☆オツキミ山内部の洞窟、とある小部屋
「捕獲完了……っと」
"リーフストーム"の一撃で倒れたピッピを空のモンスターボールに納めた俺は、戦闘終了後の緊張感を和らげるために肩の力を抜いて気を緩めていた。
『ミュ〜?』
「お前の後輩になるからな。技の使い方とかいろいろ教えてやってくれ」
興味深そうにピッピの入ったモンスターボールを覗き込む【変身】を解いたミュウにそう言って、イーブイのボールと一緒の場所にしまう。
ミュウは興味のない人間やポケモンに対しては完全に無関心になるので、面白い戦い方をしていたピッピには興味を示してくれたようで何よりだった。
「……あっ、イーブイのこと忘れてた」
『ミュッ』
「……言うなよ?」
『ミュ〜♪』
脳内に再び響く『ブイィッ!?!?』という相棒の幻聴を聞きながら、俺の呟きを聞いて吹き出したミュウに釘を刺しておいて(おそらく意味が無いだろうが)、今いる小部屋から出てここまで歩いて来た道を折り返していく。
反対側の曲道に行っていたイーブイが、人の多い化石発掘場の方に戻っている可能性もあったので、透明化したミュウとともに未だにゾンビみたいな顔で壁を掘っていた参加者たちのところに戻ってきた。
どうやらその判断は間違っていなかったらしく、
『ブイブイブイブイブ〜イッッ!!!!』
「あっ!!よかった、無事だったんだね!!いやぁ、君のイーブイだけさっき戻ってきて何かを必死に伝えようとしてくるからさぁ、もしかしてトレーナーとはぐれたんじゃないかって心配してたんだよ。危うく僕の監督責任問題に発展するところだったよぉ〜。あ、君はもう自由行動禁止ね」
「本当にすみませんでした………」
『ブイィ………』
恰幅が良くておおらかそうに見えるのに、笑いながら若干キレていた運営スタッフの方に心からの反省の意を込めて頭を下げる。
結果的にピッピを捕まえることができたが、どう考えても迂闊な行動だったと思う。
そんな折、俺と一緒にションボリしながら頭を下げていたイーブイが突然何かを思い出したようで、尻尾をピンッと立ててからどこかに走っていく。
そんなイーブイが物陰でゴソゴソと何かを漁ってから俺の元に戻り、口に咥えていた石をゴトンッと音を立てて俺の足元に置いた。
『ブイッ!!!!』
なんとそれは俺たちがずっと探し求めていた月の石であった。
どうやらミュウとの追いかけっこで、ミュウの持っていた月の石の強奪に成功したらしく、石を自慢しようとしたところで俺がいないことにようやく気づき、慌てて探し回ったらしい。
変わらずの石を使って作られたアクセサリーが、そのフカフカの毛の内側に埋まっているので進化せずに触ることができている。
『ブイッ!!ブイッ!!』
尻尾を千切れそうな勢いで振っているイーブイが、「早く褒めて!!ほら早くっ!!」みたいな顔をして俺を見上げていたので、苦笑しながら、独断行動は後で叱ることにして今は褒めてやろうとピコピコ揺れる耳の合間へと手をのばした。
いろいろあったが、どうやら俺たちの当初の目的も果たせたようでこれで一件らくちゃ──
『………ミュッ』
ゴトゴトゴトゴトッ!!!
「「「!?!?!?」」」
イーブイの頭に触れる直前に、俺の背後から聞き慣れた鳴き声と大量の何かが地面に落ちて積み重なる音が洞窟内に大きく響き渡る。
俺だけじゃなくて、さっきの小太りの運営スタッフも死にそうな顔で化石を掘っていた参加者も、何事かと驚きの表情で注目が集まる。
「また君かっ!!少しはおとなしくしていてくれよっ!!
……全く今度はなに……を……!?これは、貝の化石!?こっちは甲羅の化石じゃないか!?しかもこんなにたくさんの数を!?金の玉に星の欠片、月の石に太陽の石までこんなに……。こっ、この琥珀は!?中に小さな生き物みたいなのが見えるぞっ!?すごいっ、大発見だ!!天才だ!!君は採掘の大天才だ!!この業界に鬼才が現れたぞおおオォォッ〜!!!」
「いやあの」
「すげえ……、俺たちはこんなに頑張っても石ころしか掘れなかったっていうのに……。これが本物ってやつなのか……。あの若さで運も実力も兼ね備えている天才にはやっぱり勝てねえよ……」
「いやそうじゃなくて」
ああ、勝手に誤解が広まっていく。
笑顔でキレていた運営スタッフ……ニビ博物館の館長さんが、お腹を揺らしてキレのあるダンスを狂喜乱舞しながら披露し、鉱山奴隷みたいな顔でひたすら壁を掘り進めていた何やら事情持ちのおじさん……化石発掘で人生一発逆転を狙っていたらしいおじさんが絶望の表情でツルハシを地面に落下させる。
他の参加者やスタッフたちもそれぞれが盛大なリアクションとともに沸き立ち、この場はすでにお祭り騒ぎのような有様となってしまっていた。
積み重なる月の石と目の前にある月の石を見比べたイーブイがピシリと固まって動かなくなり、どこかから聞こえるクスクスという笑い声が白熱しているこの場の熱気に紛れて俺の耳に届いてくる。
褒めていいのか叱っていいのか分からないが、間違いなくこのカオスを楽しむためだけに
(覚えてろよぉぉ〜!!!ミュウゥゥ!!!)
汗だくで興奮しながら迫る館長さんから何とか距離をおき、強制的にこの騒動の中心に立たされた俺は、あの問題児をどうしてやろうかと考えながら、この狂騒のど真ん中で現実逃避するのであった。
──────────
ぶっちゃけて言えば、色々と面倒くさい絡みはあったのだが、収支でいえば大幅プラスであった。
貴重な進化の石は俺たちが使う分を除いてシバサキ教授に全て回し、ポケモンの化石は"ひみつのコハク"も含めて全てニビ博物館に寄贈させてもらった。
その代価として換金できる宝を館長の紹介を通して現金化してもらい、俺の元にはかなりの金額が転がり込んできた。
『ミュ〜?』
元々がミュウが集めてきたものを売ったことで稼げたお金なので、最近増えてきたミュウの食費にでも充てようと思う。
オツキミ山から帰ってきてポケモンセンターで回復してもらったピッピを受け取り、その日のうちにタマムシシティの孤児院に帰還した。
終始真顔無言のピクシー───最終的に進化させるので"ゆびをふる"ための体をピクシーの体に少しでも慣らすためについ先程進化させた───とイーブイとミュウとの顔合わせを済ませてから、今日一日を振り返りつつ布団に横になる。
明日はエーフィとブラッキーへの【形体変化】の訓練をしつつ、ピクシーに技の種類と効果を勉強させて、ミュウはなんか美味い食べ物で釣ってピクシーのお手本になってもらおう。
シバサキ教授にも挨拶しないといけないし、そろそろ孤児院の弟妹たちの遊び相手にもなってやらないといけないな。
充実した生活に満足しながら布団に潜り込んできた何かの体温(おそらくイーブイ)を感じつつ、採掘で疲れ切っていた俺はすぐに深い眠りへと落ちていった。
──────────
「おはよ〜マスター!!ねっ!ねっ!今日は何するの〜?」
翌朝、俺の布団の中から、白いワンピースを着たピンクの髪色の俺と同年代の少女が熟睡していた俺を楽しそうに起こしてきた。
パッチリと開いた青い瞳に非常に整った可愛らしい顔立ち、シミ一つない健康的な肌に小柄で子供らしい体格、そしてピンク色に輝く背中まで流れるサラサラのロングストレートの長髪。
「………………………おはよう、ミュウ」
寝ぼけた頭を必死に動かして絞り出した答えはどうやら正解だったらしく、花が咲くような笑顔でソワソワしている目の前の少女を見て、何でこんなことになっているのかを寝起きで回らない頭で考えるのであった。
サブタイトルの狂騒曲は化石新発見で沸き上がる人々の狂騒とピッピの指を振るを指揮者に見立てた協奏曲とのダブルミーニングにするつもりでしたが本文に入らなかったので裏話として。
ミュウの人化については次回以降でチラッと触れるけど深い理由はありません。強いて言うなら「ミュウだから」くらいです。
次話以降はある程度書いたらそのうちまた投稿します。