ではどうぞ!
「こんな天気なのに遊びに来てくれてありがとうね。」
とある嵐の日。ラビットハウスの中には僕たち店員と客としてきた千夜とシャロさんだけだった。
「別に、バイトが無くなっただけだし……」
「でも、私たちが来た時は晴れていたのに……」
「誰かの日頃の行いのせいね。」
シャロさんはそう言って千夜の方を見る。
「シャロちゃんが来るなんて珍しいことがあったからかな?」
「えっ!?」
千夜への皮肉で言ったことに気づいていないココアがそんなことを言った。
「おまたせ。コーヒー苦手なのに大丈夫なのか?」
リゼさんがシャロさんにコーヒーを出す。カフェイン酔いとすると前聞いたので少し心配だ。
「紅茶など、カフェインが少ないものも用意できますが……」
「はい、少しなら平気なので……ユキもありがとう。」
そしてそれから5分ほど経過した。
「みんなー!今日は私と遊んでくれて、ありがとうー!」
「わーお……」
そこに居たのはさっきまでとは真逆の、テンション5倍増しの出来上がったシャロさんだった。
「ココアが2人……いや3人に増えたみたいだ……」
「時間ができたらいつでも来てねー。」
「いいのー!?行く行くー!」
僕はこのシャロさんの様子に少し引く。なりたくてなってるわけでは無いから引いたらダメなのだろうけど……
「チノちゃんふわふわ〜!」
今度はチノさんに抱きつく。チノさんも対処できずになされるがままだった。
「リゼさんリゼさん。」
「なんだ?」
「コーヒーにどんなクスリ入れたんですか?」
「入れるかー!」
「冗談ですよ。ただあの豹変っぷりにはそう感じざるを得ないです。」
そしてリゼさんと話しているとチノさんをもふり終えたシャロさんがこっちを向く。その瞬間、本能が警鐘を鳴らした。
「ちょっとコーヒー豆を…「ユキー!!」
僕は本能に従い逃げようとするがその前に捕まる。
「ちょっ……」
シャロさんは思いっきり抱きつく。僕はなされるがままに倒される。
「……シャロさっ……シャロさんおちつ…シャロさん離れて!!」
「ユキ気持ちいい〜。」
「はぁ……だめだこりゃ。」
僕はシャロさんを咎めるが反応しないシャロさんに自分での対処を諦める。
「千夜。この場合の対処法は?」
「ないわ。シャロちゃんが寝るのを待つだけよ。」
「………」
千夜に対処法を求めるも無いと言う答えが返ってきて僕は希望を失った。
それから数分してシャロさんは眠った。
「よし、やっと動ける……」
僕はシャロさんを優しく動かすと椅子に座らせる。
「ユキくん、お疲れ様。」
「シャロさん、カフェイン入るとすごいね。ここまでとは思わなかったよ……」
「前には家でキャンプファイヤーしようとしてたこともあったわ。」
「家でキャンプファイヤー………すごいパワーワードだ……」
「家でキャンプファイヤー」とか、今世紀一レベルのパワーワードでしょ……
「雨が強くなってきたね。」
「風もです。」
外は暴雨に加えて暴風も吹き始め、大荒れとなっていた。
「夜中まで荒れるみたいだね。これからがピークらしい。」
僕はスマホで天気予報を確認する。これでもピークではないらしい。台風でも来てるのか?
「迎え呼ぶから家まで送ってやるよ。」
リゼさんが家に連絡して迎えを呼ぼうとする。
「いえ!私が連れて帰るわ。」
しかしリゼさんの提案を千夜は断り、シャロさんを背負って帰ろうとする。
「じゃあまたね。」
「お、おい……」
見るとシャロさんを背負っている千夜の足は今にも崩れそうだった。少しやばいかも……
「……ちょっと様子を見てきます。」
「ユキくん!?」
僕は千夜の後を追って外に出る。
「千夜!?」
外に出て横を向くと数十メートル先に力尽きた千夜が倒れていた。
結局僕とココアで2人を中に入れる。
「千夜さんは先にお風呂に。」
「ありがとう。」
チノさんのお父さんから許可を貰い、リゼさん、シャロさん、千夜はここに泊まることとなった。
「ん……あれ?なんで私はびしょ濡れに……」
それと同時にシャロさんが目を覚ます。起きたら濡れている状況に困惑しているようだった。
------
風呂を上がり、チノさんの部屋に集合することになったため、今はチノさんの部屋の中にいる。中には千夜と目を輝かせているシャロさん、そして……
「リゼさん。」
「な、なんだ?」
「チノさんの制服をなぜ着ているんです?」
なぜかチノさんの制服を着用して恥ずかしそうにするリゼさんが居た。
「いや…これは着たくて着てるわけではなくて……」
「別に言い訳しなくても良いですよ。僕は別にそういった趣味を否定しないので。」
「なんか勘違いしてないか!?」
え?そういう制服を着る趣味があるんじゃないの?
「私はココアとチノとのじゃんけんに負けて着てるだけで、着たくて着てるわけではないぞ!?」
「なるほど。」
僕は着ている経緯を理解したが……脱ごうとしないあたりそこまで嫌ではないらしい。
「あ、ユキくんも着てみる?」
「えっ………い、いや…着るわけないだろ!」
僕はその言葉に驚いて怯み、思わず大声を出して否定する。着たら間違いなく刑務所送りだ。それ以前にモラルの問題だし。
「冗談よ。」
千夜は少し笑ってそう言う。こういう冗談は言わないでくれ……びっくりするから。
「上がったよー。」
「まだやってたんですか。」
部屋の扉が開き、ココアとチノさんが入ってくる。それと同時、何か匂いが部屋に入ってくる。
「何か…………ココアみたいな匂いがしない?」
「あはは、私の匂いって何ー?」
「いやそっちじゃなくて飲む方の……」
「確かに言われてみれば………」
その匂いにリゼさんも気づいたようだ。
「んっふふ……入浴剤を入れてみたんだ!」
そう言ってココアは自慢するかのように入浴剤を見せつける。
「これでリゼちゃんも甘い匂いに………」
「余計なことを………風呂に入ってくる。」
そう言って呆れ顔のままリゼさんは部屋を出て行った。………あれチノさんの制服は?
------
十分ほどか、リゼさんも戻ってきて、僕たちは一つの机を囲む形で座っていた。
「なんかいつもより賑やかになったね。」
「そうですね。こういうことは初めてなのでなんだか新鮮です。」
「ところで、こんな機会だからみんなの胸に秘めていることを聞きたいんだけど……」
千夜が唐突にこんなことを言ってくる。いかにも恋バナをしそうな雰囲気だ。
「とびっきりの怪談を教えて?」
千夜が頰に手を当てて放ったのはこんな言葉。想像の斜め上……いや直角ぐらいはいく回答。
「恋をしたような瞳で言うな!」
シャロさんからキレのいいツッコミが飛んでくる。いや本当にその通り……
「怪談ならうちの店にありますよ。」
そう切り出したのはチノさん。え?あるの?この店に?
「リゼさんとココアさん、ユキさんはここで働いていますけど、落ち着いて聞いてください。」
チノさんのその言葉に、僕は思わず息を呑む。
正直僕はあまりこういう類の話は好きではない。
「父や私も何度か目撃しました……この店は夜になると……」
チノさんは迫真の表情で怪談を語る。
「店内に白い物体がふわふわと彷徨うんです!」
…………いやそれティッピー!流石に声に出すことはしなかったけど。
少し怖がっていたリゼさんとココアも拍子抜けしたような表情をしている。
「じゃあ次は私ね。」
今度は千夜が怪談を語る。千夜のは怖そうだな………
咳払いをして千夜は怪談を始める。
「これはね、切り裂きラビットっていう実話なんだけど……」
その瞬間、雷が落ちて部屋の電気が消える。ここの雷神は怪談がお好きらしい。
「うわっ!?」
「て、停電!?」
「一旦落ち着きましょう?チノさん、懐中電灯とかはありますか?」
僕がチノさんにそう問いかけると蝋燭を取り出して火をつける。火の灯りが部屋をぼんやり照らした。
「いや蝋燭!?」
確かに雰囲気は上がるけどさぁ……
「盛り上がってきたわ……!」
千夜は楽しそうにしている。僕としては恐怖心を煽られそれどころではないけど。
「それじゃあ始めるわね。」
------
「おしまいよ。」
千夜の怪談が終わると皆顔が怯え、引き攣り、ある者は人の腕を強く掴んでた。
「こ……怖……」
僕は思わずそう呟く。下手なホラー映画よりも数百倍は怖かった。
「そろそろ時間ね。怪談もこれぐらいにして早く寝ましょ。」
千夜が時計を見てそう言う。
「よし、じゃあ僕は部屋に戻るよ。」
僕が部屋を出ようとすると他のみんなが引き止めてくる。
「今日はユキくんも一緒に寝よ?」
「ええっ!?」
いや流石に男女が同じ部屋で寝るというのは………
「いや僕は高校生の男なんだけど?」
「まあ良いんじゃないのか?」
リゼさんもそんなことを言う。余程怪談が怖かったのか?
「いや…………ですけど……ほら、他のみんながどう言うか……」
そう言って僕はチノさんと千夜に目で助けを求める。シャロさんはおそらくダメだ。
「別に構いません。」
チノさんはこんなことを言ってくる始末。千夜は……無理だ。この状況を面白がってる。
「……逃げ場はないか………」
僕は観念して一緒に寝ることにした。流石に場所は離したけど。
------
「ユキ………起き……れ」
「ん……?」
もう朝か?もしかして寝坊したか?そう思い目を徐に開けると外はまだ真っ暗。なら誰がどんな目的で?そう思い周りを見渡すとリゼさんがいた。
「何ですか?リゼさん。」
僕はみんなが起きないよう小声で話しかける。
「その…………なんだ…………て……」
「て?」
「手洗いについてきてくれないか……?」
リゼさんは恥ずかしそうにそう言った。あの怪談が怖かったのだろう。まあ僕もだけど。
「……分かりました。行きましょう。」
「すまない。」
僕はスマホのライトをつけて部屋を出る。リゼさんは怖いのか僕の腕を掴んでいる。
「はい、着きましたよ。では僕は離れて待っていますね。」
「すまない……」
「いえ、あの怪談は怖かったですから。」
僕はトイレを離れて待つ。時刻は深夜2時頃。外は何も見えず、未だに雷鳴が鳴り止まない。
「はぁ……怖。」
怖いのでスマホのライトは付けっぱなし。そうしないと精神が持たない。
リゼさんを待っていると通路の奥から物音が聞こえる。
「誰ですか?」
僕はスマホのライトを向けて物音の正体に話しかける。
「……ってシャロさんですか。」
「ユキ?もしかしてあなたもお手洗い?」
通路の奥からやってきたのはシャロさんだった。目を見ると涙目になっていた。千夜の怪談本当にすごいな。
シャロさんは少し訝しげな表情で僕を見遣り、そう質問した。
「リゼさんについて来いと言われたので。」
僕がそう言うとシャロさんは少し恥ずかしそうにして口を開く。
「リゼ先輩が……そ、それなら………私が出るまで待っておいてくれないかしら……?」
「僕は良いですよ。リゼさんが良いと言えば、にはなりますけどね。」
「……ありがとう。」
シャロさんは感謝の気持ちを述べる。それにしてもシャロさんも来たってことはチノさんとかココアも来そうだな……
それから5分ほど。2人とも用は済み、部屋に戻っている途中。雷が鳴る。
「「ひゃあーー!!」」
「ごふぅ……」
激痛。2人は雷鳴に驚き無意識的に抱きつこうとしたのだろう。そしたらちょうど中間に僕が居た。あとはもう……ね?
「はっ!ユキ!これは……」
「ご、ごめんなさい!」
「いえ……………大丈夫……です。」
「本当に大丈夫か!?」
異性に抱きしめられて大丈夫なわけないでしょ。精神的に。痛みもまあまああるけどさ。
僕は今おそらく赤面していることだろう。早いこと戻ろう。
「とりあえず部屋に戻りましょうか。」
その夜はもうほぼ眠ることができなかったとここに記録しておく。
------
「……んん…………」
翌朝。あれ以来あまり眠れなかった僕は眠気が残るまま起き上がる。部屋を見渡す。まだ誰も起きてない。
「時間は……5時半か。」
スマホの画面を見る。ブルーライトによって目が醒まされた。
「カーテンは……やめておこう。」
僕は1人布団を片付ける。できる限り物音は立たないように。
そして片付け終わった頃に後ろから物音がしたので振り返ると、チノさんが起き上がっていた。
「……おはようございます、ユキさん。」
「おはようございます。チノさん。」
チノさんは立ち上がってカーテンを開ける。カーテンが開かれたことによって窓から朝日が部屋に入り込む。昨晩の豪雨が嘘のよう。
そしてその朝日のおかげか、今度は千夜が起きた。
「……おはよう、チノちゃん、ユキくん。」
「おはよう、千夜。」
そして次にシャロが起き上がった。
「おはよう……」
「おはようございます。」
「シャロちゃん。寝言で今日は特売なんだっ「そそそそんなこと言ってても言うなぁ!」
シャロさんは千夜の口を塞ぐ。一体何があった……
周りが騒がしくなってきたところでリゼさんも起き上がった。
「なんであんなところに……」
リゼさんの呟きを聞いた僕はリゼさんの視線を追う。その先にあったのは土下座……いや五体投地だな。そんな格好で寝ているココアだった。
「匍匐前進の夢でも見たんじゃないですか?」
僕は苦笑いしながら気持ちよく寝ているココアを見た。
これで終わりです!なぜこの数ヶ月更新してなかったかというと……サボってました。本当に申し訳ありません………次回はできる限り早く投稿するよう努めますので……
ではまた次回。