黒幕希望のクロウン 作:一般通過犬
追記
こちらの方が綺麗に〆れるので文章追加しました。
Ep1-1「降誕」
連邦生徒会長が失踪して約三週間。
地獄の日の連続だった。
一週間目は企業からの支援要請の嵐が止まず、二週間目はアビドスからの救援要請が何度が来た。三週間目は比較的マシになったとは言え、満身創痍であることには変わり無かった。
事実、経済室のメンバーの一部が倒れた。
それにより更に過労は加速したわけだが、彼女達に罪はない。
悪いのは突如失踪した連邦生徒会長だろう。文句の一つや二つ、言っても構わないと思うくらいには恨んでいる。
そして、四週間目に入った時に事態は大きく動いた。
それは、私が経済室で書類を処理していたときだった。
部屋に誰かが入ってくる。
顔を上げれば、そこには七神リンが立っていた。
彼女とはそれほど親しい訳では無いが、それでも同じ仕事をしている故に何度か話したりなどはしている。
「おや、行政官がこちらに何の用で? 見ての通り書類で忙しいのですが」
「カナコ経済室長、あなたにお願いがあります」
彼女はこちらを真剣な目で見ている。何度かあの様な眼をしているのを見たことはある。
全て、仕事の重要な局面でする眼だ。
「...何でしょうか?」
「明後日、連邦生徒会長がお呼びになられた先生がいらっしゃいます。ですが、連日レセプションルームには各学園の生徒が押しかけています」
「つまり、それらをどうにかする人員が欲しいと?」
恐らく、私の会社のPMC部門から人員を送ってほしいんだろう。ヴァルキューレは不良の対応で忙しい上にSRT学園は史実通りだ。
「...分かりました、こちらも今は苦しいですが...何とか絞り出してみましょう」
「有難うございます」
「お気になさらず、忙しいのはお互い様ですから」
そう言って書類を取ろうとした私を止めるように「ところで」と声がかけられる。
「最近、しっかりと休んでいますか?」
ギクリ、と体が跳ねそうになる。ここ二週間は寝れていない。純粋に忙しい上に最近は悪夢の頻度が多くなり、眠りたくないのだ。
「...勿論、倒れたら大変ですから」
「でしたら、その目の下のクマはなんですか?」
そう言われ、片手で目の下を軽く撫でるように触れる。
そんなに濃いクマが出来ているのだろうか?
「それに、他の子からも休んでいないとの話を聞いていますが」
彼女に報告が行くほど、私の過労は問題なのだろうか?
そんな疑問を抱きながら小さく溜息をつく。
「...分かりました、休みますよ。ただ、明後日に、です。それまでにはやらなければならない仕事がありますので...」
「仕事でしたら、経済室の役員に任せても問題ありません」
「部下に仕事を押し付けろと?」
「貴方が行っているローテーションのお陰で別の部署よりはかなりマシな状態です。ここで貴方が倒れてしまえば、経済室が機能停止する可能性もありますから」
目頭を解しながら息を吐く。
彼女は意地でも私を休ませるつもりの様だ。
「...キミは本当に頑固だ」
「貴方ほどではありませんよ」
「分かった、休もう。書類の山もほとんど無くなっているしね」
座っている椅子に身体を大きく預け、目を閉じる。
「ちゃんと仮眠室で寝てください」
「私はこっちのほうが休めるんだ。仮眠室で寝るよりもね」
小言が飛んでくるが、片手をヒラヒラとしながら仮眠を取る体勢にする。
彼女も諦めたのか、コツコツと歩き部屋を後にする。
「...行ったか」
体を少し伸ばして解す。体からのパキパキと小気味良い音がなる。
確かに、根をかなり詰めていた。少しは休むか。
体を椅子に預け、そのままの姿勢で電話をかける。
「あぁ、もしもし...副社長?」
あの後、仕事を部下に任せた後に一日休むことにした。
久しぶりの休日は良いものだったが、やはり寝付きは悪く、そこまで時間が取れなかった。
そして、先生到着の日。
この日は経済室は休みとしてもらっている。
その理由はいくつがあり、1つ目は仕事がある程度落ち着いたため、もう一つは足りないレセプションルームへの人手に当てるため。
もう一つは合法的に先生に会うためだ。
そして、私もレセプションルームに向かう。
リン行政官は既にエレベーターで昇ったようだが、まだ先生は寝ているのか降りてこない。
「暇だな...休めと言われているし、手伝うわけにもいかない...」
そう言い訳を口にしながらエレベーターの隣にあるソファに腰掛ける。
時折、生徒を抑えている職員が恨ましげな視線を向けるが、文句を言いたいなら休暇を押し付けた行政官に言って欲しい。私は経済室長としてではなく、浅見カナコとしてここに居るのだから。
チン、と小気味良い音と共にエレベーターが開く。
中から行政官と...
先生はアロナが書いたあの絵のように前線が後退している顔では無く、前髪をかき上げてオールバックにしていた。
そしてほんの少し垂れ目で全体的に柔らかい表情をしている。また、しっかりと顔面偏差値が高めだ。
「なるほど、あれが先生...」
ソファから立ち上がり、二人へ向かって歩いていく。
行政官はレセプションルームの騒がしさに苦言を零しながら眉間にしわを寄せている。
先生はその騒がしい様子に気がとられているようだ。
「お疲れ様です、リン行政官。そちらの方が?」
私が話しかければ、行政官はこちらを見て驚いたような顔をする。そして疲れたような顔をしながらため息を吐く。
「経済室長...本日は休暇のはずではないのですか。何故こちらへ?」
「いえ、折角なので今後のために軽く顔合せをしておこうかと」
「今は一刻を争う...」
行政官が何かを言っている最中にレセプションルームの人だかりから大きな声が聞こえる。
「代行! 見つけた、待ってたわよ! 連邦生徒会長を呼んできて!」
「...そうですね、しっかりとした顔合わせはまた今度...」
そう言いながら先生の目の前に立つ。
戸惑った表情をしながらキョロキョロと挙動不審に目線を動かしているが、整った顔立ちがそれさえも美しく見せる。
いつもの笑みを浮かべながら軽く一礼する。
「初めまして先生。私は経済室長の浅見カナコです。しっかりとした顔合わせはまた後程、こちらの方からお伺いさせていただきます。」
とりあえず軽く自己紹介。世間話は
「それでは、失礼します」
カツカツと足音を立てながら、エレベーターに乗り込む。
閉まるドアの隙間から、
サンクトゥムタワーを後にした私は、双眼鏡を持ちながらシャーレのオフィスビルが見える一室に影たちと共にいた。
「...社長、やはり戦闘の余波が来る可能性もあります。もう少し離れた場所からの方が...」
「いや、先生の実力は今のうちに目に焼き付けておいた方が良い。場合によっては、各方面への裏工作が必要になる」
「...分かりました」
双眼鏡を除きながら今か今かと待ちわびていると、先程までとは違う戦闘音が鳴り始める。
そちらへ目を向ければ、先生たちが既に到着しており、戦闘を始めている所だった。
シッテムの箱が無くとも十分なほどの的確な指示、状況把握力、戦力の使い方...何もかもが一品級だ。
私が助ける必要なんてない程に。
だが、それでも
そして、私というイレギュラー...平和で終わるわけなどない。
「社長、斥候から報告が」
「何があった?」
「シャーレに向けてクルセイダー巡航戦車が4両向かっているとのことです」
「4両だと...?」
プロローグ時点では確か一両しかなかったはずだ。
...まさか、カイザーか?
「3両、対応できるか?」
「指令であらば、何とかしてみせます」
「...一両を残し、全ての戦車を破壊しろ。どんな手段を使っても構わない」
「了解、斥候に指令を伝えます」
影が動くならば、先生の危険は無くなるだろう。
後は...
「...先生の力量は知れた。ここからは撤収する」
「了解、撤収します」
影が設置していた通信機器を仕舞う。
私も持っていた双眼鏡を渡し、着ている制服の埃を払う。
「キミ達は撤収が終わり次第、シャーレ周辺で待機」
「...社長はどうするおつもりですか?」
「私はもう一度、先生に接触する。まだ自己紹介が終わってないんでね」
あの後、残っていた一両を難なく撃破し、先生は中へ入っていった。
それを見届けた後に周辺を警戒していたヴァルキューレを数人側に付けながら歩き、シャーレへと向かう。
入口にはユウカ達が周囲を警戒している。
「お疲れ様です皆さん。先生はどうでしたか?」
「経済室長...行政官に怒られますよ」
「あぁ、構いませんよ。怒られ慣れていますから。先生は中に?」
「えぇ、そうですが...」
時間的に、恐らく今はワカモと邂逅しているか...あるいはリンと話しているか。
タイミングとしては今が丁度いい。
「では、私は先生に用がありますので」
会釈した後にスタスタと横を抜け、シャーレの中へと進んでいく。
後ろから声が聞こえた気がするが、気の所為だろう。
少し歩くと、先生と行政官が話しているのが見える。
シャーレについて話ているのだろう。
「ここがシャーレのメインロビーです。長い間空っぽでしたけど、ようやく主人を迎えることが──...経済室長、何故ここに?」
「先程ぶりです行政官、それと先生。まぁ、一応ここは我が社の建築物なので中を案内しようと思いましてね。行政官がされるのであれば私の出番はないですが」
「...そうですか」
行政官はそう言った後にシャーレの部室への扉を開き、中へ入る。
先生はこちらに軽く手をふった後に続いて入っていく。
もちろん、私も中へ入る。
中はまるで職員室のような雰囲気で、シャーレの背景と寸分違わぬ配置がされている。
先生は行政官から部室に関する説明を受けている。
そして、先生は直ぐに戻ってくるからと言って、下で見張りをしていたユウカ達にお礼を言うためにオフィスを一度後にする。
態々私に言ってから向かうその様子を見ると、本当に生徒が大切なんだろうということが容易に分かる。
「...今日から、全てが始まる」
何も置かれていない机の上を指でなぞりながらポツリと呟く。
今日、先生がシャーレ顧問としてやって来た。
"あちらの世界"では連邦生徒会長が失踪しておらず、それが原因なのか単に運命が悪かったのか、
最良でなくとも、比較的マシな未来を。
私が知っている中で、最善の未来を。
チラリと
一瞬、胃液が込み上げる感覚に襲われる。
口に手を当て、嗚咽を漏らす。
皆がハッピーで自分もハッピーな美談で終わらせようとしている自分に心底反吐が出る。
許されない。赦されるべきでない。
「...顔だけでも洗ってきますか」
体に纏わり付く倦怠感と、脳にこびり付く呪詛から逃げるように、しかし逃さないように耳を澄ませた。
顔を洗い、シャーレの部室へと戻る。
扉を開ければ既に先生が書類を仕分けてファイルへ綴じていた。
扉を開けた音で気が付いたのか、作業の手を止めてこちらへ顔を向ける。
「おかえり、カナコ」
草原を吹き抜ける風の様な爽やかな声。それを聞くだけでほんのり鼓動が速くなる。
他の子達が先生に酷く懐くのも納得できるような気がする。
「えぇ、今戻りました...それでは、自己紹介を────」
「カナコ」
自己紹介しようとした私を名前を呼んで止める。
不思議そうな顔を向ければ、申し訳無さそうな顔をしながら口を開く。
「コーヒーを一緒に飲みながらはどうかな?」
先生はそう言って机の上に置かれていたコップを2つ持ち上げる。
どうやら、私の分まで淹れていてくれた様だ。
「...そうですね、有り難く頂戴します」
「苦いのは大丈夫?」
「えぇ、これでもよく飲んでいる方ですし...」
飲まないと、寝てしまうので。
コーヒーを受け取りながらそう言いかけた口を静かに噤んだ。
「...それでは、改めて自己紹介を」
気分を切り替えるためにコーヒーを口に含み、飲み込む。
コーヒーと一緒に抱えてる気持ちを今だけ抑え込む。
「連邦生徒会経済室室長、高等部三年生の浅見カナコです。以後お見知りおきを」
「うん、よろしくね」
自己紹介と共に差し出した手を先生は快く受け入れる。
2、3度ハンドシェイクをした後に力を緩めて手を解き、いつもの笑みを浮かべる。
「経済室長としては、超法規的組織であるシャーレにはガンガン働いて我々を少しでも楽にしてほしいのが本音ですが...」
表情を少し緩め、言葉を続ける。
「私個人としては無理のない範囲で、先生の気の赴くままに動いて下さい。私はそれを尊重します。もし力になれそうな事柄があれば、ここに連絡ください」
そう言いながら名刺を取り出し、先生へ差し出す。
「私、経済室長の顔を持っていますが、大手企業にも負けない会社の社長を務めていますので」
「ありがとう、カナコ。何かあったら電話するね」
先生はそう言って差し出した名刺を受け取り、仕舞う。
後はもうここですることはない。もうないが...正直、先生ともう少し長く居たい。
会って話して分かる。先生の近くは安心する。
先生という肩書か、先生の人柄が生み出す雰囲気か、或いはその両方か。
だが、行かなければならない。先生がここキヴォトスに来た。
数日後にはアビドスからの手紙を読んでアビドスへ向かうことになるだろう。
上手いこと一枚嚙まなければ。
「それでは、これから忙しくなるでしょうから、これにて失礼します、先生」
軽く頭を下げた後に足早に部室を去る。
胸が少し痛む。戻りたくないと訴えている。
だが、戻らなければならない。
全ては、未来のために。
そして、先生の為に。
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