ミュウと過ごす楽しいポケモン世界   作:初手零度

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オツキミ山狂騒曲1

 

☆満月の夜、オツキミ山内部の洞窟、とある小部屋

 

『…………』

 

 そのピッピは"ゆびをふる"。

 『人差し指で円を描くようにゆっくりと、右に半回転させてから最後に指を跳ね上げる』

 指先から放たれたのは"こごえるかぜ"。

 冷気を帯びた風が指を向けている地面に霜を作る。

 

 本来ならば群れで行動しているはずのピッピだが、彼女はたった一匹で地面に座り込み一心不乱に指を振っていた。

 ピィ、ピッピ、ピクシーといった彼女の同族で形成された群れは、今頃オツキミ山内にある月光が差す広場で月の光を浴びながら、楽しそうに踊っていることだろう。

 彼女の周りに同族はいない。

 彼女はいつも一人であった。

 

『…………』

 

 そのピッピは"ゆびをふる"。

 『人差し指で波を描くように素早く、三度波を描くと最後に元の位置へ戻すように大きく払う』

 指先から放たれたのは"かえんほうしゃ"。

 勢いよく放たれた火炎が、冷えきった地面を赤熱させて周囲に漂っていた冷めた空気を一気に温め直す。

 

 はじめは一人ではなかった。

 "ムーンフォース"で群れに襲い掛かってきた他の野生ポケモンを撃退した年長のピクシーがいて、一緒になってピクシーに"ムーンフォース"を教えてもらう仲間のピッピたちがいて、一生懸命"チャームボイス"の練習をするピィたちの面倒を見たこともあった。

 けれどある時から取り憑かれたかのようにたった一つの技に固執するようになった彼女は同族たちと疎遠になり、やがていつの間にか一人になっていた。

 

 そのピッピは"ゆびをふる"。

 人差し指を天に向け、激しく、大胆に空気をかき混ぜるかのように、そして最後に指を大きく振り下ろそうとして──僅かにタイミングがズレる。

 指先から放たれたのは………何も放たれず、彼女の全身を白い光りが包み込む。

 

『…………!!!!』

 

 直後に洞窟内部の小部屋には轟音が響き渡り、天井に止まっていたズバットがバサバサと、石に擬態していたイシツブテがゴロゴロと、驚きながら爆発の中心地から少しでも離れようと一目散に逃げ回る。

 衝撃で巻き上げられた石の破片や土砂が降り注ぐ中、"だいばくはつ"した彼女はそのまま意識を失った。

 

 

 

『…………』

 

 そのピッピは"ゆびをふる"。

 『人差し指で星型を描くように、最初はゆっくりと最後は勢いをつけて左斜め上に指を跳ね上げる』

 

 気絶から目覚めたばかりで瀕死状態ではあったが、たった一つの技しか使えない彼女は、同族が息をするように扱える自己回復技、"つきのひかり"を扱うことができなかった。

 

 だから(・・・)"じこさいせい"で回復する。

 

『…………』

 

 月の光を浴びずとも、体中の細胞を高速で活性化させて修復した彼女は、体力の半分を取り戻す。

 そうしてさっきと全く同じように、『人差し指で星型を描くように、最初はゆっくりと最後は勢いをつけて左斜め上に指を跳ね上げる』ことで、もう一度"ゆびをふる"。

 もう一度発動した"じこさいせい"によって完全に体力を回復した彼女は、他の野生ポケモンすらいなくなった薄暗い小部屋で、ひたすらに指を振り続けた。

 

 そのピッピは"ゆびをふる"。

 常識と限界を超えた可能性を求めて、熱中するように、あるいは狂ったように。

 オツキミ山に月の石を求めてやってくる、とあるトレーナーと出会うその日まで。

 そして彼と出会ってからも、ずっと。

 

 

──────────

☆オツキミ山内部の洞窟、化石発掘作業現場

 

「あ〜、腕が痛い………」

『ブイブイッ!!ブイィッ!!』

「分かってるよ、ちゃんと月の石見つけるからほんの少しだけ休ませて………」

『ブゥゥ………』

 

 ブラッキーの対戦動画と資料を食い入るように何度も見直し、期待値がMAXになっていたイーブイは、スパルタな現場監督さながら、発掘する手を止めていた俺に対して不満そうな声で唸っている。

 

「ほれほれ〜、ナデナデ〜」

『ブイッ!!ブイィ〜〜♪♪』

 

 適当に頭を撫でてやると秒で機嫌を良くする相棒のチョロさにちょっとだけ心配になりながら、目の前の数時間かけて掘り進めた壁に視線を戻す。

 

「何も出ねぇ………」

 

 俺の心は折れかけていた。

 

 分かってはいたのだ。

 そんな簡単に素人の子供が化石やら貴重な石やらを見つけることができるのなら、そもそもとっくの昔に手に入っていたことだろう。

 初めての発掘作業に心躍らせていた俺だったが、変わり映えしない土の壁を前にして、翌日筋肉痛確定の過酷な労働作業によって心身ともに参っていたのだ。

 

 訂正しよう。

 俺の心は折れかけていた訳ではない。

 俺の心はボッキリ粉々に砕かれていた。

 

「うーん、やめだ!!効率が悪すぎる!!気分転換に散歩でもしようか、イーブイ」

『ブイッ!?ブイィ………、ブイッ♪』

 

 月の石と俺との散歩を天秤にかけたイーブイは、悩みつつも散歩を選んだらしい。

 石なんて知らんとばかりにウキウキでステップを踏んでいるイーブイと一緒に、発掘作業現場を離れた。

 化石発掘体験の運営スタッフに離れる旨を伝えると、遠くには行き過ぎないようにという至極当然の注意を受けたので、本当に気晴らし程度の散歩だ。

 

 他の参加者たちの収穫ゼロによる絶望の表情を眺めつつ、小石を蹴り飛ばしながらイーブイと並んで歩いて周りを見渡す。

 

「………ん?」

 

 俺たちにしか見えない角度の空中に、ミュウが両手を背中側に回してふわふわと浮いている。

 俺が発掘作業を始めてからしばらくすると姿が見えなくなったので、飽きてどっかに行ったと思っていたのだがいつの間にか戻ってきていたらしい。

 あいつは何をやっているんだと思ってミュウに視線を向けていると

 

『ミュ〜♪』

 俺たちに向けてこれ見よがしに月の石を見せびらかしてきた

 

 (あいつううううぅぅぅ!!!)

 絶対笑っている、いや、嘲笑っている。

 月の石を左右に振ってみたり、頬擦りしてみたり、パッと手放して落下するのを空中でキャッチしてみたり、俺たちに対して効果抜群の煽りを披露しながら、優雅に空中に浮かんでいる。

 

『ギッシャアアァァッ!!!』

 

 イーブイが憤怒の表情で今まで聞いたことのないガチギレ声をあげている。

 そのまま俺の指示なしに"でんこうせっか"を発動し、空中で寝転がりながら月の石をペロペロ舐めていたミュウに突撃していった。

 本来なら勝手な行動は厳しく叱るところなのだが今回だけは許そうと思う。

 悠々と攻撃を躱したミュウが、クスクスと笑いながら月の石を抱えて洞窟奥へと逃げていく。

 俺が止める前に、怒りに支配されたイーブイがミュウの後を追って走り出してしまった。

 

 流石に看過できない事態になったことに頭を抱える。

 少し甘やかして育てすぎたせいで挑発に対する耐性が身に付いていなかったかもしれない。

 今度鍛えてもらおう。ミュウに。

 

 ため息を吐いてから二匹を追いかける俺だったが、呆れて額を触った時に自分の顔が笑みの形に歪んでいたことに気がついた。

 こんなアホみたいな状況を、なんだかんだ楽しんでいるらしかった。

 

 

 




 イーブイをバチバチに煽りながら舐める月の石は大層甘かったらしいです。
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