☆マサラタウン・オーキド研究所裏手にあるバトルコート
「さて、お手並み拝見だぜ」
コートに立つのは天才と呼ばれる少年、グリーン。
対峙するのは気合十分のイーブイと、バトルへ向けて感覚を研ぎ澄ますために目を瞑って集中力を高めているアルト。
バトルコート外にはポップコーンをもしゃもしゃしているミュウ、手の中にモンスターボールを握りしめながら赤い帽子に隠れた力強い瞳で両者を見据えるレッド、興味深そうに顎を擦っているオーキド博士。
そして審判席には研究所の比較的若めの研究員。
この場の全員の準備が整ったようだ。
「では、試合開始!!」
「いけっ、ギルガルド!!」
審判の宣言とともにグリーンの放ったボールから飛び出したのは、金色の剣でできた体を丸状の盾を前面に構えてガードしているポケモン、おうけんポケモンギルガルドであった。
「グリーンめ……ギルガルドを使うとは随分と本気のようじゃな……。というかワシのいうことは聞かんのになんでグリーンには従っておるんじゃ……」
「…………」
「ぶいちゃんがんばえ〜。モグモグ……」
観客たちが三者三様の反応をしているのに対して、バトルしている当人たちは既にこのバトルに集中し切っており、外野たちの存在は己の思考領域からすでにシャットアウトされていた。
両者が睨み合う中、最初に動いたのはイーブイであった。
「【
『ブゥアアアァァッ!!!』
ギルガルドに向かって走り出したイーブイの体が白い輝きに包まれたと思いきや、次の瞬間にはブースターの姿に変わり、炎を纏って加速しながらギルガルドに正面から迫る。
「おおっ、これが形体変化!!まさか本当にブースターになってしまうとはのう!!!」
「………!!!」
驚愕の声と気配を背中に受けながら、ブースターがはがねタイプに対して効果抜群の炎技を正面から叩きつけようとして───
「"キングシールド"」
衝突する直前に現れた銀色の障壁に突進を阻まれる。
ギルガルドは一切のダメージを受けずに受け止めただけではなく、障壁に激突したブースターの力を奪い、その攻撃力をガクッと下げた。
ただしこの結果はアルトも予想しており、いわばこれはイーブイの形体変化を分かりやすく示すためのデモンストレーションのために指示したことであり、すぐさま次の指示がブースターへと飛んだ。
「【形体変化・疾風迅雷】"でんじは"引き撃ち」
ギルガルドが攻撃態勢に移る前に、サンダースの機動力を活かしてバックステップで距離を取りながら"でんじは"を放つ。
イーブイは攻撃を受け止められたことに動揺を見せず、トレーナーの指示を聞いた次の瞬間には行動に移っていることからも、トレーナーとパートナーの間に強い信頼関係が結ばれていることが見て取れた。
"キングシールド"を貫通した"でんじは"がギルガルドへと襲い掛かり、たちまち麻痺状態にしてしまう。
最初の攻防は、お互いにダメージは無いかわりに弱体化させ合うという互角の結果に思われたが───
「───ギルガルド、"みがわり"だ」
ギルガルドも無抵抗で"でんじは"を受けたわけではなく、己の体力を消費して作り出した自分の身代わりとなる人形をシールドフォルムの盾の前に出現させていた。
そしてさらに───
「『備えあれば憂いなし』ってな!!」
ギルガルドが盾の裏側から取り出した"ラムの実"を人間でいう手の部分にあたる紫色の剣帯で掴み、潰してから果汁を己の体中に振りまいた。
ギルガルドの体から痺れが消え去り、体力を消費しつつも"みがわり"を残した万全の状態で、再びお互いが距離を取って睨み合う状況になった。
「今度はこっちからいくぜ!!"シャドークロー"!!」
体の前に構えていた盾を片手にあたる剣帯で掴み取りブレードフォルムに変形したギルガルドが、刀身でできた体を晒して鋭利な影状のエネルギーを剣先に宿し、ゴーストタイプ特有の低空飛行でサンダースへと接近する。
「【形体変化・流転大河】"バブルこうせん"」
本来ならば、攻撃態勢に移りブレードフォルムとなったギルガルドは防御面が疎かになり、イーブイの反撃するチャンスとなるはずであったのだが、ギルガルドの体と連動するように動く身代わり人形が本体への攻撃をカットしてしまう。
先ずは身代わりを破壊しなければ話にならないと判断したアルトが、打たれ弱いサンダースの姿から耐久力のあるシャワーズの姿での迎撃を選んだのであった。
"バブルこうせん"がシャワーズへと迫りくるギルガルドを守る身代わりへと命中し、ダメージを受けた人形が役目を終えて宙に溶けるように消え去る。
だがその間に、至近距離まで接近したギルガルドが影エネルギーを込めた刀身で、"バブルこうせん"を放って硬直していたシャワーズを袈裟懸けに斬り裂いた。
『シャアアァッ!?!?』
「イーブイ!!」
強烈な一撃をモロに浴びたシャワーズの悲鳴と、そのトレーナーの声がバトルコート上に響く。
「距離を取れギルガルド!!」
グリーンは、これまでの攻防で築き上げた有利状況を維持するために、イーブイの反撃を警戒してギルガルドをブレードフォルムのまま下がらせる。
確実にダメージを与えて相手の体力を着実と削り取り、相手の一発逆転を決して許さない隙のない立ち回りでイーブイを追い詰めていく。
「………!!まだだ!!まだ終わっていない!!お前の力を見せてやれっ、イーブイ!!【形体変化・月下不動】!!全力で"かみつく"だ!!」
ダメージを受けたイーブイに発破をかけるように、声を張り上げて大声で指示を出すアルト。
『………!!』
愛するトレーナーの声に応えたシャワーズの姿をしたイーブイが、離れた位置でいつでも攻撃態勢に入れるように浮いているギルガルドを睨みつけて真正面から突進していく。
その姿が一瞬白い輝きに包まれると、次の瞬間には真っ黒の全身に黄色の輪っか模様を浮かび上がらせたポケモン、ブラッキーの姿に変わって大きく口を開き、頑強な歯を見せつけながらギルガルドへ迫る。
目の前のブラッキーを観察するグリーンが、違和感を感じたようにピクリと瞼を動かすが、その間にも両者の距離が詰まっていき、短い時間で思考した結果、彼に取っての安定択を選んだ。
「"キングシールド"だ!!」
ギルガルドはブレードフォルムからシールドフォルムに切り替えて、ブラッキーを十分に引きつけてから再び鉄壁の障壁を目の前に展開する。
"かみつく"をその障壁で受け止めればさらにイーブイの攻撃力をガクッと下げることになり、勝敗はより決定的にグリーンへ傾くことになるだろう。
それを知ってか知らずか、大きく開いたブラッキーの顎が障壁に激突する───
ガチンッ!!!
───直前に障壁の目の前で急停止し、大きな音を立ててその場で勢いよく顎を閉じた。
そもそも技を発動していなかったブラッキーは、そのままギルガルドにクルリと背中を向けて、鼻で笑うように頭だけ振り返りながら悠々と歩いて元の位置へ歩いて戻っていく。
それはまるで守りに入ったギルガルドの臆病さを嘲笑うように、やれるものならやってみろと"ちょうはつ"するかのように。
「………チッ!!」
グリーンは己が図られたことを悟った。
"かみつく"の指示はフェイク。
本当の狙いはギルガルドのシールドフォルムを崩すことにあると。
『……ギル!!』
目の前を隙だらけの姿で背中を見せて歩くブラッキーに対して、怒りを込めた視線を向けるギルガルド。
相手の"ちょうはつ"に乗ってしまった今、「一撃で仕留められる圏内まで体力を削り、回復される前に隠していた技で相手の体力を一気に削り切る」という戦闘プランを組み立てていたグリーンの守備的な指示はもう届かない。
だがそれでも、グリーンの脳内を高速で駆け巡る思考が止まることはない。
(ここで決めるしかねえな。"シャドークロー"のダメージの蓄積もある。一撃で仕留められなくても攻撃力が下がったブラッキー程度の一発ならブレードフォルムのギルガルドでも耐えられるはずだ。例え高威力悪技の"しっぺがえし"を食らったとしてもな。"つきのひかり"での回復も手遅れだ。追撃すれば間違いなく落ちる。勝負を仕掛けるのは今だ!!)
「ギルガルド!!"せいなるつるぎ"!!」
刹那のうちに結論を出したグリーンは、ギルガルドにこれまで一度も見せていなかった技の指示を出す。
この対戦が始まる前の準備段階からブラッキーへの対策として仕込んでいた格闘タイプの攻撃技。
金色の剣先をギラリと輝かせて、ブレードフォルムに変形したギルガルドが怒りを込めた効果抜群の一撃をブラッキーの背中へと叩き込もうと襲いかかる。
「───今!!」
『───ルラアァッ!!』
背後から斬りかかるギルガルドの姿を、背中を向けているブラッキーは全く補足できていない。
彼女が見つめるその先は、ギルガルドの一挙一動を観察している己のトレーナー、アルトの口元。
彼を心から信頼している彼女は、その口元が動いた瞬間に、前脚へ密かに溜め込んでいた禍々しい悪エネルギーを背後から斬りかかるギルガルドへと振り向くと共に全力で叩きつけた。
─────結果は相打ち。
違うのは互いに効果抜群の一撃を受けた両者の様子。
"せいなるつるぎ"の一撃を受けて、歯を食いしばりながら倒れ込みそうになる体をギリギリで保たせているブラッキー。
───そして大きく吹き飛ばされてたったの一撃で倒れ込み、ピクリとも動かなくなったギルガルド。
ここに試合は決した。
「そ、そこまでっ!!勝者アルト・イーブイペアっ!!」
審判の研究員の声が試合結果を物語る。
「……"イカサマ"……か」
ギルガルドをボールに戻しながら苦々しい顔で呟くグリーン。
もちろん反則の意味のイカサマではない。
自分の攻撃力ではなく相手の攻撃力を参照する悪タイプの高威力の攻撃技。
アルトがブラッキーの訓練で真っ先に練習させた、耐久に特化しているブラッキーが火力を出せる唯一のメインウェポンであった。
「……まっ、今回は負けを認めてやるよ」
すでに元の姿に戻っており、フラフラとしながらもトレーナーに褒めてもらおうと体を押し付けているイーブイと、何かを語りかけながら優しく撫で回しているアルトたちへと近づき、グリーンは彼らに向けてそう言い放つのであった。
普通に"ちょうはつ"した場合、ブレードフォルムで待機していたギルガルドに一方的に斬られます。
オーキド博士の研究用ポケモンのため、アローラベトベトンと迷いましたが、ギルガルドがカッコよかったのでギルガルドになりました。
……皆さんならこのイーブイ対策なら、何のポケモンを選びますかね?