マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス 作:soul
第55次超長距離移民船団『マクロス・フロンティア』の中核である巨大都市型移民居住船『アイランド1』。船団で暮らす人口の半数500万人が暮らし、上方に巨大な防護シェルを持つ半開放型の巨大な移民用航宙艦は、大気・水・有機物などの人が生活していく上で生命維持に必要な環境を循環する事で最小限の補給で長距離の航行を可能にする閉鎖系バイオプラント・システムを採用している。
『アイランド1』の居住施設は、過酷な宇宙環境に晒されて無意識の内に溜め込んだストレスを軽減できるように生活環境の中にレトロで落ち着いた配色の街並みと豊な自然を配置する事により、地球での生活にかぎりなく近づけているが、閉鎖系ゆえに外的要因の影響を受けやすいという面を持つ。
居住施設は民族構成を反映した街並みが広がり、移民船の表面部分には市街地の他に港湾施設や丘陵地帯などがあり、移民船の両舷にはそれぞれ人々の憩いの場として公園設備などが設置されて、天窓からは宇宙を眺められるようになっている――その左舷側から見えるドッキング・ポートには一隻の大型航宙艦が接舷されていた。
可変ステルス攻撃宇宙空母『マクロス・クオーター』――『マクロス・フロンティア船団』に駐留する民間軍事プロバイダー『S・M・S』に所属する航宙艦であり、『フロンティア』行政府と契約に基づいて船団予定航路の先行偵察や要人護衛、軍用装備品の評価試験、補給、兵站などの正規軍のサポートを行う事を任務としている。
全長402メートルと各船団の旗艦となっている1600メートルの新マクロス級に比べれば1/4(クオーター)の大きさしかないが、大出力の反応炉エンジンと高い火力を生かした高機動運用を得意としており、様々な任務に従事する『S・M・S』に属する航宙艦としては程よい大きさなのかもしれない。
そんなクオーターの艦長室には蓄えられた髭と顔にある大きな傷が歴戦の戦士である事を感じさせる『マクロス・クオーター』の艦長 ジェフリー・ワイルダー大佐と、機動部隊の隊長であるオズマ・リー少佐が『マクロス・フロンティア船団』の進路を示した星間航路図を前にして意見交換をしていた。
「……まもなく、『フロンティア船団』は『コード・ビクター』の勢力圏に入る。出来れば迂回したいモノだが、それにはかなりの時間を浪費する事になって現実的ではない」
「……奴らとの接触は時間の問題である事は理解しています――だからこそ『S・M・S』がこの船団に駐留している。部下たちの練度もそれなりに上がってますから、そうそう遅れを取ることはないでしょう」
「……そうか」
10年前の2048年にバジュラの襲撃によって壊滅した第117次大規模調査船団の情報から、いずれ『マクロス・フロンティア船団』も『コード・ビクター』―バジュラと接触する可能性が高い事を知った『フロンティア』上層部は、バジュラへの対抗策を模索して様々な研究を行いながら来るべき時に向けて準備をし――民間軍事プロバイダー『S・M・S』の駐留もその一つであった。
「……今度こそ守って見せる――必ず」
拳を握り締めオズマは決意を新たにしていた。
銀河中心方面に居住可能な惑星を求めて旅をする『マクロス・フロンティア船団』の中枢である巨大都市型移民船『アイランド1』のサンフランシスコ・エリアにある住宅街の洒落たアパートの一室を借りて仮初の拠点としている翡翠とノノは、中華料理屋『娘々』のお皿の三割を破壊したす~ぱ~ろぼっとの尻拭いをし――ついでにランカが美形軍団だと騒ぐ美星学園の生徒……特にランカのお気に入りでもある長い髪を束ねた美形だが沸点の低いアルト君とからからって遊んだ後、アパートに戻って情報交換の場を設けていた。
「――クロニトン粒子?」
「そ、時間的性質をもつ亜原子粒子であるクロニトンを利用した『クロニトン魚雷』を使用して自動兵器工廠衛星を過去へと送った――これで戦艦を量産するのに年単位の時間が必要になるという問題は解決さ」
ノノが入れたホットドリンク(……翡翠に作らせると砂糖に飲み物を入れた“劇物”になる為)を飲みながら、今回の翡翠の遠征の首尾に付いて話をして――無事に改型戦艦の第一陣がロールアウトした事は喜ばしいが、第二陣のロールアウトには年単位の時間が掛かって戦力を整えるには長い時間が掛かるという問題を
「……時間移動なんて、夢のまた夢の技術なのに……」
「そんなもの、未知への探求を忘れなければ何時か叶うさ」
「――いや、間違っているから! 何か分からないけど、絶対間違っているから! そんなに気軽に
「……確かに
「――禁止!
トンデモない事をのたまう翡翠に、があぁあ! とばかりに
「……分かった、分かりましたよ。もう
「……あれから出来るだけ傍でガードしているけど、『L・A・I』の姿は見えない……『L・A・I』の本社のメイン・サーバーに侵入して彼らの目的を探ったら――どうやらあの甲虫たち、『バジュラ』が絡んでいるようなの」
「――『バジュラ』?」
ノノから齎された情報に興味を示す翡翠……あの甲虫どもに名称が付けられている。それはつまり、『L・A・I』は随分前から甲虫どもの存在を把握していたと言う事か。
ノノが拝借して来た情報によれば、地球人類にオーバーテクノロジィーヲもたらしたゼントラーディと監察軍を生み出した古代星間文明プロトカルチャーの遺跡を調査する過程で確認された未知の宇宙生物であり、彼等の体内にある『フォールド・クオーツ』こそがフィールド航法などに代表されるプロトカルチャー文明の超技術を生み出した要因であると知る。
それから宇宙へ飛び出した地球人類は、銀河系中心宙域で超時空生命体『バジュラ』と接触して、その恐るべき戦闘能力によって調査船団は壊滅してしまったという。
「あの甲虫たち――バジュラの戦闘能力は高くて、強靭な爪の他にはミサイルの様な小型炸裂物を体内で生成し、あの赤い甲虫のように重量子ビーム発振器を内蔵して、しかもあの硬い外骨格にはある種のエネルギー転換装甲になっていて外骨格の分子構造を強化する能力まであるんだって」
「……ホントに生き物かよ、あの甲虫ども」
「……どこかの生物兵器じゃないかと言う噂もあるけどね」
自然発生して進化したにしては凶悪な生物すぎないか、と半目になる翡翠。そんな翡翠の反応に肩を竦めたノノは、現在分かっているバジュラの生態――地球の昆虫のような階層社会を持ち、同一種の生物でも外形は成長段階の各齢、個体役割によって様々な姿を持つようになり――
「……その壊滅した第117大規模調査船団の生き残りがランカであり、『L・A・I』はランカから発せられる微弱なフォールド波に興味を示して監視している様よ」
「……ランカねえちゃんって、見かけによらず過酷な人生を送ってるんだねぇ」
バジュラによって生まれ育った船団を壊滅させられたばかりか、生き残ったばかりに『L・A・I』という厄ネタに目を付けられるとは……引っ込み思案になるのも頷けるというものだ。となると、翡翠達が興味を引かれた宇宙に響く歌声も、フィールド波によって宇宙を伝播しているのなら――その特異性も、甲虫ども……バジュラが関係している可能性もある。
どうやら神とやらは自分達の事が嫌いの様であると嘆息する。見知らぬ世界に飛ばされて、これ幸いにプロフェッサーの無茶な実験に付き合わされなくてもすむと、『アルテミス』が見つけるまで休暇と洒落こむつもりが……ランカの周囲に見え隠れする、船団に拠点を置く総合機械メーカー『L.A.I』の影。
とはいえ、最初はそれほど接点もないランカの為に動く気は無かった翡翠だったが、引っ越しの挨拶の折に「……よろしくね、ランカお姉ちゃん」と努めて無邪気に笑いかけた所、はぁわわわっ! と感極まったような笑顔を浮かべたランカは、それから顔を合わせる事にお姉さん風を吹かせるようになったのだ……恐らく義理の兄であるオズマに猫可愛がりされて、しかも周囲には自分よりも幼い子供がいない反動で色々溜まっていた状態で、自分よりも年下の翡翠に会った事で“ハジけた”のだろう……何というか、以前に身を寄せていた宇宙戦艦『ヤマト』のユリーシャとは違った意味で困ったお姉さまと化したような気がする。
ランカ・リーという少女は、言ってみれば何処にでも居る普通の少女だった。少し内向的とも言えるが素直で人に好かれやすい性格をしており、義理の兄であるオズマがシスコンになるのも分かる様な気がする……だが宇宙に鳴り響くフィールド波による歌を感知してこの船団へとやって来た翡翠とノノは、彼女から微弱なフィールド波を感知しており、この船団の住民の中でただ一人フィールド波を発するランカ・リーこそ、宇宙で感知したフィールド波による歌の歌い手であると睨んでいる……そして、どうやらこの船団に拠点を置く『L.A.I』も何らかの理由で彼女を注視しているようである。
年端もいかない普通の少女を、船団の上層部ともパイプを持つ企業が注視する……どうせ将来的には碌なことにはなるまい。何の力も持たない子供が大人たちの食い物にされるなど、どこの世界でもよくある事であり、ランカ・リーとてその一人だったと言う事だろう……だが、頂けない。あんな素朴な子供が特異な能力を持つからと言って“生体解剖”でもされた日には目覚めが悪い事この上ない。
あんな何もない所でコケたり、可愛くない無気味なグッズを集めて悦に至っているような彼女が大人たちの都合で振り回されるなど、この船団ごと吹き飛ばしてしまいたくなるほど“気に入らない”……『アルテミス』が迎えに来るまで休暇としてバカンスとして洒落こもうと思っていたが、欲に塗れた大人どもの思惑を“圧倒的な”力で叩き潰すのも楽しそうじゃないか。
「……翡翠、悪い顔してるよ」
「――失礼な、こんな美少女を捕まえて……何、準備が無駄にならないようで、安心したのさ」
そう言って口角を釣り上げる翡翠によれば、今回の自動兵器工廠衛星訪問の成果――改型スヴァール・サラン戦艦の完成具合の確認と、事前に変更していた事にしている改型キルトラ・ケルエール級惑星揚陸強襲艦3隻ほど引き連れて『フロンティア船団』に帰還した事を告げる。
「……ふぅん、“3隻”の揚陸強襲艦ねぇ」
アホ毛をピコピコさせるノノに揚陸強襲艦に搭載している拠点制圧用である攻撃・防御・索敵用の装備に換装出来るドローンを多数搭載して、有事の際には『アイランド1』のシステムに仕掛けたウイルスによって開いた搬入口から内部に進入して制圧する事の成るだろうと説明する翡翠。
「――
後は甲虫ども――バジュラの侵攻への対策として、改型スヴァール・サラン戦艦だけでは小回りが利かないので、換装型ドローンの他に艦載兵器の開発を行う必要性が出て来たが、夜も更けて来たのでその話は後日話し合う事にすると翡翠は自室へと引き上げて行き、リビングの一人残っていたノノはその背中が消えた先を何時までも見ていた。
そして日を改めた翡翠とノノは、朝食を取りながら対バジュラ用の艦載兵器に必要な要素に付いて話し合いを行っていた――現在までに分かっているのは、バジュラは強力な攻撃能力を持っていて近接戦闘から遠距離への砲撃能力を持ち、生体レベルで重力制御推進を行う事により高い敏捷性を持ち、数少ない交戦記録である第117大規模調査船団の防衛戦においては、当時最新鋭であった可変戦闘機VF-171ナイトメアプラスをも凌駕したという。
「……大体、なんで戦闘機が変形するんだ。機体構造も脆弱になって良い所なんか無いじゃないか」
「……あはははは」
西暦1999年に地球に落下した後SDF-1マクロスとなる異星人の戦艦を調査した結果、その戦艦を運用していた異星人は人類よりも遥かに巨大な姿をしていた事が判明して、それに対抗する為に開発されたのが全領域可変戦闘システムとしての可変戦闘機VFシリーズのバルキリーであった。
落下した戦艦の中から起動兵器らしき物が発見された事により、巨人との戦闘のみならず高い空戦能力をも要求されて開発されたのが可変戦闘機であったが、ファイター・ガオーク・バトロイドの3形態を持つ可変戦闘機は期待以上の汎用性を発揮して、以降可変戦闘機はこの世界の地球人類にとってスタンダートとなった。
「この世界の地球は今までこの可変戦闘機で戦って来たんだから、それなりのメリットが有ったんじゃないのかな」
「――けれど、可変戦闘機には簡易型の慣性制御システムしかなく、簡易型ゆえに高性能機の過負荷を完全には殺せずに搭乗者に多大な負担を強いて、一部の熟練パイロットにしかその性能を完全に発揮する事が出来ない」
現在の可変戦闘機にて使用されているISC―慣性蓄積コンバーターは、高機動運動の際に機体にかかる慣性負荷をフォールド空間に一時的に蓄積させ少量ずつ通常空間に還元するシステムであり、パイロットを瞬間的な慣性負荷から保護する役目もある……だが、加減速機動時間が最大120秒間であり、溜めた慣性を還元するまで次の高機動は行えないという制約付きであった。
「……そもそも人が操縦する事に拘っているから、こんな不完全なマシンしか出来ないんだよ……人の形に拘らなければ――」
「――翡翠」
「……分かっているよ。この世界には完全無人攻撃システム『ゴースト』がある。あれは人が乗らずに機械的限界まで運動性能を高めている反面、ECM攻撃で無力化されるか自立型でも暴走の可能性がある」
この世界の稚拙な自立型の人工知能では不安が残り、どこぞの機械生命体のように戦闘機を一個の生命体として自立させるには倫理的な問題もある……そして何より、この世界の人間は己の尊厳にかけて空を、宇宙を駆ける事を諦めていない。
「……対バジュラ用の起動兵器を設計する前に、聞いてみようか? 専門家に」
「専門家?」
「隣に居るでしょうが、可変戦闘機乗りが」
ランカ・リーの身辺調査をした時に兄を名乗る同居人であるオズマ・リーの経歴――地球の軍隊である新統合軍に所属して例の第117次大規模調査船団の護衛任務に付いていたと言う経歴を持ち、現在も民間軍事会社『S・M・S』に所属している事を知ったのだ。
どうも、しがない小説書きのSOULです。
ヤマトの時と同様に無茶な事をしている翡翠は、ノノにしっかり叱られました……まぁ、それ位でヘコたれる翡翠ではありませんが。
では次回 第8話 passion 情熱 5/31 0時更新予定です。
ちなみにイツワリノウタヒメ編は9話からになります。
今まで本編に入るまでにここまで掛かる小説はあっただろうか(汗
ではでは~。