開店前のラビットハウス……
「シャロちゃんが大変なのー!!」
「何事!?」
千夜が音を立てて勢いよく入ってくる。ドア壊れるから二度とやらないでくれ……
もちろん全員の視点は千夜に集中する。
「シャロちゃんが!こんなチラシを持ってきて!きっといかがわしいお店で働いてるのよ!」
「なんと!」
千夜が手に持っているチラシをこちらに見せる。チラシには「〜心も体も癒します〜」というキャッチコピーと店名である「フルール・ド・ラパン」、それとポットとカップが乗ったお盆を持ったバニーガールのシルエットが描かれている。
「怖くて本人に聞けない!」
「チラシ自体はいかがわしく見えるけど……」
だけどこの店って……確か普通のハーブティーの店なんじゃ…
「フルール・ド・ラパン、心も体も癒します?」
千夜の動揺が収まったところで席に案内する。
「どうやってシャロちゃんを止めれば良いの…」
「仕事が終わったらみんなで行ってみない?」
「潜入ですね。」
「潜入!?」
潜入と聞くとリゼさんの目が明らかに変わる。これはなんか知らないけどまずい……
「リゼさん?何をするか分かりませんが変な事はやめ「お前らぁ!ゴーストになる覚悟はあるのかぁ!?」
「ちょっとあるよ!」
「潜入を甘く見るなぁ!」
「「サー!!」」
緊張感のかけらもない可愛らしい声が店内に響く。
「よーし!私についてこい!」
「「イエッサー!!」」
「ああ……面倒なことに…」
リゼさんの周りにオーラが見える。スイッチが入ってしまったリゼさんを止めるのは至難の業だ。
「……って仕事は終わってへんが!?」
「早く戻ってきてください!」
僕たち2人は潜入に行こうとした3人を止める。てかさらっと神戸弁出た……
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仕事を終わらせ、フルール・ド・ラパンに来た僕たちは植木に隠れる。
「千夜とシャロちゃんって幼馴染だったんだね。」
「そうなの……だから放っておけなくて…」
「やってること完全に不審者ですね。」
「いいか、慎重に覗くんだぞ。」
植木の陰から中を覗く。
「いらっしゃいませ〜」
中にはロップイヤーのうさ耳つきカチューシャをつけたシャロさんがいた。シャロは視線を感じたのかこちらを見た。
「何でいるのよー!」
潜入すら叶わなかった僕たちは入店する。そもそも白昼堂々僕たちは何をやってるんだ……?
「ここはハーブティーがメインの喫茶店よ。ハーブは体に良い色んな効能があるの。ていうか、こんな間違いをしたのは誰?」
「私たちシャロちゃんに会いに来ただけだよ?」
「いかがわしいってどういう意味です?」
「こんなことだろうと思った。」
僕と千夜以外の3人がシラを切る。そしてシャロさんの目は僕を捉えたので千夜の方に指を指しておいた。
「……その制服素敵ね!」
「コイツか!」
「確かにシャロちゃん可愛い!うさ耳似合う!」
「て、店長の趣味よ……じろじろ見ないで…」
みんながシャロさんに注目する。シャロさんは縮こまった。多分リゼさんが見ているからだろう。
「せっかく来たし、このままお茶していってもいいですか?」
僕はシャロさんに聞いた。このまま帰っても店の迷惑にしかならないし。
「しょうがないわね。」
シャロさんは仕方がないといったような感じで僕たちを案内する。
席に着くとすぐにメニュー表が渡された。
「どうしようか……」
僕はメニュー表を見て悩む。僕はこういうのにはかなり疎い。そろそろコーヒー以外も学ぼうかな……
「やっぱダンデライオンだよね!」
「飲んだことあるんですか?」
「ライオンみたいに強くなるんだよ!」
「たんぽぽって意味分かってないな?」
僕はココアにハーブティーの知識があるのかと期待したがそんなことは全くなかった。
「僕たち、ハーブティーの知識が無いので、できればおすすめを選んでくれませんか?」
僕はシャロさんにそう依頼する。するとシャロさんはすらすらとハーブティーの説明を始めた。
「まずココアはリンデンフラワーね。リラックス効果があるわ。」
「へぇ〜。」
「千夜はローズマリーね。肩こりに効くわ。」
「助かるわ。」
「チノちゃんは甘い香りで飲みやすいカモミールなんてどうかしら。」
「子供じゃないです。」
シャロさんは子供とは一言も言ってないんだけどな……
「リゼ先輩は最近眠れないって言っていたのでラベンダーがおすすめです。」
「そうなんだな。ありがとう。」
「ユキは……何がいいかしら?」
「僕も苦いのは苦手なのでチノさんと同じものを。」
「分かったわ。」
なぜ僕だけ聞かれたのだろう……
「あ、ティッピーには難聴と老眼防止のものをお願いします。」
「ティッピーってそんな老けてんの?」
リゼさんがチノさんに問いかけた。
「実は結構な年です。」
やっぱりティッピーはチノさんのおじいさんなのでは?僕は1人でそんな推理をしていた。
注文から数分。シャロさんがハーブティーのセットを持ってきた。
「わぁ〜赤く染まった!綺麗!」
シャロさんがハーブ入りのティーポットにお湯を注ぐと中が赤に染まる。
「こっちはレモンを入れたら青からピンク色になりました!」
「面白いわね〜」
僕を含めてみんながハーブティーの変化にはしゃいでいるとシャロさんがクッキーを持ってきてくれた。
「あの、ハーブを使ったクッキーはいかがでしょうか?私が焼いたんですが……」
「シャロが作ったのか。どれ……」
リゼさんがクッキーを一枚取って食べる。
「美味しい!」
リゼさんがそう言うとシャロさんの顔が不安から笑顔へと変化する。
僕たちもシャロさんのクッキーを手に取って食べる。
「甘くて美味しいですね。」
「これ、すごく美味しいです。」
僕たちがそれぞれ同じような反応をする中、ココアだけはかなり微妙な顔をしていた。
「このクッキー、甘くない……」
「そんなことないわよ?」
「僕はすごく甘くて美味しいと思うんだけどな……」
ココアの感想にシャロさんは不敵な笑みを浮かべる。
「ふっふっふ……ギムネマシルベスターを飲んだからよ!」
「あの苦いやつのこと?名前がカッコよかったから選んだんだけど……」
「ギムネマとは砂糖を壊すことの意、それを飲むと一時的に甘みを感じなくなるのよ!」
なるほど。僕が飲んだらいけないやつってことか。
「そ、そんな効能が!?」
シャロさんの説明にココアは戦慄とする。
「シャロちゃんはダイエットで飲んでたのよね〜。」
「言うなバカー!!」
千夜のカミングアウトにシャロさんはツッコミを入れた。人の秘密暴露しちゃあだめでしょ。
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「たくさん飲んだわね……」
「お腹の中にお花が咲きそうだよ……」
飲み終わったので周りを見てみる。時間的にも帰宅ラッシュのせいか人が増えており、店員が忙しそうに対応している。
「シャロさん。私たちにできることがあれば言ってください。」
「ありがとう。チノちゃん年下なのにしっかりしているのね。妹に欲しいくらいだわ。」
シャロさんはそう言ってチノさんを撫でる。その光景にココアはショックを受けているようだ。
「あ、妹発言は……」
「どうかしたの?」
「チノちゃんは私の妹だよ!」
ココアは急に立ち上がり涙目でシャロさんにそう言った。
「何言ってるの?」
「ココア、店内だから……」
僕は涙目のココアを落ち着かせる。ココアは椅子に座るとすぐに机に突っ伏した。
「リラックスはできましたか?」
「肩が軽くなった気がするわ。」
「少し元気になった気がします。」
「体がポカポカしていい感じだよ。」
「リラックスできました。ありがとうございます。」
「確かにリラックスできたけど……流石にプラシーボ効果だろ。」
各々すっきりとした表情をするが、ココアはハーブティーが効いたのか寝てしまっていた。
「起こすのもな……仕方がない。」
僕は寝息を立てているココアを背中に背負う。
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「ユキ、大丈夫そうか?」
リゼさんが僕に問う。
「全然大丈夫ですよ。」
「……の割には赤くないか?」
リゼさんは僕の顔を見ながらそう言う。
「……気のせいですよ。」
僕は勘付かれないようにシラを切る。ココアの胸が背中に当たっているせいで顔を赤らめているなど口が裂けても言える内容じゃない。
「本当に大「大丈夫です。」
「そ、そうか……」
僕はリゼさんの言葉に被さるように言う。この話は墓まで持っていこうと思う。
これで終わりです。次回は早く出したいですね……
ではまた次回。