ミュウと過ごす楽しいポケモン世界   作:初手零度

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森の迷い子

 

☆ジョウト地方・ウバメの森

 

「ポケモンをボールに戻して両手を上に挙げろ」

 

 絶賛大ピンチ中である。

 

 取り敢えず言われた通りにピクシーをボールに戻してから、バンザイ状態で両手を真上に挙げた。

 

『ミュ?』

 

 透明化して俺のすぐ近くにいたミュウが「どうする?()っちゃう?」といった趣旨の問いかけをしてくる。

 

(こうなったらそれしかないか………)

 

 ミュウにそう頷いて……流石に気絶程度で頼むと注文しようとしたところで、思わぬところから救世主がこの場に現れた。

 

「──何しとるんやっ、お前らァッ!!!よってたかって子どもを取り囲んでなんのつもりやぁっ!?」

 

 耳をつんざく怒声と共に、男たちの背後から一人の老人が現れる。

 鬼の形相で怒鳴り散らしながら大股で歩いてくるご老人──ガンテツ氏の登場によって、この場の空気に変化が訪れた。

 

(……おい、どうする?ガンテツ(こいつ)には関わるなって指示が出てるだろ?)

(あの男に手を出したら協会も黙ってないだろうからな……。多方面で影響力のある人物の恨みを山ほど買うことになるぞ)

(そもそもどういう状況だよこれ。あいつらはあの子ども一人に負けたのか?)

 

 問答無用で拘束しようとしていた雰囲気から一転して、距離を取って状況確認と様子見に務める展開に。

 

 やがて作戦会議が終わったのか、顔を真っ赤に染めたガンテツ氏を刺激しないように気を付けながら、一人の男が歩み出て話しかけてきた。

 

「驚かせてすまなかった。我々の仲間が君のポケモンに襲われていたのではと思ってな。できればここで何があったのか説明してほしいのだが……」

 

 腕を組んでガンを飛ばしているガンテツ氏をチラチラと見ながら、俺に対して下手に出てくる目の前の男。

 ここは、せっかく舞い降りた救世主に頼る他無いだろう。

 

「それが俺もさっぱり。突然攻撃されたので正当防衛として無力化しました。バトルの腕には自信があるので……。それよりもそろそろ帰らないと家族に心配されてしまうのですが……」

 

 あくまでもシラを切って、素知らぬ顔で被害者面しておく。

 先程眠らせた男たちが起きてくると面倒なことになるので、できる限り早くこの場を去りたい。

 

「いいか、お前ら!!他の人や森のポケモンたちを傷付けたらタダじゃおかんからな!!分かったらさっさとウバメの森とヒワダタウンから立ち去れやァッ!!!」

 

 結局、怪しい男たちはガンテツさんが追い払ってくれて、この場においては、何とかセレビィとついでにミュウの存在を隠し通すことができたのだった。

 

──────────

 

「おう、もう大丈夫やで。ちっこいのに災難やったなあ。しかし見ない顔やな。どっか遠いところから来たんか?」

 

 ヒワダタウンに戻る途中、同行するガンテツさんがこちらに気を遣っていろいろと話しかけてくれた。

 

 ……正直に言って、セレビィの件は俺一人で抱えるには荷が重すぎる。

 あの男たちは十中八九、セレビィを探しているのだろう。

 このままセレビィをタマムシ孤児院に連れて行くこともできるが、あの男たちに顔も見られたことを考えると、最悪の場合、孤児院にまで迷惑が掛かりかねない。

 

 ミュウは伝説のポケモンではあるが、言ってしまえばただの珍しいポケモンでしかない。

 それに比べてセレビィは、「時渡り」という人知を超えた能力を持つ、森の守り神とまで云われる伝説のポケモンであり、その関係のトラブルに巻き込まれて無事でいられるかは難しいところだ。

 

 俺は決して自分を勘違いしたりはしない。

 俺は万能な超人でも選ばれし特別な存在でもなく、ただの人間の子どもに過ぎないのだから。

 

 ガンテツさんは信頼できる大人だ。

 だからこそ相談するべきだろう。

 

 セレビィのこと、あの男たちのこと、そしてこれからのことを。

 

「ガンテツさん、相談したいことがあるんです。どうか話を聞いて貰えないでしょうか」

 

 誠意を込めて、真剣に相手の顔を見ながら伝える。

 そんな俺の言葉が伝わったのか、快く彼のボール工房兼自宅へと案内してくれた。

 

 ──そしてそこでセレビィについて、俺が知りうる限りの全てを伝えた。

 

──────────

 

☆ヒワダタウン・ガンテツ宅

 

「せやか……このポケモンが森の守り神……か」

 

 ボールから出した意識の無いセレビィの治療を終えて、凍えきっていた体を温めるために畳に敷いた布団へと寝かせた。

 

 そこで、セレビィというポケモンについてと、おそらくあの男たちに追われていたということ、過去と未来を自由に行き来できる「時渡り」という能力についても全て話した。

 ちなみに、ミュウについてもすでに話しており、今は人の姿になって、ガンテツさんの娘さんとお孫さんと一緒に採ってきたキノコと山菜で夕飯を作ってもらっている。

 

「今から十年くらい前やがな、おんなじような男たちがウバメの森でコソコソやってた時期があったんや。今思うとその時の目的も守り神様だったかもしれんわ。もしかしたら守り神様はその能力を使って今の時代へと逃げてきたのかもしれへんな……」

 

 ガンテツさんは俺の話を真剣に聞いた上で、実際に受け入れてくれた。

 

「とにかく今は守り神様の回復が先決や。あいつらに関してはワイも信頼できる伝手をあたってみるわ。アルト君もゆっくり休むとええで」

 

 いたれりつくせりでガンテツさんには本当に頭が上がらない。

 結局俺はずっと目を覚まさないセレビィが気になって、夕飯を頂いた後もずっとセレビィの側に付きっ切りになっていた。

 

──────────

 

 気がついた時には薄暗い森の中にいた。

 

(これは、夢か?)

 

 さっきまで寝ているセレビィの側で様子を見守っていたはずだ。

 なのに今は木々に囲まれた中に浮いているような不思議な感覚。

 

〈──こわい〉

(──っ!?)

 

 ふと脳裏に不思議な声が響く。

 

〈──ポケモンがこわい〉

 

 ──その声と同時に周囲に黒いシルエットが浮かび上がる。

 

 頭部から生える禍々しい角に、猟犬のような黒い影……ヘルガーの姿をしたそれが遠吠えをすると、次々と同じ姿の影が現れる。

 暗闇に閉ざされた木々の隙間から不気味に光る眼差しを向けてくる不吉な黒い鳥……ヤミカラスたちの粘着く視線が全身に粘液のように絡みついて離れない。

 鋭い鉤爪をジャキジャキと見せつけるように打ち付けて鳴らし、意地の悪い顔で嘲笑う黒猫……ニューラたちが愉悦を浮かべた顔で舌舐めずりをする。

 

 ───直後、全身に走る激痛。

 

 手足に牙が食い込み、胴を抉る鋭い引っ掻き。

 焼けるように熱く、凍えるように寒い。

 

「……かっ、はぁっ……」

 

 これは記憶だ。

 セレビィが受けた残虐なる数多の仕打ち。

 全身を打ち据える暴威の連続に、悲鳴を漏らして実体のないはずの体を丸めてひたすら耐え忍ぶ。

 

〈──ニンゲンがこわい〉

 

 頭に響く声と共に黒い人影が周囲を取り囲む。

 

 贅肉を揺らして狂ったように哄笑を上げる巨漢の男。

 底冷えするような、まるで壊れかけの道具でも見るような無感情の冷めた視線を向けてくる黒づくめの男たち。

 体の奥底から湧き上がる恐怖に、全身の痛みと肌を突き刺す寒さとは関係無しに体がブルリと震え上がる。

 

〈──このセカイがこわい〉

 

 それはセレビィの心の声。

 理不尽な暴力の数々から、己の心を閉ざすことで自分を守ろうとする、至極当然な防衛本能。

 胸を掻き毟りたくなるような、幼い悲痛の叫びが俺の頭と心を覆い尽くす。

 

(…………それでも)

 

 それでも、思い浮かべるのはピンク色の少女の笑顔。

 気分屋で、自分勝手で、傲慢で………純粋で、意外と優しくて、愛おしい、少女の姿。

 彼女の笑顔を皮切りに、皆の顔が頭に浮かぶ。

 

 ぶいぶい鳴きながら尻尾を振るイーブイ(相棒)

 相変わらずの無表情で、けれど心から楽しそうに指を振っているピクシー。

 同年代の友人で、尊敬し合えるライバルのレッドとグリーン。

 孤児院の兄妹、先生、教授、オーキド博士、ガンテツさん……それぞれ個性豊かで魅力的で、優しい人々。

 

「この世界は、楽しいよ」

 

 精一杯の想いを告げる。

 この溢れんばかりの想いも、セレビィに伝わったと信じたい。

 セレビィの悲哀と悲痛の記憶を俺が感じたのと同時に、俺のこの想いもセレビィは感じ取ったはずであろうから。

 

「楽しいこと、面白いこと、驚くこと、この世界にはまだまだたくさんあるんだ。俺はそれを見つけるために生きる。君も、これから探していけばいい」

 

〈…………………〉

 

 セレビィからの返事はない。

 でも、そんなことは関係無い。

 

 俺はこの世界に来てから過ごした、長いようで短い日々を記憶と共に振り返った。

 さながら人生上映会だ。

 

〈…………………〉

 

 どうか、絶望で心を閉ざそうとしている幼子に、この想いが届きますように。

 

 

 

──────────

 

 

 

 

「──マスター起きてぇっ!!!!」

「──んぐぇっ!?!?」

 

 せっかくいい感じに思い出上映会していたところを、ミュウの"ボディプレス"で強制的に叩き起こされた。

 

(なんかいい感じだったのに………!!!)

 

 どうやらセレビィのすぐ側でいつの間にか寝入ってしまっていたらしい。

 薄暗い室内に障子の隙間から朝日が差し込み始めている。

 とりあえず穏やかな寝息を立てて寝ているセレビィの姿が視界に入ってきて、ほっと一安心だ。

 

「ミュウ、もうちょっと優しくだな──」

「大変だよっマスター!!!」

 

 俺の苦情も何のその、心なしか楽しそうな雰囲気のミュウがグイッと顔を近づけてまくし立てる。

 

「──お家、変な人たちに囲まれちゃってるよ!!!」

 

 ………なんでそんな楽しそうにしてるんだ。

 

 どうやら、このまま何事もなくハッピーエンドで終わらせてはくれないらしい。

 

 




ジョウト弁はあんまわからないんや。違和感あるかもしれへんけど堪忍やで。
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