ミュウと過ごす楽しいポケモン世界   作:初手零度

3 / 23
孤児院での日常(VSニドリーノ)

☆タマムシシティの一角にあるとある孤児院

 

「ニドリーノ!!"つのでつく"だ!!」

「"すなかけ"」

 

 孤児院の裏手にあるバトルコートでは、二人の少年がそれぞれのポケモンを繰り出して技の指示を出し、孤児院の子供たちや審判役の先生に囲まれながらも、ポケモンバトルを繰り広げていた。

 

 向かい合う二人のうち、年上の方の少年の指示に従ったニドリーノが、頭部から生えた立派な角を構えて、四本の足で地面を踏みしめながら目の前の敵目掛けて突進していく。

 今年で12歳になった彼は孤児院の同期の中でも飛び抜けたバトルの腕前で頭角を表し、ニドラン♂から進化して気性が荒くなったニドリーノが彼の指示を素直に受け入れていることからも、年齢を考慮すれば優れた才能を持ったトレーナーだといえるだろう。

 ただでさえ当たればひとたまりもない威力の角で突き刺す攻撃であるが、仮に相手に突き刺すことができれば角先から滴り落ちる猛毒が相手の体を蝕み、それだけで勝負を決めてしまう可能性を秘めた痛恨の一撃であった。

 実際に、"かたくなる"や"まるくなる"で角を受け止めて油断していたイシツブテやサンドなどの防御寄りのポケモンたちを追撃の"どくどく"で仕留めることも多々あり、相性の悪いどくタイプやはがねタイプのポケモン相手には"あなをほる"で効果抜群の強烈な一撃をお見舞いするというのが相棒のニドリーノとともに彼がこれまで磨き上げてきた戦法だ。

 すでにバトルの腕前だけならば、新人トレーナーの領域から足を踏み出しているほどに周囲の子供たちよりも頭二つ以上は抜け出た存在であった。

 

 そんな彼らに相対しているのは、ついこの間ようやく10歳になったばかりの少年と、茶色のモフモフ毛玉こと、イーブイ。

 その少年は、パートナーの眼前に迫る猛毒を帯びた角にも焦ることなく、むしろニドリーノが回避不能な位置まで引き付けてから冷静に技の指示を出している。

 "すなかけ"の指示が聞こえた瞬間に、ニドリーノの顔目掛けて後ろ脚で砂を蹴り飛ばしたイーブイが、咄嗟に目を瞑りながらもそのままの勢いで突進するニドリーノを掻い潜るように駆け抜けた。

 

「後ろだ!!!"にどげり"!!!」

 

 例えポケモンの目が潰されていてもパートナーであるトレーナーが代わりの目となることで、ニドリーノは前を向いたまま、死角にいる相手に向かって強烈な後ろ蹴りを二度放つ。

 ポケモンバトルの常識でもあるがこれができないトレーナーは意外と多く、パートナーとの連携が上手くとれなかったり、そもそもポケモンの性能でゴリ押しすることしか頭になかったりなど、新米トレーナーはもちろんのことトップトレーナーですら出来ない人がそこそこいる中で、少年は良く健闘した方だといえるだろう。

 

 しかし目の前の対戦相手に対してはその指示は悪手であった。

 

 ニドリーノの背後を取って攻撃する素振りを見せていたイーブイは、焦って反射的に指示を出してしまったトレーナーに応えたニドリーノの後ろ蹴りを躱し、後ろ脚を蹴り上げた状態で今度こそ隙だらけになったニドリーノに対して、彼女が毎日欠かさずブラッシングをねだっているフカフカの自慢の尻尾による一撃をお見舞いする。

 狙いは紫色の硬い外殻と毒の棘に覆われた無防備な背中、ではなくニドリーノの上半身に傾いた重心を支えている前脚。

 大きな尻尾を硬化させて放たれた渾身の"アイアンテール"はニドリーノの体重を支えていた前脚を刈り取り、受け身を取れずに体を地面へと諸に投げ出すことになってしまった。

 

「ニドリーノ!!!」

 

 トレーナーのパートナーを心配すると同時に、己の失敗を悟った後悔を叩きつけるような絶叫とともに、ニドリーノが地面に倒れ込む。

 大ダメージを受けながらも何とか立ち上がって衰えることのない闘志を見せたニドリーノであったが、すでに距離を大きく離していたイーブイから無慈悲な追撃が放たれた。

 

「"スピードスター"」

 

 星型のエネルギー弾がニドリーノに襲いかかる。

 大したダメージにはならなかったが、追尾してくる星型弾を避けることは叶わず、確実にニドリーノの体力を消耗させた。

 

「っ!!!まだだっ!!!"つのでつく"!!!」

 

 最後まで諦めない意志を持ったトレーナーとそのパートナーが、残り少なくなった体力を振り絞って再度突撃を仕掛ける。

 角の一撃を当てることさえできれば一発逆転を狙えると踏んでの攻撃であったが、前脚に大ダメージを受けていたニドリーノの機動力はバトルの始めと比べて格段に落ちており、"すなかけ"で撹乱し、"スピードスター"を引き撃ちしながら逃げ回るイーブイを最後まで捉えることができず、蓄積し続けたダメージに耐えきれなくなったニドリーノが力尽きて倒れ込んだところで審判役の教師からイーブイの勝利宣言が成された。

 

 それは結果だけ見れば、2つ年下の少年の完封勝利であった。

 

──────────

 

『ブイブイブイブイブ〜〜〜イッッ!!!』

 

 審判の先生の試合終了の声を聞いて肩の力を抜いていた俺の懐へ、相棒が勝鬨の声をあげながら勢いよく飛び込んでくる。

 

「お疲れ様、イーブイ。いい動きだったよ」

 

 そう(ねぎら)いながら擦りつけてくる砂まみれになった毛に覆われた体を撫でさすってやる。

 戦闘不能になったニドリーノをモンスターボールに戻した対戦相手──タケルが歩み寄ってきて、俺の目の前に片手を差し出してきた。

 

「くうぅっ~~!!今日も完敗だったぜ、ありがとな!!!アルト」

 

 俺の名を呼び、悔しそうにしながらも晴れ晴れとした顔を向けてくるタケルの、汗に濡れたちょっと大きな掌に俺の掌を重ねてガッチリと固い握手を交わす。

 

「対戦ありがとうございました、兄さん。兄さんとニドリーノも手強かったよ」

 

 俺たちはポケモントレーナーとして対戦後にお互いの健闘を称え合った。

 バトル大好き少年であるタケルは、年齢の割には同年代の他の子と比べて体が大きく、バトルで勝つために貪欲に知識を吸収して日々成長し続け、しかも血の繋がらない俺たち弟妹に対する面倒見も良いという優しくて強い自慢の兄なのだ。

 さっぱりとした性格で、天才だと持て囃された彼が年下である俺に完封負けしたら年頃の少年特有のプライドが傷付けられてもおかしくないのだが、今のバトルの敗因を冷静に分析して次に活かそうとしている彼を見ると、俺たちやニドリーノに慕われている理由も分かるというものだ。

 

「やっぱりあそこで背後を取られた時の対応が敗因だよな。安易に反撃しないで落ち着いて防御を固めていれば攻撃を食らいはしても決定打になることはなかった。むしろカウンターで攻撃を与えるチャンスになっていたかもしれない……」

「そうだね、あそこが決定打になったね。俺の素の状態の(・・・・・)イーブイの弱点は、耐久型を崩すには火力不足なことと強力な範囲攻撃には為す術がないってところだから、ニドリーノが守りを固めて隙きをうかがって反撃してくるスタイルだったら危なかったかもしれないね。威力は低くてもいいから飛び道具でのプレッシャーが何かしらあればこいつ(イーブイ)も痺れを切らして接近戦を仕掛けにいったかもしれない」

「なら候補は"どくばり"か。威力は低いが命中させやすいし毒状態になるプレッシャーも与えられる。範囲攻撃は"ヘドロウェーブ"か"じしん"あたりが候補か。近接戦主体で育ててきたし予定通り"じしん"を早く習得させたいな。やっぱりすぐにでもニドキングに進化させた方が──」

「それは止めたほうがいいよ兄さん。ニドリーノは進化したばっかりだし進化エネルギーはポケモンへの負担が大きい。進化の影響で性格が変わることもあるから暴れて手を付けられなくなったニドキングを抑えるための他のメンバーも必要じゃないかな」

「………そうだな、早急すぎた。まだ旅にも出てないんだからじっくり腰を据えて強くなっていけばいい。ニドリーノと相談しながら進化の時期を決めるよ。そもそも月の石も持ってないしな!!ありがとよ、アルト!!」

「後で参考になりそうな動画教えてあげるね。ドヒドイデ使いのディンゴさんとブリガロン使いのメロルさんなら防御反撃スタイルの動きの参考になるかもしれない。どっちもマイナーリーグのトレーナーだけど戦法自体は凄く参考になるはずだよ」

「おうっ!!サンキュー!!」

 

 気づいた時にはバトル後の感想戦に夢中になってしまっており、目を輝かせて応援してくれていた兄妹たちが暇そうな顔でぶーたれていて、苦笑した先生に促されてようやく気がついた俺は、ニドリーノの治療をすると言って最寄りのポケモンセンターに向かったタケルと別れてシャワールームに向かうのであった。

 砂を落とすために泡まみれにしたイーブイの、全身ブルブル"バブルこうせん"をいつも通りに食らいながら、早速機嫌良さげにご褒美をおねだりしてくるイーブイに、ブラシとドライヤーを抱えて応えてやるのであった。

 

 

 




うちのイーブイはバブルこうせんが使えます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。