伝説のポケモンは伝説パワーがあるので人の姿になれます(鋼の意志)
プロローグ
ここはとある地方にある、緑豊かに生い茂る木々たちに囲まれた人の気配のない湖畔。
湖に太陽光が反射して銀色に輝き、ゆらゆらと穏やかに波打つ水面には、コイキングが水飛沫を飛ばしながら跳ねる姿や、悠々と泳ぐウパーとヌオーの群れに水面を滑るアメタマなど、水タイプのポケモンたちが思い思いの一時を過ごしている。
水上を飛ぶキャモメや、木々に止まっているポッポやヤヤコマなどの鳥ポケモンの鳴き声が草木に反射して響き渡り、技術革新と近代化が進む都市部とは相反的に、今や珍しくなった人の手が入っていない野生ポケモンたちの楽園となっていた。
そんなポケモントレーナーやポケモンマニアなんかにとっては何としてでもたどり着きたい理想郷ともいえるこの地には、唯一人の営みを感じさせる一軒のログハウスがポツンと建っていた。
日差しが照りつけ始める早朝、そんな神秘的な光景に包まれたログハウスに駆け込む小さな影とともに、いつものようにドタバタと騒がしい声が響き始め、このログハウスの主のとある青年は重たい瞼を開きつつ、微睡みとともに目を覚ますのであった。
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「朝だよ起きて起きて起きて〜~!!!」
木製の窓から朝日が差し込み始めた早朝、未だに眠気を感じる少し気怠げな体を震わせるほどの、聞き慣れた声と扉を勢いよく開く大音量が鼓膜を叩く。
ピンク色の頭をせわしなく揺らし、とにかく話したくてたまらないといったウズウズとした表情の白いワンピースを着た少女は、ノロノロと上半身を起こして瞼を擦りながら欠伸をしている俺に向かって走り寄りながら、満面の笑みとともに元気よく挨拶してくる。
「おはようっ!!!マスターっ!!!」
「おはよう、ミュウ」
朝っぱらから今にも鼻歌を歌い出しそうなほどに上機嫌な彼女は、朝帰りしたばかりのハイテンションのまま、瞳を輝かせながら昨夜何をしていたのかを教えてくれた。
「えっとね!!昨日ね!!
『I Love You……』って低音ボイスで囁きながら撫でてた時のハピナスさんのあの顔、今思い出しても笑いが止まらないやぁ〜。プククククッ……」
心底可笑しそうに小さな両手で口元を抑えて笑い声を漏らしているその姿を、彼女の弟が見たら怒り狂って追い回してきそうだなぁと思いつつ眺め、今日の予定が図らずとも決まってしまった。
「じゃあ今日はハナダの洞窟に行こう。迷惑掛けたミュウツーとハピナスにはちゃんと謝らないといけないし」
「本音は?」
「戻ってきたミュウツーがハピナスに突然"おうふくビンタ"されてわけもわからず混乱してるところめっちゃ見たい。普段はクール気取ってる彼が女絡みで困ってるところなんて永久保存版でしょ」
「だよね〜〜!!!!」
ポケモンがポケモンならトレーナーもトレーナーであった。
それも当然ながら、お気楽で愉快犯なミュウのその性格と合わなければ、俺たちはお互いのパートナーにはなれなかっただろう。
「マスター……」
そんな俺たちの他に、ベッドで横になっている俺の右隣から鈴の鳴るような涼やかな声が聞こえてきた。
若干非難がましい顔で俺を見上げている緑色のパジャマ姿の少女は、眠気とは関係無しの元々からのジトっとした目を向けてきており、どうやらミュウと俺の会話で起こしてしまっていたようであった。
「ああ、起こしちゃったか、ごめんよ。
それとおはよう、セレビィ」
「……おはようございます。マスター」
寝癖のついている緑色の髪の毛を右手で撫ですかしてやりつつ朝の挨拶をすると、半開きの目を嬉しそうに細めつつ返してくれる。
セレビィを起こしてしまったようだし反対側は、と思いながら左手側を見てみると
「えへへぇ~ますたぁ~もうたべられないよぉ~」
どうやら杞憂であったようだ。
むにゃむにゃと幸せそうに動く口元から寝言とよだれを漏らし、夢の中でご馳走を食べているらしい金髪に白い肌の少女、ジラーチのふわふわとした金色の頭を左手で撫でてやりつつ、ワンパチであったら千切れんばかりに尻尾が振られてるんじゃないかといった様子のミュウに声を掛ける。
「とりあえず顔洗ってくるよ。着替えて朝ごはん食べたらハナダシティにテレポートしようか」
「うんっ!!!」
ポケモン世界に転生してから随分と時が経ったが、俺たちは今日も好きなように生きている。
ちなみに朝ごはんを食べてから、ハナダの洞窟最深部にあるミュウツーの暮らしている小部屋へと向かうと、必死に謝るハピナスと頬を赤く腫らしながら憮然とした表情で腕を組んで仁王立ちするミュウツーの姿が見えて、俺とミュウは呼吸困難になるほど笑い転げてしまった。
ブチ切れたミュウツーの攻撃から何とか逃げ切って後日聞いた話によると、ハピナスのビンタを防ぐことも避けることもできたはずの彼は、自分に非があると思い込み、甘んじて受け入れた後で、詳しく事情を聞いていたら勘違いだと発覚した現場にちょうど俺たちが居合わせたらしい。
一時は人間を憎み、野生のポケモンたちも圧倒的な力で蹴散らし遠ざけ、孤独な王として君臨していた頃に比べれば、随分と丸くなったものだ。
こうして多少なりとも俺たちと関わっていけば、以前は不安定だった精神面も大きく成長できることだろう。
決してからかって遊んでいるわけではない、はずだ。
本編開始からだいぶ経った時系列のとある日常風景。
次話からは少年期から始まります。