黒幕希望のクロウン 作:一般通過犬
先生が来てから数日。先生は恐らく今、書類の仕事をヒイヒイ言いながらこなしてシャーレの仕事をしている最中だろう。
明日か明後日か、遠くない内にアビドスから手紙が届くはず。
一応、影に先生の動向は追わせているが気にしておかなければ。
そして私は今、トリニティ総合学園のティーパーティーの茶会にお邪魔している。
もちろん、調印式関係の話だ。
「本日はこのような素晴らしい茶会を私の急なお願いで開いていただき、有り難うございます」
「いえ、お気になさらず」
「こちらも聞きたいことがありましたので」
そう言いながらティーパーティーのホスト...桐藤ナギサは紅茶を飲む。
「先日、ゲヘナ学園の方へ伺ったと聞きました。そこで万魔殿と会談したともお聞きしました」
「それについて、何かお話があればと思いまして」
彼女は笑顔でそう言うが、感じる圧は「話せ」と言っている。
彼女としても...否、トリニティとしても不安要素は取り払いたいのだろう。
「それでしたら丁度良かった。今回機会を頂いたのはそれに関してお話する意味もありましたので」
出された紅茶を口に含み、ゆっくりと味わった後に飲み込む。
焦らず、慌てず、顔に出さず。
ベアトリーチェに比べれば、この圧は可愛いものだ。
「まず、我が社はエデン条約に関することに関してのみ万魔殿の傘下に付くこととなりました」
「あぁ、勿論ですが理由はあります」
顔を顰めたナギサを見ながら、弁解するように少し大袈裟に振る舞う。
「ゲヘナは制御がしにくいです。特に、テロリストが厄介だ」
「他にも、まだ不確定ですが不穏な動きがいくつか見られます」
「その調査の為、潜入の様なことをしているのですよ」
「そして、我が社としてはエデン条約を主導するのはトリニティでなければ困ると考えていますので」
「...その理由はお聞きしても?」
「簡単です、謀略に長けているトリニティの皆さんが制御したほうが安心できるからです」
「面白い、楽しそう、その様な理由で動かれるようではこちらも困ってしまいますので」
「その点、トリニティの皆さんとであれば、交渉のテーブルで建設的な話ができますので」
不信感を拭いきれないような、そんな表情をしながらも納得したように頷く。
取り敢えず、言い訳は通ったようだ。だが、ここからが本題だ。
「さて、そちらの質問にお答えしましたので...本題と参りましょう」
ニコリと微笑みながら、対面に座るナギサの顔を見る。
その顔には焦りは勿論、先程まで見えていた表情が全てなくなっている。
流石はティーパーティー、ポーカーフェイスはお手の物というわけだろう。
「ゲヘナの不穏な動きに対応する為、調印式の警備をこちらに任せていただきたいのです」
「警備を、ですか」
「えぇ、調印式の対空警備や地上警備をこちらが担当し、正義実行委員会は重要度の高い場所の警備を重点的に行う」
「ゲヘナが動くとすれば、調印式です。もしそこを付かれてしまえば、当日に居る身としては不安でしょうがないですから」
「我が社の最高戦力を
「...こちらとしては構いません。その名を出す意味が理解されているのであれば、ですが」
「勿論、私としては不安要素を徹底的に取り除き、私の保有する戦力が抑止力となればと考えているだけです」
「分かりました、正義実行委員会にはこちらから話を通しておきましょう。また後日、警備の調整にお時間を頂きます」
「分かりました、また後日」
ゲヘナ、トリニティ、そしてアリウスに最初の根回しは終わった。
調印式では問題無くアリウスが襲撃するだろう。
後はアリウスが調印式までに行う"アズサ転入学"と彼女による"セイア殺害未遂"。
後者に関しては放置しても問題ない、自ずと進んでくれるはず。前者は推薦書類を私の名前で書けば問題ないだろう。
ただ、推薦書類を書いた結果、疑いの目から外れて補習授業部に入部しないという可能性もある。
まぁ、寵愛を与えていた阿慈谷ヒフミにさえ疑いの目を向けた事を考慮すると杞憂だろうが。
「はぁ...取り敢えず、条約は後回しだ」
経済室の椅子に深く座り眉間を指でほぐす。
トリニティ総合学園から戻り、翌日。恐らく明日か明後日には先生は出かけるだろう。
それに合わせる様に私もアビドスへ向かわなければいけない。
「だが、その前にやることがある」
調印式の未来は決まった。だが、
その時の保険を掛けなければいけない。
「...ミレニアムを頼るか」
携帯を取り出し、副社長に電話を掛ける。
「副社長、私の武器を販売したミレニアム企業に開発依頼を出したくてね」
『開発依頼、ですか。それは我が社でも可能ですが...』
「ミレニアムとの繋がりは精々そこだけだ。今後は増えるだろうが、もしもの時の為に関係は強くした方が良い」
「それに、外部委託できるところはしてしまった方が良い」
『...畏まりました。どの様な物を依頼するつもりですか?』
「携帯型の防衛兵装だ。電磁シールドをイメージしている。ただし、守るのは使用者のみ。周囲に与える影響は一切考慮しない」
「まずはこの点を踏まえて依頼を出してくれ。結果が良ければ改良型の依頼も出すと言ってほしい」
『依頼料はどれほどを目安に?』
「金に糸目は付けなくて良い。どうせミレニアムの事だ、金があればあるだけ面白い物を作ってくれるさ」
「それがこちらに利益は無くとも、相手にはいい経験になる。そうなれば、相手は金があるこちらについてくる」
『...畏まりました。それでは、開発依頼を出してまいります』
「あぁ、頼んだよ」
携帯の電源を切り、再びため息をつく。
結果が良かれ悪かれ、あとは向こうに任せておこう。
今は、少しでも休むとしよう。また周りを心配させてしまえば支障が出かねない。
そう思い、立ち上がろうとした時にドアがノックされる。
「...どうぞ」
「失礼します」
そう言って入って来たのは扇喜アオイ財務室長だ。
何時もの様に凛とした表情をしてこちらを見ている。
「悪巧みは終わりましたか、経済室長」
「悪巧みなどしてはいないさ、ただ、ミレニアムの企業に私的に開発依頼をお願いしただけだよ」
「...それならいいのですが」
何処か冷たい目線をこちらに向けながら書類を一枚取り出し、机の上に置く。
「こちらの書類、記入に不備がありました。訂正して再提出をお願いします」
確かによく見れば、不備が見られる。ほんの僅かな、流れ作業であれば気にならないような間違いだ。
だが、役所仕事でもある我々がこのような間違いをそのまま見逃すのは如何なものだろうか。
「あぁ...確かに、不備があるね。ありがとう、財務室長」
「でしたら、不審な行動は避けていただきたいものです」
「はっはっは、思い当たる節はないが気を付けておこう」
「...私達はキヴォトスの行政組織として公平でなければならない」
「それが崩れれば私たちの信頼は消え、場合によっては治安悪化もあり得る」
困った表情をしながら肩をすくめ、言葉を続ける。
「もっとも、私がそのようなことをしていれば、ですが」
「...失礼します」
その言葉には何も返さず、彼女は部屋を退室する。
私も何も言わずにその背中を見送った。
確かに、
だが、それが
連邦生徒会にも多少は向くだろうが、全てという訳でもない。最悪、クロノススクールに突貫してでもヘイトは引き受けるつもりだ。
全ては未来のために、先生の為に。
そして世界の為に。