黒幕希望のクロウン   作:一般通過犬

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Ep1-3「不実」

 結局、あの後は上手く寝ることが出来なかった。

 眠気を振り払うことが出来ないまま、経済室で午前の業務をこなしていく。

 

 先生が来て以降、不良の数は完全に減ったとは言わないものの経済室は回る様になってきた。

 これは、他の部署と違い企業が相手だからだろう。

 勿論、悪徳業者や非合法企業などは前より多いままだ。

 ブラックマーケットも依然として機能しており、それどころか前よりも活発になっている。

 

 ブラックマーケット。

 私も御用達の表も裏もどちらの顔も持っている区画。

 外側はまだ表の顔を持っているところが多いが、少しでも裏路地に入れば一瞬で無法地帯となる。

 まだ無秩序でないだけましだが。

 奥に進めば更に違法な商売が日常茶飯事で行われている。

 横流し品や違法弾薬、パーツ、銃器が流通している。

 

 

「会社の人材も何人かあそこから拾ったし、どうにか残しておかないとなぁ...」

 

 まぁ、ブラックマーケットに何かするとしても、もう少し後だ。

 今はアビドス...そして、その先にあるエデン条約に向けて手を入れなければ。

 ゲヘナは万魔殿に風紀委員会を出し抜けるとでも言っておけば乗ってくるだろう。

 

 問題はトリニティとアリウスだ。

 

 アリウスは確か万魔殿の羽沼マコトと関わりがあったはず。紙でも渡してもらって向こうから接触を促そう。

 トリニティはゲヘナの動向を伝えると共に、エデン条約の主導権を握ってもらう手筈を整える、とでも言えばいいか。

 

 万魔殿には一時的に傘下につき、利用しながらトリニティをうまく動かし、エデン条約の調印式を裏から動かす。

 どうせ全部吹っ飛ぶんだ。二枚舌や三枚舌外交程度なら問題ないだろう。

 

「思い立ったが吉日...だな」

 

 頬を軽く叩いて眠気を覚まし、電話を取り出して副社長へ掛ける。

 

「もしもし、私だ。早速お願いしたいことが───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後一番、私はゲヘナの万魔殿と非公式会合を開いていた。

 名目上は営業だが...彼女の事だ、それだけではないと気が付いているだろう。

 私の座るソファの対面に座る素敵な笑みを浮かべたゲヘナの生徒会長「羽沼マコト」。

 万魔殿に所属しながら、ゲヘナの生徒からの認知率は酷いもので、風紀委員長のヒナに対してライバル心のような対抗心を燃やしている。

 そして、元情報部にいたヒナや風紀委員会のアコの目を掻い潜りアリウスと繋がっている。

 言動は考え足らずや思いきの良さを感じるが、その手腕は侮れない。

 

「今回は急な事にも関わらず場を整えてくださりありがとうございます」

 

「キキキッ! 私にかかればこの程度造作もないことだ。それで、態々私に場を整えさせたのだ、つまらん話ではないのだろう?」

 

 ドカッと構え、まるでなんてこと無いように笑う。

 しかし、その眼の奥にはコチラの様子を伺うようなものを感じる。

 

「えぇ、エデン条約に関してのお話です」

 

 いつもの笑みを浮かべながら、緊張を噛み殺し話し続ける。

 

「我が社を一時的な万魔殿の傘下となり調印式の対空警備を我が社に一任していただきたいのです」

 

「ほぅ、何故だ?」

 

「私は貴方が調印式で行うことを知っています。もちろん、それによってどうなるかも知っています。ですので、そのお手伝いを」

 

 相手の目が変わる。先程までは余裕が見えていたが、警戒心を含んだ目付きに変わった。

 ここからが正念場だ。

 無意識に手を組み、唾で口の中を湿らせる。

 

「我が社としても、万魔殿が後ろに付けばできることが増えますし...風紀委員会には少々良い思いがなくてですね」

 

「...キキキッ良いだろう、このマコト様の傘下に入れてやろう!」

 

 少し考えた後に彼女は私の提案を快諾した。大胆というか、何と言うか...それが彼女らしさでもあり、良さでもあるのだが。

 

「では、この紙をアリウスに渡して下さると。彼女達とも会合をしておきたいのですが、恥ずかしながら我が社には彼女達とは関わりが無いものでして」

 

 そう言って『色彩』と書かれた紙を二つ折りにして渡す。

 これで確実に向こうからアクションがあるはずだ。

 

「ついでに、アリウスに渡す際に"マダムへ"とだけお伝え下さい。この言葉で彼女達は理解されるはずですから」

 

「キキキッ安心しろ、私が責任を持って届けるとしよう」

 

「安心しました。では、私がお願いしたいことは以上ですが...」

 

 予め用意しておいたそれなりに良いスイーツ店の待遇券を3枚取り出す。

 

「今回のお礼として一先ず受け取ってください。万魔殿の皆様で楽しんでくださいね」

 

「...感謝しよう」

 

 ニコリと微笑み、席を立って一礼した後にその場を去る。

 

 さて、ゲヘナはこれで一先ず終了だ。彼女が扱いやすい人間ではあるのが幸いだ。問題はトリニティと...アリウスだ。

 

 

 

 一先ず、ゲヘナ学園を後にして副社長へ電話を掛ける。

 

「副社長、こちらはつつが無く終わった。トリニティからの返答は?」

 

『2日後であれば用意ができるそうです』

 

「分かった、承知の旨を伝えてくれ。あと、早急にトリニティで美味しい洋菓子を見繕って欲しい」

 

『畏まりました。準備させていただきます』

 

「あぁ、頼んだ」

 

 そう言って電話を切る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、ここまでアクションが早いとは思わなかったよ」

 

 そう言いながら現状を把握する。

 

 現在はサンクトゥムタワーから本社へ車で護衛と共に戻っている最中だったが、道中の人気の少ない場所で車の正面に人が立ち、急停車した。

 車を止めた人物はよく見れば分かった。

 特徴的なヘイローにピッチリとした服装、口元のみ覆うガスマスクに大きな白いアウター。

 アリウススクワッドの「錠前サオリ」が目の前にいる。

 

「影、私が出る」

 

「社長、危険です。相手は──」

 

「アリウスだ、知っている。これほど早く接触するとは思わなかったが、丁度いい」

 

「...社長」

 

 影がこちらをじっと見つめながら抗議をするが、それに気付かないふりをして扉を開ける。

 

「君達は車内で戦闘準備、合図があるまで待機だ」

 

「...了解」

 

 降りた後に、武器が無いことを表すために軽く両手を上げる。

 

「...護衛は連れて来ないのか」

 

「話し合いの場に武器は不必要ですし、貴方達とやりあっても良くて痛み分けだと思いますから」

 

「...マダムがお前を呼んでいる。話を聞きたいそうだ」

 

 まさか、そこまで行けるとは。アリウススクワッドと多少親密になるか、あるいはこちらで自力で見つけ出すしか無いと思っていたが。

 

「ほぅ、マダムが。それはなんとも珍しいですね。いつ伺えばよろしいですかね?」

 

「今からだ」

 

「それはまた急な...良いでしょう、折角のお誘いです。ここで断ればいつ会えるか分かりませんからね」

 

「...案内する」

 

 彼女はそのまま歩き出す。恐らく徒歩で向かうのだろう。

 車内にいる護衛には軽く手を振って彼女について行く。

 

 

 

 

 しばらくの間歩き続け、辿り着いたのはカタコンベ。

 あのときは本当に運が良かったが、どうやらここは24時間ほどの間隔で造りが変わるようだ。

 彼女の案内で中を進んでいく。迷路のような構造のカタコンベを迷わないようについて行く。

 歩いていると、地上へ出る。

 数年前に見た、アリウス自治区の景色だ。

 

「こっちだ、ついて来い」

 

 ここでなにかあれば私は命を落とすだろう。そう漠然と感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリウス自治区の最奥に位置する生贄の祭壇『バシリカ』。

 そこに私は通された。

 赤い肌をし、白のドレスを着た人外...ゲマトリアの『ベアトリーチェ』が立っていた。

 

「初めまして、私の名前は───」

 

「御託に興味はありません」

 

 ベアトリーチェは私の口を塞ぐように言葉を被せ、黙らせる。

 

「貴女は何者ですか? 私の存在を知っており、色彩のことも知っている...」

 

 最大の警戒心を抱いている。当たり前だ、彼女の計画を盤石にするための障害が出てきた可能性もあるのだから。

 

「...では、少々説明の時間を頂きます」

 

 軽く礼をして歩いている間に考えていたことを振り返る。

 

「まず私は"未来"を知っています。見えるわけではなく、知っているのです」

「その世界は私の目的に都合のいい未来でしたが...未来は変わることがあります。いとも容易く、簡単に」

「その未来の実現には、貴女の計画が成功することが第一条件です」

「貴方が危惧している先生は所詮舞台装置です。放置して踊らせてあげましょう」

 

 一度ここで言葉を区切る。そして、僅かに重い口を開く。

 

「しかし、トリニティのセイアは障害です。タイミングを見て殺す必要があります」

「前置きが長くなりました...私の目的はエデン条約襲撃に加担し、成功させること」

「一言で言えば裏切りです」

 

「...それで、私には何のメリットがあるのでしょうか?」

 

 こちらを見る眼は依然変わらない。やはり、ぽっと出の子供が何を言おうと、彼女にとっては障害になりえるとしか見えていないのだろう。

 

「まず、私は貴女を害する意思はありません。逆に支援したいと思っております」

「直接的には難しいですが...偶然、武器や食料や兵器が輸送中に襲われてしまうことはよくある事です」

「そして、それがブラックマーケットに流れることも」

「...こちらとしては、試験中の巡航ミサイルと調印式への工作の手助け、そして当日の防空網に穴を開ける事」

「それら全てを支援として行う事が出来ます」

「その代わり、私が貴女に求めるのは計画の成功」

「それさえ出来れば、いくら出費を重ねても問題ありません」

「どうでしょうか? 私は貴女を利用し、貴女は私を利用する」

「背中を撃っていただいても構いません」

「どちらにせよ、貴女が成功しない限り、こちらも計画が頓挫してしまいますので」

 

 ベアトリーチェは変わらず、じっと見ている。

 空気のピリつく感覚、生きた心地のしない重い空気、前後不覚になりそうな雰囲気の中でこちらを射抜く鋭い目線。

 冷や汗の一つでも出そうな中で感情を押し殺し、笑みを浮かべ続ける。

 

 ベアトリーチェが、口を開く。

 

「良いでしょう、ですが条件があります」

「1つ目は調印式では警備をほぼ全て貴女の息が掛かった人物で固めること。そして、その中にアリウスの人員を入れる事」

「2つ目はトリニティでの暗殺に加担する事」

「最後は、貴方が黒幕となり全ての罪を被ること」

「これが最低条件です」

 

「...ククッなるほど、私が黒幕ですか。セイア暗殺も、アリウスの扇動も、調印式襲撃も全て私の所為になると」

「構いません、その程度(死なない)ならば」

「逆に有り難いかもしれません」

 

 死なない上に目的を果たせる、最高の条件だ。

 それに、私が失脚したとしても、巻き返せる。

 それにもし死ぬとしたら、お前(ベアトリーチェ)を殺してからと決まっている。

 

 大げさに頭を下げ、満面の笑みを浮かべる。

 

「それでは、これからも良いお付き合いになることを望んでおります」

 

 そう、ベアトリーチェへ頭を垂れた。

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