ミュウと過ごす楽しいポケモン世界   作:初手零度

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中庭の戦い1

 

「人間ってのはなぁ、欲深い生き物なのさ。その価値を真に理解していなくても珍しいポケモンを捕まえたなら手放したくなくなるってもんだ。セレビィがあんなしぶとく逃げ回るのは想定外だったが……、お前持ってんだろ?セレビィのボールをよぉ!そりゃそうだよなぁ!手放すなんて惜しいもんなぁ!?何も逃げ回るセレビィをバカみたいに追っかけ回す必要はねぇ。お前からボールを奪ってボールの機能でセレビィを戻せばそれで済む話だからなぁ!ククク……ガキの浅知恵で大人を誤魔化せる訳ねえだろ?」

 

 突然家内に上がり込み、土足でズカズカと部屋に踏み込んできた目つきの悪い青年とその側仕えらしき男。

 まるで名推理を披露する探偵のように嬉々として長々語っていたが、内容はほとんど間違っている。

 なのに何故か答えにたどり着きそうになっている。

 

 とっさにセレビィ(答え)を押し入れの中に隠したが、見つかってしまえばゲームオーバーだ。

 

「さあ、痛い目に遭いたくなければさっさとボールを出すんだな」

「…………」

 

 歯茎を剥き出しにして笑う青年。

 彼の話を無視して、障子を突き破りながら全力ダッシュで中庭へと走った。

 

 とりあえずセレビィから距離を取る。

 ───そして、正面からあいつらをポケモンバトルで打ち破る。

 やるしかないのだ。

 

「おいっ!待てやコラァッ!」

 

 身なりはいいのにガラの悪い青年の、チンピラみたいな叫び声を背中で受け止めて、木板の廊下をダッシュして何とか中庭へと転がり込んだ。

 ガンテツさん宅が古き良き和風建築で助かった。

 ……弁償はボコボコにした奴らにさせるとしよう。

 

「──おいこらクソガキ、てめぇよくも逃げてくれたな?どうなるか分かってんだろうなぁ?あぁ!?」

 

 やはり子供と大人の脚力の差では逃げるにしてもこの程度が限界だ。

 でも、それなりの広さがある中庭に出られれば十分だ。

 

「……イーブイ、ピクシー、頼む」

『ブイブイィッ!!』

『…………!!』

 

 手持ちの二体を繰り出す。

 ミュウが大多数を惹きつけてくれている以上、この二体だけで戦うしかない。

 

「ああん?そういえばバトルの腕は悪くないんだってなあ?……だが、お生憎様、こう見えて俺はエリートトレーナーなんだぜ?本物の戦いってやつを教えてやるよ!いけっ、ヘラクロス!!」

 

 凄む青年が繰り出したのは大きな一本角を持つカブトムシ型のポケモン、ヘラクロス。

 ……なのだが、様子がおかしい。

 

 まず、普通のヘラクロスよりも両腕や両足が丸太のように太く、図体も一回り以上に大きい。

 自慢の角も同様に太く、長く、尋常ではない威圧感を解き放っている。

 

 だが、何よりも異様なのは、赤く血走った目がギョロギョロと忙しなく動き、荒い息を吐く口端からは唾液がボトボトと零れ落ちているところ。

 本来ヘラクロスという種族は縄張りを荒らす敵対者には果敢に立ち向かう勇敢なポケモンだが、それと同時に腹を空かせた自分よりも弱い虫ポケモンに自身の好物である甘い蜜を譲るといった行動も見られる心優しきポケモンでもある。

 無論、個体差もあるのでやたらと好戦的で暴れることが好きな個体も存在するだろうが、これ(・・)は明らかにそんな常識の範疇を逸脱している。

 

『……コフゥ……コフゥ……』

 

 唾液と共に漏れ出る苦しげな吐息。

 耐え難い頭痛を感じているのか頭を抑えて少しでも苦痛から逃れようと体を捻っている。

 

「こいつは世にも珍しい特殊な個体でなあ。生まれ持った天性の器に人間様の科学力が合わさって完成した傑作だぜ。確か『破壊の遺伝子』とか言ってたか。俺の命令でスイッチが入ると常軌を逸したパワーで手当り次第に暴れ回る正真正銘の化け物さ!」

 

 ───気持ち悪い。

 

 目の前の異様な姿のヘラクロスが、ではない。

 まるで道具を自慢するかのようにヘラヘラと笑いながら語る青年の態度、言動、思考………全てが、だ。

 

 こいつと言葉を交わす必要は無い。

 こんな奴とは永遠に相容れない、相容れるつもりもない。

 

 俺の静かな怒気を感じ取ったイーブイが唸りながら威嚇し、視線を鋭くしたピクシーが指を構える。

 

「……出てこい、ヤミカラス」

 

 青年の側仕えが繰り出したのは全身真っ黒な小さな鳥ポケモン、ヤミカラス。

 

 舞台の上に役者は揃った。

 

 絶対に負けられない、未来を賭けたダブルバトルの幕が上がる──

 

──────────

 

「ピクシー"しんぴのまもり"」

 

 アルト側の初手はヤミカラスの使う厄介な状態異常技への対策。

 同時に、最凶のあの技(・・・)を使うための下準備だ。

 

 トレーナーの指示に従い"ゆびをふる"ピクシー。

 そしてその背後へと隠れたイーブイ。

 フェアリータイプで耐久に優れたピクシーは、ヘラクロスの虫・格闘タイプの攻撃とヤミカラスの悪タイプの攻撃を半減で受けられるため、盾にして攻撃をやり過ごす算段なのだろう。

 

「ふっ、………やれ」

「はっ。ヤミカラス、"なげつける"」

 

 だが、自らをエリートトレーナーと呼称する青年は、人格はともかくバトルの知識については相応のものがあった。

 側仕えの指示で、登場した時から隠し持っていた道具をヤミカラスが投げつける。

 上空から放物線を描いて飛んでいったのは『火炎玉』。しばらく持ち続けることで自分が火傷状態に、もしくは相手にぶつけることで相手を火傷状態にさせることのできる道具である。

 

 だが、火傷状態にできればリターンの大きいイーブイはピクシーの影に隠れており、盾となっているピクシーが火傷状態になったところで、特性「マジックガード」でダメージを無力化できるピクシーにとってはほとんど影響は無いだろう。

 そもそも"しんぴのまもり"が発動している今、火傷状態にすらなることはない。

 精々ピクシーに小石がぶつかった程度のダメージを与えるだけで、ヤミカラスの貴重な行動機会とアイテムを失っただけとなる。

 

 ───だがそれは『火炎玉』をぶつけた相手がピクシーであるならば、の話。

 

 投げつけた先は……味方であるはずのヘラクロス。

 ヘラクロスの甲殻にぶつけられた『火炎玉』から放たれた炎が背中を伝い、足に、腕に、顔に、舐めるように全身を這い回る。

 

『グオオオォォォ…………!!』

 

 苦悶の叫びを漏らしたヘラクロスが、全身に伝う炎から逃れようと、わけもわからず自分を攻撃しながらシッチャカメッチャカに体を動かす。

 太い角が足元の砂利を打ち付けて、砂や小石がパラパラと音を立てて辺りに飛び散った。

 ただただ本能のままに暴れているだけで、その姿からはおよそまともな知性が感じられない。

 

「クックック……何をバカなことを、みたいなツラしてやがるな。いいぜ、特別に教えてやるよ。どうやらお前のピクシーは眠らせてくるって話を聞いてな。そうとさえ知っていれば対策は容易い。眠り状態になる前に別の状態異常にしちまえば問題はねぇのさ。おまけにヘラクロスの特性は「根性」だ。ただでさえ滅茶苦茶なパワーが更に上がるんだぜ。いい授業になっただろぉ?授業料はセレビィのボールでいいぜぇ……!」

 

 己のポケモンの狂乱ぶりに満足しながら、聞かれてもいないことを一方的に話し始めた青年。

 もちろん、「何をバカなことを……」的な顔もしておらず、火炎玉のギミックも最初から全部知っていて終始真顔だったアルトはそんな相手の好意(慢心)に甘えて、先程から準備していた技の指示を出した。

 

「"アシストパワー"」

『──フィィィッ!!』

 

 【形態変化・陽光念力】

 艷やかな桃色の毛並みに額で輝く赤い宝玉。

 二又に別れた尻尾をゆさりと振って、ピクシーの背後から現れたエーフィの姿をしたイーブイが念動力によってつくられた帯状のエネルギー弾を複数放つ。

 

 青年の意気揚々とした語りをガン無視して積み重ねられた"めいそう"によって、すでにその威力はエスパータイプの高威力技"サイコキネシス"を上回っているほどであった。

 今も狂ったように自傷しているヘラクロスの巨体へと一斉に迫りゆく念動弾は、その一発一発が強烈な威力を秘める。

 

 ──しかし、これはダブルバトルである。

 

 ヘラクロスにエネルギー弾が着弾する直前、両者の間に割り込まれる黒い影。

 ヤミカラスが空中で己の黒い翼をめいいっぱい広げて、エーフィの放った"アシストパワー"をその体で真正面から受け止める。

 悪タイプのヤミカラスにはエスパータイプの"アシストパワー"は効果がないために、高威力の攻撃技も、何事も無いようなけろりとした顔でかき消してしまう。

 

 それでも、ヤミカラスの小さな体では全ての攻撃を受け止めることができず、翼や足の隙間を抜けて背後のヘラクロスへといくつかのエネルギー弾が命中する。

 効果抜群の攻撃を受けたヘラクロスだが、全身を包む硬い甲殻がエネルギー弾を(はじ)き、目に見えてダメージを負っている様子はない。

 

「……………!!」

『フィィッ!?』

 

 アルトとエーフィ(イーブイ)が初めて驚愕と動揺を顔に浮かべた。

 全弾命中とは言えずとも、エーフィの元々高い特攻に"めいそう"によって底上げされた状態で放たれた技が、大したダメージを与えていない。

 つまり、そこから導き出されるのは───

 

「ハハッ!お前のポケモン随分レベルが低い(・・・・・・)なぁ?そんなんで本当に勝てると思ってんのかぁ?」

 

 それは純粋なレベル差。

 "ふしぎなアメ"によってドーピングされたヘラクロスの力にイーブイの力が追いついていない。

 

 そして、僅かとはいえ攻撃を受けたヘラクロスが黙っている道理もない。

 

「へっ、今度はこっちの番といくかね!

 ヘラクロス!!"メガホ──"『グラアアアアアアァァァッッ!!』………ちっ」

 

 青年の指示を大気をビリビリと震わせる咆哮でかき消して、血走った目の焦点をエーフィ(イーブイ)とピクシーへと定める。

 敵対者目掛けて、異様に太い足で地面を踏みしめて突進していくが、その動きはレベルと比較するとどこか、のろまだ。

 このヘラクロスは、攻撃力と耐久力を大きく向上させた代わりに、重すぎる巨体のせいで機動力に乏しいという弱点を抱えていた。

 

 だが、そんなのは青年たちも分かりきっていること。

 

「ヤミカラス、"おいかぜ"」

 

 ヘラクロスの背後から吹き付ける追い風。

 直後、ヘラクロスのスピードが倍近くまで加速する。

 青年が重宝するだけあり、側仕えも、パートナーのヤミカラスも、サポーターとして一流の技能を身に着けている。

 

「っ!ピクシーっ!"コットンガード"!」

『…………ピッ!』

 

 ピクシーの素早さでは回避は間に合わない。

 そう判断したアルトがヘラクロスからの攻撃に備えるために守りを固める方針を取る。

 

 フリフリと揺れるピクシーの指先から、モコモコの綿がどんどんと溢れ出てくる。

 やがて、物理的な衝撃を大きく和らげる綿の障壁が出来上がり、ピクシーの防御力をググーンと上げた。

 

『グゥラアアアァァァッッ!!!』

 

 ギリギリで展開が間に合った綿の盾に、ヘラクロスの巨腕が力任せに叩きつけられる。

 大量の綿が宙に舞い散り、勢いに押されたピクシーの体が僅かに後退った。

 

 ──だが、怒れる破壊神となったヘラクロスの攻撃は、この程度では終わらない。

 

『グゥオオオオオオォォォッッ!!!』

 

 鬼気迫る叫びと共に、怒涛の勢いで飛び交う乱打。

 ヘラクロスが技を発動したのか、もしくは滅茶苦茶に振り回される剛腕が技と判定されたのか定かではないが、とにかくその"インファイト"は恐ろしい威力の乱打の嵐であった。

 "コットンガード"の盾の裏に、エーフィが密かに重ねていた"リフレクター"が無ければ、ピクシーはとっくに戦闘不能になっていたかもしれない。

 

『ピッ、ィッ………!!』

 

 たまらず漏れ出るピクシーの苦悶の声。

 

 財力に物を言わせた強力なポケモンに、ポケモンとの信頼も絆も、トレーナーの技術も読み合いも存在しない純粋な暴力のみが勝敗を左右するこの状況。

 奇しくもアルトが毛嫌いする、トップリーグのトレーナーがマイナーリーグのトレーナーを一方的に潰す光景とよく似ていた。

 

 だからこそ彼の心に火を付ける(・・・・・・・・・・・・・・)

 

「イーブイ!【形態変化・疾風迅雷】!"こうそくいどう"!先にヤミカラスを仕留めろ!

 ピクシー!頼む、何とか耐えてくれ!」

『──ダアアァッス!』

『…………ピィッ!』

 

 サンダースに形態変化したイーブイが地上を加速しながら駆ける。

 ヘラクロスの猛攻を凌いでいたピクシーに向けて何かの技を発動しようとしていたヤミカラスが、慌てて木々の隙間を縫うように飛んで逃げ始めた。

 中庭に立ち並ぶ立派なぼんぐりの木を足場に、高速の鬼ごっこが始まる。

 

 そして地上では正気を失いながら大暴れするヘラクロスと、じっと体を丸めて激しい猛攻を耐え凌ぐピクシー。

 格上相手にどれだけ時間を稼げるかが、バトルの勝敗へそのまま直結することだろう。

 

 セレビィを賭けたバトルは続く─────

 

 

 




『はかいのいでんし』……第2世代(金・銀・クリスタル)限定のアイテム。攻撃が二段階上昇する代わりに混乱状態になる。ハナダの洞窟の奥深くに潜む、とあるポケモンの遺伝子らしい。
ちなみにダブルのヤミカラスはガチです。今回登場したヤミカラスの特性は「ふみん」だけど……。
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