現代に転生したけど前世で有名な曲が一つもなかったので布教します 作:ulo-uno
私がその歌に出会ったのは“偶然”だった。
ヨーロッパのライブツアーの合間に偶然見かけた無名の歌い手。
見るからに歳はまだハイスクールかそこら。
でもその技術はまるで何年も……もしかしたら私なんかよりもずっと歌い続けてきたような洗練されたものだった。
無駄なく無駄を作る。
私は時に歌い手をこの様に表現することがある。
無駄のない歌と言うものは聞き手にとっても洗練されていることが分かる。
癖なく非なく確かに素晴らしいものだ。
だがそれは歌い手としては私は認められない……認めてあげられない。
無駄のない歌と言うのは言い換えれば歌い手が居なくてもそれこそ機械なんかでも歌えてしまう。
だからこそ私たちは無駄なく無駄を作るのだ。
私達歌手にとって無駄なく無駄を作ると言うのは自分を表現すると言う事。
それはつまりその人に芯と言えるものがちゃんと備わっていること。
彼の歌からはその芯が感じられた。
不思議な話だと思う。
今まで無名だったこの歌い手が世界にはなったその歌が巡り巡って私の下に届くなんて。
しかし、その歌を聞いた時私はほぼ反射的に彼にメッセージを送っていた。
“素晴らしかった”と。
皮肉でもお世辞でもなく只々素晴らしいの一言しかないと。
それからも彼の歌を聴き続けた。
それ程に彼の歌の魅力に引き込まれたのだ。
世に出す曲の全てが彼自身のオリジナル。
それもその全てが名曲となれば私でなくとも引き込まれるのは当然の結果と言うものだろう。
ほどなくして私はこう思った。
彼となら歌いたいと。
いや、彼と歌ってみたいと。
その思いは日に日に大きく、強くなっていった。
しかし、その思いを実際に伝えたところで冗談と思われてしまった。
このままでは彼と歌う事も夢のまた夢だ。
そう思っていた時思わぬところから私にとっても助け船が出てきた。
今年のサマーソニア、それに参加しないかと言うお誘いだ。
サマーソニアは日本最大級のライブイベントである。
それだけの規模のイベントになれば私が参加したところで誰も文句を言う事はないだろう。
そう考えあるメッセージを送った。
彼と一緒に参加と言う条件の下サマーソニアに参加することにしたのだ。
彼ならサマーソニアの参加要件は易々と達成できるに違いない。
何せこのマリア・ディーゼルが見込んだ歌い手なのだから。
あとは彼をその気にさせるよう周りを軽く誘導してやればいい。
SNS、個人の配信、やりたくはなかったがメディアに少しだけ情報を流したりもした。
本当に厄介だったが。
そのおかげもあってかなんとか彼をサマーソニアに連れ出すことに成功した。
しかし、不安もあった。
彼は自分の居場所を絶対に明かさない。
彼がいつも収録しているスタジオも一切アタリが付けられない状況だ。
この状態で一体どうやってサマーソニアの打ち合わせができるのだろう?
そんな疑問を影ながらに抱える私に幸運が舞い降りた。
本当に今回の出来事は余りにも幸運すぎて柄にもなく神に祈りをささげようかと思ったほどである。
なんと彼の居場所を知人がつかんでいたと言う事だ。
きっと今後私がこれほど敬虔な信徒になることはないだろう。
そうして半ば無理やり迎えたコラボ企画。
そこでまた私は驚くことになる。
今迄私は彼の事を早熟の類だろうと思っていた。
だってそうでしょう?
この年であれだけの技術を身に着けあまつさえ私が認めるほどの歌唱力を披露するのだ。
それも自分で言うのも何だが
本当にどうやってこれ程の歌唱力を身に着けることができたのか分からない。
歪なのだ、彼は。
しかし、だ。
それでも彼の実力は本物。だからこそこうやってコラボを申し出たわけだがやはり彼の歌唱力は素晴らしかった。
少なくともそれは彼の配信で世界中の人を虜にしたという事実に納得できるほどに。
でも、本当のサプライズはその後だった。
彼の歌唱力にちょっと中てられ興奮を冷ますために歌った後、彼の歌った曲は今まで彼が歌った中でも最高の一言だった。
全くおかしな話である。
これまで彼が世界に送り出してきた曲は少ない。
しかし、それでもその曲は確かに世界に届いていたのだ。
では、この曲はなんだ?
彼が早熟?
ふざけるな。
彼はこの瞬間
きっと彼はこれからも成長する。
今回はそれが偶々今だったと言う訳だ。
明らかに熱量が違った。
世界が変わった。
彼の歌詞に、歌声に、心に世界が震えた……そう、感じたのだ。
そしてその時こうも思った。
彼にこの国は余りにも狭すぎる。
もっと大きな世界を見てほしい。
彼にはもっと自由に羽ばたいてほしい。
思うがままにその歌を、羽を広げて何処までも自由に飛び立ってほしい。
こんな小さな檻の中に居ていい小鳥ではないのだ。
今はまだいいだろう。
だがいつかこの小さな檻では彼を苦しめることになるだろう。
体を締め付け彼を拘束しその翼から自由を奪い去るだろう。
それはいけない。
今は小さな小鳥でも彼は必ず大空を羽ばたく鷹になるだろう。
彼を連れて行くべきだ……
だからこそ柄にもなく近藤の話に彼を乗せた。
彼なら彼が空を羽ばたく前に檻から出してくれる。
そしてそうなったら……きっとその隣で飛んでいられるのは私だろう。
その時が楽しみだ。
この感動をこれからも特等席で眺められると思うと興奮が抑えられない。
全く、音楽とはこれだから面白い。
国の境界線など関係なく世界中の人がつながり合えるのだから。
全く……本当に面白いものを見せてもらった。
これからも期待させてもらうとしよう。
だがまずは……サマーソニアだ。
そこで魅せよう。
世界に教えてあげよう。
この世界に生まれた新しい
ちょっとした雑談。
先日感想ランを眺めていた時主人公の垢名の由縁を言い当ててた人が居てビックリしました。
さては前世は探偵だな?
あと、中々に忙しくて返信ができていませんが感想はすべて読ませてもらってます。
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この場をお借りして感謝申し上げます。