「おらっ!!とっとと始めろよっ!!!」
随分と乱暴な試合開始の宣言ではあったが、それを待っていた彼らにとっては十分な一言であった。
「──"10まんボルト"!!」
「【
グリーンの声が聞こえた瞬間にはピカチュウから強烈な白雷が解き放たれ、バリバリと轟音を響かせながら小柄なミュウを丸ごと呑み込まんとする
あまりの光量と爆音で周囲の音をかき消しながら迫りくる雷を前に、ミュウのトレーナーである少年が、轟く雷音の合間に何事かの指示を出した。
グリーンにとっては、もはや見慣れた馬鹿げた威力の雷技であったが、それでも反射的に目を瞑ってしまったグリーンがようやく目を開いた時に飛び込んできた光景は、雷の直撃を受けながらも無傷で佇む鋼色の大蛇の姿であった。
(……ハガネール!!)
開幕と同時に地面タイプのポケモンに変身することで電撃を無効化したミュウが、ハガネールの姿で金属色の鈍く輝く巨大な尻尾を地面に叩きつける。
「"じならし"」
初手からして互いに容赦のない攻撃の応酬ではあったが、結果としては"10まんボルト"を放っていたピカチュウは効果抜群の攻撃で大ダメージを受けるとともに、そのスピードにも甚大な被害を被ることになっただろう。
もっとも、
「……!!上だ!!」
アルトの声に、地面に尻尾を打ち付けているミュウ(ハガネール)は、即座の対応が出来なかった。
"10まんボルト"を無効化された時点で、反撃の地面技を想定していたレッドとピカチュウ。
彼らは雷によるトレーナーへの目潰しが機能している間に宙へと高く跳び上がっていた。
ハガネールの巨体と網膜を焼き付ける閃光によって、地上にいたピカチュウを見失っていたアルト。
気づいた時にはもう遅く、ハガネールの頭上から降ってきたピカチュウが集中力を高めながら拳を構えて重力を乗せた格闘タイプの技を叩き落とす───
「──"きあいパンチ"!!」
バッキイイイィィンッ!!!!
まるで金属同士を思いっきりぶつけたかのような異質な衝突音と凄まじい衝撃波が、バトルコート上の熱気をはらんだ空気を揺るがす。
鋼鉄に覆われた頭部の外骨格を叩いたその一撃は、圧倒的な防御力を誇るハガネールの物理耐久すらも貫通して確かなダメージを与えた。
地面に頭から沈み込むハガネールと、殴って跳ね返ってきた衝撃をそのままに自ら吹き飛び、受け身を取って地に四足を付けながらハガネールの動向を警戒するピカチュウ。
「もう一回!!"きあいパンチ"!!」
ハガネールが、バキバキと音を立てて上体を起こしたところで、足に力を込めていたピカチュウが拳に気合を宿して今度は正面から突っ込んでいった。
強烈な威力を秘める地面技を撃たせる前に、接近して張り付き、肉弾戦で仕留める算段なのだろう。
だがアルトも黙ってやられっぱなしとはいかない。
ハガネールの姿ではピカチュウの素早さには追いつけず、このまま格闘技で削り切られる可能性もあると危惧したアルトが、ミュウに次の指示を出す。
「【変身】"ゴルーグ"」
鎌首をもたげた鋼鉄の大蛇が、古代的な趣きを感じさせる青色の巨人へと姿を変えた。
「『………!!』」
普通のポケモンとは違う雰囲気を纏った古代の巨体を前に、一瞬の動揺が走るレッドとピカチュウ。
しかし、すぐに迷いを捨てて、突進の勢いを殺さずに全力で拳をぶつけようとする。
狙いは巨体の胸部にあるヒビ割れを抑えるように嵌められた、留め具で固定されている木板。
その巨体を横倒しにしてやるという気概の元に放とうとする"きあいパンチ"。
はがねタイプかいわタイプにも見えるその巨人に効果抜群かと思われたその一撃は───
「……
突然大声で叫ぶレッド。
恐るべきは初見の相手のタイプを知らなくても直前で正解を引き当てる勝負勘だろう。
『………ピィッ!!』
だが勢いに乗ったピカチュウは止まれない。
それでも何とか構えた拳を解いて、突進をゴルーグを避ける軌道に修正しようとするが、持ち前のスピードが仇となって無防備な姿を敵前で晒すこととなってしまった。
そんな絶好の隙が見逃されるはずもなく───
「"シャドーパンチ"」
影を纏った「てつのこぶし」によるパンチが、何とか腕だけクロスさせて衝撃に備えていたピカチュウを追尾するように的確に捉え、そのまま大きく弾き飛ばす。
地面タイプの強力な一撃よりも、確実にダメージを与えることを目的に選択された技だったのだが、防御の脆いピカチュウにとっては試合を決めかねない大ダメージを受けた一撃であった。
地面をバウンドしながら転がるピカチュウ。
傍目から見てもこれで勝負が決まったかと思われたが………
「………まだだっ!!」
『………ピカァッ!!!』
ボロボロの土まみれになってもなお、諦めないトレーナーに呼応するように闘志を燃やして立ち上がる。
そんなレッドとピカチュウを見てもアルトが容赦することは決してない。
──他ならぬ相手がそれを望まないだろうから。
強大な敵を前に、ボロボロの状態で笑みすら浮かべていたレッドとピカチュウに、最大限の警戒を向ける。
「走れ!!ピカチュウ!!」
再び目の前の巨体へと高速で駆け寄る小さな黄色のでんきねずみポケモン。
警戒していたゴルーグが、己よりも圧倒的に小さい敵対者を迎撃するべくその剛腕を突き出す。
「"シャドーパンチ"」
いかに的が小さくて素早く動いているとしても、正面から堂々と向かってくる相手に、自動で追尾する必中の影の拳が外れることはない。
ゴルーグに向かって飛び跳ねたピカチュウが、空中で躱すことなど尚更不可能であり、今度こそ試合を決める一撃が小柄な黄色の体へと吸い込まれて───
「"アイアンテール"!!」
───迫る拳に対して前方宙返りの態勢で、硬質化させた尻尾を上から叩き付ける。
ゴルーグの影で覆われた巨大な拳を起点に、バネ仕掛けのように上空へ飛んだピカチュウ。
その先にあるのはゴルーグの頭部であり──
「ピカチュウ!!"
──ピカチュウの小さな拳を巨大な影の腕が覆う。
ゴルーグの攻撃を"ものまね"することで使えるようになったゴーストタイプの技で、表情が変わることのない古代の巨人の頭を"アイアンテール"で得た推進力とともに影の腕で正面から殴りつけた。
『……ゴォッ!?』
有効打が無いと思われていたところへの効果抜群の一撃。
予想外の攻撃を受けたゴルーグ(ミュウ)が、上半身をグラリと傾かせて、地響きと砂煙を巻き起こしながらバトルコートへと巨体を倒れ込ませた。
「今だっ!!"アイアンテール"!!」
『ピカァッ!!』
そんな明確なチャンスに畳み掛けるべく、砂煙の中にいる相手目掛けて上空から加速して振り下ろす"アイアンテール"によって追撃を仕掛けるピカチュウ。
体力的にも限界を迎える直前であったところで、最後の力を振り絞ってトドメの一撃とするべく、彼が渾身の力を込めた攻撃だ。
砂煙が晴れて、食い入るように結末を見届けるこの場にいた者たちの目に入ったのは───
「──"どくづき"」
倒れ伏せたゴルーグ……ではなく、地に伏せた焦げ茶色の両生類型のポケモン、ドオーがぬめりのある体表で鋼鉄化した尻尾による一撃を耐えきって、背中から生やした毒のトゲによるカウンターの一撃でピカチュウを吹き飛ばしたところであった。
そしてさらに………
「"じこさいせい"」
これまでの交戦で失った体力をみるみるうちに回復させてゆく。
"どくづき"による反撃で毒状態になり、瀕死の重症で倒れるピカチュウとそれを見るレッドの心を折るように、両者の体力差がもはや埋まりようが無い程に広がっていく。
それでも、そんな状況でも彼らは──
「まだ……まだだ……!!ピカチュウッ!!」
『……ピィ…カァ……!!』
それでも立ち上がる。
誰がどこからどう見ても限界を超えており、ピカチュウの
このまま生命を燃やしてまで闘い続けるかと思われたが……
「──そこまでじゃっ!!ピカチュウは戦闘不能じゃ!!これ以上はピカチュウの命に関わるぞ!!」
唯一この場を収めることができるオーキド博士の鶴の一声により、高まっていた場の緊張感が霧散する。
それと同時にピカチュウが糸の切れた人形のようにその場で倒れ、急いでレッドが駆け寄っていく。
「ミュウッ!!【変身】"ハピナス"!!"いやしのすず"、"タマゴうみ"!!ピカチュウを回復してやるんだっ!!」
ハピナスに変身したミュウが、倒れたピカチュウに向けて連続で回復技を使用する。
その甲斐もあって一命を取り留めたようであった。
「すまん……仰天しながら腰を抜かしていたとはいえ、本来なら大人であるワシがもっと早くストッパーになるべきじゃった。聞きたいことは山程あるが、今はピカチュウの様体を診るのが先じゃ。研究所内に運び込んでくれるかのう」
本当にすまなそうに謝るオーキド博士に従い、少女の姿に戻ったミュウも含めて研究所内へ足を進める。
気絶しているピカチュウを無言でその胸に抱くレッドの表情は、帽子に隠れていたため誰の目にも映ることはなかった。
戦闘中のアルト君の脳内
("くさむすび"だけはやめてくれ……!!"なみのり"もマジムリ!!……よし!無いな!……はあっ!?あのピカチュウ、マジでバケモンじゃん……)
レッド君もグリーン君も旅に出る前から強すぎる感はありますが、まあマサラ人だしね……
ゴルーグ(ゴビット)のタイプを初見で当てられた人0人説