ミュウと過ごす楽しいポケモン世界   作:初手零度

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最後まで一気に書きたかったのでいつもより長め
※残酷な描写有りに変更しました。念の為ご留意下さい。


中庭の戦い2/油断の代償

 

『"ゆびをふる"で発動する技を自由に選べる』

 

 その字面だけ見れば最強に見える技術だが、当然、そう簡単な話ではない。

 

 まず、第一に技による対策が容易だ。

 "ちょうはつ"や"いちゃもん"などの技の発動を縛る妨害技に弱く、"うらみ"や"おんねん"などでPPを枯らされても機能停止してしまう。

 

 次に、失敗した時のリスクが非常に高い。

 訓練中によく見られる光景であるが、意図せず発動した自分の技で自滅するなど日常茶飯事だ。

 "キノコのほうし"でトレーナー諸共訓練場の床で眠りこけたり、発動した"とびひざげり"が直撃するすんでのところでギリギリ躱したトレーナー諸共訓練場の地面にダイブしたり、"だいばくはつ"でトレーナー諸共吹き飛ばして力尽きたり………

 他にも"ふぶき"で凍りついたり"ふんか"で黒焦げになりかけたりと、彼女(ピクシー)とは別のどこぞのピンク色の少女の爆笑を耳にしながらトレーナー諸共散々な目に遭ってきた。

 実戦で自滅なんてすれば……言うまでもないことであろう。

 

 そして根本的な話、そもそもこの技術自体が異次元レベルに難しい。

 どこぞのピンク色の少女のように出したい技がパッと出せるわけではなく、あくまでも乱数調整による状況再現によって発動する技を再現しているのだ。

 それこそ、0.1秒以下の誤差もなく、僅かなズレすら許されない、文字通りの神業である。

 つまり、手品の種さえ分かれば対策は簡単で、"ゆびをふる"ピクシーの指先を僅かにズラしてやるだけで(・・・・・・・・・・)、狙った技の発動は困難になる。

 

 とどのつまり、たった今この場で起こっているとおり、荒れ狂う暴力の嵐に晒された状態で精密な動作で"ゆびをふる"ことなど、不可能だ。

 

──────────

 

『グゥラアアアァァァッッ!!!』

 

 未だ留まることを知らない破壊の嵐。

 丸太のように太い巨腕以外にも、頭部から生えた黒光りする大角まで、狂ったように叩きつけるヘラクロス。

 実際、彼は狂っているのだろう。

 真っ赤に染まった目を見開いて、口端から液体を零しながら叫び、暴れるその姿は正常とは程遠い位置にある。

 

『ピッ………ィッ………』

 

 相対するピクシーは、"リフレクター"と"コットンガード"で殴打の威力を殺してもなお、全身傷だらけの満身創痍であった。

 反撃する隙も回復する隙も与えられず、ただひたすらに耐え忍ぶ。

 傍目から見ても、いつ崩れ落ちてもおかしくない程に劣勢であった。

 

 ヘラクロスの背後の青年は、格下の少年を圧倒的暴力で甚振る快感に身を浸し、歯茎を剥き出しにしながら己の勝利を確信して笑う。

 ピクシーの背後の少年は、嘲笑する青年には目もくれずにひたすらに打ちのめされるピクシーと暴れ回るヘラクロスを黙って凝視している。

 

 目の前の少年が自身の想定を超えた力に恐怖し、まともに指示も出せなくなったと推測した青年は嗜虐的な笑みを一層深める。

 

 だが、実際のところそれは全くの的外れだった。

 

 ヘラクロスが大角で前方を薙ぎ払うために、頭を背後に振りかぶる。

 その瞬間、黙っていたアルトが突然声を張り上げた。

 

「───しゃがめっ!!」

『───ッ!!』

 

 直後、反射的に伏せたピクシーの頭上を空振って、ヘラクロスの"メガホーン"が地面を抉り取って大穴を空ける。

 飛び散った破片や小石がピクシーの体を鋭く切り付けるが、一切表情を変えずにいつものように指を構えた。

 

「"じこさいせい"っ!!」

 

 失われた体力を取り戻す輝きがピクシーを包む。

 

 つまらなそうに舌打ちする青年と、ゆっくりと頭を戻してピクシーに再び狙いを定めたヘラクロスの赤い目を見ながらアルトは考える。

 

 ───あのヘラクロスよりもうちのピクシーの方がよっぽど狂ってるぞ、と

 

 己のトレーナーに失礼な評価をされた当のピクシーは、ボコボコに打ちのめされながらも表情を変えることなく常に"ゆびをふる"隙を窺っている。

 その異常なまでの精神力と忍耐力は並の人間もポケモンも到底及びもつかず、もはや狂気の沙汰と言ってもいい。

 

 そんな彼女の我慢強さ(頭のおかしさ)を心強く思いながら、彼の相棒に心の中で祈る。

 

(頼んだぞ………イーブイ………!!)

 

 力任せに腕を振り回すヘラクロスと一方的な攻撃に耐え続けるピクシーを注意深く観察しつつ、アルトは拳をぐっと握りしめてパートナーに全てを託した。

 

──────────

 

 ヤミカラスのトレーナー………側仕えの男は焦りを感じ始めていた。

 

 元々相手のポケモンとのレベル差は圧倒的で、自分たちがお膳立てしたあの化け物(ヘラクロス)が相手を蹂躪し、すぐに決着が着くバトルのはずだった。

 それが何故かあのピクシーはしぶとく耐え続け、援護させるはずだったヤミカラスは今もなお必死に逃げ回っている。

 

『ダアアァッスッ!!』

『カアアァッ!?』

 

 "おいかぜ"によって加速したスピードと、木々の影に紛れて視認しづらい黒い小さな体によって何とか逃げ切れてはいるが、地を疾走しながら追いかける相手のサンダース(?)のスピードが徐々に上がっている。

 恐らくは"こうそくいどう"によって素早さを上げているのだろうが、補足されるのも時間の問題だろう。

 

(まだ倒しきれないのか………!!)

 

 あくまでも自分とヤミカラスはサポート専門だ。

 主人の性格からして自分以外が目立つことをひどく嫌うため、ヤミカラスはまともな攻撃技を有しておらず、相性で不利な相手に一対一で挑んで勝てるとは思っていない。

 それでもあの化け物(ヘラクロス)の力は圧倒的で、近距離戦でアレ(・・)に打ち勝てるポケモンなど存在しないのではないかとまで思っている。

 あの少年の様子から他にポケモンを所持しているようにも見えず、ピクシーを撃破するまで自分はただ時間を稼げばそれでいい……はずだった。

 

 

 思うように進まない状況に、早く早くと焦る男は気が付かなかった。

 だが、例え目を凝らして観察していたとしても彼が気が付くことはなかっただろう。

 

 

 サンダース(イーブイ)が、ヤミカラスを仕留めるために必死で追い回しているように見せかけて、その追いかけっこ自体が目的だったこと、など。

 ………そして、イーブイがトレーナーに指示された下準備が、今ここで完了したこと、など。

 

 状況は突然にうってかわる。

 

「………なんだと!?」

 

 それまでギリギリのところでヤミカラスに追いつけなかったと思われていたサンダース(イーブイ)が、一気に加速する。

 ぼんぐりの木の幹を蹴り上げて宙を跳び、太い枝を足場にして跳躍し、あっという間にヤミカラスの眼前へ躍り出た。

 驚愕しつつもすぐさま反転してなおも逃げすがるヤミカラスを完全に捉えたサンダース(イーブイ)

 

 開いた口元に雷球をつくる。

 一つや二つ、程度ではない。

 いくつもの雷球がバチバチと音を立てては生成され、男の目から見ても、もはやどこにも逃げ場など無いということを思い知らされた。

 

 あれは"エレキボール"か?

 何故、レベルが低いはずの相手が一瞬であれ程の雷球を生み出せる?

 何故、もっと早くからそうしなかった?

 ………何故、ヤミカラスはこちらに向かって逃げてくる?

 何故、何故、なぜ…………

 

 刹那のうちに答えの出ない問答が頭を巡る。

 

 見上げた空の先……こちらに一直線に飛来する、恐怖でパニックになったヤミカラスの背後から眩い光が解き放たれる。

 耳をつんざく雷音と、網膜を焼き尽くす光量を強く感じた時には、男はすでに意識を失っていた。

 

─────

 

『───ブイッ!!』

「………きたか!」

 

 ヤミカラスとそのトレーナーを戦闘不能に追い込んだイーブイからの合図が飛ぶ。

 同時に、とっくに限界を迎えていたピクシーがヘラクロスの打撃を受けて遂に地面に沈み込む。

 しかしそこで逆転の一手………王手をかけるべくイーブイにアルトが指示を出した。

 

「【形態変化・陽光念力】"アシストパワー"」

 

 それは有効打足り得なかった、先程放った技と同じ技だった。

 だが、発動した技の威力も規模も先程とはまるで違う。

 

 "アシストパワー"は能力値の上昇値が高いほど威力が上がるという特性を持つ。

 そこに加算されるのはサンダースの姿での"こうそくいどう"によって、限界まで上昇した素早さ能力値。

 

 一見、ヘラクロスがピクシーを撃破するまでの時間をヤミカラスが稼いでいたように見えたこのバトル。

 しかしアルトからしたら、イーブイがヘラクロスを撃破するための能力(ちから)を溜めるまで、ピクシーが耐えられるかの勝負だと考えていた。

 

 そのために、相手に悟られないように徐々にギアを上げさせ、ヤミカラスをトレーナーの元へ追い詰めるように誘導し、序盤に行った"めいそう"と"こうそくいどう"によって超高威力になった"エレキボール"で余計なことをされる前に仕留めきった。

 

『フィィイイッアアァァッッ!!』

 

 無数の極太の帯状エネルギー弾が、唸りを上げて四方八方からヘラクロスへ襲いかかる。

 度重なる"インファイト"によって下がった特殊防御力ではいくらレベル差があるといえども、当然耐えうるものではなかった。

 

『ガッ─────』

 

 その結果を証明するように、念動弾がヘラクロスの巨体を真正面から覆い尽くして背後に吹き飛ばし、地響きと砂煙を盛大に立てて仰向けで倒れたヘラクロスは、ピクリとも動かずに沈黙した。

 

「勝った………」

 

 思わず、と言わんばかりに小さく呟くアルト。

 戦闘不能になったピクシーをボールに収めて小さく礼を言う。

 この間にも、目の前の青年が次のモンスターボールを取り出したりしないか注意を払っている。

 エーフィ(イーブイ)も、決して油断したりせずに臨戦態勢を保持した状態だ。

 

 ………そう、油断は無かった。

 

 だからこそこれは、腐っても優秀なトレーナーを自負する青年の狡猾さと、執念と………そして悪意が、純粋にアルトの想定を上回っていただけの話。

 

 見下しながら嘲笑っていた余裕たっぷりの顔はすっかりと鳴りを潜め、表情を失った顔でポツリと呟く男。

 

「もういい…………

 

 

 

 …………………殺せ、ゲンガー」

 

 

 

 瞬間、反射的に自身の影を振り返ったアルト。

 目に入ったのは真っ赤な瞳とニヤケ面……

 ───そして、鋭く尖った漆黒の鉤爪。

 

 いつの間にか足元の影に潜んでいたゲンガーの"シャドークロー"が眼前に迫り─────

 

 死───────────

 

 ───────

 

 ─────

 

 ───

 

 

「………………?」

 

『ブイッ!!ブイッ!!ブイイィィッ!!』

 

 空白で埋め尽くされていた頭に、半狂乱で鳴き喚くイーブイの声が聞こえた。

 

 アルトは………俺は、衝撃で鈍った頭を何とか再稼働させて、閉じていた瞼を開く。

 

「……………!」

 

 目の前のゲンガーと目が合った。

 空中に浮いて"シャドークロー"を顔に突きつけた状態でその場で静止している。

 その驚き顔から、ゲンガー自身の意思で攻撃を止めた訳では無いようだ。

 

 ………じゃあ、一体誰が───

 

「………なんで、なんでそいつを選ぶんだ!!

 

 ─────セレビィィィッッ!!」

 

 男の絶叫でようやく気がついた。

 

「セレビィ………」

 

 俺たちと目の前の男の中間に浮いて、俺の方へとその両腕を伸ばしている。

 ……正しくは、俺を殺そうとするゲンガーに向けて"サイコキネシス"を放ち、抑えつけていた。

 その態勢から両手を、ブンッと横に振るう。

 効果抜群の攻撃を受けたゲンガーは、そのままセレビィが振るった手の方向に吹き飛ばされていった。

 

「俺が!!俺の方が!!圧倒的に優れた才能を持っている!!お前の能力(ちから)は俺にこそ相応しい!!断じてそんなガキが持っていい能力(ちから)ではない!!何故そんなことも分からない!!何をしているゲンガァァッ!!早くそいつを殺せぇ!!」

 

 目を血走らせて両手を振り回しながら叫ぶその姿は先程のヘラクロスそっくりで、およそ正常な人間には見えない。

 

 

 ………ところで、初心者トレーナーからトレーナーはポケモンを同時にたくさん繰り出してバトルをさせれば最強なのでは?と、疑問が挙がることがある。

 公式戦のルールで決まっている場合はともかく、一体より二体、二体より三体、三体より六体のポケモンを同時に使用してバトルした方が強いことなんて当然だろう。

 この疑問に対する答えは簡単で、それが非常に危険(・・)だからだ。

 特に懐いていないポケモンや、我の強い強力な個体ほど危険度が増す。

 トレーナーの管理が行き届かないところで暴れられては取り返しのつかない自体を引き起こすだろう。

 

 ……なんで俺が突然こんなことを思い浮かべたかというと、目の前の男はそんな初歩的なことが頭から抜け落ちているように見えたからだ。

 

 一時の油断の代償は、永久の後悔となる。

 

「クソがあぁっ!!どいつもこいつも頭の悪いバカしかいねぇ!!その能力さえあれば俺は神の如き存在になれぶべっ」

 

 あの男は気づいていなかった。

 

 自分が道具扱いしていたポケモン(ヘラクロス)が背後でゆっくりと起き上がり、己に刻まれた遺伝子に従って、目に入るもの全てを粉砕するために腕を振りかぶっていたことなど。

 

 ヘラクロスの剛腕が横っ腹に叩きつけられて、体をくの字に曲げて吹き飛ばされた男の姿は、茂みに隠れて見えなくなった。

 ……因果応報とはいえ肝が冷える光景だ。

 

 そして、俺も他人事のようにしてはいられない。

 

 次なる獲物を見つけた破壊者がズタボロの体を引き摺って、生命を燃やして襲いかかってくるのだから。

 

『─────グラアアアァァァッッ!!』

 

 ヒビ割れた甲殻から体液を噴出させ、左腕をだらんと垂れ下げた満身創痍のヘラクロス。

 絞り出すように咆哮をあげて、地面を濡らしながらズシン、ズシンと一歩ずつ歩みを進める。

 

 今となっては迎撃することは簡単だ。

 俺の足に泣きながらしがみついたまま離れないイーブイに攻撃技を指示すれば、今のヘラクロスを倒すことなどわけがないことだろう。

 

 だが、そうすればおそらくヘラクロスは死ぬ。

 

 未だに火傷の痛みに苦しむヘラクロスには麻痺や眠りが効かず、状態異常で動きを封じ込めることができない。

 かといって、このまま放置してもいずれ生命の灯火を燃やし尽くして屍となるだろう。

 人間の非道徳的な実験の被害者たるヘラクロスの生命を奪うことに葛藤が生じる。

 

(どうする、どうする……!)

 

 

〈…………リン………リィン……〉

 

 

「………?」

 

 焦る俺の耳元に、綺麗な鈴の音が響いた。

 

〈リィィン……リィィン……リィィィン……〉

 

 緊張感を解きほぐす鈴の音に思わず聞き入ってしまい、強張った指先から力が抜けていく。

 辺りに漂う、甘くて心地の良い花の香りも相まって、焦る気持ちが自然と落ち着きを取り戻してゆく。

 

〈リィィン……リィィン……リィィィン……〉

 

 落ち着きを取り戻したのは俺だけではない。

 

 あれ程荒れ狂っていたヘラクロスが、呆然とした様子でその場に立ち止まっていた。

 ジッと立ち竦むその姿は、ヘラクロスの顔から垂れ落ちる体液も合わせて、静かに泣いているようにも見えた。

 

 "いやしのすず"による鈴の音と、"アロマセラピー"による甘い香りはそのままに、技を発動していたセレビィ(・・・・)が両手を胸の前に組んで祈るような態勢を取る。

 周囲の草木から透明に澄んだ水が溢れ出し、たちまち水球を作り出す。

 セレビィは、自然から力を借り受けて眼前に作り出した"いのちのしずく"をヘラクロスの大きな体を覆い尽くすように落とした。

 砂と土と体液で汚れたヘラクロスの装甲を清らかな水が洗い流し、体中に刻まれた古傷や火傷痕まで、何事も無かったかのように癒やしてゆく。

 

 そこまで見届けて、今度こそ自分に襲いかかってくる敵がいなくなったことを理解して、緊張が解けた体から力が抜けてその場にへたり込んでしまった。

 

(ああ……。そういえばさっき死にかけたんだっけ)

 

 安らかな鈴の音色が添えられた、"くさぶえ"の暖かくて優しいメロディーが頭へと染み渡っていく。

 瞼が落ちきる前に、子守唄を奏でる緑の妖精をひと目見て、心の中で呟いた。

 

(やっぱり君は、自分がどんなに辛い目に遭っても他者を気遣える優しいポケモンじゃないか……)

 

 満足した俺は、そのまま意識を手放した。

 

 

 

「──ただいま!マスター!あ~、久しぶりの鬼ごっこ楽しかったなぁ〜♪………あれ?なんで寝てるの?もう朝だしここお外だよ?おーい!起きて起きてー!ね!ね!鬼ごっこの続きやろうよ!もー!起きてってばー!」

 

 ……他人を気遣えないどこぞのポケモンにも見習ってほしいものだ。

 

 ミュウの小さな手によるペチペチビンタ程度では、この耐え難い眠気に抗うことはできなかったようで………

 

 今度こそ俺は、完全に意識を手放した。

 

 




え?セレビィが技を4つ以上使ってる上にアロマセラピーもくさぶえも覚えないって?
……伝説だから!仮にも森の守り神がそれっぽい技を使えないわけないだろ!
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