マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス 作:soul
遮蔽装置を用いて至近距離まで接近した先行攻撃部隊により、二柱の移動要塞惑星の一柱は撃破され――『ギガ・バスター』の眼前には残る移動要塞惑星が、今だ圧倒的な存在感と共にあった。
『……これで残るは一体』
『ギガ・バスター』の制御システムの中枢と化しているバスターマシン7号ことノノは、目の前に立ち塞がる移動要塞惑星に意識を集中する……『ディメンション・イーター弾頭』に改造されたステルス・フリケードによって、もう一つは崩壊した。後は残る要塞惑星を排除すれば、『光の回廊』までの道が開ける――ノノは意識を集中する。
これまでの戦いのダメージが蓄積して、『ギガ・バスター』のコンディションは最悪と言って良い……要塞惑星や周囲に展開する宇宙怪獣軍団からの苛烈な攻撃によって表面装甲はボロボロで、要塞惑星からの厭らしい攻撃から連合艦隊を守る為に無理な機動を行った影響で、メインフレームにすらガタが来ている。
――だが、二つ存在した要塞惑星の一つは倒した……あと一つ、目の前の敵を倒せば道が開ける。気を引き締めたノノは翡翠に声を掛けるが、反応が返ってこなかった……不審に思いながら訝し気に再度声を掛けると、翡翠は静かに語り出した。
『……ノノねえ、言ったでしょう?
翡翠がそう言い放ったと同時に『ギガ・バスター』の前方の宙域に一つの波紋が浮かぶと、劇的な変化が訪れる――空間が唐突に歪み始めて、あり得ない程の空間湾曲現象を起こす――あまねく星々の光だけでなく、圧倒的な光量をもつ『光の回廊』の姿やいまだ健在な移動要塞惑星の姿すらねじ曲がり、歪んだ光が重なって光り輝く輪を作ると、その中心から白銀に輝く巨大な船先が現れて、この世界へとその姿を現す――それは巨大な結晶の様な姿をしていた。
鋭く尖った船先から流れるようなラインを持つ船体は、まるで巨大な鏡のように周囲の光景を映し出し、薄い光を帯びた全長160キロの紡錘型の船体は、『光の回廊』の輝きに照らし出されたこの空間でも強烈な存在感を醸し出していた。
『……なに、アレ?』
突如として現れた所属不明の鏡のような船の登場に戸惑うノノ……だが、頭の冷静な所では予想が付いていた……アレは翡翠の呼びかけに答えるかのように姿を現し、鏡のような船体は自分に内緒で翡翠が用意した『Re:MODELERS・シリーズ』艦を彷彿させる。
出来れば思い出したくもないが、翡翠が敵対の道を選んだ時、ノノ達の前に初めて鏡のような船体を持つ『Re:MODELERS・シリーズ』が姿を現した時に彼女が言った言葉――『この宇宙の技術で再現した『
『――アレこそが我が半身――『
……やはり。あれこそが、翡翠が言っていた半身であり、彼女の世界からの救援なのだろう……だが、それにしても出現するタイミングが良すぎるように感じられるが……やはり
『……ノノねぇは、覚えているかな? この世界に着た頃にゼントラーディの自動兵器工廠衛星を確保して、再建をしながら『02』の修理をしていた頃を……』
言われなくても忘れる事が出来ない程に波乱な日々であった……地球を、人々を守る為に、復活した宇宙怪獣『エグゼリオ変動重力源』を倒す為に、太陽系絶対防衛用超巨大人型決戦兵器『ダイバスター』で戦いを挑み、強大な敵の前に敗北寸前にまで追い込まれた時、お姉さまの叱咤激励を受けて共に戦い……未来を守る為に剥き出しの特異点と共に、多元宇宙の狭間にて眠りに付いた筈だった。
――だが、何時の間にか狭間から出ていたノノは、見知らぬ船の中で覚醒し――クリスと名乗っていた翡翠と出会った。
見知らぬ世界に流された二人は、その世界にも戦乱がある事を察知して、それに備える為にこの世界で一大勢力を築いている巨人種族ゼントラーディの廃棄された自動兵器工廠衛星を確保して、ゼントラーディが使用する既存の戦闘航宙艦の設計図に、彼女たちの技術を組み込んだ改修型戦闘航宙艦隊を建造してもしもの時に備えたのだ。
『……忙しくも、騒がしい日々だったね』
『まぁね……拠点を確保して、ようやく船の修理も済んで、改型艦の建造期間を稼ぐ為に、虎の子の『クロニトン』魚雷を使用して工廠衛星を相対的過去へと送る時に、ついでに送ったモノがあるんだよ』
宇宙船を建造するには年単位の時間が必要であり、艦隊を組める程の数を揃えるには気の遠くなる時間が掛かる……故に翡翠は奥の手を出す事にしたのだ――時間的性質をもつ亜原子粒子『クロニトン』を内包した『クロニトン』魚雷を使用して、自動兵器工廠衛星ごと製造ラインを相対的過去へと送り込んだのだ。
『……ゼントラーディと敵対する監察軍とやらに捕捉されると面倒だからね、工廠衛星には『02』にも搭載されている次元潜行システムを取り付けたんだけど、その時に、ついでに通信システムに救難信号を亜空間に発信するように設定したんだよ』
『……は?』
自動兵器工廠衛星を確保した翡翠は、工廠衛星の修復と並行して、ノノとの衝突でダメージを負った『実験艦―02』の修理も並行して行い、本来の機能を取り戻した『実験艦―02』はこの宇宙と隣接する亜空間を通して『アルテミス』へ向けて救援シグナルを発信したのだが、積層亜空間の最上位『水の回廊』から通常空間への帰路の途中でノノと激突した事により、亜空間はおろか自分達の世界からも弾き出されて未知の世界へと漂流した事もあり、救援はいつ来るか分からない状態であった。
――ならば、もっと前から救援シグナルを発信すれば、迎えが来るのも早くなるのでは、と考えた翡翠は、工廠衛星の通信システムに『
『……それって、なんかズルい……何がズルいのか分からないけど――とにかくズルい!』
『――ズルくない! 先見の明があったと、さすっが翡翠ちゃんと褒め称えてもいいんだよ?』
映像の中でふんぞり返る翡翠にむかっと来たノノだったが、それよりも気になる事がある。
『……確か自動兵器工廠衛星を送り込んだのは、数百年は過去に送り込んだって言っていたよね……よく連絡が取れたと言うか、信用されたね?』
事故によりこの世界に迷い込んだ当初は、自分達の世界への連絡手段はおろか、この世界と自分達の世界がどれほど離れているのかも分からない状況だったのだ……しかも数百年も前から突然見知らぬ世界から通信が送られてくれば、普通は不審に思う筈だ……通信を受け取った相手に如何にして信用させると言うのか?
『……で、何をしたの?』
映像に映る翡翠をジト目で見ながら、今度は、
『――なに、数百年周期前だろうと、確実に話を聞いてくれる人物には心当たりが有るからね』
ふんぞり返った翡翠によれば、数百年前だろうと確実に存在している人物――彼女の話に時折出て来る、悪魔のような修行僧に向けて「――私は数百年周期後のアナタの愛弟子(wです」とメッセージを送り、それだけでは鼻で笑われる事が確実なので、メッセージと共に恐れ多くも賢くも、
『…… 一体、何を送っているのよ』
呆れを通り越して、もはや乾いた笑いしか出てこないノノ……ふんぞり返った翡翠は、そんな義理の姉の反応など欠片も気にせずに限界までふんぞり返って倒れそうになりながら、姿勢を正したのちに『アルテミス』へと指示を出した。
『それじゃ、この世界の流儀に従って――『アルテミス』 ガンシップ・モードに移行、『ガンマ・レイ』発射用意!』
『……何ですか、それは?』
通信ごしに苦笑のような気配を乗せた『アルテミス』の統括思念体『エテルナ』の操作で、全長160キロの巨体が反転して『ギガ・バスター』の正面へと移動すると、流体金属で構成された鏡のような船体が細く棒状へと変形していく。
サイズは違えど、それは新マクロス級の最強兵器『マクロス・キャノン』の発射機構を搭載しているガンシップのように長い
『――極光に焼き尽くされろ! 『ガンマ・レイ』発射!』
翡翠の命令と共に『アルテミス』の艦首に形成された巨大な
『……凄い、惑星質量をたったの一撃で消し去った』
「――まだまだ、お楽しみはコレからさ!」
巨大な移動要塞惑星を焼き尽くして消し去った『ガンマ・レイ』の威力に呆然としたノノがかすれた声で呟いたが、そんな義理の姉の心情などどこ吹く風で、ノリノリの翡翠はそのまま第二射を宣言する……どうやら翡翠はトリガーパッピーの気があるようだ。
『――『エテルナ』、『ガンマ・レイ・カレイドスコープ・モード』起動!』
ノリノリの翡翠の号令の下、ガンシップ・モードの『アルテミス』の艦首発射口に変化が現れる――流体金属で形成された船体に複数の小さな渦が発生すると、それはどんどん大きくなって――最初の穴 発射口と同様なモノが形成される――その数八つ。
――これこそ、『ガンマ・レイ』のバリエーションの一つ。
『
怒涛の展開に着いて行けないノノを尻目に、翡翠は周囲に群がる億を超える宇宙怪獣の大軍団を見ながら不敵な笑みを浮かべた。
『――焼き尽くせ、『カレイドスコープ』!』
ガンシップ・モードの『アルテミス』の艦首より八つの極光が放射され、周囲を埋め尽くす宇宙怪獣の群れを捉える――数十キロもの巨体を持ち、これまで多くの星間文明を滅ぼして来た強大な宇宙怪獣と言えども、G型恒星が100億年かけて放射するエネルギーをその身に受ければ、抗えるわけもなく光の中で消滅していく。
――たとえ、宇宙を埋め尽くす程の数が存在しようとも、八つものガンマ線バーストの光を受けて抗える術など無く、『ガンマ・レイ』の連続照射によって億を超える宇宙怪獣の大軍団は、ガンマ線の苛烈な光の前に完全に消え去ったのだ。
可変攻撃宇宙空母『マクロス・クォーター』
全てを焼き尽くすガンマ線の光は『クォーター』のブリッジからも観測でき、その非現実的な光景に誰もが言葉を失う中、己が職務に忠実であろうとするモニカが報告する。
『……この宙域に居た宇宙怪獣の全てが消滅しました』
彼女の声がブリッジ内に響くが、誰も反応を示さない……それほどまでに目の前の光景は受け入れ難いモノであった……次元回廊である二つの『光の回廊』より溢れ出した億を超える規模の宇宙怪獣の大軍団は、宇宙の全てを埋め尽くして星の光に充ちる美しい銀河系中心宙域の光景を塗り潰していた。
それは絶望そのモノ――死力を尽くして戦おうとも、決して勝利する事は叶わず、剣折れ矢尽きて力尽きる運命を感じて誰もが覚悟を決めて戦いに挑んだ……この戦線を突破されれば、銀河系に住まう全ての命が……銀河の運命などという高尚なモノではなく、仲間達が、愛する人達が宇宙怪獣の魔の手に晒される……そう思うからこそ死力を尽くして立ち向かえたのだが……なのに、今目の前で繰り広げられた光景は現実感が無く、これでこの世界に侵入した宇宙怪獣は全滅したのだろうか?
……沈黙が支配する『クォーター』の前に威風堂々と立っていた『ギガ・バスター』だったが、その巨体がゆっくりと動き出した……その巨体が向かう先には、圧倒的な光量を放つ次元回廊『光の回廊』が存在していた。
「……ノノ」
誰の呟きだろうか、呆然自失としていた『クォーター』の誰かが少しずつ離れていく『ギガ・バスター』――それを操る桃色の髪を持つ少女の姿を思い浮かべたのだろう。
「……行くのか」
艦長席に座ったジェフリー艦長が低い声に呟く……これから彼女達が向かう先には、恐らくこれまで以上の敵が待ち構えているだろう……だが敵移動要塞惑星との戦い自分達は明らかに力不足であった……彼女達と共に敵の本拠地に乗り込んだとしても、足を引っ張る結果になるだろう。
我々に出来るのは船を新たな『ディメンション・イーター』爆弾として、最初の作戦通りに『光の回廊』内で爆発させて次元回廊を破壊する事しか出来ない……重い身体を艦長席に預ける彼の表情は帽子のつばに隠されて見えなかった。
どうも、しがない小説書きのSOULです。
とりあえず、何とか76話が完成したので急遽でありますがUPしました。
これでストックは完全にすっからかん、最終話は時間を頂く事になりそうです。
ではまた。