☆ジョウト地方・ヒワダタウン
「今忙しいんやっ!!面会なんぞやってられるかっ!!」
俺たちは、特別なボールを作ってもらうためにヒワダタウンにある、とある工房を訪れていた。
……だったのだが、工房の奥から、イライラしたように怒鳴り声をあげるご老人……現代に現存する唯一のボール職人ガンテツ氏に、けんもほろろに断られてしまっていた。
「ごめんなさいね。お父さん、最近ウバメの森に変な人たちがうろつくようになって近頃ちょっと機嫌が悪いの……。悪気は無いから気にしないで頂戴ね」
「いえ、ご無理を言ってしまい申し訳ありませんでした。また今度出直してきます」
ガンテツさんにボールを作ってもらうには、トレーナーとして御本人に認めて貰えなけばならないらしく、ガンテツさんの工房に来て早々に出迎えてくれた女性に面会希望と話していた。
面会を渋るガンテツさんの娘さんに、ガンテツさんにどうか合わせて欲しいと無理を言って頼み込み、「子供ならもしかして……」ということで声を掛けてもらったのだが、どうやら無駄足になってしまったようだ。
目を輝かせてあたりを見回しているミュウが、まわりの物を変に弄らないように襟首を捕まえながら、お手を煩わせてしまった女性に頭を下げる。
俺も色んな種類のボールには興味があったのだが、残念な結果に終わってしまった。
「え〜、そこに飾られてるやつとか買っていこうよ〜。私のお金結構あるでしょ〜?」
「あのボール一個で別荘が一軒建つ値段だぞ」
通称ガンテツボールといわれるこのシリーズは、ジョウト以外の地方含めてもガンテツさんにしか作れないとされているため、べらぼうに値段が高い。
そんな希少価値の高いボールを大衆が読む雑誌にオススメとして載せているあたり、「Dのメタグロス」とやらはよっぽどのブルジョアなのだろう。
オツキミ山での出来事以降も、ミュウがそのへんで拾ってくるお宝を換金しているのでそれなりの貯蓄にはなってはいるが、それでも到底届きそうにないくらいには高額なのだ。
「ぶー、もういいもーん。ご飯食べて早く帰ろー。ジョウト観光ブックに載ってたヒワダタウンの『ヤドンのしっぽ亭』の『旬のキノコと山菜定食』、楽しみだったんだよねー!!」
すでにボールに興味を失ったミュウが、さっさと切り替えて楽しそうに鼻歌を歌いながら先行する姿を見て、思わず苦笑が漏れる。
そんなミュウの後ろをついて歩きながら、初めて訪れたヒワダタウンの町並みを見渡してみる。
普段ならば田舎らしいのどかな雰囲気が流れる町なのだろうが、今は人通りが少なく、住民とおぼしき人たちには何やらピリついた空気感が漂っている。
おそらくその原因になっているのが、今も俺たちとすれ違った、物々しい雰囲気で最新らしき機材を抱えてうろついている明らかに余所者といった身なりの男たちなのだろう。
なにやらポケモンセンター付近からウバメの森への入口あたりまでの道程を行き来して、森の中へ機械を運び込んでいるようだ。
複数人でまとまって行動している上に、住民たちに対しても愛想が全くないので住民たちも関わらないようになるべく避けて歩いている姿がところどころで伺える。
何らかの研究調査のためか、はたまた危険なポケモンがウバメの森に逃げ込んだのか、何にせよきな臭いことには変わりなく、随分とタイミングの悪い微妙な時期に
そんなことはお構いなしに歩くミュウの後ろで、ご飯食べたらさっさと帰ろうと、心の中で決めたのであった。
──────────
「ごめんねぇ、今はお店閉めちゃってるの。ウバメの森で収穫した新鮮な食材で作ってるんだけどねぇ、変な人たちがうろつくようになってからは危なそうで採りに行けなくなっちゃってね。申し訳ないけど今度また来て頂戴ね」
定食屋『ヤドンのしっぽ亭』に意気揚々と入店しようとしたミュウに、偶然近くにいたお店の方から掛けられた言葉である。
向かいのミュウの顔を見てみると、ぷくぅ〜っと柔らかくてモチモチのほっぺたをプックリと膨らませており、中には不満がたっぷりと詰まっている様子が容易に見て取れる。
こういう時は唐突に何をやらかし始めるか分からないため、先手を打っておくのが無難である。
「じゃあ俺たちで採りに行こうか。採れたての新鮮な山菜とキノコで美味しい天ぷらでも作ろう」
お店の人に会釈して離れてから、不機嫌そうなミュウにそう言ってやった。
実際俺も楽しみだったのだ、山菜定食。
ウバメの森は立入禁止のエリア以外ならば常識的な範囲での山菜やキノコの収穫は許可されているため、ちょうどいいだろう。
「………!!うんっ!!いっぱい採っちゃお〜♪」
ミュウの可愛らしい不満顔が一転、新しい楽しみを見つけたことで満開の笑顔を浮かべて、機嫌良さげにウバメの森へとその足を向ける。
ウバメの森を行き来している怪しい男たちだけが気がかりだが、最悪ミュウの能力によるゴリ押しで何とかするとしよう。
こうも奴らに振り回されると、些細な反抗の一つでもしたくなる。
……山菜採りが反抗になるとは思ってはいないが。
こうして、俺たちはウバメの森へと向かったのであった。
──────────
「そろそろだ。親父が
野心に溢れた鋭い眼差しが特徴的な青年が呟く。
「若、観測班が時空の揺らぎを感知しました。ターゲットはもう間もなくこの森に現れるはずです」
「来たか……!!全捜索班を導入しろ!!ヤツは弱りきっているはずだ!!樹木の洞から木々の隙間まで、文字通り草の根を分けてでも探し出せ!!見つけた奴には追加ボーナスをたんまりくれてやる!!」
青年が重宝している側仕えの男の報告を受けて、はやる気持ちを抑えながら指示を出す。
この日のためだけに数年間にも及ぶ入念な準備を重ねた。
自治体にも金をばら撒いてここ最近の自分たちの活動を黙認させた。
そして………そんな努力が報われる瞬間がようやく訪れたのだ。
青年がこのために雇用している男たちが慌ただしく動き出すのを確認しながら、周囲に届かない小声で口の中で言葉を紡ぐ。
「親父……、俺はあんたと同じヘマはしない。ヤツを手に入れて全てを支配するのはこの俺だ……!!
待っていろ、セレビィ……!!」
過去から逃げてきた伝説に、過去に追い詰めた男の野望を引き継ぐ者が、鋭く研ぎ澄ました牙を剥けようとしていた。
──────────
「あっ!!あった〜!!なんか面白そうなキノコ〜♪
……あっ!!あっちにもいっぱいあるっ!!」
「おーい、ミュウー!!あんまり遠くに行くなー!!
……まったく、どんだけ収穫するつもりなんだ……」
山菜とキノコでいっぱいになったバスケットを抱えながら、ちょこまかと揺れ動くピンク色の後ろ髪を追いかけて薄暗い木々の隙間を歩く。
何度か何かを探している男たちと遭遇したが、俺たちがキノコと山菜採りにきた子供だと分かると、構っている時間も惜しいとばかりに舌打ちしながら捜索へと戻っていった。
もっと絡まれるかとも思っていたが、案外拍子抜けであった。
一応、一つのポイントで採りすぎないように注意はしているのだが、ミュウが次から次へと見つけてくるため、もうすでに十分な量が集まっている。
そろそろ帰ろうかとミュウに声を掛けようとしたところで───
『─────』
「………?」
何かが聞こえたような気がした。
周りを見回しても、使用している虫よけスプレーのせいか、近くには野生ポケモンの気配すらない。
それでも今の感覚が気になって………直感で、近くにあった一本の大きな木へと近づいてみた。
何となくその木にできていた洞穴を覗いてみると
「………セレビィ?」
黄緑色の植物の球根のような形の頭に、背中に羽根が生えている妖精のようなポケモン──伝説のポケモン、セレビィのグッタリと倒れた姿がそこにあった。
──こうして彼と彼女は邂逅を果たす。
山菜やキノコを採る人は、そこが私有地かどうか、許可が出ているかどうか、必ず事前に確認しよう!
ボーナス目当てで探している男たちは、少しでも時間が惜しいために主人公たちをスルーしました。
近隣住民の人たちは、これより前に、人払いのために追い払われたり嫌がらせを受けたりしていました。