吸血病になってしまったキタちゃん   作:堪えきれぬ狂い火

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第1話

「はぁ、はぁ、はぁ~………トレーナーさん。どうでしたか?」

 

あたしは息整えながらトレーナーさんに尋ねる。

 

「タイムは……いい感じだな。少しづつ平均タイムが良くなってる。後はそうだな…ちょっと待ってくれよ?」

 

トレーナーさんは手元のタブレットで、録画したさっきの走りを視ている。

 

フォームが崩れてないか、走りのペース配分はどうか、細かく確認して指示をするいつものルーティン。

 

「ふぅ…」

 

その間、私はトレーナーさんの座っているベンチの後ろから飲み物ボトルを手に取って、その中身で口の中を潤す。ほんのり甘い風味が口の中いっぱいに広がる。3分近く鞭を打った体に優しく染み込んでくる。

 

ふと、感じる違和感。ちゃんと飲み物を飲んでいるのに、喉が渇くような。

 

「んん、なるほど…」

 

トレーナーさんは、何かを掴んだようです。その手に持つタブレットに私の走る姿が、白いシャツの肩越しに見えて。

 

ふわりと、感じる違和感。何かが足りなくて、でもそれは近くにありそうな気がして。

 

「前のも確認するか…」

 

トレーナーさんの後ろ姿はどうにも気になってしまう。座っているところを見下ろすと小さく見える背中だけど、男らしく筋肉がついていてがっしりとしている。その証拠に首回りも筋肉がついていて、筋張っている。

 

初夏の暑さのせいか、シャツを開けて鎖骨のあたりがちらりとみえてる。首は血色が良くて、生き生きとしてる。汗をかいていて、大きな粒となって流れてく。

 

ごくり

 

生唾を飲んでから、喉が渇いていたのを思い出した。スポーツドリンクを一口飲む。

 

トレーナーさんは相変わらず画面とにらめっこをしてて、首筋は美味しそうで……

 

美味しそう?

 

確かにお肉は食べたいけど、それはご飯の話。美味しそうっていうのは冗談。うん、冗談。

 

じいっと、首元を見てしまう。綺麗な曲線をしてて、血管が浮き出てて、みえちゃってる鎖骨がちょっとエッチな感じ。トレーナーさんって案外俳優さんとしてやってけるのかも…

 

ごくり

 

もう一度生唾を飲み込む。特にそんな気は無いのに、どうにも首筋から目が離せない。

 

喉が渇いてる。

 

飲み物を飲まないと。でも、このスポーツドリンクじゃあ飲んでも飲んでも喉が渇く。何か別の飲み物を飲みたい。

 

首筋、汗、鎖骨、筋肉、血管……

 

美味しそう……だ、だめ!うぅ…喉が渇く…飲みたい…!だめだめ!でも…!……ちょっとだけなら?

 

 

 

ガブリ

 

「!?───いっ!」

 

私はトレーナーさんの首筋に噛み付いて、犬歯で肌を切り裂いて、溢れ出る中身で口の中を潤す。ほんのりしょっぱくて、鉄臭い風味が口の中いっぱいに広がる。渇いて渇いて仕方がない体にめいっぱい染み込んでくる。

 

おいしい…

 

もっと飲みたい…

 

より力を込めて傷口を開いて、より強く"飲み物"を吸う。ごくごく飲むってより、じわじわと染み出してくるのを味わって飲む。ガツンと来る風味、言葉にするのは難しいけど頑張って言うなら大人の味…

 

「痛い!ちょっと!?キタちゃん!何やってるの!?」

 

っ!

 

トレーナーさんの声でさぁっと血の気が引いて、体が冷える。

 

あ、あたし…やっちゃった…

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

それは突然だった。いや、前から前兆があったのかもしれないけど、それには全く気付かなかった。

 

いつものようにタイムを計って、録画した走りのフォームを見比べている時、キタちゃんが噛み付いてきた。

 

すぐに離したし、傷口はそこまで深くもなく広くもなかった。ただ、少し位置が違ったり、深かったりすれば頸動脈に達していた事を考えるとかなり恐ろしい。

 

何事かと聞いてみると。

 

「な、なんか、首筋を見てたら、つい…ちょっとした出来事だったんです!ごめんなさい!」

 

とのことらしい。キタちゃんは素行不良のウマ娘ではないし、イタズラでそんな危ない事はしない。

 

とりあえずその場はうやむやにしておいて、トレーニングを続けた。ただ一つ、考えすぎかもしれない可能性を頭に残したまま……

 

 

 

 

 

 

ルーマニアより愛を込めて

 

 

 

その心当たりの答え合わせは意外にもすぐだった。2日後、トレーニング後の事だった。

 

「と、トレーナーさん……私…私っ!ごめんなさい!」

 

がぶり

 

キタちゃんがまた嚙みついたのだ。勿論すぐに引きはがして、彼女を問いだたした。

 

「私……トレーナーさんの血が飲みたくて飲みたくて仕方が無いんです……喉が渇いて渇いて仕方が無くて……気が狂いそうで……」

 

やっぱりだ。本人の口から言い、実際に抑え切れずに俺を襲ったのだ。黒で間違いない。

 

「それはきっと……キタちゃんは吸血病になっちゃったんだろうね」

 

「吸血病……」

 

近年になって病気として確立された、精神疾患の一種である。吸血鬼のように生き血を啜る嗜好となり、その欲求は抑え難いものとなる。結果、暴行事件へと発展する例も珍しくない。また、人によっては本人の血色が悪くなったり、日光を嫌がったり、エコーロケーションを習得したりと、伝承の吸血鬼に近い者も現れたりする。

 

ワイドショーで取り上げられたりするため、知名度は名前と概要は知っているという者は多い。

 

 

 

 

 

素人が判断するには早い。医師の診断無しで断定するのは良くない

 

とあらば、キタちゃんを急遽病院に連れていき、診断をしてもらったが……当然、吸血病と診断された。現状、吸血衝動を抑える薬は存在しないため、理解のある人間が傍に居て、時折血を吸わせてやるのが一番周囲に被害が出ないとのこと。

 

 

 

「ううん……困ったな……」

 

実際、キタちゃんに自分の血を与える事には個人的な感情としては問題は無い。だが、成人男性の血液を頻繫に吸わせるのは倫理的に感情的に良くないと感じる。

 

「ごめんなさい……トレーナーさん……私のせいでこんな事に……」

 

「いや、良いんだ。誰だって病気になるものさ。しょうがない事だ」

 

「あの……お願いなんですけど……もしかしたらダイヤちゃんやテイオー先輩、学園の皆を襲ってしまうかもしれません……なので……トレーナーさんに一緒に居て…………」

 

それは俺を血袋として所有するという宣言のようなものだった。

 

「それって……いいのか……?仮にも俺の血を吸うって事だよ……?今回は事故だとしても…嫌じゃないのか……?」

 

「大丈夫です。前も、今日も飲みたくてトレーナーさんを襲っちゃいましたけど、全然嫌じゃないです……むしろ美味しかったぐらいで…!と、とにかく、またトレーナーさんに迷惑かけちゃいますけど、トレーナーさんが嫌じゃないなら、お願いしたいです」

 

「……わかった。いいよ、血が吸いたくなったらいつでも言ってくれ」

 

担当のメンタルヘルスケアもトレーナーの仕事だからね。と付け加えた。

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

それから3日間ほど、キタちゃんは練習後に血をねだるようになった。

 

「トレーナーさん……いただきます……あぐっ……」

 

キタちゃんは俺の首筋に犬歯を突き立てて、溢れる体液を啜る。一度に流れる量は多くない。

 

「………ぐ………」

 

神経細胞が皮膚と肉を切り裂く異物を検知して、痛烈な電気信号を脳に伝える。声を上げないように歯を食いしばる。耐えれないほどではない。

 

痛いことを表に出せば、キタちゃんは心配する。できれば心配はして欲しくない。キタちゃんのメンタルケアの一環だから、心置きなく血を飲んで欲しい。

 

じわりじわりと血液が溢れる。キタちゃんはどんな顔で、どんな気持ちでそれを飲んでいるのか、俺にはわからない。

 

 

 

「ぷはっ……ごちそうさまでした」

 

「っは、はぁ……これでしばらく大丈夫かな?」

 

「はい!大丈夫です!ありがとうございました!」

 

「んあーー……あっ………」

 

体を解そうと伸びをしようとした時、不意に視界が暗くなり、体が傾いた。

 

「あっ!大丈夫ですか!?」

 

倒れそうになった所をキタちゃんが支えてくれたのだ。

 

「あ、ありがとう……ちょっと疲れてるだけさ、心配しないで」

 

思い当たるのは貧血の症状。脳に血液が十分に届いていない、そう感じる。

 

ここ数日は吸血されていたせいだろう。一回一回の量は少ないとはいえ、流血には違いない。

 

やはり一人では限界があるか………

 

夕闇迫るトレーナー室の中で椅子に体を預けた。

 

 

 

 

 

「「「なるほど~」」」

 

「で、私達が協力しろって訳?」

 

悩んだ結果、キタちゃんの信頼できる友達にも吸血させて貰う事にした。

 

サトノダイヤモンド、コパノリッキー、スイープトウショウの3人。

 

「そう、一週間のうち何日か肩代わりしてくれればそれでいいし、勿論、協力してくれたらお礼はするよ」

 

「私は勿論協力します!」

 

「いいよ~☆私のバランスの取れた気・血・水をお裾分けしたげる!」

 

「魔法の材料集め手伝ってくれるなら協力してあげてもいいわ」

 

案外すんなり協力を取り付ける事ができた。とりあえず貧血で倒れる事は無くなるだろう。

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

そんなこんなで、ダイヤちゃん、リッキーさん、スイープさんにも吸血をさせてもらったんだけど……正直に言うとあんまり美味しくなかった。トレーナーさんの血を飲んだ時みたいな、美味しさはなくって、血の本来の臭みみたいなのが強くて……私の舌が変わっちゃったのかなって……

 

それと、土日は会えないからって、トレーナーさんは血を抜いて、保冷バッグに入れて渡してきた。それを飲んでみたけど、そんなに美味しくなかった。

 

とにかく、血を飲みたいって衝動はなんとかなったのは救いだった。

 

私の中に暗くて冷たい何かが鎌首をもたげて、大きくなっていくのを感じる。それは暖かいものを探してゆっくりと動いている。

 

 

 

 

 

 

「トレーナーさん!今日もよろしくお願いします!」

 

今日も私はトレーニングに勤しむ。その師たるトレーナーさんはにこやかに私に笑いかける。

 

「土日はどうだった?あれで足りた?」

 

「はい!足りました!」

 

ウソ。もの足りない。人参のないハンバーグみたいな、そんな感じ。

 

「それじゃあ今日は………」

 

いつもの時間が刻々とやって来るのを私は体で感じていた。

 

 

 

私は脚を回して筋肉を壊して作り替えて、肺に空気を取り込んでは吐き出して酸素供給効率を上げる。

 

そうしてクタクタになるまで走って、体を止めたとき、私はこの体に流れる血潮を感じた。

 

ドクドクと私の心臓はうるさく血液を送り出す。全身の血管が大きく開いて全身に酸素を届けようとしているのがわかる。

 

体がこれ以上無いぐらい火照って熱い。体から湯気が出るほど。

 

心が昂って仕方が無い、この疼きを止めてくれるのはあれしかない。

 

私はトレーナーさんから目が離せないでいた。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ今日も……お願いしてもいいですか………?」

 

「うんいいよ」

 

トレーナー室に手を引いて彼を連れていく。もう、待ちきれない。

 

「ささ、トレーナーさんは座ってください」

 

私はその膝の上に乗って強く抱きしめる。そうしたら彼の胸の奥の鼓動が私の胸にはっきりと伝わってきた。彼の血はこの中でぐるぐると流れてる。

 

トレーナーさんは私を優しく抱きしめ返してくれた。私の鼓動もどきどきと早くなってしまう。きっと、トレーナーさんに私のどきどきは伝わってるはず……少し恥ずかしい。

 

その恥ずかしさを誤魔化すように、私は勢いでトレーナーさんの首筋に嚙みつく。

 

一気に力を込めて、溢れ出る血を口の中で味わって、啜る。

 

ぎゅ~っ……

 

トレーナーさんが強く抱きしめ返してくれる。きっと痛いのを我慢しているんでしょう…そう考えると、トレーナーさんに本当に申し訳なく感じます…でも、こうやって強くぎゅってされてると、恋人が抱き合うみたいで何だか嬉しい。こころがあったかくなる。

 

気づけば、トレーナーさんの血はダイヤちゃん達の時とはちがってちゃんと美味しい。生臭いというよりは強い刺激的な味って感じで、口の中も体も熱くなって、ほわほわして……!

 

どうして皆の血が美味しくなかったのか、やっとわかった。きっと私はトレーナーさんの血じゃないとダメなんだと思う。嚙みついてまで飲みたくなってしまったし、こうやってぎゅってしながらじゃないといけない。

 

きっと私は、トレーナーさんが好きだから。

 

すき、その二文字を頭の中ではっきりと考えて、かぁっと顔が赤くなる感覚を自分でも感じた。私、べたぼれなんだぁ…

 

恥ずかしさを感じながらゆっくりゆっくり飲んでたら、トレーナーさんに止められちゃった。

 

もっと……と思ったけど、明日も、明後日もある。やっぱりトレーナーさんから直吸いしたいってお願いして、お休みの日は我慢して、我慢したぶんいっぱい飲ませてもらって……

 

病気のせいでってしかたない風にすればきっとトレーナーさんは優しいから許してくれるはず……!

 

それと、トレーナーさんに私の事を好きになってもらえたら嬉しいなって。好きっていうのは勿論女の子として、恋人として。血を吸わせてもらうだけじゃなくって、一緒にお出かけして、手を繋いだり、ちゅーしたり……そういうこともトレーナーさんとしたいって思った。

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

キタちゃんが吸血病になってから、俺は時間のある時や休日を使って吸血病について調べるようになった。このまま、一人の男の血を吸い続けるには肉体的にも社会的にも問題がある。早急に治療法を探さなくてはならない。

 

とにかく、片っ端から文献やら研究を漁ってみた。どうやら吸血病になる人間は若い人間が多い。吸血鬼伝説にあったような特徴は人によってそれぞれ、そもそもその吸血鬼の話は脚色されたものか、空想なのかはっきりしていない。とにかく、謎の多い病気である。

 

その中でも目を引く、眉唾な研究結果があった。吸血病の人間は愛したい、愛されたいという欲求が吸血病でない人間よりも大きいという傾向があるそうだ。勿論、心理学的なアンケートであるため信憑性は確実にあるとは言えないが、そういう傾向が強いという事は頭に入れておくべきだろう。

 

………そう考えると、キタちゃんもそうなのだろうか。誰かに愛されたいと思っているのだろうか……?いや、きっとそうだ。彼女も年頃の女の子だ。恋に恋する乙女なのだ。

 

だから、吸血病になってしまったのかもしれな………待ってくれ、誰に恋している?せっかく友達に血を吸わせてもらうように取り付けたのにすぐにやめて、俺の血だけを飲むようになった。その時は体質的にどうしても俺じゃないとダメだと言っていた。

 

それに、キタちゃんの距離感も変わった。新しいシューズやら蹄鉄やらスポーツ用品を一緒に買いに行くようになった。しれっと手を繋がれてしまって気が気でなかった事も、時間の有効活用だと言われて映画を一緒に見たり、水族館に行ったりした事も思い出した。

 

これはまるでデートをしているようだ……

 

それに、キタちゃんに血を吸わせている時もやけに体を摺り寄せてきたのも覚えている。胸を押しつけてきた時もあった……

 

やはり、というか確実にキタちゃんは俺に対して好意を抱いている…男として実に嬉しいことだけど、それは本当に正しいことなのかはわからない。指導者と生徒の関係、一歩間違えれば犯罪にも等しい。その上、きっとキタちゃんは恋に恋しているだろう……

 

悩んでいても答えは出ない。結局、俺は今のまま、キタちゃんのアプローチを受け止めてあげて、なぁなぁの関係でいる事を選んだ。

 

[newpage]

 

事実に気付いた次の日、いつものように練習を見ていると……キタちゃんと目が合った。だいぶ距離があるというのに、その瞳の奥まで見えたような気がした。真っ黒で吸い込まれて逃れられない。そして、その顔は整った顔立ちで、少女というよりは手練れの娼婦のような笑みをしていて、視線は熱を帯びていた。

 

明らかな好意の矢印を向けられている事を自覚してしまう。気恥ずかしくなって視線を逸らしてしまった。俺は見つめるのは指導するためだと誰に言うでも無い言い訳をしていた。

 

 

 

 

 

勿論、今日もキタちゃんは吸血をねだってきた。断る理由も無い。俺はいつものように座って、捕食者を受け入れる体制になる。

 

「へへへ……トレーナーさんお願いしますね……」

 

艶やかに笑みを浮かべて、体を摺り寄せてくる。足首に回された尻尾のさらさらな感触が、膝の上に彼女の腿の熱い感触が、胸板に押し付けられる彼女の胸の柔らかい感触が、鼻の前に放り出された彼女の髪の甘さの混じった汗の匂いが、ゆっくりと心を蝕んでいく。

 

今まで気付かなかった彼女の女としての特徴が急に牙を剥く、心の奥底から情欲の炎が沸き上がり、ジリジリと身を焦がす。

 

その焦燥に駆られるのも束の間。

 

「いただきます」

 

がぁ…ぐ…!

 

牙が肌を切り裂いた。何度受けても慣れない痛みに脊髄を支配される。

 

痛い…!痛い…!

 

本来の体に備わる危険信号が駆け巡る。その強烈な奔流に耐えるべく、体に力が入る。

 

それは脊髄反射に近く、本能的な行為。つまり彼女の体を抱き締めることだ。

 

「痛みを耐える」目的だけだったものが今となっては、彼女に愛を伝え、許しを請うものとなっていた。力の限り抱きしめ、意識を痛みから切り離そうと努力する。

 

「んむ……れろ……じゅる……」

 

キタちゃんは俺の血を貪欲に奪っていく。数センチにも満たない傷跡からはそれこそコップ一杯ですら出ないが、ゆっくりゆっくり時間をかけて味わうのだ。

 

痛い、痛い、痛い……

 

今日は少し違った。抱きしめた彼女の体の感触が痛みを誤魔化す。優しく包み込むように抱きしめられ、柔らかい体が女を意識させる。

 

彼女は俺を愛しているのだろう。その仮定が俺の意識を変えたのだ。抱きしめられる事そのものと感触、香水と汗の匂い、首に走る痛み、その全てが彼女の愛の印なのだ。

 

俺は愛されている。

 

そう意識すると、暖かい水のようなものが心に満たされるような感覚に陥る。じりじりと焼け付くような首筋の痛みも彼女の強く鮮烈な愛情の証なのだ。

 

はは、は!は!は!

 

「ん……もっと……れろ……」

 

キタちゃんは強く俺を求めている。彼女が吸っているのは物質的にはただの血でしかない。だが、彼女にとってはそれ以上の意味がある。俺の体、根源、魂、愛……

 

俺にできることはその暴力的な簒奪を受け入れ、受け止め、ただ優しく抱きしめ返すことだけだ。

 

吸血病の人間は愛したい、愛されたいという欲求が深いというのは心でも体でも理解ができた。吸血鬼は愛を食べる生き物なのだろう。愛だけが彼らを救えるのだ。それが彼女の為の医療行為なのだ。

 

「大丈夫…大丈夫だから……好きなようにしていいんだよ……」

 

「──っ!はいっ!お言葉に甘えさせてもらいます!」

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

それから体内時計ではどれだけ経ったのだろうかわからないほど永い時間、永遠にも感じられるほど吸血は続いた。サディスティックでインモラルな行為ではあるが、真実の愛はそこにあったと俺は言える。

 

明日も明後日も、毎日これが繰り返すのだ。それは最早恐怖することではなくなった。

 

そしてキタちゃんの吸血病が治るのは明確だった。吸血病を言い訳にせず正しく愛を伝え合えるようになれば吸血という行為が必要無くなる。

 

少なくともそれは、卒業した後の話である。

 

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