だいぶ間が空きましたがひっそりと投稿しておきます。
ということで新章スタート。
過去と現在
☆ジョウト地方・ウバメの森
「ターゲットの包囲、完了致しました」
「うむ」
鬱蒼と草木が生い茂る薄暗い森の中に、複数の怪しい人影が蠢く。
その中から黒いローブで全身を覆った一人の男が、でっぷりと太った男に向けてそう言った。
報告を受けた男……脂肪をたっぷりと蓄えた丸い体と、常人よりも太い両手の指に色とりどりの宝石で出来た豪奢でゴテゴテとした指輪をこれでもかと嵌めたとある資産家の男は、顎の贅肉を揺らしながら大仰に頷いて答える。
金を稼ぐ才能を持っていた彼は、数多の美酒、美女、飽食に道楽と金に物を言わせて味わい尽くし、この世の贅の限りを堪能し尽くして生きてきた。
そして、それまでの不摂生な生活が仇となって、まだ老人とも言えないような若さで当然のように重い心臓病を患った。
余命一年と医師に宣告された彼は、己の運命を受け入れられず、闇社会で築き上げた伝手とこれまで積み重ねた資産を駆使して、病を快復させる手段を血眼になって探し求めた。
その結果として辿り着いたのが、彼らの目の前に存在する歴史に埋もれかけていた神秘である。
「アルファ隊、周辺警戒させているヘルガーたちの管理を怠るなよ。ターゲットの捕獲が最優先だ。民間人だろうが野生ポケモンだろうが決して近づけさせるな。やむを得ない場合は燃やせ」
「ベータ隊、ヤミカラスたちの"くろいまなざし"を継続させろ。何匹か倒れても一匹残っていれば構わん。死んでも解くなよ」
「ガンマ隊、ニューラに"こごえるかぜ"の指示を出せ。ターゲットの機動力を奪うことに注力させて威力は抑えさせろ。動きが鈍ったところを"みねうち"で仕上げろ」
怪しい風貌の男たちが無線で連絡を取り合う。
このためだけに莫大な大金を投じてポケモンの密猟・密売を担う闇組織を雇った。
ターゲットを呼び寄せるためのウバメの森での工作活動から、実際に現れたターゲットの捜索・包囲まで担わせた。
さらに、裏切りを警戒するためにも、協力関係を築いている闇組織にはターゲットの持つ
これらの活動を通して尚、ターゲットが現れる確率など奇跡に等しいものではあったが、男は人生の最期を目前にして大博打に勝利したのだ。
後は手の中にあるマスターボールを弱りきって動けなくなったターゲットにぶつけるだけ。
───それだけで、全てが手に入る。
彼は、溢れ出る期待と高揚感を隠そうともせず、陶酔の入り混じった表情で、ニューラたちに散々に痛めつけられてグッタリと倒れているターゲットに歩み寄り、ゆっくりと語りかける。
「古文書に残された伝説……。
話しているうちにだんだんと興奮を抑えられなくなり、最後には唾を飛ばす勢いで大声で叫ぶ男。
……結果として彼は、今後の短い人生をこの一瞬の出来事への悔恨に苛まれて過ごすこととなった。
「……!!ターゲットが光り……!?早くボールを!!」
「わ、わかっておるっ!!
……ぅぐっ!?ぐぅ、ぐおぉ……」
ローブ姿の男の言葉に慌ててボールを構えようとするが、興奮しすぎたのか心臓の発作による胸の痛みでその場にうずくまる資産家の男。
手の中から滑り落ちたマスターボールが地面に落ちて、コロコロと土の上を転がっていく。
「くっ、やむを得ん!!」
資産家の男と話していた組織のリーダーが、緊急事態故にマスターボールを拾おうと手を伸ばす。
「触るなァッ!!!アレはワタシのっ、ワタシのものだアァッ!!!」
胸を抑えながらもローブ姿の男の足にしがみつき、血走った目で叫ぶ彼。
このやり取りが致命的な猶予となり、何とか彼がボールを拾い直す頃には、ターゲットの全身が白色の輝きで隠れてしまっていた。
そして、大慌てでボールを投げた時には、彼が追い求めた存在は跡形もなく消えていたのである。
彼は空のマスターボールを拾って、ワナワナと全身を震わせながら天に向かって咆哮する。
「何処に、
セレビィィィィィィッッッ!!!!」
この一連の出来事の一月後、生きる気力を失った彼は病院のベッドの上で燃え尽きたように亡くなった。
そして、それから時日が経ち………
「……親父が死ぬ直前に残した日誌。森の守り神、時渡り、時空の揺らぎ、……セレビィ、ねぇ」
一人の若者が、とある資産家の遺品の日誌を手に取って呟く。
「悪いな。こいつは俺が貰うぜ、親父」
人の探究心と欲望もまた、脈々と次世代へと受け継がれてゆく。
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☆現代・カントー地方・タマムシ孤児院
「やだやだやだぁ〜!!このラブラブボールがいいの〜!!そんなダサいモンスターボールなんかやだぁ〜!!!」
ある日のポケモンたちとのミーティング中、ミュウがモンスターボールに入ってくれないという話をしていたところ、唐突に彼女がモンスターボールに入ることを拒否していた理由が判明した。
───彼女は
「ワガママ言わない。ほら、ハイパーボールと昨日そのへんで拾ったクイックボールもあるぞ」
「マスター……それ、虐待だよ……?」
ハイパーボールに入れただけで!?
俺が過激派オシャボ勢の思想に戦慄していると、ミュウが手元の雑誌を大きく開いてパンパン叩きながら特集のページを俺の眼前へと掲げてくる。
「ほらこれ見てマスターっ!!
『ドキッ☆愛しの
って書いてあるでしょ!!『月刊らぶぽけ』は裏切らないもんっ!!」
「なんでポケモン目線で書いてあるんだその雑誌。ライターは誰なんだよ」
「著者『Dのメタグロス』だって」
「ふーん、メタグロスか……メタグロスっ!?!?」
お前、スーパーコンピューター級の頭脳で何書いてるんだよ。絶対可愛い系じゃないじゃん。ヘビーボールが似合う系統のポケモンでしょ。
驚愕する俺を他所に、ミュウは尻尾を振りながら首を傾げていたイーブイと、興味なさげな相変わらずの真顔のピクシーに雑誌のページを開いて見せつけている。
「ぴーちゃんはこれかな〜、ムーンボール!!月の石関連の子はこれでグッとお洒落度が上がるよ〜。でも、色合い的にヒールボールも似合いそうなんだよね〜」
『………』
ミュウのマシンガントークにも無反応なピクシー。
「タバコ吸ってきていい?」くらいの感覚の「指振ってきていい?」という視線を感じたので頷いてやると、黙って立ち上がって退出していった。
「ぶいちゃんはぁ〜、これかなぁ〜、ヘビーボール!!最近おやつばっか食べて体重も増えたみたいだしマスターに対して重い女だし、ピッタリだよね!ぷぷぷ……」
『ブイッ!?ブイブイブイブイッ!!!』
いつものようにイーブイをおちょくって遊び出したミュウと、抗議するように吠え始める……からかわれていることに未だに気づかないイーブイの漫才を見て、ふと思い立った。
「行くか。ジョウト地方のヒワダタウン」
せっかくだし、色んなボールを作って貰おう。
開幕早々シリアスだ!助けてミュウ先生!
オシャボ勢とはポケモンのカラーリングやイメージに合わせて入れるボールを厳選するプレイヤーたちのことです。
過激派オシャボ勢はハイパーボールとクイックボールを蛇蝎の如く嫌っています。
ストーリー終盤以降に手に入りやすくて使い勝手がいい代わりに、実用性が先行しすぎてポケモンへの愛情が感じられないからだとかなんとか。
ちなみにモンスターボール以外を認めない派閥も存在する、愛情と闇の深い界隈です。