳を向ける……異界の決戦兵器バスターマシン7号ことノノと、新天地を探して過酷な銀河系内を航海して来たこの世界の地球人類が運用する可変戦闘宇宙空母『マクロス・クォーター』と新マクロス級可変大型宇宙空母『バトル・フロンティア』……戦闘能力はそれほどでもないが、銀河系の各地で激しい星間戦争を繰り広げていた巨人種族ゼントラーディの500万隻を超える基幹艦隊相手に当時初期文明以下の地球が生き残ったという奇跡。

 

 ――その戦争においてゼントラーディの基幹艦隊との戦いで大きな役割を果たしたSDF―1マクロスの名を受け継ぐ二隻の宇宙空母を運用する歴戦の戦士達――その先頭に立つ凛々しき義理の姉ノノ……彼女は言った、この世界の地球人類は自分の予測を超える程の可能性を持っていると。

 

 ――ならばその可能性を、人の持つ輝きを見せてほしい。

 

 

 

 

 『バトル・フロンティア』戦闘指揮所

 

「――対象が打ち上げたエネルギー体が高速回転をしてリングを形成し、リング内の空間が変質して未知の空間が剥き出しになっています!」

「――なにっ!?」

 

 全天型のホロ・スクリーンで対象である翡翠の動向を監視していたオペレーターが驚愕のあまりに叫ぶように報告し、『バトル・フロンティア』で指揮を執っていた指揮官は驚いた――あの悪ガキ(翡翠)が宇宙空間を生身で活動したり、重力を操って強力な重力場を発生させるなど人外の能力を見せた。

 

「……バカな、あのような事が人に出来る筈がない」

 

 

 一個人に過ぎないあの少女単体でこの宇宙の法則に干渉できるなど、人に許された範囲を逸脱していた……宇宙に生きる彼らにしても、翡翠の行った事は常軌を逸していた。

 

 これまで彼らが遭遇してきたのは古代プロトカルチャー文明が生み出した一体でもゼントラーディの基幹艦隊に匹敵する戦闘能力を持つ超兵器『エビル・シリーズ』に異次元のエネルギー生命体が憑依した『プロトデ・ビルン』や、統合戦争時の逸話の中で接触したと噂されるコードネーム『AFOS(エイフォス)』こと『鳥の人』と呼ばれる巨大物体など、宇宙初の知的生命体であるプロトカルチャーがらみの事柄がメインであったが、あの翡翠と名乗る異星の少女が見せた能力は未だ人類を大きく上回る古代プロトカルチャーの超技術をもってしても再現出来ない程の能力をみせた。

 

 幸いな事は、彼女が『IMPERIAL・GHOST(帝国の亡霊)』と呼ばれる特別な存在であるという事か……もしも彼女の種族全員が彼女と同じ能力を備えていたとすれば地球人類にとって大きな脅威となる。

 

 

 

 

 全身を鋭利な蒼い結晶体『GRAVITY・ARMOR(グラビティ・アーマー)』を纏った翡翠が打ち上げた八つのエネルギー体が頭上で高速回転をして形成された輝くリングの内側の空間が変質して未知の光が溢れ出している。

 

 リングからあふれ出す未知の光を見ていたノノは、翡翠が打ち上げた八つのエネルギー体が描き出した輝くリングに心当たりが有った。

 

 ……これって、まさか『アリス・リング』!?

 

  量子物体『アリス・リング』――『アリス・リング』はいくつかの大統一理論に現れる存在であり、理論が正しければ正しく不思議の国への入口としか言いようのない奇妙な性質を持つと言う。

 

 翡翠の上空を回る八つのエネルギー体が高速回転をして巨大な光るリングを形成し――それは現実を歪める量子的物体『アリス・リング』と同質なモノであり、そのリングから見える光景はこの宇宙とは別の世界を見せる……『アリス・リング』とは量子現象の一種であり、この世界の真実の姿を見せるかもしれないモノであった。

 

 ――そして翡翠が生み出した輝くリングの内側に見える“ソレ”は、本来この世界に存在を許されない筈の剥き出しになった特異点――時空の曲率が一定レベルを超えた時、この物質世界の厚いベールに隠された宇宙の真実が露になった――“ソレ”は、この宇宙や他の並行宇宙が浮かぶ『BULK(バルク)』――あるいは超空間と呼ばれるモノであった。

 

 


 

 

 『マクロス・クォーター』ブリッジ

 

 『クォーター』のブリッジからも翡翠の放ったエネルギー体によって形成された輝くリングの姿が確認でき――リングの内側に広がるこの宇宙とは別の未知の空間の姿が見える……それは漆黒の宇宙区間とは異なり、輝いている様に――青くも見え、赤く光っている様にも緑の淡い光を発している様にも見える不思議な光を発していた。

 

 色々と常識を逸脱した非常識なまでの能力を見せた彼女(翡翠)が創り出したリングによって まるで宇宙の一部が切り取られて別の“何か”に置き換えられたかのように未知の空間を前に、『クォーター』艦長ジェフリー・ワイルダー大佐は難しい表情を浮かべていた。

 

 民間軍事プロバイダーである『S・M・S』に属する彼は、『フロンティア』行政府との契約に基づいて船団航路予定の先行偵察や正規軍への支援任務など様々な依頼を行ってきた……だが、宇宙を舞台に様々な活躍をして来た彼にしてみても目の前に出現した未知の現象のようなモノは初めてであった……輝くリングによって現出した未知の空間、この宇宙空間は勿論のこと人類が扱う超光速航法『フォールド』航法の時に現れる超時空とも異なる現象である。

 

 『クォーター』だけでなく『バトル・フロンティア』側でも各観測装置をフル稼働させて未知の空間に付いてデーター収集を行っているが、恐ろしいほどのエネルギー係数を計測出来るだけでどこまで広がっているのか、その構成する要素は何なのか何一つ分からない。

 

 観測装置から得られた理解不能なデーターに困惑している担当士官達に、先行して翡翠と対峙している異世界の超兵器バスターマシン7号ことノノの思念波が届いた――彼女はあの未知の空間を現出させた輝くリングをこう呼んだのだ、『アリス・リング』と。

 

「……『アリス・リング』?」

 

 それは誰の声だったか、ブリッジに居る者の殆どが疑問の表情を浮かべる……『アリス・リング』、恐らく童話である『不思議の国のアリス』から引用されたのだろうが、あの輝くリングの何が『不思議の国のアリス』を連想させる要素があるのだろうか?

 

「……ミーナ君、知っているかね?」

「――はい、艦長」

 

 艦内ステータスを管理するIQ180という天才的な頭脳を持つ彼女に問い掛けると、期待通りの反応を見せた。

 

「――『アリス・リング』、それは量子現象において予測された不可思議な現象です」

 

 『アリス・リング』と呼ばれるモノは量子現象の一種であり、奇妙な性質を持つ円形の磁気モノポールの説明出来ない振る舞いを行う――それを『不思議な国のアリス』にちなんで『アリス・リング』と呼んでいた。

 

 『アリス・リング』はいくつかの大統一理論に現れる存在であり、理論が正しければ不思議の国への入口としか言いようのない奇妙な性質を持つとされている――既知のモノは量子場に形成されたトポロジカル(位相幾何学に基づく)モノポール(単極子)が別のモノに変化する際に小さな開口部が形成され、その開口部を他のモノポールが通過するとそのモノポールは鏡像に変換されてリングが逆さまに反転すると言う。

 

 『アリス・リング』を物体が通過するとき、またはそれを通して他の物体をみたとき、その性質を変化させるという極めて異常な性質があることが示唆されている。

 

「シミュレーション空間で再現された『アリス・リング』の内部に単極磁石(モノポール)を通過させてみると、その極は別の極に変化したそうです」

 

 何故変化したのか、その理由は科学的に説明出来ないのだとミーナは語る……目の前で翡翠が創り出した輝くリングがノノの言う通り『アリス・リング』と同質なモノなのだとしたら、その内側に広がる異質な空間は何なのだろうか?

 

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。最近『Star Trek: Strange New Worlds』が青い円盤になった事に狂乱乱舞しております。
 ファイナルシーズンが始まる『star trek discovery』も楽しみでなりません。

 今回 翡翠は遂に奥の手である『アリス・リング』類似したモノ『天輪』を形成し、最後の攻撃の準備を整えました――『アリス・リング」は、現実を歪める量子物体と呼ばれ、大学の研究室で人工的に作られた単極磁石(モノポール)は短期間で崩壊しますが、その中に不思議なリングーー『アリス・リング」が形成される事が予想され、リングをシュミレーション空間に再現して内部に単極磁石(モノポール)を通過させると、すると予想通り「アリスのリング」を通過した単極磁石は別の極に変化を起したのです・

 ある研究者の1人は「遠くから見ると『アリス・リング』は単なる(崩れかけの)単極磁石にしか見えませんが、リングの中心をのぞき込むと、世界が別の形をしている」と述べています。

 研究者たちは「アリスのリング」の存在は現実の構造そのものに疑問を投げかけるものであり、理解が進めば宇宙を構成する「物質や情報」の探求に重要な役割を果たすと述べています……研究の成果が出るのは当分先だと思いますが、これからどんな研究結果がでるか……もしかしたら、この現実世界は仮想世界であるという、にわかに信じがたい学説が現実味を帯びて来る可能性もあるのかも知れませんね。

 では次回 第64話 神代の一撃 7/1 0時に更新予定です。
 ではでは~。


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