マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス   作:soul

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 アンコクノプリンセス編




第70話 愛の歌

 

 『マクロス・クォーター』を始めとした『S・M・S』・新統合軍の連合艦隊は突如として二つの『光の回廊』より発生した空間異常によって船体が軋むほどの衝撃波に翻弄されていた。

 

「――なんなのよ! 一体!?」

「――周囲の空間密度が滅茶苦茶になっている! こんなの在り得ないわ!?」

 

 ――まるで大海で暴風に出会った小船のように、次々と押し寄せて来る波打つ空間に翻弄されて、操舵稈を操るボビーは流される船体を制御する為に各部スラスターを吹かせて船体を安定させようとするが、嵐の中で押し寄せる高波の如き空間衝撃波が次々と押し寄せて全長約400メートルの船体を翻弄していく。

 

 その衝撃波は左舷飛行甲板上に設置された特設ステージにも伝播し、絶え間なく襲う衝撃によって激しく揺れるステージの上でお互いが庇い合うように抱き締め合うシェリルとランカ。その二人を庇うように上から覆い被さるノノ。

 

 そんなステージの前に立つ翡翠は絶え間なく襲い来る衝撃の中でもしっかりと立ちながら、その翠眼を細めて前方に展開する『Re:MODELERS・シリーズ』艦隊のさらに先――二つの『光の回廊』が放つ圧倒的な光量の奥に存在する別の宇宙への道 次元回廊を通って巨大な悪意が姿を現そうとしている事を感じ取っていた。

 

 ――知的生命体が興した文明の残照を感知すると、ひたすらその方向へと進み――立ち塞がるモノ全てをその凶悪な能力で灰塵に化す、まさに文明を発展させてより良き未来を求める全ての知的生命体の天敵のような存在 宇宙怪獣……さて、そんな害獣どもの本気がどれほどのものか。

 

 『光の回廊』の奥にある次元回廊を睨み据えながら翡翠の口角がつり上がる……先ほどから絶え間なく襲って来る振動は、大質量が移動する事のよって周囲の空間へと影響が広がり、その質量によって空間が歪んで衝撃波となって襲って来ているのだろう。

 

 数多の星間文明を滅ぼして来た異界の宇宙怪獣とやらは、どのような手札を持ち、それをどのようにして繰り出してくるのだろうか? そう考えると気分が高揚して来る……“奴ら”の生体航宙艦『バイオ・シップ』は、図体がデカいだけで美しくも可愛くもない相手であり、翡翠としても今一やる気が出ない相手であったが、数多の命を消し去って来た宇宙怪獣と呼ばれる害獣どもは、どれほどの凶悪でおぞましい姿を見せてくれるのだろうか?

 

 期待に胸を膨らませながら“その時”を待つ翡翠……そして遂に彼女の“超感覚”がその時が来た事を告げる――二つの『光の回廊』の奥底二存在する次元回廊から、これまでにない程にこの宇宙を揺るがせながら巨大な質量体が姿を現し、地球人よりも多くのモノを認識できる翡翠の翠眼は溢れ出る光の中にうっすらと“見える”影の巨大さに意外そうに目を丸くした。

 

「……おいおい、これは母艦クラスなんて目じゃないんじゃないか」

 

 

 “それ”の出現は『マクロス・クォーター』のセンサーも感知していた。絶え間なく襲い来る衝撃波に翻弄される『クォーター』の艦橋の中でも、モニカはコンソールにしがみついて振動に耐えながら暴風のような連続して襲って来る空間の歪みの中でも何とか機能しているセンサーからの情報を読み取って報告する。

 

「――『光の回廊』の奥に巨大質量体の出現を確認……直径は約1万3千キロ……地球とほぼ同等です」

「……自由浮遊惑星か」

 

 別の宇宙に繋がる次元結節点である『光の回廊』から出現した惑星クラスの質量体をジェフリー艦長は片眉をピクリと上げながら自由浮遊惑星と呼んだ……本来 自由浮遊惑星とは、密度が濃い分子雲が重力により収縮して原始星が誕生し、原始星の周囲に残ったガス――原始惑星系円盤の中で原始惑星同士の軌道が交差した際に重力バランスが崩れて弾き出されて、原始恒星系より逸脱した原始惑星は冷たい恒星間空間を彷徨うようになる……自由浮遊惑星とはそんな宇宙の迷子の惑星を指す。

 

 そういう意味では『光の回廊』から現れた惑星質量はとても自由浮遊惑星とは言えず、別の宇宙へ結節点である『光の回廊』から現れて苛烈なまでの攻撃を行う……言わばこの宇宙への橋頭保を確保する為に送り込まれた要塞化された惑星だった。

 

 


 

 

 輝く二つの回廊から姿を現したのは、二つの惑星クラスの質量体であった。その直径は地球とほぼ同じ位であり、大気らしきものは無く、剥き出しの赤い大地がこの距離でも確認出来て、とても生命を育むだけの環境が有るようには見えなかった。

 

 『マクロス・クォーター』左舷飛行甲板上に設置された特設ステージでは、『光の回廊』から出現した惑星クラスの質量体の拡大した映像がホロスクリーン上に映し出されて、その場に居る者全ての視線を集める。

 

「……何あれ」

「……光の中から星が現れて…」

「……さっきの攻撃はあの星から? 要塞化された移動惑星だとでも言うの……」

 

 これまでと一線を画す敵の切り札と思われる移動惑星の登場に言葉を失うランカとシェリル。彼女達の傍で厳しい表情を浮かべるノノ……これまでに敵宇宙怪獣との遭遇データーの中にはあのような存在の記載はなく、確認された敵の最大サイズは百キロを超える母艦クラスと呼ばれるモノである。

 

 ――だが、彼女が『時空検閲官の部屋』、宇宙の外側で眠りに付いた要因である恐るべき敵 エグゼリオ変動重力源と呼ばれ例外も存在した――歪な進化を遂げた惑星サイズの超巨大宇宙怪獣のようなモノがそれである。

 あれは長い年月をかけて変異した存在であり、あのように肥大化した個体は一体しか確認されていない……だが『光の回廊』から現れた移動惑星は二つ。

 

 二つの移動要塞惑星の映像を見ながら翡翠の口角が上がる――これまで嫌になるほどの物量で押し寄せて来た害獣どもだ、切り札の一つや二つくらいは軽く用意してくれるだろうさ。

 

 別の宇宙で遥かな昔から様々な文明を滅ぼして来たであろう宇宙怪獣と呼ばれる害獣どもが送り込んでくる先遣隊を叩きまくって――ようやく相手が本腰を入れて来たのだ……害獣どもが満を期して送り込んで来た移動要塞惑星に期待の視線を向ける翡翠。

 

「……やはり、あれも宇宙怪獣なんだよね」

 

 ステージ状で蹲るランカとシェリルを気遣っていたノノが緊張した趣で問い掛けて来る……彼女が戦ってきた敵性生物の中でも恐るべき強敵だったエグゼリオ変動重力源と同クラスの敵が複数現れた事でこれからの戦いがますます厳しいモノになると予想しているのだろう。

 

「……そうだね、さすがは無数の群体が絡まり合って宇宙艦隊を組むだけの事はある。見なよノノねぇ」

 

 ノノの問い掛けにシニカルな笑みを浮かべた翡翠が視線を新たに現れた投影型ウィンドウへと向け、それに釣られるようにノノを始めその場に居る全ての者の視線が映像へと注がれる……映像は出現した二つの移動惑星の一つを映し出すとその地表を拡大して、その場にいる全ての者は地表の予想だにしない姿……否、ある意味予想通りの光景にある者は顔を顰め、またある者は込み上げる吐き気に口元を押さえた。

 

「……おや、意外に耐性が無いんだね」

 

 周囲に広がる惨状に後頭部をポリポリ掻きながら翡翠は『02』より送られて来る映像の解像度を少し下げさせ、それにより巨大な筒虫が隙間なく敷き詰められて不気味に脈打つ大地から少し離れて、赤一面の大地が映し出された。

 

「……巡洋艦級に匹敵する巨大な筒虫どもが地表の全てを覆って隙間ない対空砲の陣地とし、その筒虫どもの中に赤黒い巨大な火山が等間隔に並んでいる……」

 

 影像の中には巨大な火口を持つ赤黒い山が幾つも映し出され、映像を見た者はこの惑星が形成初期の火山活動が活発な段階で宇宙怪獣に寄生されたのかと考えたが――それにしても火山の数が多すぎるように感じる……こんなにも火山があれば凄まじい地殻変動で惑星自体が崩壊する危険性があるのではないか、と。

 

「……ふむ、この火山もどきは害獣どもが擬態しているようだね……そもそも害獣どもは、どこかのはた迷惑な群体が絡まり合って混ざり合い宇宙艦隊を組むなんて訳の分からない行動を起こした……ノノねぇのメモリーによれば害獣どもは宇宙の免疫抗体じゃないかって仮説があるらしいけど、私から言わせればとてもまっとうな生物とは言えない増殖する悪性細胞のようなものだと思うよ」

 

 惑星の地表を覆って地形に擬態するくらいはやるだろうと皮肉気に笑う翡翠に、ようやく立ち直りながらも未だ弱弱しい足取りながらも立ち上がったシェリルとランカが目の前に出現した二つの脅威に付いて問い掛けた。

 

「……つまり目の前の星は宇宙怪獣に寄生されてたって言うの?」

「……寄生か。そんな生易しいモノじゃない、同化変質させられたというのが正しいと思うよ」

「……変質?」

 

 シェリルとランカの問い掛けに翡翠は唇の端を釣り上げながら答える……害獣どもは宇宙の何処かに棲息する群体生物達が絡まりあって混ざり合い、真空の宇宙を物ともしない巨大な生体艦を汲み上げた。

 

 あの移動要塞惑星は、増殖した群体生物どもが形成初期に岩石惑星に憑りついて表面物質を材料に同化し、内部にある膨大なエネルギー源――マントルに直結した火山に模した無数の巨大砲と、摩天楼よりも高く密集した筒虫どもが棲まう砲台群を備えた無敵の要塞と化したのだろう。

 

「……先ほど『Re:MODELERS・シリーズ』艦隊の一部を消し去った攻撃は、あの火山を模した大口径砲群の攻撃だろうね」

「――何を悠長な、またあの攻撃が来たら――」

 

 皮肉気に嗤い、どこで覚えたのか露悪的な姿を見せる翡翠を叱りつけながら次にあの攻撃が来たら防ぎ切れないと主張していたノノだったが、視線すら向けない翡翠を再度叱りつけようとしたが――その前に翡翠は ぼそりと呟いた。

 

「……さすが長い年月を害獣どもと戦ってきたノノねぇの予測だ、よく当たる」

 

 ノノは翡翠が見ている映像へと視線を向けて――移動要塞惑星の地表にある無数の火山を模した大口径砲群に一斉に紅い光が灯っているのを見て表情を強張らせる……それは先ほど『Re:MODELERS・シリーズ』艦隊を襲い数百の艦を葬り去った大出力ビームの予兆だろう。

 

「――翡翠!?」

 

 自分と同じように縮退炉を搭載しているであろう『Re:MODELERS・シリーズ』艦隊のシールドを貫通するほどの高出力な攻撃を再び食らえば甚大な被害は免れないだろう……どうすれば良いのか有効な手段が思い付かないノノは、翡翠へと強張らせた表情のまま縋るように問い掛けると、それを見た翡翠はシニカルな笑みを止めて真剣な表情を作ると、ノノの後ろで不安そうな表情を浮かべるシェリルとランカへと向けた。

 

「シェリルおねぇちゃんとランカねぇちゃんに頼みがある……私と一緒に歌ってくれないかな、愛の歌を」

 

 この世界において数々のヒット曲を発表してトップシンガーへと上り詰めたシェリル・ノームと、時代の潮流に乗って煌めく新星のごとく登場した超時空アイドル ランカ・リー。

 

 歌手として活躍する二人に一緒に歌って欲しいと頼むのはある意味当然の事なのかもしれないが、二人に頼むのはそれだけが理由ではない――これから歌うのは彼女達にも縁深い歌だからだ。

 

 んんっと軽く喉の調子を整えた翡翠は、ローティーン特有の少し高いトーンの声で歌い出す……それは二人にとっても馴染み深い曲……遠い所に居る相手に アナタ アナタと呼びかけて、ここに来て欲しいと呼びかける恋の歌――アイモであった。

 

 その歌は、ランカにとって幼い時に母親より教えられた大切な思い出の歌であった――その歌は、シェリルにとって過酷な幼少時代において数少ない家族との温かい思い出の歌であった……そんな二人にとって思い出深い大切な曲を、異星から来た少女が歌い始めた。

 

 地球人でいう所の第二次成長期真っ只中の子供が少し高いトーンで……時折音が外れている所が、これまで常識外れの卓越した能力を見せた少女にも苦手なモノがあるんだなぁ、とクスっと笑みを浮かべたランカは隣に居るシェリルと頷き合うと唇を開いて……調子っぱずれな……若干頬が赤い所を見るに自覚はあるのだろう――そんな彼女の傍に寄り添うと共に歌い始める――愛の歌を。

 

 


 

 

 『マクロス・クォーター』左舷飛行甲板上に設置された特設ステージで翡翠はランカとシェリルに共に歌って欲しい頼み込んで――彼女達にとって馴染み深いアイモを歌い出す……今この局面でアイモを歌うのは何らかの意図があるのだろうが、顔を見合わせながら愛の歌を歌う三人に若干の疎外感を感じながら見守っていたノノのセンサーが前方に存在する敵宇宙怪獣の切り札――二柱の移動要塞惑星の表面に連なる無数の火山――マントルのエネルギーを用いた大口径砲塔群が臨界状態に入った事を感知した。

 

 ……まもなく先ほどの『Re:MODELERS・シリーズ』艦隊を襲った苛烈な攻撃の第二射が発射されるだろう……どうする? 翡翠には何らかの意図が有るのだろうが、それが間に合うかは未知数だ……ここは自分が先頭に立って彼女を生み出した地球帝国の技術の結晶である『ファジカル・リアクター(物理法則書き換え機関)』をフル稼働させて敵の攻撃を相殺するしかないかと考えて、特設ステージから飛び出したノノは水晶の様な表面をした『Re:MODELERS・シリーズ』艦の隙間を縫うように疾走して艦隊の最前列に到達すると、燃えるような紅い光を放つ二つの敵要塞惑星を見据えてセンサーで敵の様子を観測しながら、胸部と両手の甲に搭載されている『ファジカル・リアクター(物理法則書き換え機関)』を待機状態に移行させて移動要塞惑星からの攻撃に備える。

 

 ……来た!

 

 センサーで敵要塞の動向を探っていたノノは、遂に敵の大口径砲塔群が臨界を突破して発射された事を感知する――血のように赤い惑星から無数の高出力ビームが撃ち出されて今度こそ『Re:MODELERS・シリーズ』艦隊を灰塵に帰すべく迫る――それを見たノノは胸部と両手の甲に搭載された『ファジカル・リアクター(物理法則書き換え機関)』を稼働状態に移行させて、迫り来る無数の高出力ビームに備える。

 

 ……まずい、ビームの数が尋常じゃない!?

 

 センサーで迫る高出力ビームの正確な数と予測軌道を把握したノノは、その尋常じゃない数に戦慄した表情を浮かべる……物理法則を自在に操る『ファジカル・リアクター(物理法則書き換え機関)』を用いれば敵の高エネルギー弾を停止状態にし、分解・吸収する盾とすることが可能――事実、タイタン変動重力源戦において放たれた敵の攻撃を受け止めて分解・吸収した――だが、『ファジカル・リアクター(物理法則書き換え機関)』には明確な弱点がある……神の如き力を見せる『ファジカル・リアクター(物理法則書き換え機関)』だが、その効果範囲は彼女ノノの周辺に限定される。

 

 ――防ぎ切れない!? せめて『クォーター』だけでも守らないと!

 

 迫り来る無数の高出力ビームを前に覚悟を決めたノノ……決死の表情で文字通りその身を盾にする覚悟を決めた彼女を高出力ビームの輝きが照らす――だが無数の高出力ビームが直撃する寸前、『Re:MODELERS・シリーズ』艦隊の前に淡い光が現れて迫り来る無数の高出力ビームと接触し――虚空へと消し去った。

 

 ……なに今のは!? 

 

 高性能な解析装置を内蔵したノノは、高出力ビームが着弾する前にこの宇宙の時空連続体が断絶されて出来た次元の裂け目にビームが飲まれた事を認識したが、とても自然現象とは思えないこの現象を誰が行ったのか分からず、呆然と眼を見開いている時に後方の……何時の間にか『Re:MODELERS・シリーズ』艦隊中央部に開かれたスペースに無数の時空振動が起こって光と共に巨大なナニかが通常空間へと現出して来る……それは無数の強靭な外骨格に覆われた巨大な船体を持つ航宙艦と見紛う存在――その中心に位置する背面に輝く四つの翅を持つ一際巨大な生命体……。

 

 ……バジュラ、なんで?

 

 可変攻撃宇宙空母『マクロス・クォーター』左舷飛行甲板上に設置された特設ステージで突如として『Re:MODELERS・シリーズ』艦隊中央部に出現したバジュラの艦隊を見たシェリルとランカは呆然とした表情のまま呟いた。

 

「……バジュラが、どうして?」

「……助けに来てくれたの?」

 

 驚きを隠せない二人の傍に居た翡翠は、口角を上げると小さく呟いた。

 

「おそいじゃないか、女王バジュラ(グラン・マ)

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 光の回廊の奥深く、次元回廊から姿を現した二柱の移動要塞惑星。
 宇宙怪獣の奥の手ともいえる惑星規模の敵を前にした翡翠はシェリルとランカに一緒に歌うように頼み、三人の歌声に導かれるように姿を現した女王バジュラを筆頭としたバジュラ達――そして翡翠は高らかに宣言する――切り札中の切り札の顕現を。

 次回 第71話 ――切り札中の切り札 12/26 0時更新予定です ではでは~。
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