黒幕希望のクロウン   作:一般通過犬

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Ep0-4「代償」

 アビドス高等学校へ到着する。相変わらず人気はなく、滅びゆく校舎があるのみだ。

 車を降り、早足で校門をくぐり校舎へと歩いていく。

 副社長は車を降りずに邪魔にならない場所へ動かす為に車を走らせた。

 

 校門から校舎へ半分ほど歩いたところで、突如巨大な破裂音が鳴り響く。

 そして、それと同時に全身の痛みと頭痛、視界の歪みにぼやけ、耳鳴りが私を襲う。

 歪みぼやける視界の中に目を凝らしてみれば地面に倒れているのか空が見える。

 そして、いつの間にか小鳥遊ホシノがこちらに銃口を向けていた。何かを話しているが、耳鳴りが酷く断片的な言葉しか聞き取れない。

 

 頭を横に振り、消えそうだった意識を強く保つ。

 このままでは不味い、なにか弁解をして誤解を解かなければ。

 幸い、耳鳴りは収まり始めた。

 

「小鳥遊...ホシノ...ッ! 話を...」

 

 ジャキッと目の前で彼女がコッキングを行う。その顔からは焦燥と憎悪、そして深い後悔を感じられた。

 このままじゃ、撃たれる。

 

「カイザーと黒服は、私の...仲間じゃない...!」

 

「信じられるか...! お前達が...お前達が先輩を...ッ!」

 

「彼女は、砂漠に...今は居るはずだ。我々も捜索隊を結成して捜索している...恐らくカイザーが所有している砂漠に...」

 

「なら、何故お前達が支援金を打ち切った事を、他社のカイザーと黒服が知っている! なぜタイミングよくアイツ等が取引を持ちかけた!!」

 

 黒服と、カイザーが? 既に目を付けられているだけでなく、こちらの動きも分かっている...? 

 弁解をする為に口を開いたその時、校門から誰かが走ってくる音が聞こえた。

 

「社長から、離れろ―――!!」

 

 副社長は、そう言いながらホシノへ体当たりを行おうとするが、ホシノは彼女へ容赦のない3連射を浴びせる。彼女はそのまま転ぶ様に倒れる。そして、こちらへ再び銃口を向ける。

 緊張しているのか、たらりと額から汗が流れる。

 

「待てっホシノ...いや、何を言ってもキミには無駄か。ただ、私達は...いや、我が社はキミの敵ではない。だが、味方でもない。明言できるのは、キミの先輩の失踪に私たちは関わってはいないという点だ」

 

「そんなもの、信じられるわけッ!」

 

「キミが信じるか信じないかは関係無い。証明しようがないからだ。だから私は主張する、己の無罪を...ここに来た要件を話そう。生徒会長が行方不明なため、我社との取引はキミが担当することになる」

 

 抵抗するつもりがなく、敵意がないことを示すために両手を上げる。

 依然、こちらに銃口は向いたままだ。だが、先程よりは雰囲気がほんの少しだが刺々しく無くなっている。

 

「...私だって、彼女に死んでほしくないさ。長くはないが、決して短くない間の取引相手だ...!」

 

 これは、本心だ。私だって死んてほしくない。可能なら生きてほしい。ホシノと二人で...いや、対策委員会の皆と一緒に笑って生きてほしい。

 

 だが、運命(本編)はそれを許さなかった。

 どれ程そのハッピーエンドに恋い焦がれようと、どれだけ懇願しようとも。

 それが許さないならば、私は彼女が生きる未来(ハッピーエンドへの道)を殺すしかない。

 

「私の内ポケットに、GPSと紫の発煙弾がある...この件にカイザー達が絡んでいるなら、妨害もあり得る。支援が必要なら、連絡後に発煙弾を焚いてくれ」

 

 無抵抗の意を示しながらスーツの内ポケットからそれらを取り出し、地面へ転がす。

 

「...我々の用事は以上だ。キミが望むなら、すぐにでも撤収しよう」

 

「......」

 

 こちらに銃口を向けながら、彼女は離れる。去れ、ということだろう。

 私はふらつく足と未だに歪む視界の中で無理矢理立ち上がろうとする。

 起き上がった副社長が私の体を支えながら、停めた車の方へ連れて行ってくれる。

 

「社長、お体は平気ですか?」

 

「大分効いているよ...頭に入ったかな、はは...これじゃあ、エデン条約の時がマズいなぁ」

 

「笑い事じゃありませんよ。本当に...」

 

 あの時のような、心配そうな声で彼女は話しかけてくる。防ぎようがなかったとはいえ、本当に心配させてしまったようだ。

 

「...今度、医療品にも手を出すか」

 

「分かりました。とりあえず今はここから離れましょう」

 

 車に乗り、すぐに発車する。少しずつ離れていくアビドス高等学校の校舎を横目で見ながら先程のことを思い起こす。

 彼女がユメ先輩を文字通り死ぬ気で探していたことは知っている。だが、話として見たのと実際に見るのとではやはり違った。今でも、私の腕は小さく震えている。

 

「...副社長、アビドス前線基地へ向かってくれ」

 

 彼女は車を走らせるが、心配そうにしながら話しかけてくる。

 

「社長、彼女の死の確認は私達だけでも出来る仕事です。態々赴かなくとも...」

 

「ダメだ」

 

「...何故ですか」

 

「これは、これだけは...ダメだ。人を殺しておいて、その結末を確認しないなんて...そこまで、私は情を捨ててはいないさ」

 

 これは私が始めた物語だ。そして、希望(先生)とは交わりはすれど、決して一緒にはなることはない物語だ。

 進めば進むほど苦しく、絶望だけがあり、最後には滅びゆく物語だ。

 

「ですが、その状態では...」

 

「分かっている。もう、心も体もボロボロだ。だが彼女はもっとボロボロだ。それに、今後私は...多くの人の人生を狂わせ、希望を踏み躙り、大切な物を奪う。これくらい、耐えないとね」

 

「...分かり、ました」

 

 彼女は歯切れ悪くそう言った後は何も話さなかった。私も体が震えているのか、それ以降は何かを話す気力もなかった。

 

 暫く走れば辺りは空き家の群れから無駄に広大な砂漠へと景色は変わっていた。

 そして、その砂漠の中に長く敷設されている鉄柵に有刺鉄線、KEEP OUTと書かれた看板がそこにはあった。

 

「もう間もなく前線基地へ到着します」

 

 副社長がそう言うと、遠目に検問のようなものが見てくる。ここの陸では唯一の入り口だ。事前に連絡していたからか、警備兵はこちらを止めることなくそのまま通ることができた。

 そこから少し走ると、機能美を求めたことがひと目で分かるような建物がいくつが見える。前線基地の施設だ。

 それらの前で車は止まる。私は自身で扉を開け、車を降りる。そして、イヤホンの通話ボタンを押す。

 

「...首尾は?」

 

『足取りは以前不明です。ですが、カイザーPMCの基地と思わしき施設は確認できました』

 

「分かった、捜索を続けてくれ。私は前線基地で待機する、アウト」

 

『了解、シャドウアウト』

 

 通信が切れる。慌ただしく動く車両や航空機を横目に見ながら空を見上げてため息をつく。

 このまま、つつがなく終わって欲しいという気持ちと、何処かに生きていて欲しいという希望が混ざり合い、複雑な気持ちのまま施設へ歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が傾き、夜になる。

 依然として遺体は発見されていない。夜間の捜索は危険だと判断して捜索隊は一時的に引き上げさせた。

 姿は勿論、痕跡すらも見つかっていない様だ。

 

 緊張しているのか、眠気が来ないため一時的に宛てがわれた部屋でいちごオ・レを飲みながら椅子に深く腰掛け思考にふける。

 私の存在がこの世界にどれほど影響を与えているのか、それがいまいち判明していない。

 もし、世界の修復作用があるとすれば、私という歪みを別の歪みで補う可能性がある。

 そうだとすれば、今後の動きはそのイレギュラーによって大きく変わることになる。

 

 コンコンコン

 

「社長、まだ起きておられますか?」

 

 軽い3回ノックと共に副社長の声が聞こえる。ふと時計を見れば既に0時を超えていた。

 

「あぁ...まだ起きてるよ。何かあったのかい?」

 

「いえ、少し心配になりましたので。中に入ってもよろしいでしょうか」

 

「構わないよ」

 

 ガチャリと扉が開けられる。副社長はいつもの様なスーツではなく、可愛らしいデザインの寝巻きを着ていた。

 

「社長、お体の方は大丈夫ですか?」

 

「平気だよ、これくらい。それなりに頭が揺れたくらいだよ」

 

「そうですか...では、心の方は大丈夫ですか?」

 

 ドキリと心臓が跳ねる。正直に言うのであれば、大丈夫ではない。

 人から大切なものを奪うのだ。自業自得とはいえ、ただでさえ満身創痍な上に、彼女から向けられた明確な敵意と憎悪。

 すぐにでも逃げ出したかった。目を背けたかった。

 だが、それは出来なかった。もう戻れないのに。進むしかないのに逃げても運命は彼女を逃さない。

 腹を、内蔵を、思いも全てを吐き出してしまいたい気持ちに何度もなった。だが、私はまだ耐えれるはずだから。

 

「...大丈夫だ、ありがとう」

 

 今ここでは、嘘をつく。

 

「...分かりました」

 

 彼女はいつもと変わらない表情でそう言った。そして、突然私に近づいて優しく抱き締めた。

 

「は、ちょ、副社長?」

 

「私が急に社長に甘えたくなりましたので」

 

 彼女の暖かさが、優しさが体に直接伝わる。胸の奥にしまい込んだはずの感情が火山が噴火するように込み上げてくる。

 

「副社長、やめ...私は...」

 

 彼女は何も言わずにただ優しく抱き締め、私の頭を撫でる。

 

「アキラ...頼む...」

 

「社長...いえ、浅見さん」

 

 いつもより優しい声で、彼女は私の名前を呼ぶ。まるで親が子供に諭すように。

 

「私を頼ってもいいんです。弱さを見せたっていいんです。だから、今だけは...私の胸で泣いてもいいんですよ」

 

 無意識に、ポロリと涙が溢れる。決壊した心の堤防から感情という名の濁流が襲い来る。

 ポロポロと涙は流れ、グシャグシャになった胸の内が苦しくて、彼女の胸に軽く頭を預けながら声を殺して泣いた。

 ただ苦しくて、悲しくて、怖くて、申し訳無くて泣いた。

 泣いていると、突如頭がクラっとしてそのまま彼女にもたれかかる。

 そして、そのまま意識を私は手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、溜め込んでいたんですね」

 

 アキラの上司である浅見は部下には弱みを決して見せていなかった。それは会社の士気を保つためでもあり、彼女のプライドが見せようとしなかった為である。

 故に、このような姿はとても貴重であった。

 静かな寝息を立てながら寝ている彼女は会社を率いるリーダーであり、連邦生徒会に席を置いており、未来の為に...先生と生徒達のために身を犠牲にしようとする人。

 

「...一番付き合いが長いのは、私なのに」

 

 心の底で、アキラは声も顔も知らない先生をよく思っていなかった。

 彼女が苦しむ原因でもあり、彼女が想いを寄せているのが気に食わない。会ったことがないというのに、こんなにも苦しみながら先生の為にと彼女は進むのだ。

 とてもそれが羨ましく、妬ましく、恨めしかった。

 

「大丈夫です、社長。私が...いえ、私達が貴方を救います」

 

 赤く目を晴らした彼女の頬をさわりと撫でる。

 

「いつ見ても綺麗で華奢なのに...この腕に、背中に...未来の重みがずっとのしかかっているんですね」

 

 アキラは彼女をお姫様抱っこで持ち上げ、ベッドへ寝かせる。

 起きる気配は一切なく、余程思い詰めていたのだろうと察した。

 

「...おやすみなさい、社長」

 

 寝かせた後に隣に寝転ぶ。そして、そのままアキラは彼女を胸に抱き寄せ、静かな眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 翌朝、浅見は恥ずかしそうな、しかし、とてもスッキリした顔をしていた。

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