世界一有名なあの人
☆タマムシ大学、シバサキ教授の研究室
「アルト君……。いくらミュウの妄想に取り憑かれたからといってそれっぽい雰囲気のある少女を誘拐してきてそう名付けるだなんて……。私は君の将来が非常に心配だよ」
「無実です」
オツキミ山から帰ってきてから数日後、シバサキ教授に挨拶とお礼も兼ねて報告に訪れたところ、当然のように人化したミュウについて聞かれたので、新しい孤児院の妹だと紹介しておいた。
流石に誘拐うんぬんはただのジョークであるが、ミュウと名付けられた(本物だけど)少女と、前に相談したストーカー事件を連想させて、何故か俺がミュウへの妄執に囚われた変態みたいになってしまっていた。
ちなみに孤児院で朝も似たような疑いをかけられ、この年齢で知らない女の子をお持ち帰りしてきた男としてあわや認定されてしまうところで、ミュウが嘘泣きを交えて事情を説明した。
帰る場所も行き先も無くて路頭に迷っていた彼女を俺がこっそり匿ったというストーリーがいつの間にか出来上がったらしく、ミュウは孤児院の子として無事に迎え入れられることとなった。
俺と一緒に暮らしていたため、孤児院の子供や先生たちについても把握していたらしく、あっという間に馴染んでムードメーカー且つトラブルメーカーの可愛い女の子という地位を築き上げたのであった。
………なんで突然人化したのか聞くと「出来ると思ったから」らしく、なんで女の子でそんな容姿なのかと聞くと「可愛いから」と返ってきた。
まあ、言葉でコミュニケーションを取ることが出来るようになっただけ良かったと思うことにする。
人の姿になったことで別の苦労も増えたのだが。
「こほんっ、オツキミ山の件、研究素材も手に入ったし私の伝手からも非常に感謝されて大変助かったよ。ありがとう。何故かニビ博物館の館長から随分と熱心に君の勧誘を受けたがそれは置いておくとして、実は私の研究について詳しく知りたいという、ある高名な研究者の方から連絡があったんだ。そこで、君にはイーブイを連れてその人に会ってもらいたい。巻き込んで申し訳ないが君にとっても悪い話にはならないと誓おう。なにせその相手というのも───」
ドンガラガッシャァ〜ン!!!!
「「!?!?」」
「うわ〜、ぶいちゃんが怒ったぁ〜!せっかく親切にオツキミ山でマスターに忘れられてたこと教えてあげたのにぃ〜!」
『ブイブイッ!!!ブイッ!!!』
「違うもーんっ、私のせいじゃないもーんっ!マスターより月の石を選んだぶいちゃんのせいだもーんっ!」
バサバサバサバサァッ!!!!
「……………アルト君、先ずは片付け、してもらうからね?」
「……………ハイ」
堂々と人前に出て自由に振る舞えるようになったミュウは、テンションの制御が難しいらしく前よりも子供っぽくなっているようであった。
トレーナーとして注意深く見守っておくべきだっただろう。
シバサキ教授の研究室内で資料や機材を倒しながら追いかけっこを始めた問題児たちの姿に片手で額を抑えて、走り回る二匹を宥めて叱りつけてから散らばった研究室の後片付けを行うのであった。
──────────
「マサラタウンへようこそ、アルト君。ワシはオーキド、みんなからはポケモン博士と呼ばれておる。シバサキ君のレポートは拝見させて貰ったぞ。そのイーブイが進化エネルギーを制御して形体を切り替えることが可能なわけじゃな。特異なその力、是非この目で確かめさせてもらえんかのう?」
ここはマサラタウンにあるオーキド研究所。
空気が澄んでいて自然が豊かな場所であり、都会ではあるが排気ガスの臭いが鼻につくタマムシシティとは別種の魅力に満ち溢れた場所だ。
そんな田舎にやってきた俺の目の前にいるのは、この町で唯一存在している研究所の主、世界的にも有名なポケモン研究の第一人者、オーキド博士であった。
「はじめまして、アルトと申します。こっちはミュウです。今日はよろしくお願いします」
「こんにちは〜!!おじいちゃん!!」
「おおっ、こんにちは〜。そうかそうかミュウちゃんというのか。なるほどのう………」
ミュウの元気だけはいい挨拶に好々爺とした笑みで返してくれたオーキド博士が、ミュウの姿を見て納得しながらうんうんと頷いている。
「博士、それ本物です」とは流石に言えなかった俺は曖昧な笑顔で誤魔化し、さっそくとばかりに本題を切り出そうとした。
「ところで、イーブイの力を見せるというのはバトルでもした方がいいんでしょうか?それだと俺は誰とバトルすれば───」
「───へぇー、面白そうなことしてるじゃん、ジジイ。バトルの相手に困ってるんだったら俺が相手になってやってもいいぜ」
「………」
オーキド博士に向けて話していた俺の背後から、同年代の二人の少年が近づいてきた。
一人は明るい茶髪をツンツンと立たせて自信満々に喋りかけてきた少年。
オーキド博士をジジイと呼び、田舎の少年にしてはやけにお洒落な服をバッチリ着こなして、そのハンサムな顔を堂々と挑発するように向けてきている。
相手をバカにしているつもりはないのだろうが、自分に絶対の自信を持ち、デカい態度を取っている彼は、俺の精神年齢が見た目通りだったのならば腹が立っていたのかもしれない。
もう一人は、黒髪の短髪の上に赤い帽子を被り、一言も喋らずにじっと佇んでいる少年。
服装は良くも悪くも田舎の少年感が漂い、隣の少年とはだいぶ性格も見た目も違うようではあったが、不思議と隣同士に立つ姿に違和感が感じられない。
その目は俺の足元にいたイーブイへ向けられており、観察するというよりかはバトルを求めているような雰囲気が感じられた。
「これ、ジジイじゃなくておじいちゃんと呼べと言っておるじゃろう。すまんなアルト君。こっちの生意気なのがグリーン、ワシの孫じゃ。隣の子はレッド、どちらもこのマサラタウンに暮らす君と同じ年代の少年じゃ」
「へっ、聞いたか?俺が未来のチャンピオン、グリーン様だ。お前のイーブイ、珍しい個体なんだってなぁ?どれだけ戦えるのか俺が確かめてやるよ」
ここまでポーカーフェイスを保っていた俺の表情筋を褒めてやりたい。
俺もよく知る二人、見た感じ俺の知っている性格ともかけ離れていないようではあるが、そのような先入観を極力持たないように自分を戒めながら、初めてあった人とするような普通の会話を試みる。
この世界の二人を俺は何も知らないのだから。
「いいよ。タイマンでオーケー?」
「ひゅう〜♪話が分かるじゃん。おいジジイ!!研究用のポケモン一匹借りるからな!!」
「…………」
「あ?お前も戦いたいのかよ、レッド。ダメだ、俺が先だぜ」
「…………」
「ズルくねーよ。俺の後にお前がやればいいだけだろうが」
俺の返事に無駄に上手い口笛で答えるグリーン。
隣のレッドはただ突っ立っているだけで声も全く聞こえないのだが、なんでグリーンはレッドの話したいことが分かるんだろうか。
「だからおじいちゃんと呼べと言っておるじゃろうに、まったく……。しかしアルトよ、グリーンはこう見えてかなり強いぞ?幼い頃からワシの近くでポケモンのデータに触れて育ち、バトルに関する知識も同年代とは比べ物にならないレベルじゃ。身内贔屓なしでも控えめに言って天才というやつじゃぞ」
おそらくそれは博士による俺への配慮なのだろう。
この年代の自意識の高い少年が、天才と呼ばれる者を前にして心が折れてしまわないように、あるいは天才には叶わなくても仕方がないと負けたあとで言い訳ができるように。
望むところだろう。
「やるぞ、イーブイ」
『ブイッ!!!!』
相棒も気合十分のようだ。
「がんばれ〜ぶいちゃん〜。パクパクモグモグ……」
テレポートでポップコーンを突然出すな。
博士がびっくりして二度見してるじゃないか。
すっかり観戦を楽しむつもりのポップコーンを貪っているミュウを連れて、グリーンが先導する研究所外にあるバトルコートへと足を向かわせるのだった。
本当はオーキド博士の名前を聞いた時から大体察していました。
先入観を持たないように気を付けているだけであって、普通に先入観を持っています。
でも性格一致してそうだしいっか、とも思っています。
あと、グリーンが行き当たりばったり感を出していますが、今回の訪問のことは事前に知っている上にバッチリ準備してます。