ミュウと過ごす楽しいポケモン世界   作:初手零度

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オツキミ山狂騒曲2

 

☆オツキミ山内部の洞窟

 

「まったく………どこまで行ったんだ」

 

 薄暗い洞窟の中を早歩きで進む。

 ポーチから取り出した、野生ポケモンが忌避する成分の含まれたシルバースプレーを全身に吹きかけているので、足元にいたパラスやたまに飛んでくるズバットが俺を避けるように移動していく。

 ただし、好戦的なポケモンやレベルの高い野生ポケモンには効果が薄いため、最終手段(けむり玉)もあるにはあるが、自分の身を護るためにもなるべく早くあの問題児たちと合流したいところであった。

 

「おーい!!イーブイ〜!!居たら返事しろ〜!!」

 

 俺の声が洞窟の壁に反響して虚しく消えていく。

 

「………あちゃー」

 

 そんなこんなで歩を進める俺の目の前に現れたのは、左右に分かたれた二つの道であった。

 入れ違いになって迷子になる危険性もあるため、安全性を考慮すれば一旦引き返すのが妥当な選択といえよう。

 もちろん俺はその場を引き返し───

 

「たぶん、みぎ!!」

 

 たりはせずに、直感で右の通路に足を進めた。

 まあ一応拾った石で壁に印を付けているので、一回目の曲道程度では迷子になることもないだろう、たぶん。

 とはいえ危険なことには変わりないので、先程よりも慎重に歩を進めていた。

 

 そんな俺の背後に迫る影があった。

 

 背後から忍び寄る気配に気づかずに至近距離までの接近を許してしまった俺は、手遅れになった段階でようやく後ろの存在に気づき、慌てて振り返ったところで───

 

『ミュッッ!!』

「うおわああぁっ!?」

 

 ミュウの"おどろかす"によって悲鳴をあげながらその場にすっ転んでしまった。

 イタズラが成功してクスクスと笑い声をあげている問題児へと恨みがましい視線を送りながらも、思わず安堵の溜息が漏れ出てしまう。

 

「はあぁ、まったく……、こんな場所で驚かせるのはやめてくれよ……。あれ?イーブイはどこに行ったんだ?月の石も持ってないし」

『ミュ?』

 

 ミュウは「なにそれ?知らんけど」的な顔で首を傾げている。

 とぼけた顔をしているミュウの額に、威力のこもっていないデコピンをぺちんとお見舞いしてやった。

 痛くもないデコピンを受けて、大袈裟に額を抑えて痛がるフリをしているミュウを横目に、もう一度大きく声を響かせる。

 

「おーいっ!!イーブイッ!!どこだ〜!!」

 

 しばらく待ってみても反応は無いようだ。

 

 痛がるフリをしていたのがバレたと分かってから、ケロッとした顔で浮いていたミュウに声をかけて、洞窟のさらに奥へと足を進めることにした。

 

 ───そんな俺の背後へと、野生のゴルバットが今度こそ本当に襲い掛かってきた。

 

「"サイコキネシス"」

『ミュッ!!』

 

 流石に警戒していたので襲撃にもすぐに気づいた俺は、ミュウに手早く技の指示を出し、指示を受けたミュウが強力なサイコパワーでゴルバットを地面に叩きつける。

 

「ミュウ……、責任取ってイーブイ探すの手伝ってもららうからなー」

『ミュ〜』

 

 分かっているのかいないのか、間延びした返事をするミュウとともに、止めていた足を再度踏み出す。

 

 その一連の鮮やかな手際は、ポケモントレーナーとそのパートナーとの関係性そのものであったが、生憎とそれを指摘する人物はこの場には存在していなかった。

 

──────────

 

「イーブイ〜!!おーい〜!!」

 

 たまに存在する横穴や小部屋に向けて叫びつつ、それ以降は曲道のない通路を順調に歩き進めていく。

 全く見つかる気配がない以上、もしかしたらイーブイは最初の曲道で左に行っていたのかもしれない。

 

 やっと転機があったのは、ふわふわ漂いながらおやつを催促してくる食いしん坊にポーチに詰め込んでいた保存食の栄養バーを渡してやって、気に入らなかったのか突き返された食べかけのそれを齧りながら歩きつつ、そろそろ戻った方がいいかなと思い浮かべていた時のことだった。

 

『ミュッ、ミュミュ〜』

「ん?何かあった?」

 

 一本道の通路の壁際で、何やらミュウがアピールしている。

 近づいてよく見てみると、どうやら突き出た岩壁が重なった位置に隠れた通路があったらしく、どこかの小部屋にでもつながっているようであった。

 

「隠し通路か……これは行くしかないな!!」

『ミュー!!』

 

 こういう人間が寄り付かない場所には、貴重なアイテムが落ちていたりする。

 代表的なものがエネルギーが結晶化してできた"ふしぎなアメ"で、もしかしたら探し求めていた月の石が見つかる可能性もある。

 

 (ごめんイーブイ、もう少し待っててくれ)

 

 脳内に響く『ブイッ!?』という幻聴と、最初から行く気満々だったミュウとともに、意気揚々と隠し通路からその先にあった小部屋へと乗り込んだ。

 

 ───そこにいたのは、愛想の欠片もない無表情で座り込んで指を振っていた一匹のピッピであった。

 

『…………!!』

 

 俺たちの姿を視界に捉えて警戒心を露わにしたピッピが、振っていた指を止めてゆっくりと立ち上がり、こちらに向けて指を構えた。

 どうやら戦闘態勢になったらしいピッピと向かい合って、俺も身体と心を戦闘に備えて鋭く研ぎ澄ます。

 ミュウだけは自然体で浮いたままであったが。

 

 一触即発の緊張状態を先に破ったのは目の前に立っている無表情のピッピであった。

 『人差し指で円を描くようにゆっくりと、右に半回転させてから最後に指を跳ね上げる』ように"ゆびをふる"ピッピの指先から"こごえるかぜ"が放たれて、俺たちの機動力を奪うべく、冷気を漂わせて吹き付けられる。

 

「ミュウ、"こごえるかぜ"」

 

 俺の言葉と同時に、ミュウの眼前から放たれた"こごえるかぜ"がピッピの放った技に正面からぶつかり、真正面から突き抜けてピッピの全身を凍てつかせた。

 

『…………!!』

 

 周囲一帯の室温が急激に下がり、それは俺の身体機能にも影響を及ぼす程であったが、情報戦を制すためにも戦闘中は極力表情や態度に出さないように努める。

 そして、俺よりも"こごえるかぜ"が直撃したピッピの方がダメージがあるはずで、ダメージを受けたことで俺にとって不測の行動に出たりしないか、その一挙手一投足から視線を逸らさないように、集中して観察を続ける。

 

 様子見をする俺たちの目の前でピッピが取った行動は、再び"ゆびをふる"ことであった。

 『人差し指で波を描くように素早く、三度波を描くと最後に元の位置へ戻すように大きく払う』ことで"ゆびをふる"ピッピの指先から、灼熱の火炎が俺たちへ向けて放たれる。

 凍えた自らの体と、"こごえるかぜ"が衝突した室内の温度を高めるように、ランダムな技が発動するはずの"ゆびをふる"という技によって、まるで意図して発動したかのように(・・・・・・・・・・・・・・・・)"かえんほうしゃ"が襲い掛かってきた。

 

「"かえんほうしゃ"」

 

 それでもミュウは動じず、ピッピが発動した技と全く同じ技を、ピッピよりも高い威力で正面から相殺して、火炎を突き破るより威力のある火炎をピッピへと叩きつけた。

 

 ミュウが相手と同じ技しか使わないのにはもちろん理由がある。

 ミュウは、勝つため(・・・・・)にバトルをしているわけではなく、楽しむため(・・・・・)だけにバトルをしているからだ。

 予想外の技を食らって驚く相手が見たいし、全く同じ技を相殺されたあげくに威力で負けたことで悔しがる相手が見たい。

 やろうと思えば一撃で目の前のピッピを仕留めることもできるが、そんなことをしても面白くない。

 理由なんてそんなもので、それが全てなのだ。

 そして俺は、そんなミュウのスタンスを尊重しているし、この世界を楽しむと決めた俺にとってはシンパシーまで感じている。

 普通にバトルで勝ちたいトレーナーにとってはとんでもないことなのかもしれないが、ミュウにはずっとそのままでいて欲しいと思っている。

 

 結論からいえば、ミュウにとって自分が楽しめれば(愉悦に浸れるならば)何でもいいのだ。

 

『………ッピ!?』

 

 二度も自分の技を相殺されたあげく、自分と全く同じ技で打ち負かされたピッピが初めて驚愕の表情と声を漏らして、"かえんほうしゃ"を受けて地面に転がった。

 

 そんなピッピを見て俺の中に疑問が芽生える。

 

 ("こごえるかぜ"に"かえんほうしゃ"、ピッピは技範囲も広いし野生とはいえ使えてもおかしくはない………

 でも技の発動前の指を振るあの動作、二回とも違う動作だったけど指を振ってから発動しているところを見るに、おそらく技の"ゆびをふる"で間違いはないはず。指の動作が滑らかで迷いがなく、予め特殊攻撃技が発動することが分かっていたようなピッピの構え、もしかすると………)

 

 思考を巡らせている間に、倒れたピッピが、やはり手慣れた動作で"ゆびをふる"。

 『人差し指で星型を描くように、最初はゆっくりと最後は勢いをつけて左斜め上に指を跳ね上げる』ことで振り切ると、倒れていたピッピの体が輝き始め、大きく減ったはずの体力をみるみるうちに回復させていった。

 

(………っ!!あの光り方は"つきのひかり"じゃない!!ドヒドイデやポリゴンなんかと同じ"じこさいせい"!!間違いない、あのピッピは"ゆびをふる"で発動する技を自分で選んでいる!!)

 

 乱数調整による状況再現、といったところか。

 

 無数に存在している技の中から、たった一つの技を狙って発動させる技術。

 指を振る速さ、角度、向き、時間………あのピッピ自身が見つけ出した条件と法則に従って、寸分の狂いも無く"ゆびをふる"ことで、同じ技の発動を再現する。

 

 一体どれほどの情熱と時間を賭ければそんなことが可能になるというのか。

 今はまだ特定の攻撃技と回復技のバリエーションしかないようだが、極めれば無限の可能性を秘めている。

 ピッピに足りていないのは経験と技に関する知識。

 ミュウに対してもエスパータイプであることが分かっていれば"シャドーボール"や"あくのはどう"といった弱点を付いた攻撃を出せただろうし、"キノコのほうし"や"でんじは"といった相手を状態異常にする技を扱えていればワンチャンすらあったかもしれない。

 そこをトレーナーが補助して、育成の方針を示せばどんなポケモンに育つのだろうか。

 

 ───欲しい

 あのピッピが欲しい

 

 ゾクゾクと体を駆け巡る期待感に、空のモンスターボールを握る手に力が籠もる。

 

「なあ、俺たちと一緒に来ないか?お前のその無限の可能性、俺にも特等席で見せてくれ」

『…………』

 

 "じこさいせい"で回復してからも、無表情でその場に佇むピッピにそう声をかける。

 『ピ』、の一言すらないピッピであったが、その視線をチラリと俺に向けた後は、空中に浮いているミュウをジッと見据えていた。

 どうやら自分の技を完璧に返したミュウに対して何か思うところがあるようだった。

 それは「全ての技を使える」ミュウに、自分と共通する部分を感じ取ったからかもしれない。

 

『………ッピ!!!!』

『ミュ?』

「そうか、まだか。ならお前の掴んだ可能性を全部見せてくれ!!俺たちもそれに応えよう!!」

『………ミュ?』

 

 ピッピの目は、まだ自分の全てを出し切っていないと物語っている。

 自分の全力をぶつけた上で、今の自分の上位互換的な存在であるミュウの力を知りたいのだろう。

 

 シリアスな場面で熱く想いをぶつける俺の顔を、「突然何言ってんだコイツ」みたいな顔で俺を見てくるミュウを無視して、指を構えたピッピに注力する。

 

 ───そのピッピは"ゆびをふる"。

 『人差し指を天に向け、激しく、大胆に空気をかき混ぜるかのように、そして最後に指を大きく振り下ろす』

 指先から放たれたのは"リーフストーム"。

 鋭く尖った大量の木の葉が突風とともに敵対者へと襲いかかる。

 木の葉が相手の体中を切り刻み、凄まじい強風で吹き飛ばす彼女の渾身の一撃。

 最後に僅かにでも手元が狂えば自分自身が"だいばくはつ"する危険性もある、現時点での必殺技であった。

 

 そんな大技に向き合うのは、ピンク色の小さなポケモンに年端のいかない少年。

 彼らは目の前に迫る緑の嵐に真正面から立ち向かい───

 

「【変身(チェンジ)】"ジャローダ"、"リーフストーム"」

 

 いつの間にか緑色の大蛇の姿に変わったミュウが太い尻尾を前方に振り抜いて、ピッピの放った"リーフストーム"よりも規模の大きい破壊の嵐を解き放つ。

 

 ピッピは、自分が放った木の葉すら巻き込まれて、吹かせた突風が自分に跳ね返ってくるその光景から、決して目を逸らさない。

 技の反動で疲弊している自分に対して、技を放った後の方がむしろ調子が良さそうにしている緑色の大蛇……先程まで宙に浮いていたピンク色のポケモンが変化した姿と、その後ろに立つ人間。

 

 そのピッピは、次に目を覚ましたらまた"ゆびをふる"と心に決めて、木の葉を纏った大嵐に吹き飛ばされて転がり、倒れながらも頭を上げて辛うじて開いた目の前に迫るモンスターボールを直視して、そこで意識を失った。

 

 

 




 はい、ミュウは好きなタイミングで好きなポケモンに変身できます。
 ジャローダを選んだのはリーフストームを見て反射的に思い浮かべたポケモンだったから。

 乱数調整についてはポケモンのRTA動画なんかでも見かけますね。
 体力満タンの伝説を初手で投げたボールで一発で捕獲したり、自分の技を狙って急所に当てたりすることができます。
 人外の神業ですが、ピッピは自力で試行錯誤してたどり着きました。
 よくわからない方はゆびをふるで好きな技出せる!!ってことで認識してれば大丈夫です。
 無口無表情なのは精密性を求めるあまり感情を失ったから──ではなく、人(ピッピ)付き合いが煩わしいただのコミュ障だからです。
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