ミュウと過ごす楽しいポケモン世界   作:初手零度

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路地裏の戦い

『最近この付近で不審者の目撃情報が増えています。珍しいポケモンを見つけたからといって路地裏や薄暗い細道、特にゲームセンターの周囲には絶対に近づいてはいけませんよ。まあ、アルト君なら大丈夫だとは思いますが………』

 

 孤児院を出掛ける前に先生に言われた言葉である。

 

 タケル兄さんとバトルした次の日の朝、タマムシ大学の知り合いの教授からポケモンの進化研究レポートを見せてもらうために外出するところであった。

 なぜ俺みたいなガキにそんなものを見せるのかというと、ゲーム的な観点でのポケモンに関する知識を特段秘匿しているわけでもないため、有益な情報を齎した期待の若手であり意見交換できる相手の一人として対等に接してもらえているからである。

 流石に種族値の具体的な数値や個体値と努力値の仕組みなんかをペラペラと話したりはしていないが、ある程度をぼかして大体の能力値の目安や匂わせ程度の情報に留めている。

 最初は半信半疑だったが、俺が話した情報の内容が正しいことの裏付けが取れた後は、頻繁に大学にお呼ばれするようになった。

 仲の良い教授やタケル兄さんを始めとする身内にもゲーム知識を元にポケモン育成に関するアドバイスをしており、昨日戦ったニドリーノの育成なんかにも結構口を挟んでいたりしていた。

 あくまでポケモンのスペックについて教えるだけで、最終的に何を目指すのかは彼ら次第ではあるが。

 「神童」だと持て囃されることもあったが、前世の知識をひけらかしているだけなのでとんでもない勘違いである。

 俺が目指しているのはそういったデータのさらに先にあるものなのだから、それを達成した時にこそ存分に褒めて欲しいものだ。

 

 とまあ、そんなこんなでタマムシ大学までてくてくと散歩していた俺だったが、先生の言う不審者の正体って十中八九あいつらだよな、なんて考えながら歩いていたところで、人気の少ない通りから俺と同年代の子供の泣き声が聞こえてきた。

 

「うえええぇぇんっ、わだじのミネズミがあぁぁ、黒いおじさんたちに連れてかれぢゃっだああぁぁ」

 

 慌てて駆け寄り泣いている少女を慰めながら事情を聞いてみると、どうやらカントー地方では珍しいイッシュ産のポケモンを誘拐されてしまったらしい。

 この少女は、コラッタを無邪気に追いかけているうちに路地裏に入り込んでしまい、そこにいた大人たちに囲まれて怯える少女を守るために立ちはだかった少女のパートナーのミネズミが、バトルに負けて倒れたところを少女がボールに戻す前に連れ去られてしまったそうだ。

 たった今の出来事らしい。

 

「いいかい?落ち着いてよく聞いて。ミネズミは俺が追いかけるから、君はあそこから街道に出て、誰でもいいから大人の人に今言ったことを話すんだ。大丈夫だよ、君を守ってくれた優しいミネズミはきっと戻ってくるよ」

「ひっぐ、ひっぐ、うん………」

 

 孤児院の弟妹たちにするように、なるべく優しい声になるようにゆっくり話しかけながら頭を撫でて励ましてやる。

 あまり無責任なことは言えないが、今の少女をここから動かすにはミネズミが戻ってくるという言葉が必要だっただろうから。

 涙を拭って、人通りの多い街道方向に走っていった少女を見送り、俺もやるべきことをやる。

 

(ごめんなさい、先生)

 

 心の中で謝罪しつつも路地裏の奥に進めるこの足を止めるつもりはない。

 俺は、俺のやりたいことをやって生きると、そう決めているのだから。

 手の中に握りしめたモンスターボールから、ふるふると震える振動を感じつつ、その場を駆け出した。

 

 

──────────

 

 

 お揃いの黒い帽子に黒い服を着た黒ずくめの男が三人、何かが入った灰色のずだ袋を担ぎ上げてタマムシシティの路地裏を歩いていた。

 

「いやぁ〜今日はツイてるぜぇっ!!!まさかあんなところで見たことないポケモンを捕まえられるなんてなあ!!組織に買い取って貰えば結構な金になるんじゃねぇかぁ〜?」

「ああ、でも本当に初めて見るポケモンだったな。プレミアも付きそうだし好事家が大金で買ってくれそうだ。いっそ俺たちで売り払うのもアリか?」

「ばっかお前、それで組織に目をつけられてみろ。借りてるポケモン取り上げられる程度ならまだいいが、最悪俺たちの存在ごと消されちまうぞ。俺たち下っ端は珍しいポケモンをちょろっと捕まえてそれなりの金を稼ぐくらいがちょうどいいんだよ」

 

 彼らは担ぎ上げたずだ袋の中身、今日の成果について楽しそうに語らい、コラッタが駆け回り、ベトベターが這いずる汚い地面に散乱している何が入っているかも分からないゴミ袋を蹴り飛ばしながら、彼らのアジトに帰還している真っ最中であった。

 そんな彼らの黒い服の胸元には「R」のアルファベットが赤く刻まれており、彼らがポケモンを取り扱う非合法的な組織に所属していることを象徴していた。

 

 そんな彼らに迫る影が二つ。

 

『ブイブイィッ!!!』

「はあ、はあ、追いついたか………」

 

 茶色の小さなポケモン、イーブイと、そのトレーナーである10歳になったばかりの幼い少年だ。

 イーブイは威嚇するように、少年は息を切らしながらも目の前の黒い背中を睨みつける。

 

 そんな彼らの声に反応した男たちは、一瞬体をビクつかせながらも、相手が幼い少年とイーブイだけだと分かると、安堵するかのようにため息を吐き、一転して嫌らしい笑みを浮かべながら少年たちへにじり寄ってきた。

 

「なんだよただのガキじゃねーか、ビビらせやがって………。おいボウズ、ここはお前みたいなガキがいていい場所じゃねぇんだよ。分かったらさっさとお家にかえんな」

「………おい待て。たしかイーブイは買い取りリストに載っていたはずだぞ。小銭程度にはなるだろ」

「へっ、大方正義ヅラしたバカなガキが自分の力を過信して俺たちに突っ掛かってきてんだろ。ちょうどいいじゃねーか。レンタルしてるやつらも暴れ足りなさそうだったしいっちょ捻ってやろうぜ」

 

 そう言って三人全員がモンスターボールを取り出し、その場にポケモンを繰り出した。

 出てきたのはサイホーン、ゴルバット、クサイハナの三匹。

 もともと男たちが持っていたコラッタやズバットなんかのポケモンはとっくに逃がし、今はもう組織に加入することでレンタルできるようになったポケモンしか使っていなかった。

 彼らが元々使っていたポケモンたちは弱く、それは高圧的に指示を出したり虐待したりしてポケモンの本来の力を一切引き出すことができなかったトレーナー側に問題があったのだが、そんなことにも思い至らない彼らは、黙って指示を聞くように調教されたポケモンたちを使い、まるで新しい玩具を手に入れた子供のように常日頃から暴力的に振る舞っていた。

 レベルでいえば20そこそこ程度の強さでしかなかったが、それでも幼い少年を一捻りするには十分で、さらに3対1の今の状況では、油断するなという方が無理があるだろう。

 

「ほら、遊んでやるよ。サイホーン、"つのでつく"」

 

 ポケットに手を突っ込んだまま、にやにやと笑う男の声に従ったサイホーンが、狭い路地裏の老朽化した石壁を崩してガッシリとした脚で割砕きながら、砂煙を巻き上げてイーブイに向かって突進していく。

 それは奇しくも昨日少年がバトルしたニドリーノに似た姿ではあったが、今回はあの時とは全く違う結果となった。

 

「イーブイ、【形体変化(フォルムチェンジ)・流転大河】」

 

『ブイッ』

 

 イーブイの体が光り輝き、変化を遂げていく。

 茶色のフサフサの毛皮は青く滑らかに、首周りを覆うモコモコの白色の毛は確かな質感を持ったシャンプーハットのような形に、筆の先端のような形をしていた茶色と白色の尻尾は魚類の持つ先が別れた艷やかな青色に。

 一瞬にして変化を終えたイーブイは、目の前の突進してくるサイホーン目掛けて口を開く。

 

「"バブルこうせん"」

『シャアアアァァッ!!!』

 

 少年の技の指示に従って、開いた口元から大量の透明な泡がサイホーンに向かって吹き付けられる。

 効果は抜群の一撃を真正面からもろに浴びたサイホーンは、怒涛の勢いの突進を体中に纏わりつく泡によって徐々に減速させて、遂には目の前の相手にたどり着く前に力尽き、その場に崩れ落ちた。

 

「なあっ!?どうなってやがるっ!?」

「ポケモンの姿が変わったぞ!?なんだあれっ!?」

「バカかお前ら!!進化に決まってんだろ!!水の石を使ってシャワーズに進化させたんだよ!!だがそれなら……クサイハナ!!"ギガドレイン"だ!!」

 

 バトルの才能がない彼らは当然のように戸惑い、自分のポケモンにまともな指示も出せずに右往左往していたのだが、彼らの中では比較的まともだったクサイハナを繰り出した男、素行不良でスクールを中退してドロップアウトしたその男が、中途半端なバトルの知識と売り飛ばすために覚えたイーブイに関する知識を無駄に披露しながら、彼にしては珍しく的確な指示を出した。

 

 棒立ちしていたクサイハナがトレーナーの指示を受けて、シャワーズの姿をした敵から体力を大きく吸い取る草タイプの強力な技を発動した。

 一気に体力を吸い取られた敵が効果抜群のその威力にたまらず地面に倒れ──ずに水タイプのはずの敵が全身に炎を纏って加速しながら突っ込んできた。

 

「"ニトロチャージ"」

『ブゥアアアァァッ!!!』

 

 赤い体にクリーム色の綿毛を風に靡かせて、火の粉を周囲に撒き散らしながらギガドレインによって吸われたエネルギーを追いかけるかの如く、技の発動中で身動きが取れなかったクサイハナに衝突し、炎を纏ったタックルによって壁際まで吹き飛ばした。

 

 【形体変化(フォルムチェンジ)・業火滅却】

 

 イーブイとそのトレーナーがうんうんぶいぶいと唸りながら頭を悩ませて考えて、そうして名付けられたそれは、ただの進化ではなく一時的に己の進化先の姿と能力を自由に切り替えて扱うという、前代未聞の力であった。

 特殊な道具と進化先のポケモンの詳しい知識、進化エネルギーの奔流に耐えつつ慣れない体を十全に扱うための特殊な訓練、世界の常識と種族の限界を越える明確なイメージと折れない志、そしてそれら全てを可能にするトレーナーとポケモンの間に存在する確かな愛(イーブイはほとんどこれが占めていると信じている)によって実現させた力だ。

 

「おい!!あれ滅茶苦茶レアなポケモンなんじゃねえか!?捕まえたら一生遊んで暮らせる金が手に入るだろ!!」

「バカが!!言ってる場合かよ!!俺たちは他にポケモン持ってきてねえんだぞ!!あんなん勝てっこねえ!!情報だけでも十分金になるんだ!!さっさとズラかるぞ!!」

「おいゴルバット!!なんでもいいからそいつ足止めしとけ!!」

 

 仲間同士で大声で罵り合いながら、ずだ袋を担ぎ直して逃走の準備に入る男たち。

 欲望に目が眩んで、手持ちのポケモンを失っているのに目の前のブースターの姿をしたポケモンを諦めきれない男と、この場をさっさと逃げ出したい男が仲間内で大声で揉め合いながら、少年たちに背中を向けた。

 もはや技の指示すら出さないトレーナーに対しても従順になるように躾けられたゴルバットは、自らの意思で"エアカッター"を目の前の敵に向けて放つ。

 ブースターの姿をしていたものは、迫りくる風の刃を見据えたまま脚に力を込めて、四足歩行の前傾姿勢のまま本日三度目の輝きで全身を包む。

 

「【形体変化(フォルムチェンジ)・疾風迅雷】"スパーク"」

『ダアアアァァッスッ!!!』

 

 刺々しい黄色の毛皮に身を包み、勇ましい鳴き声とともに雷光をその身に纏ったそれは、"ニトロチャージ"によって上昇した驚異的なスピードで風の刃をすり抜けて、ゴルバットにその体ごと電撃を叩きつけ、そのまま前方へと駆け抜ける。

 サンダースの姿をしたそれは、電撃を浴びて焦げついた体を地面に墜落させたゴルバットを尻目に、無様にも悲鳴をあげながら背中を向けて走り出した男たちへと急速に接近し、彼らの足元に向けて"でんじは"を放つ。

 痺れる足によって勢いよく地面に転がりこんだ男たちの恐怖で怯える顔に向けて、サンダースの精悍な顔つきを嫌そうに顰めながらも、加減した"にどげり"を叩きつけて三人の男の意識を刈り取った。

 

 少年と、後に世界的に悪名を轟かせる「ロケット団」というカントーを拠点に活動する犯罪組織の下っ端三人との戦闘は、かくして少年の勝利によって幕を閉じたのだった。

 

──────────

 

「お疲れ様、イーブイ」

『ブゥゥィ………』

 

 普段は元気いっぱいに胸に飛び込んでくる彼女も流石に疲れたらしく、サンダースの姿からイーブイの姿に戻って、褒めろといわんばかりにグリグリと頭を擦りつけてきた。

 ワシャワシャと撫でてやるが、少女から話を聞いた大人の通報によって到着する警察よりも早く奴らのお仲間がやってくると非常にまずいため、早々にナデナデを切り上げて、不満そうな鳴き声をあげるイーブイは一旦置いておきつつ、地面に転がったずだ袋に近づいていった。

 少女のためにもミネズミの安否は最優先で確認せねばなるまい。

 縛られた袋の封を開けて、中にいたポケモンを慎重に取り出す。

 出てきたのは茶色のネズミ型のポケモン、間違いなくミネズミであり、ボロボロで気絶している状態ではあったが、一先ず安堵することができた。

 そして気になったのは、ずだ袋の中にはもう一匹ポケモンが入っていたらしく、中でもぞもぞと蠢いているのが見て分かる。

 誘拐されたポケモンならトレーナーに返してあげないとな、と考えながら袋の中から引き出すと───

 

『ミュ?』

 

 いやきみ、こんな三下に捕まっていいポケモンじゃないでしょ。

 何がどうなってこんな袋に詰め込まれていたのか理解に苦しむんだけど。

 

 全身ピンク色に青い目をしたポケモン、ミュウが、「なにか?」とでも言いたげな顔で首を傾げているのを見て、思わず片手で額を覆いながら天を仰いだ。

 

 

 




うちのイーブイはバブルこうせんが使えます()
下っ端が最初に話していた珍しいポケモンはミュウのことで、そのへんで寝ていたのを適当に捕まえました。
というよりは、テレポートでいつでも逃げれるので暇潰しで適当に捕まりました。
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