黒幕希望のクロウン   作:一般通過犬

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かなり難産でしたが、何とか出来上がりました。


Ep0-5「劈頭」

 捜索二日目、現在は昼頃だ。

 今だに遺体は見つかっていない。

 ホシノに渡したGPSは持ってもらえているようで、移動しているのがわかる。現在は砂漠を捜索しているようだ。

 ホシノの動きに関しては影に監視をお願いしている。

 私の近くに座る副社長は何処かから連絡を受けているようで、端末をいじっている。

 

「社長、影から緊急通信が入りました」

 

「すぐに繋げっ!」

 

 イヤホンからザザッとノイズが走った後に聞きなれた声が耳に届く。

 

『社長、追跡対象に関してご報告が』

 

「なんだ、何があった?」

 

『対象が砂漠に埋もれる人影を救出。姿からアビドス生徒会長だと思われます』

 

 ユメ先輩。まさか、彼女はたった2日で探し出したというのか? 事実、失踪して砂漠へ探し出す様に促してから二日目...もう見つけるとは。

 

「...ヘイローの有無は?」

 

『現在は見えません。どうしますか?』

 

「私が直々に向かう。この目で確実に確かめる方がいい。それに、キミ達と彼女を回収する必要があるだろう」

 

『私達は問題ありませんが...よろしいのですか? 我々だけでも確認は...』

 

「大丈夫だ。せっかくだ、もう全てのヘイトを引き受けて...悪として未来で罰されようじゃないか」

 

 自虐を込めながら半笑いで言う。事実、これが一番良い。私が知っている未来に到達すれば、私は不要だ。部外者(舞台装置)は役目を終えれば不要...まるで、あのマダムみたいだ。

 

「キミ達は引き続き追跡を頼んだ。アウト」

 

『承知しました。シャドウアウト』

 

「...副社長、そういう訳だ。すぐにヘリを二機回してくれ」

 

「畏まりました」

 

 通信を切った後に椅子から立ち上がり、軽く首を回す。第一の正念場だ。ここを超えれば...少しは、休める。そうしたら、今度はエデン条約を...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在はヘリで砂漠を移動している。GPSの地点まではあと2分。

 

「もう間もなく、カイザーの所有地へ侵入します」

 

「そうか...この奥か」

 

 パイロットがカイザーの所有地へ侵入することを告げる。やはり、カイザー...あの企業が。

 いや、分かり切っていたことだ。今は到着した後の事を考えよう。

 

「社長、到着後はどうされるつもりですか?」

 

 隣りに座っている副社長が私に聞く。まだ私のことに関して不安なのだろうか。

 

「彼女次第だが、一度今のアビドス校舎へ移動させたほうがいいだろう。それ以降は彼女に任せるしかない」

 

「もし、死亡しているとしたら...彼女は錯乱している可能性もあります。念のために私が...」

 

「承知の上だ。元々、私が殺した命だ。私を恨むのは当たり前だろうよ...」

 

 副社長は何か言いたげな顔をしていたが、それよりも先にヘリが現場へ到着する。

 

「社長方、到着致しました。降りる際は足元にお気を付けを」

 

「あぁ、ありがとう。副社長、文句は後で聞こう」

 

 私はそう言ってヘリを降りる。眼の前には無限に広がっているんじゃないかと思うような砂漠とそれに埋もれる都市だったもの。

 そして、その先の開けた場所に彼女は立っていた。

 

「...小鳥遊ホシノ。彼女を見つけたのか?」

 

 その問いにホシノは答えない。ただ動かなくなった彼女をじっと見下ろしているだけだった。

 近づき、彼女を見れば一目で分かった。

 

 死んでいる。

 

 その事実が私の胸を引き締める。

 事実から目を逸らそうとホシノを見る。よく見れば服や髪はポサボサで、何かあったのはひと目で分かった。

 

「ホシノ、何があった?」

 

 そう問えば、答えのかわりに彼女の体が横に倒れた。

 

 なんだ? 何が起こった? 何故彼女が? 

 

 ドクンと嫌な音をたてながら心臓は動く。

 ホシノに駆け寄り、体を抱き上げる。見るからに体調が悪く、まるで蝋燭がゆっくりと溶けている様に感じた。

 

「副社長っ! 直ぐに担架をもってこい! ヘリはエンジンを回しておけ!」

 

 副社長に指示を出し、自身はホシノを背負いヘリへ向かう。

 隠れていた影も出てきてユメ先輩を担架に乗せ運んでいく。

 

「パイロット、すぐに前線基地へ向かえ。全速力だ!」

 

「は、はい!」

 

 ヘリはすぐに離陸し、空を駆け始める。

 おかしい、これは史実じゃない。これは知らない。もしかして、彼女は死ぬのだろうか。それだけはダメだ。それだけは、絶対に避けなければ。

 

「社長、落ち着いて下さい。まだ彼女は生きています」

 

「分かってる、分かっているとも。まだミスはしていない。まだ大丈夫だ」

 

 自分に言い聞かせるようにしながら死んだように眠っているホシノの手を握る。

 

「...頼む、生きてくれ...」

 

 ポツリと零した小さな呟きはヘリの騒音に掻き消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホシノは病室へ、ユメ先輩は安置所へ輸送された。数日間は不安定な病状だったが、今は私の隣で落ち着いた様子で寝息を立てている。

 何故ホシノが倒れたのか、苦しんでいるのかは不明だが...もし、黒服が絡んでいるとしたら...色彩が? 

 いや、真偽は不明だ。本編でも私が知っている範囲では語られていなかった。

 不安になり、寝ている彼女の手を握る。

 まだ温かい。まだ生きている。その事実だけが、自分の心がを落ち着かせてくれる。

 彼女は、私のせいで苦しんでいるのに。

 

「...はは、私って、最低だ...」

 

 胸が苦しくなる。彼女の大切な人を奪ったという事実と、人を幸せにするようなあの笑顔を殺してしまったという事実が重くのしかかる。

 

「...ごめんなさい」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい...」

 

 少しでも軽くなりたくて、謝罪の言葉を口にする。しかし、それでやってくるのは罪悪感だけだ。

 なのに、口からはその言葉が溢れてくる。

 ポロポロと涙が零れ落ちる。

 

「ごめんなさい...」

 

 もう、後戻りは出来ない。進み続けるしかない。

 不意に苦しいのに何で進むんだろう、という疑問が浮かぶ。

 しかし、それはすぐに霞んで消えていった。

 

「せめて...せめて、キミが未来で幸せになれるように...願っているよ」

 

 彼女を幸せにするのは私の役ではない。私は憎まれ役でいい。憎まれ、疎まれ、正義に敗れる闇でいい。きっとそっちの方が、ハッピーエンドだから。

 

 ...もう、仕事に戻らなくては。

 

「さようなら...小鳥遊ホシノ」

 

 私はその場から逃げ去るように、病室を後にした。

 そして、病院を出てすぐに電話をかける。

 

『社長、どうかいたしましたか?』

 

「副社長、ホシノが起きたときに関してだが...キミ達に一任する。彼女が望んだ通りにしてやってくれ。ユメ先輩...元アビドス生徒会長をどうこうする権利は、私にはない」

 

『畏まりました、ではそのように』

 

「あぁ、頼んだよ」

 

 そう言って電話を切る。これから忙しくなるだろう。まだ、本編は始まってすらいない。ここからどんどん辛くなる。立ち止まってる訳にはいかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから日が経ち、現在は高等部一年生の終わり頃だ。

 アビドスには殆ど行っていない。

 用がなくなったのもあるが、一番は私が気まずく感じるのだ。

 あそこへ向かうたびに、彼女のことを思い出す。あの砂漠の、ダラリとした動かない彼女を。

 なので、アビドスへ行く機会を減らし、今度はエデン条約に関して手を入れようと思っている。

 トリニティ、ゲヘナ、そしてアリウス。これら3つの複雑な因縁が関係してくる。

 

「まず手を入れるのはトリニティかゲヘナか...」

 

 サンクトゥムタワーの経済室で手を組み考える。

 トリニティに手を入れるとしたら、3つの派閥のどれかに協力するといった感じか。

 ゲヘナなら...まぁ、万魔殿だろうか。あそこに協力を取り付けるくらいだろう。

 アリウスに手を入れない理由は簡単だ。相手は大人、こちらがボロを出すに決まっている。ならば、接触するのは先だ。まだ、まだ早い。

 

「ストーリーの実装順を覚えていれば、多少助かったのかもしれないが...」

 

 残念ながらそこまでは覚えていないようで、どうなるのかは私にもわからないのだ。

 

「とにかく、今は...今は、トリニティに手を加えよう」

 

 机の上にほんの少し積み上がっている書類を漁り、トリニティ学園周辺の書類を取り出す。

 

「まずは、周辺から埋めていかないとね。関係企業の中で上手く取り入れることができそうな場所...或いは、生徒の事業で...」

 

 ふと、書類を見ていく中で出て来た"香水事業"の文字。香水、化粧品等の年頃の女の子が欲しがりそうな物。

 そう言えばそうだ。完全に感覚を失っていたが、私は多感な年頃の女の子なのだ。

 すぐに副社長に製造指示を出そう。上手く行けば色々終わった後に彼女達の心の荒みを和らげられるかもしれない。

 

「副社長、製造部門に化粧品や香水の製作の指示を出せ。まだ間に合う、新入でも上手く行けば...」

 

『社長、既に製造部門は化粧品と香水の製造を行っております』

 

「...そんな指示出したっけ」

 

『トリニティに事業展開するためには必要だと考え、過去に私が指示しました』

 

 さすが副社長だ。会社のことを考えて働いてくれているのは本当に有り難い。彼女がいれば、私がいなくても会社は回るだろう。

 

「分かった、ならば実はトリニティに手を加えようと思っている。エデン条約の件だ」

 

『...どのようにするおつもりで?』

 

「まず、各勢力の内情を知り得るようにしておきたい。いつどこでイレギュラーが発生するかわからないからな」

 

『畏まりました。各勢力に精通した人物を用意いたします』

 

「すまないな、頼んだ」

 

 ピッと通話を切った後に手に持っていた書類に"承認"の印を押す。彼女達には上手く舞ってもらおう。

 

「ふぅ...さて、今年出来ることはやったかな...」

 

 そもそも、本編が始まる前に出来ることが少ないのだ。

 アビドスは始まる前に彼女が死んでいることが前提だったために手を加えたが...

 時計仕掛けの花のパヴァーヌはモモイ達がトリガーとなり、エデン条約はティーパーティーと万魔殿、アリウス分校が揃わなければ手を出しにくい。それに、ゲヘナには情報部がいる。下手に動くのは不味い。

 カルバノグの兎は、SRT特殊学園が閉校しなければまず始まらない。

 それに、もうこっちに来てから3年経つ。

 流石に細かいストーリーまでは覚えていない。故に、可能な限りで手を加えれるように何処かに関われるようにしなければならない。

 

「...となれば、準備期間だ。各所にコネを作るか」

 

 トリニティは問題ない。ゲヘナは...まぁ、何とかなるだろう。

 となると、ミレニアム。あそこと繋がりを持つ必要がある。

 

「ミレニアムかぁ...」

 

 ミレニアムには正直言うのであれば良いイメージはあまりない。

 というのも、様々な発明品が作られ、特許が纏められたものがセミナーから届くが...とんでもないものが混じっていたりするため頭を抱えることがある。

 あとはミレニアムで製品や試作品の総合展時点に行ったことがあるが、まぁその、凄かった。

 その機能いるのか? というものや、なんでそれに付けたんだろう...と思うものがいくつもあったのだ。

 それをできる技術力は素晴らしいのだが。

 

「あそこに上手くコネを作れる気がしない...」

 

 こちらの技術がいくら優れていても良くて同格、最悪数世代先を歩いている可能性もある。

 となると、こちらから何かを提供することは無理だろう...

 投資も新規開発となると金と時間が嵩む。それに賭けるのは博打すぎる。

 

「...今度、副社長に相談してみるか」

 

 こればっかりは慎重に動くしかない。

 ミレニアムの件はとりあえず置いておく事にした。

 火急の用事ではない。焦って転ぶよりはいいだろう。

 

 思考に耽りながら仕事をしていると目の前の扉が開き、いつもの如くサボり魔(由良木モモカ)が入ってくる。

 

「おっ、頑張ってるねぇ〜」

 

「またですか...今週何度目なんですか?」

 

 私が苦言を漏らすが、彼女は何てこと無さそうに明太ポテチをポリポリと食べている。

 

「だって、カナコ以外はみーんな実力行使で追い出して仕事させようとするんだもん」

 

「私はモモカさんがいざというときはしっかりしてくれると思ってるからですよ。出来れば常にしっかりして頂きたいのが本音ではありますが」

 

「容赦無いねぇ〜」

 

「全く...食べるならいつもの場所で食べて下さい」

 

「はいは〜い」

 

 彼女はポリポリと食べながら部屋の隅側に用意した専用の椅子に寝転ぶように座る。

 理由は簡単、ポテチのカスが散らばるためである。

 

「カナコくらいだよ〜? こうやって椅子を用意したりするの?」

 

「ポテチのカスが散らばって掃除が大変なので。それなら位置を定めてしまったほうが楽だと思いましたので」

 

「他の子みたいに追い出したりすればいいのにねぇ〜」

 

「...私が出来ないって知ってて言ってるんですからこの人は」

 

 と文句を言いながら書類に判子を押していく。

 口では文句を言いながらも、私はこの時間が好きだった。

 束の間の同僚と軽口を叩きながら働いているこの平和な時間が唯一の癒やしだった。

 だから、この時間だけは...決して失いたく無い。

 

「それ食べ終わったら、仕事場に戻ってくださいね」

 

「えぇ〜ケチぃ〜」

 

 ブーブーといった表情をして抗議する彼女についクスッと笑ってしまう。

 あぁ、やっぱり好きだ。この時間が堪らなく好きで、愛おしい。

 こんな時間が、ずっと続けばいいのに。




中々、この話以降が難産で悩みますねぇ
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