始まりの決意
俺は、物心がついた時に自分が現代日本からの生まれ変わりなのだと理解した。
両親がおらず、カントー地方タマムシシティの孤児院で育てられた俺は、ふしぎな生き物「ポケットモンスター」縮めて「ポケモン」たちとともに幼少期を過ごし、この世界のどこにでもいる一人の平凡な少年として新しい人生を謳歌していた。
正確には孤児院のポケモンたち、ニャース、キャタピー、ベトベター、イーブイといった彼らと触れ合い絆を深めていくうちに、前世の記憶として持っていたデータ上の数値に意味を見出せなくなり、知識チートでポケモンバトルを無双してやるぜ!!という気概も湧かず、トレーナーとして活躍したいという感情は、他の熱意のある子供たちほど持ち合わせてはいなかった。
そんな考えのままポケモンたちと毎日楽しく遊びながら過ごして晴れて5歳になった俺に、考えを改めざるを得ない出来事が起きた。
孤児院の子供たちが夢中になって観戦しているトップトレーナー同士の試合を俺は今まで真面目に観たことは無かったのだが、たまたま一緒になって観戦することになり、イーブイを抱き締めながらその戦いを観終えた頃にはあまりの衝撃にショックでその場を動けなくなってしまった。
俺が感動していると勘違いしたバトル大好きの年上の男の子に「どうだ?すごいだろう?」と自慢気に胸を張られたのに対して適当に返答しつつ、先生にお願いして他地方のトップリーグの試合動画を再生してもらい、食い入るように手当り次第に観戦した。
その結果分かったのは、どの地方でも同じポケモンたち、いわゆる600族と呼ばれる高種族値を誇るポケモンや、強力な特性、技などを扱えるポケモンたち、ゲーム時代に活躍していたポケモンしかトップ層では活躍していないことが分かったのだ。
流石にサンダー、スイクン、ランドロスにカプ系統などといった強力な準伝説ポケモンはいなかったが、それでもいわゆる強ポケといわれる同じポケモンたちの姿しか見えなかった。
カロス地方では、お互いのメガガルーラがお互いのパーティーを蹂躪し尽くし、最後には"すてみタックル"の撃ち合いで相打ちになって大歓声で終わった試合があったり、アローラ地方では、化けの皮を盾にして相手の攻撃をいなしたミミッキュが"つるぎのまい"からのZ技で無双していく試合があったりなど、観たこと無いのに見たことある展開の試合ばかりで、たくさんの試合を観戦した俺の中にある思いが芽生えた。
(ポケモンの可能性はこんなものじゃない)
ゲーム時代であれば、その世代の対戦環境を考慮したトップメタの対策を含むパーティー構築や持ち物、努力値振り、技や特性の選択。
そして、繰り出す技や交代先の選択に読み合い、技の命中率、追加効果、急所に当たる確率などの運要素までも絡み、それらの全てから的確に最適解を選び続けて、運までも味方につけたトッププレイヤー同士の対戦で手に汗握るほどに熱中することもあった。
かくいう俺もそんなプレイヤーのうちの一人であったのだが、ポケモンたちと触れ合い、その体温を、感情を、愛を感じて育った今の俺にとっては、今も俺の腕の中で可愛らしく首を傾げているイーブイを、ただのデータの固まりと見做すことなど到底受け入れられることではなかった。
今のポケモンバトルは大金を使った殴り合いだ。
それがいくつもの試合を見て、熱心に大人たちに聞いて回ったり、有名なトレーナーのインタビュー記事を自分で調べたりして得た俺の結論だった。
優秀なトレーナーにはスポンサーが付き、専門の業者が取り扱う個体値が高く特別な特性や技を持った親から生まれたバトルの才能を秘めるタマゴが超高価格で取引され、そんなタマゴから生まれたポケモンは、生まれてから一度も余計な戦闘をさせずに高価なドーピング薬を大量に投薬されて育てられ、すっかり固まった戦略と固定概念の元に種族的に優れたポケモンたちが強力な技を撃ち合うだけの試合。
見応えだけなら、色んな種類のポケモンや技と戦略を見られるマイナーリーグの方がまだある方だと思ってしまったほどだ。
大量の
そして肝心の"すてみタックル"を使える高個体値のガルーラのタマゴまで含めて、金に物を言わせて全てのアイテムをかき集めて、さらにさらにそれらをパーティー6体分用意することができれば、例えトレーナーが無能だとしてもマイナーリーグでは全てをゴリ押しで薙ぎ倒せるほどの力を発揮することができる。
基本的に"グロウパンチ"から"すてみタックル"を指示しているだけで、トップリーグに上がれる一流トレーナーの完成だ。
ここらへんの知識はトレーナーの生命線になるため公にはされていない情報だが、俺の前世の知識を元に調べて、それらのアイテムの存在を確認した上で同様の効果を持っているという推測の裏付けも取れた。
その上で改めて言おう。
ポケモンの可能性はこんなものじゃない。
別に最強のトレーナーになって世界に証明したいわけではない。
俺は、俺自身に証明したいのだ。
長々と語ってしまったが結局俺のやりたいことは一つだけ。
せっかくこんな素晴らしい世界に転生したのだから、行きたいところに行き、食べたいものを食べて、見たいものを見て、そしてその過程で既存の常識に縛られないポケモンの限界を超えた可能性を確かめたいのだ。
………やりたいことは四つだった。
とにかく、俺はこの世界を旅することを今この瞬間に決めたのだ。
「お前は一緒に来てくれるか?イーブイ」
『ブイッ?ブイッ!!!』
俺の言葉を分かっているのか分かっていないのか、俺の腕の中で尻尾を振りながら元気よく返事してくれるイーブイ。
孤児院にいる他のポケモンたちとも仲は良好だが、とりわけいつも一緒にいる彼女のふかふかの毛をモフりつつ、先生にこのイーブイを譲って貰おうと心に決めたのだった。
インターネットで手軽に情報を調べることができて孵化厳選や効率的なお金稼ぎが手軽にできたゲーム時代とは違い、そもそもの厳選育成環境の構築が恐ろしくハードルが高い。
そんな大金を掛けて育てられた理想個体に近い(トレーナーや調教師の知識によって欠けはあるし孵った時点での
それらの敷居の高さからトップリーグの対戦はマンネリ化(主人公にとっては)しているため、そんなテンプレなんかよりもゲームじゃできなかったことがやりたい!!という主人公のお話