ミュウと過ごす楽しいポケモン世界   作:初手零度

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次の目的地は

 

☆タマムシ大学、シバサキ教授の研究室

 

「つまりミュウがチンピラに捕まっていたのを助け出したら毎日ストーカーされて困っているから捕まえる方法を教えて欲しいだって?はっはっは、君の冗談は中々に奇天烈だな、アルト君」

 

 真っ白の白髪に白い顎髭と口髭を蓄えた年配の男性、シバサキ教授は俺の本気の相談を冗談だと笑い飛ばしながら、手元の研究レポートに目を通している。

 

「いやいや、本当なんですって。普段は姿を見せないくせに、シャワー中に真後ろに浮いてたり早朝に"こなゆき"で起こされたり、心臓止まるかと思いましたよ。それだけじゃなくて、着替えを隠したり盗み食いしたり、イタズラばっかりされてすぐに逃げられるからこの際捕まえてやろうかなって」

 

 俺の説明を受けても教授は笑みを噛み殺したまま研究レポートから視線を外す気配はない。

 正直俺が同じことを相談されたら、寝ている時に見た夢を勘違いしているか、ゴーストタイプのポケモンに取り憑かれているか、もしくは頭がおかしくなったのか、そんな風に思うことは間違いないので教授の反応は正しいものなのだろう。

 

「そうだな、ミュウのイタズラがこのまま続くならばシオンタウンの祈祷師に会ってみてはどうだ?きっと力になってくれるだろう。ミュウを捕まえる方法など私には皆目検討もつかん。この世界で唯一成功させたそのチンピラに教えを請うのが一番の近道なのではないか?」

「そのへんで寝ているところをずだ袋に放り込んだそうです」

 

 事情聴取しにきた警察官に教えてもらったところ、ピンク色の珍しいポケモンをそうやって捕まえたと、あの三人組が白状したらしい。

 当時、袋から取り出したミュウとにらめっこしていた俺だったが、警察官が駆け付ける足音ともにミュウはテレポートで姿を消し、まともに話しても面倒くさくなると思った俺は、見たことのないピンク色の野生っぽいポケモンも捕まっていたがすぐに逃げ出したと適当に報告していた。

 結局、野生のピッピかプリンあたりが捕まっていたと判断したタマムシ警察は、少女にミネズミを返して男たちの余罪を調査するということで、今回の誘拐事件については完全に幕を閉じた。

 まあ、その後新しく俺以外の誰も知らないストーカー事件の幕が開けたのだが。

 

 各地に目撃情報はあっても一度も捕獲されたことのない謎に包まれた伝説のポケモンが、昼寝をしていて街のチンピラに袋詰めされたという冗談(真実)に、またもや吹き出した教授であったが、冗談は終わりとばかりに真面目な顔付きで手に持っていたレポートについて口を開いた。

 

「変わらずの石と進化の石を加工して作った特殊なアクセサリーを装着したイーブイの一時的な進化先への形体変化……、君が初めて言い出した時は荒唐無稽な夢物語だと思っていたのだがね……。まさかこうして実現させてしまうとは夢にも思わなかったよ」

「ご協力頂いて感謝しております。イーブイはその性質上複数の形体を使い分けることができますが、ポケモン自身が進化エネルギーの制御が可能になれば、キルリアを状況に合わせてサーナイトかエルレイドの姿を取るかの選択ができたり、スピード型のストライクとパワー型のハッサムで相手によって対応を変える、なんてこともできるんじゃないかと。あくまで机上の空論ではありますが」

 

 ガキの妄想と捉えられてもおかしくない俺の話を真面目に聞いてくれて、進化の石の提供やアクセサリーを製作する職人の紹介、データの記録に至るまで、彼自身の研究のためとはいえ十全にサポートして頂いているシバサキ教授には頭が上がらない。

 入手しづらい進化の石を現在進行系で探してもらっているしな。

 

「君のイーブイのデータを元に私の方でも何度か実験は行っているんだがね。結果はどれも失敗さ。進化エネルギーに引っ張られて進化した姿のまま戻らなくなる。進化の石の欠片を与えてみても反応すらせず、一定以上の大きさのものを与えるとそのまま進化してしまう。君のイーブイの成功例が無ければとっくに凍結していた研究さ。だからこそ君たちには大いに期待しているのだよ。ほら、これを」

 

 そう語りながら教授が取り出したのは太陽の石、エーフィに形体変化するために俺が入手を依頼していた進化の石の内の一つだ。

 現在イーブイが取れる形体は三種類、ブースター、シャワーズ、サンダースのみで、変化時間も変化後に使用できる技の性能もまだまだ課題が残る段階だ。

 俺が決意したあの日から五年間、ほぼ毎日のように特訓を重ねているが、進化エネルギーを制御し、各形体の習熟度を高める訓練はイーブイの体に残る負担が大きいため、トレーナーとしてできる限りのケアを行っている。

 

 シバサキ教授に礼を言いつつ太陽の石を受け取っていると

 

「ところでアルト君、今度オツキミ山で化石発掘体験イベントをやるらしいぞ。月の石の出土報告もそこそこ上がっておるし、参加してみてはどうかね?申請は私が済ませておくし、参加費と出向費は私の方で負担しよう。だから月の石が余分に手に入ったら研究用に私にも回してもらえるとだな───」

 

 俺たちの次の目的が決まった。

 

──────────

 

「結局ミュウを捕まえる方法、何もいいアイデア出なかったな」

『ブイッ?』

『ミュッ?』

「お前のことだぞ」

 

 タマムシ大学から孤児院への帰り道、イーブイと並んで歩いて帰宅しながら呟く俺に、不思議そうな鳴き声とともに首を傾げる二匹。

 当然のように透明化して俺の横に浮いていたミュウに向けて、手に持ったままの空のモンスターボールを体に当てようとすると、スイッと空中を泳いで難なく躱されてしまう。

 もう何十回目のやり取りかもわからないが、周りからはモンスターボールを手に持って振り回す変な少年に見えるらしく、すれ違う人々の視線が痛い。

 だがまあ、それにも慣れてしまったので気にせず歩いていると、隣にいたはずのイーブイが後ろにいることに気づく。

 どうやら、カスタードの甘い匂いが漂う屋台に釘付けになって足を止めたイーブイを置いてきてしまったようだ。

 苦笑しながら、屋台で中にカスタードの詰まった茶色の生地を焼いている店主のおじさんに、シバサキ教授から貰った研究費用(お小遣い)から代金二つ分支払い、できたての湯気が出ている菓子を二つ受け取った。

 一つを半分に割ってから息を吹きかけて軽く冷ましてやり、尻尾をブンブン振りながら涎を垂らしかけているイーブイに食べさせて、もう半分は自分で食べる。

 もう一つはすでに空中に差し出しており、宙に浮いた菓子が中々の勢いで消えていくその光景に、屋台のおじさんが目を丸くしながら二度見して、手元の菓子を焦がしかけていた。

 流石に夕飯を残すわけにはいかないので半分だけ食べたのだが、濃厚なクリームがずっしりと舌に残り、ボリューム感もあって結構な当たりの屋台を引いたようであった。

 イーブイのクリームの付いた口元をハンカチで拭ってやり、空中で菓子が消えた場所に浮いている透明な食いしん坊にくっついているクリームも拭ってやる。

 

「こういう時には逃げないのにな」

 

 思わず呟いてしまうが、まあこれはこれで悪くない関係かもしれない。

 

 俺は、夕暮れに染まる街道を二匹のポケモンと一緒に並んで歩いて帰るのであった。

 

 ちなみにこの日の夜ご飯のハンバーグを、透明化した食いしん坊にほとんど食べられた。

 先生には「もっとゆっくり食べなさい」と叱られ、年下の弟妹たちにすら笑われてしまった。

 

 やっぱり何としてでも捕獲しなければならないかもしれない。

 

 

 




 タマムシ孤児院は結構お金に余裕があります。
 贅沢はできないけど教育はもちろん、食事や設備も十分なものが揃っています。
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