マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス   作:soul

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イツワリノウタヒメ編
第9話 Galactic Fairy 銀河の妖精


 

 長距離移民船団『マクロス・フロンティア』の中で巨大な都市型移民船『アイランド1』――『フロンティア船団』の中心であるその大型都市移民船の中にある美星学園の校舎の屋上に設置された滑走路からは、今日もEX―ギアを纏った航宙科の生徒が飛び立って人工の空を舞っていた。

 

「……元気だねぇ」

 

 ランカの出前に付き添って美星学園へと来た後も、翡翠は時間を見つけては美星学園へと足を運んで屋上の滑走路から飛び立つ学生を見ていた。学園の生徒ではないが故に敷地内には立ち入る事は出来ないが、翡翠の名前の由来でもある翠眼には爽やかな笑顔を浮かべながら人工の空を舞うイケメンの姿がしっかりと写っていた。

 

 こうして精力的に飛行訓練を繰り返している彼らを見て、翡翠はこの世界の人間が有人機に拘る理由を何となくではあるが理解した――彼らは憧れているのだ、大空に、宇宙に……なるほど、そりゃ拘る訳だ……なんか気が抜けて、とぼとぼと学園のある丘から下へと降りていく……気が抜けたらお腹がすいてきた翡翠は少し距離があるがお腹一杯食べられそうな所へ行く事にした。

 

「……飽きないね、翡翠も」

「――いや~、ここの料理が美味しくてね」

 

 『娘々』に行くとウェイトレスがアホ毛を揺らしながら嘆息するが、この店は味が良いし色々と忙しかった翡翠としては時間の節約にもなってお手軽なのだ。ノノが調理された料理を運んできてテーブルへと置くと、翡翠は熱々の湯気が出ている料理を早速切り分けて口に運ぶ……程よい調味料の味付けが素材自体の旨味を引き立たせて精神的に疲れた少女の胃袋を癒す。                                                                                                                                                                                       

 

 絶妙な味に舌鼓を打ちつつ、常連となった翡翠へのサービスとして付いて来たドリンクを飲んで一息ついていると、入口の方からにぎやかな声が聞こえて来る――視線を向けると、ここ最近よく見た面々が入って来る……美星学園のアルトやミハエルそれとルカの三人と珍しい事に一学年上だと言うクラン・クランが共に来ていた……ゼントラーディであり、巨人の時は素晴らしいスタイルをしているが、マイクローン化で人類と同じサイズになると目の前の様なチンチクリンになると言う……何でも“遺伝子が不器用”なのだそうだ。

 

 初めて聞いた時には、何だそれはと思ったが――滑走路で話を聞いて微妙な顔をしていると、以前に“おねにいさん”呼ばわりした事を根に持っていたアルトに「……どっこいどっこい、だな?」と無駄に整った顔にシニカルな笑みを浮かべながら からかって来たので、股間をスマッシュしようとしたが あっさりと回避されてしまった。

 

「――よっ、翡翠ちゃん」

「……あんまり食べ過ぎると太るぞ」

「HELLO、ミハエル君。後、アルトにいちゃんは うっさい」

 

 美少女に向かってデリカシーの無い事を平然と言うアルトに噛みつく翡翠……こんなに口が悪いのに、ランカ辺りが熱を上げるほどモテると言うのだから、整った顔立ちに騙されているよ皆、と小さくため息を付く翡翠……もしこの場に、『ヤマト』で保護者をしていた真琴が居れば「――アンタも大概よ」と突っ込みを入れたに違いない。

 

 丁度昼時前であり、空いていたので翡翠の隣の席にぞろぞろと座るミハエル君達。当然の如くランカが注文を取りに行き、思い思いに料理を注文した後に雑談を始める彼らを見た翡翠は、ふと気になっている事を聞いてみる事にした。

 

「――ねぇ、ミハエル君。最近よく飛んでるようだけど、大会でもあるの?」

「……ランカちゃんにでも聞いたのかな。実はパフォーマンスをしてくれないかってオファーが有ってね」

 

 その為に練習に力が入っているんだ、と説明してくれるミハエル君。自分の様な少女にも嫌な顔一つせずに説明してくれるが、所々ボカシているのは本決まりではない所為なのだろうが、練習飛行をしている所を見るにかなり大きなイベントのパフォーマンスのようで力の入れようが何時もと違うように感じた。

 

 


 

 

「……シェリル・ノーム?」

「――そっ、今話題の銀河の妖精。その妖精さんのライブが今度この船団で行われるのに合わせて、アルト君達がライブのパフォーマンスとして編隊飛行をするんだって」

「ふ~ん」

 

 サンフランシスコ・エリアにある自宅でテレビを見ていた翡翠は、バイトから帰宅したノノを出迎えてリビングでランカの周りに不審な動きがなかったかの報告を受けた後、雑談をしていた時に、ノノよりミハエルやアルト達がEX―ギアの飛行訓練の時間を増やした理由を聞いてきて、翡翠は首を傾げる。

 

「……で、そのシェリルって誰?」

 

 問い掛けるとノノは深い――それは深いため息を付いて流行に疎い翡翠に“シェリル・ノーム”に付いて語り始める。

 

 シェリル・ノーム――彼女は第51次超長距離移民船団『マクロス・ギャラクシー』出身の歌手で、彼女の歌う歌は居住惑星だけでなく宇宙を航行している移民船団をフォールド通信で繋いだ『ギャラクシー・ネットワーク』で銀河中に広がり、彼女は『銀河の妖精』と呼ばれる大人気の歌手であり、彼女の歌は銀河系に鳴り響いていると言う。

 

 そして今彼女は銀河横断ツアーを行っており、その最終公演地である『マクロス・フロンティア船団』での公演のパフォーマンスとしてミハエル達のEX―ギアを用いた編隊飛行が披露されると言うのだ……道理で訓練に力が入る訳だ。一体どんな伝手で人気絶頂の歌手の公演に参加したのだろうか?

 

 投影型ウィンドウを展開して、フロンティア船団内のネットワークから習得した『シェリル・ノーム』に関しての情報の一覧を表示させる……表示された『シェリル・ノーム』は一言でいえば派手な美人と言った所か、長い金色の髪と整った顔立ちが一見チャーミングな印象を与えるが、今までの公演で撮影された衣装を纏って歌う姿が表示されると一応女性体である筈の翡翠ですらゾクゾクする程のセクシーな色気を感じる。

 

「……なるほど、あの“飛行”バカどもが張り切る訳だ」

 

 

 

 銀河の妖精『シェリル・ノーム』が銀河横断ツアーの最終公演地である『マクロス・フロンティア船団』へと来訪する日が近付くにつれて、フロンティア船団内の――特に軍部の動きが活発になって来ていた。船団内に不穏分子が居ないかを監視する位しか仕事が無かった筈の情報部が船団外からの来訪者に監視の目を光らせ、戦闘部門も弾薬や推進剤の確保に動いており、まるで外部からの襲撃を予見しているかの様な動きをしている。

 

「……なんだろうな、この動きは」

「……まるで襲撃を想定しているかのような動きだね」

「外からの攻撃だけでなく、内部に潜入される事を警戒しているような動きだ」

 

 この船団に身を寄せてから数か月、『マクロス・フロンティア』は翡翠達がやって来た道を辿る様に進み、まもなくこの世界で最初に接触した甲虫――バジュラの巣が有ったフルブス・アンファレス級起動要塞の残骸が存在する宙域に到達する……恐らく、その前にこの船団はバジュラの攻撃を受けるだろう。そしてそれはこの船団――と言うかフロンディア船団の行政府と繋がりのある大企業『L・A・I』も認識しているだろう――以前よりバジュラの存在を認知しており、色々と暗躍しているであろう『L・A・I』も流石に本社のある船団が壊滅しては困るだろうから ある程度の情報提供はしているだろう。

 

 最悪の想定故か無言になる二人……そんな二人は『アイランド1』の中で超時空を通して響いてくるフィールド波に乗って楽し気な歌声を感知する……ノノによれば、ランカ・リーはシェリル・ノームの大ファンであり、バイトの合間に美星学園の早乙女アルトからシェリルのコンサートのチケットを貰って喜んでいたらしい。

 

 ――戦いの気配は足元にまで迫っている……願わくば、素朴なあの少女に幸運が在らんことを。

 

 


 

 

 西暦2059年3月――人類が生存圏の拡大を計って銀河系の各所に送り出した宇宙大航海時代。数えて25番目になる巨大移民船団『マクロス・フロンティア』は居住可能な星を求めて銀河の中心宙域に向けて大航海を続けていた――そして今、星の海を越えてこのフロンティアに一人の歌姫が舞い降りる。

 

 銀河系中心部 射手座スパイラルアーム内のビオス星系を航行中の『マクロス・フロンティア船団』の至近距離に超時空のゲートが開いて、一隻の快速艇がデ・フィールドしてくる。快速艇は大きく弧を描くように旋回して、フロンティアの中心部である『アイランド1』へと近付くと宇宙を航行する艦船が使用する宇宙港へと向かって入港する。

 

 快速艇から二人の人物が下り、検疫を受けた後に『アイランド1』の居住エリアへと繋がる通路を遊泳して人工重力エリアへと足を踏み入れる。0、75Gに調整された人工重力に引かれて久しぶりの重さを体感する二人の女性。白いワンピースを来た女性は、長い金色の髪から同色の帽子が落ちない様に手を添えながら、もう一人の青い髪と緑色のスーツを着た女性は危なげなく大地に降り立った。

 

「……随分クラッシックな街並みね……所で覚悟は良い? もし此処でもターゲットが見つからなければ……貴方…」

「……グレイス、私はシェリルよ。シェリル・ノームは何時でも、どんな時でも全力で歌うだけ」

 

 


 

 

 銀河のトップシンガー『シェリル・ノーム』の来訪は『アイランド1』に住む人々の中で大きな話題となり、星道館ホールで行われる彼女―シェリルのコンサート・チケットはプレミアムが付いて入手困難になっていた。

 そんな入手困難なチケットを幸運にも手にしたランカは、浮かれに浮かれてバイト中も地に足が下りていない状態で仕事をしていたらしい……皿を割らなきゃいいけど。

 

 サンフランシスコ・エリアに借りたアパートでは、リビングのソファーに座った翡翠が周囲に幾つもの投影型ウィンドウを立ち上げて表示される情報を読み取っていた。情報を読み解いていく内に翡翠は柳眉をひそめて難しい表情を浮かべている。

 

「……あまり良い情報ではないようね」

 

 『娘々』でのバイトが終わったランカと共に帰って来たノノは、彼女が自宅に入るのを確認してから戻ってきており、ドリンクとツマミとして店で残ったマグロ饅の乗った皿を置いて難しい表情で投影型ウィンドウを見つめる翡翠に問い掛ける。

 

「……軍部も迎撃準備を急いでいるし……どうやら開戦のタイミングは、シェリル・ノームのコンサートの前後が怪しい」

「……なんでシェリルのコンサートにぶつかるのよ、ランカが凄く楽しみにしているのに」

[……さぁね。色々と裏で暗躍している輩もいるようだし、何らかの思惑があるのかもな]

「……もう一つの“船団”の事だね」

 

 

 現時点で分かっている情報に目を通した翡翠は、難しい顔をしているノノを誘ってこの区画で一番高い建造物の屋上へと場所を移した。アパートから飲み物とツマミも持参して眼下に広がる人工の光で形造られる光の海を見下ろしながら、翡翠とノノは持参した飲み物をチビチビ飲みながら無言で眼下に広がる光溢れる街並みを見つめる……あの光りの一つ一つには今を生きる人々が要る。今日を一生懸命に生きて、光が消えると共に就寝に付いて、今日の疲れを癒してまた明日を生きる活力を得る……だが、そんな“あたりまえ”の日常もまもなく消えるかもしれない。

 

「……この『マクロス・フロンティア』の行政府は密かに戦争の準備を進めていた……最初ははぐれゼントラーディか、あの甲虫ども――バジュラを相手にするのかと思っていたが、集めた情報の中でも最深部に在った情報の中に記されていた『マクロス・ギャラクシー船団』の存在……」

「……この船団と近い宙域を航行している、もう一つの地球の移民船団」

 

 銀河系中心部を目指して航海をする『マクロス・フロンティア船団』と同じく銀河系中心部を目指すもっとも近い位置にある第51次超長距離移民船団が『マクロス・ギャラクシー』である。閉鎖系バイオプラントを採用しているフロンティア船団とは異なり、密閉式ケミカルプラントを循環システムに採用している第4世代型巨大移民船団であり、船団内ではハイテクノロジー重視思考で徹底的な資本主義体制が敷かれており、船団社会の中で省力化・自動化が極度に進んだ結果、効率を求めてインプラントやサイバネティックスなど人間を半機械化する技術が広まり、他の船団とは別の独自の文化様式を見せているらしい。

 

 そして『フロンティア船団』と彼ら『ギャラクシー船団』の上層部は早い段階からバジュラの存在を認識しており、いずれ船団の脅威となりえる存在であると当時に、バジュラの体内で生成される『フォールド・クォーツ』の性質――通常のフォールド航法では踏破出来ずに宇宙を分断する要因であるフォールド断層を突破する性質を見せ、次世代のフォールド航行やフォールド通信に必要不可欠な物質であると言われている――『フォールド・クォーツ』を手にしたモノが技術的優位に立つのだ。

 

「……最初は、甲虫どもと人間の生存競争かと思ったんだが……ふたを開ければ、知的生命体お決まりの相手より優位に立ちたいと言う、資源獲得競争だったと言う訳だ……これでは『ギャラクシー』だけでなく、他の船団――もしくは地球統合政府とやらも怪しいな」

 

 肩を竦める翡翠……その隣でノノは持参した飲み物が入ったカップを一口飲んだ後、重いため息を付く。

 

「……星間戦争で滅びかけた人間同士が争うなんて」

「……知的生命体ゆえの業だろうさ」

 

 口にした飲み物は何時になく苦い味がした。

 

 


 

 

 西暦2059年3月2日

 

 その日、『マクロス・フロンティア』の中心である都市型移民船『アイランド1』は、高揚感に包まれていた――銀河系を旅する各移民船団や居住惑星を繋げた超広域通信システムである『ギャラクシー・ネットワーク』において絶大な人気を誇るトップシンガー『シェリル・ノーム』のコンサートが開かれるからだ。

 

 星道館広場内にある大規模多目的ホール『星道館ホール』前には、これから開かれるコンサートに期待する多くの市民の姿があり、入口が開かれると期待に胸を膨らませた市民たちが整列してホールの中に入って行く……そんな市民たちを尻目に事前にホールの中に入っている者達も居た。

 コンサートのスタッフはもとより、コンサートを盛り上げるパフォーマンスを行うアルトたち美星学園の編隊飛行を行うメンバー……そして星道館ホールに設置されたコンサート用の舞台の上に張り巡らされた機材を支える構造物に付けられた連絡橋の一つに座り込んで、コンサートの開演を待つ二つの人影――翡翠とノノであった。

 

 シェリルのコンサートに潜り込んだ二人は、翡翠より提供されたホログラム・スーツを纏って気付かれる事なく潜り込んだのだ。

 

 ホログラム・スーツ――翡翠が事故によって並行世界迷い込んだ時に知り合った勢力が運用していた装備である。ホログラム・スーツを運用していたのは惑星連邦と呼ばれる勢力であり、彼らは未開惑星の種族を観察する際に、その種族によけいな刺激を与えない為に秘密裏に観察するために使用される装備の一つである。

 

 周囲の状況を判断する優秀な人工知能を組み込んで、周囲の環境に合わせたホログラムを瞬時に纏う光学迷彩服である。質量を消す事は出来ないなど欠点もあるが、人目を気にしなくても良いなど潜入工作には重宝し、実際 翡翠は『L・A・I』の施設に潜入する時などは重宝したものだ。

 

「……ねぇ、翡翠?」

「……なに、ノノねぇちゃん?」

「……おやじクサいよ」

 

 ホログラム・スーツにより気付かれる事なくコンサート会場に潜り込んだ翡翠とノノであったが、開演まで時間があったので人気が無いのを良い事に持参したドリンクなどを広げて主演の登場をゆっくりと待つ事にしたのだが……どこで仕入れたのか、お茶請け代わりにスルメをかじかじ齧る10代前半の少女にしてはおやじクサい趣味をしている翡翠に呆れたような姿勢を向けるノノ。

 

 そうこうしている内に会場内の雰囲気が変わり、会場内の照明が絞られて観客達の期待が高まる。そして、会場内にアナウンスが行われて観客の期待と高揚感を高め――始まる。

 

『――アタシの歌を聴けぇえ!』

 

 宣告と共に観客たちの注目を集めた舞台が展開して、幾つもの巨大な歯車が回り始めると共に組み立てられていく金色の小さな歯車で形作られた人形たち――足場となる舞台装置に重ねて投影されたAR――拡張現実の映像が重ね合わされて、見る者を魅了するような効果的な舞台が整えられる――そして主演の歌姫(シェリル・ノーム)が姿を現した。

 

 白を基調とした衣装に身を包んだ歌姫は、生来の人を引き付ける魅力を遺憾なく発揮して繰り広げられるパフォーマンスに観客の目は引き付けられて、ARによって投影された彼女の巨大な全身像が舞って本人と共に繰り広げられるパフィーマンスに観客のボルテージは加速度的に高まっていった。

 

「……すごい、ね」

「……そうね。だけど……」

 

 作業用の連絡通路に陣取る翡翠とノノは眼下で繰り広げられる華麗な舞台に魅了されながらも、彼女たちの超感覚はコンサート会場の外――この都市型巨大移民船の外に広がる宇宙空間に起きている異変を感知していた。

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 ついにフロンティア船団に来艦した銀河の妖精。これから話が加速します。
 フロンティアの内情を探っていくうちに浮かび上がって来るもう一つの船団の影、この世界でも繰り広げられる資源争奪戦……どこの世界でも同じかと、翡翠は分かっていても嘆息します。

 では次回 第10話 クロース・エンカウンター 6/7 0時更新予定です。ではでは~。
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