黒幕希望のクロウン 作:一般通過犬
アビドスの件から暫く経ち、中等部三年生も終わりが近づいてきた。
高校についてはネームドキャラクターと接触しないようにすることも考えてD.U.の方にある適当な学校に入るつもりだ。
後は、そこの校長に賄賂と学力を見せつけて授業の免除を取り付ける。それで時間を無理やり作り上げる。
本来学校にいるべき時間は企業に関する取り組みを、放課後や休日は各方面への工作を主に行っていく。
自分の会社も大きくなった。最初はカイザーと競合しないようにしてきたが、そうも言ってられなくなってきた。
予想以上にカイザーの影響力が巨大で、工作を行うための費用や影響力を考えるとカイザーと必ずどこかでぶつかることになる。
事実、アビドスではカイザーが予想以上に土地を買っていた。なので、カイザーからも土地を買い上げる為に痛手となるレベルの出費を強いられた。
それに、土地が手元に来るのはしばらく後だ。恐らく、粗方捜索した後に売り払う手筈なんだろう。
「クソッ、カイザーめ...足元を見やがって...」
「社長、そもそもあそこの土地を買う必要があったのですか?」
社長室で小さく悪態をつく。近くで立っていた副社長がそれに対しため息をつきながら、問いかける。
「必要だ...想像以上の痛手だったが...必要だ」
「野望のため、ですか」
「あぁ...時間をかければ金は戻ってくる。しかし、"結果"は戻ってこないんだよ」
そう、過去は戻ってこない。誤った結果を残してしまえば、未来に大きく影響が残る。
その為にも、彼女は...現アビドス副生徒会長を、どうにかして"死んだ"という結果を残さねばならない。
私の記憶では、一年後に入ってくる新入生...「小鳥遊ホシノ」が彼女の遺体を発見するところまでは知っている。
しかし、それ以上は知らない。なぜ彼女が死んだのか、どのように死んだのか、誰に殺されたのか。
「そうですか...」
彼女はそう言って業務に戻る。先生が来るまで約二年...先生が来るまで...いや、待てよ?
ヤバイ、一つ完全に忘れていることがあった...!
先生が来るという事は連邦生徒会長が居なくなるという事。
そして、チュートリアルの中で話されていた"出所のわからない武器の不法流通も2000%以上増加"というセリフ。
つまり、場合によっては会社の設備が襲撃される可能性がある。というか絶対に襲撃される。
襲撃されて困らない場所はあるが..."仕込み"の邪魔をされるのは不味い。
「副社長、アビドスから借りた土地の状況は?」
「はい、現在は"PMC"の前線基地が完成しつつあります」
アビドスから借りた土地は基地を作る為。
それぞれの地域に前線基地を作ってはいるが、アビドスに関してはカイザーコーポレーションが深くかかわっている。
故に、自治区であるアビドスから早急に借りる必要があった。
対策委員会を密かに援護するため、そして妨害するため...彼女の死を早急に確認するため。
「素晴らしい、私設兵の補充は?」
「順調に進んでおります。各兵器も順調に運び込まれており、問題ありません」
「それは良かった...で、"彼女達"は?」
「彼女達...あぁ、社長が拾ってきた子たちですか?現在は書類には存在しない部隊に配属中です。社長の声一つで動かせる近衛部隊です」
特殊部隊...本編で言うFOX小隊の様なものを作る。彼女達には支援、妨害、工作、扇動...様々な汚れ仕事をさせる。
場合によっては、ヘイロー破壊も視野に入れている。
「...我ながら最低だな」
「はい?何か言いましたか?」
「あぁ、いや、気にしないでくれ。で、どうすれば彼女たちに指令を出せる?」
「指令は彼女たちに直接通信でも構いません。こちらが特別回線の周波数に調整した通信機です」
彼女はそう言ってハンズフリーイヤホンの様なものとトランシーバーによく似た通信機を取り出す。
「...ありがたいが、これは少々前時代な見た目じゃないか?」
私はトランシーバーを指しながらそう言う。今時ミレニアムでもこんなものはそうそう見ない。
特に、ゲーム部がレトロゲームで遊んでいるのが珍しいと思われるレベルでミレニアムは常に最新、最新の更にその一歩先を歩き続けるのだ。
彼女達はたまに暴走することもあるが。
「社長はよくレトロなものを好むので。嗜好に合わせてみたのですが、お気に召さなかったでしょうか?」
「いや、とても素晴らしいと思うよ。キミにしては珍しいね。いつもは機能を重視しているのに」
「長く身に着ける物ですから、嗜好に合った物が良いかと思いまして」
彼女の言い分に納得しながらイヤホン型通信機を耳に着け、トランシーバーを内ポケットにしまう。
そして、イヤホンの通話ボタンを優しく押しながら試しに話しかけてみる。
「あーあー、聞こえているかな?」
『...聞こえています、社長』
「うん、こちらもよく聞こえている。素晴らしい出来だな...」
イヤホンから懐かしい声が聞こえる。声を聞いたのはあの日以来だ。
つい感傷に浸りそうになるが、とりあえず今は彼女たちに指令を出す。
「それじゃあ、早速だがキミたちに指令を出したい。アビドス高等学校の動向を追ってくれ。特に、カイザーとの接触と現副生徒会長と...小鳥遊ホシノという名前の生徒について」
『...現在、アビドス高等学校には小鳥遊ホシノという人物は――』
「知っているさ。しかし、来年その新入生が来る。彼女には特に気を付けろ。彼女は勘が鋭い」
『承知しました』
彼女なら訓練されたうちの部隊の兵士など簡単に制圧する。つまり、動向を探っていることがバレれば壊滅させられる可能性もあるわけだ。流石、暁のホルス。
「緊急の報告以外は夜に頼むよ。以上」
『承知しました。シャドウ、アウト』
彼女たちの部隊、シャドウって名前なのか...つまり、人数的にはシャドウ小隊?影小隊?
...まぁ、どうでもいいか。
「さて、アビドスは現状放置でいいとして...次は、アレの開発状況だな...」
「アレの開発状況...あぁ、航空戦力に対する誘導携行火器...と、拠点攻撃を想定したミサイル、ですか?」
エデン条約で使用されたオーパーツこと巡航ミサイル。あれが撃ち込まれること、そしてそれに対する迎撃が無かったこと。更に、あの巡航ミサイルがオーパーツであることから、キヴォトスには戦車や戦闘ヘリはあれど、オーパーツレベルの巡航ミサイルやそれの迎撃ミサイルなどは流通していない、と考えた。
なので、開発部にそれらの開発を依頼してある。うまくいけば、ゲマトリア...ベアトリーチェへの牽制、そして迎撃システムが対応できない巡航ミサイルを開発して売り込むことで信頼を勝ち取る。
ブラックボックスを正確に理解して複製するのは黒服やマエストロの方が上手だろう。
ベアトリーチェが、そこまでするとは思えない。
「そう、カイザーに使うことになるかもしれない...それに備えて進行状況を知っておきたい」
「現在開発は進んでいます。誘導携帯火器に関しては開発がほぼ終わっています。しかし、ミサイルに関しては進んではいますが、何より実践データが足りないので調整段階で躓いています」
「実践か...外に持ち出すのは不味い。カイザーにバレるのも、"
「畏まりました。そのように伝えておきます」
開発が間に合えばいいが...あと、今出来るのは未来で動きやすくするための工作か...
少し溜息を吐きながら、天井を見上げた。
今は進学し、高等部一年生。D.U.にある高校に入って校長に賄賂を渡して授業免除を勝ち取った。
分かりやすくて助かったよ。これで更に工作に時間を費やせる。
連邦生徒会でも、ポストに就くことが出来た。本編では一度も出なかったが、「経済室」と呼ばれる場所の室長だ。仕事はキヴォトス内の生徒の企業活動支援や物流の為のインフラ管理、新しい技術の特許の管理を主に行っているらしい。今後はそちらでかなり時間を食われるかもしれないが、上手くやれば工作が早く進めれるだろう。
「ふぅ...高等一年生か...」
「ま~た独り言?最近多くなってない?」
室長室で現状を整理していたらいつの間にかモモカがポテチを食べながら寛いでいた。
ポテチのかすが落ちると文句を言おうとしたが、よく見れば全く落ちていない。手先が器用なものだ。
「そんなに独り言を言っていますかねぇ...」
「急に考え出したと思ったら変なことぶつぶつ言っていること最近多いよ」
どうやら、最近独り言が酷いようだ。意識して直さないといけない。関係ないことならまだしも、重要なことが外に漏れれば何が起こるか分からない。
「気を付けますよ...で、何でここに?」
「サボり」
「サボりですかぁ...はぁ...仕事の邪魔をしないでくださいよ」
そう言いながら、書類仕事を進めていく。机の上に乗せられている仕事はさほど多くなく、簡単に片付く。
その中で一つ気になる名前を目撃する。
「調月リオ...」
時計じかけの花のパヴァーヌの黒幕的立ち位置であり、その後もとある場面ではキーパーソンとなる。
そして、要塞都市エリドゥの建設者でもある。
キヴォトスの終焉に備え建てられたそれはアリスを救おうとする先生と生徒達に容赦無く襲いかかる。
「いつか、こっちにも手を出さないとなぁ...」
彼女に対して行えることは多くない。強いて言うならば、建設資材やアバンギャルド君やARMS関係を支援することぐらいだ。
そして、それは今じゃない。今年は彼女...「小鳥遊ホシノ」が入学する。
つまり、ゲマトリアがアビドス高等学校と本格的に接触し始める時期であり、未来を固定するための作戦が始まる。
「さて、私はこれから用事がありますからモモカさんも仕事に戻ってください」
「えぇ~、めんどくさーい...」
「...まぁ、居るだけならいいですか」
サボりをやめる気がない彼女に深くため息をつきながら立ち上がる。計画に関する物はすべて私の頭の中だ。探られても何かを企んでいる事しか分からない。
「では、私は失礼しますよ」
「はいよ~、いってらっしゃ~い」
今は彼女達...特殊部隊"影"が運転する車両でアビドスへ向かっている。
彼女達から「小鳥遊ホシノ」が入学したとの情報が伝えられたからだ。
「さて、作戦は第一段階...まだ"シナリオ"通りだ」
だが、これからはイレギュラーが邪魔になる。そう、私の会社からの支援金だ。
私が覚えている限りではユメ先輩は誰かにヘイローを壊された。
もしそれが小鳥遊ホシノならば、なぜ彼女はヘイローを破壊したのだろうか?
鍵はゲマトリア...その中の黒服にあるはず。
凡そ、対策委員会編でホシノに言った事と同じことを言ったのだろう。
そして、居なくなった生徒会長を探したホシノが目にしたのは...怪物となった彼女か、あるいは、神秘が
何はともあれ、彼女が死ぬようにするには資金援助を難しくするしかない。
そうすれば、私の影響力も減り...物語は確実に動く。
ポケットからスマホを取り出し、副社長へかける。
「副社長、廃棄予定の採掘場での"ミサイル実験"の準備はどうだ?」
『最終調整済みです。すぐにでも実験が可能です』
「よし...やれ」
『畏まりました』
副社長に指示を出した後に電話を切る。少し遠くから爆煙が空へ伸びるのが見える。そして、少し遅れて小さな爆発音が聞こえる。
「計画は成功...アリウスに対する備えは問題ない。それに...これで廃棄予定の採掘場は更地になり、"復興"の為に外へ資金を向ける余裕がなくなる」
車窓から外を見れば、一年前に来た時よりも砂漠化が進んでいるような気がする。人も殆ど居ない。
ここも、あそこも...今見ている場所の様々な場所はカイザーが買い取っている土地なのだろう。
ズキンと、頭が痛む。最近寝れていないからだろうか、時折頭痛や眩暈に襲われることが多くなってきた。
「歳かなぁ...」
「あっ、カナコさん!どうしたんですか?今日は予定の日ではないですけど...」
アビドス高等学校を訪ねれば、ふわっとした雰囲気の彼女と...触れるものすべてを傷付ける様な雰囲気を纏っている"小鳥遊ホシノ"が居た。
「...先輩、この方は?」
「あ、前にある企業がアビドス高等学校に支援金を時折送ってくれてるって話したでしょ?その企業の社長さん!」
「どうも、初めまして。浅見カナコと申します。以後お見知りおきを」
私はいつもの笑顔を浮かべながら軽く会釈する。
「そう、それで今日ここに訪れたのは年度も変わりまして、新入生が入ったという話だったのでお祝いに」
「わぁ、ありがとうございます~!」
ホシノはこちらをかなり胡散臭そうな顔で見ているがユメ先輩はとてもニコニコとしながら嬉しそうにしている。
「あともう一つ用事がありまして...」
「はい、もう一つですか?」
「...実は、つい先ほど我が社の採掘場が何者かに襲撃されまして。多大な損害が出ているのです」
「えぇっ大丈夫なんですか...?」
「いえ、大丈夫ではなく...多大なる出費が予想されるため、借用費用はともかく暫くアビドスへの支援金確保が難しいのです...」
「そ、そんな...」
そう言うと、流石の彼女も顔を青くしている。支援金は多くはないが、決して少なくない額を送っている。
それが無くなるという事は、更にアビドス高等学校の資金が無くなるという事である。
「あ、それなら経済室にある制度とかで何か良さそうなものは...」
「...本当に、申し訳ない」
ただ、そう言って頭を深く下げる。この謝罪には支援できなくて申し訳ないという謝罪と、見殺しにしてしまうことを許してほしいという意味が込められている。
許してもらおうなどとは思っていない。逆に、いつか裁かれるのを望んでいる。
穢れてしまった私には、表舞台に立つ事は烏滸がましいことなのだ。