黒幕希望のクロウン   作:一般通過犬

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だんだん難産になってきました。頑張っていきたいです。
誤字報告、感想励みになってます。いつも有難うございます。


Ep0-6「陰影」

 少し時が進み、遂に私も高等部二年生となった。

 連邦生徒会の方の仕事もだいぶ慣れてきたが、相変わらず仕事が多くため息が出る。

 まぁ、それでも裏工作をする暇はあるだけまだマシだろう。

 

 そして、二年生になったという事は先生が来るまで一年を切ったことを意味する。

 

 トリニティ、ゲヘナ、ミレニアム...この三大学園を中心に起こる事件に加わることが出来るようにどこかに嚙む必要がある。

 

 ミレニアムに関してはそもそも三年生にならなければ大きくは動けない。今年は伝手を作る程度だろう。それに、関わり過ぎれば何処から例の超天才清楚系病弱美少女ハッカーに察知されるだろう。

 

 トリニティは学園にも足を運んでいる上に生徒の事業をいくつか手伝っているので伝手に関しては問題ない。可能であればティーパーティーにも少しは関わりを持ちたいところだが、難しいだろう。

 

 ゲヘナは...正直扱いが一番難しい。本編の万魔殿の議長である羽沼マコトを手駒にするのは簡単だろうが、それ以外の風紀委員会と情報部がかなり厄介だ。

 恐らく既に私や会社に関する情報は握っているはずだ。

 

「はぁ...さて、どうしたものか」

 

 アビドス以外の難易度が高い故に手を出しにくい。

 そして、高いからこそ急がなければ間に合わなくなる。しかし、急いで手を出せば警戒されてしまうもどかしい状況だ。

 

「いっそのこと主人公みたいなチート(死に戻り)でも持っていればなぁ...」

 

 それならば、ハッピーエンドを目指すことだってできたはずだ。

 でも、現実はそうはいかない。

 残機1で少しズレればバッドエンドの可能性のある世界だ。

 

 

 

 唸りながら目を瞑って考えていたが、考え始めたのが昼過ぎだったのに、いつの間にか夕方になっていたようで日が沈み始めている。

 

「...あれ、いつの間に。そんなに考え込んでたか」

 

 座っていた席を立ち軽く荷物をまとめる。

 その時、こちらの部屋に向かってくる足音が聞こえる。それは不思議とハッキリと聞こえていた。

 その足跡は部屋の前で立ちどまり、ドアがゆっくりと開かれる。

 

 

 

 

 そこに立っていたのは――ユメ先輩(殺した相手)だった

 

 

 

 足が竦み、手が震え、目が忙しなく動く。唇も乾き、目の前の存在に酷く恐怖する。

 確かに彼女だ。だが、血色はまるで死人のように悪い。

 それに、顔がよく分からない。目線や口の動きは分かるのに、それだけ認識できない様に。

 

 彼女はゆっくりと口を開く。

 

 

 

『何で助けてくれなかったの?』

 

「ひっ...」

 

 無意識に小さく悲鳴が漏れる。彼女はそんな自分にお構いなしにこちらへとゆっくりと歩みを進める。

 逃げようとするが、足は動かない。それどころかそのままその場にへたり込んでしまう。

 ゆっくりと、ゆっくりと彼女はこちらへ歩みを進める。

 

『何で見捨てたの?』

 

「ぁ、ごめん、なさ...」

 

『何で殺したの?』

 

「ごめんなさい...ごめんなさい...!」

 

 その場に蹲り、ただ許しを乞う。足を引き摺る様にこちらへ歩いてくる音が聞こえる。

 それが聞こえない様に、彼女の声が聞こえない様に大声で許しを乞う。

 

 足音が私の目の前で止まる。

 恐る恐る顔を上げ、彼女の顔を見る。

 今度はその顔を認識することが出来た。

 ただ、そこにあったのはいつもの笑顔を浮かべる彼女ではなく、まるで何もかも抜け落ちたような不気味な表情をした顔だった。

 

 ゆっくりと口を開く。

 

『人殺し』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...っ! ハッ...ハッ...ハッ...!」

 

 次の瞬間、ガタンと体を震わせ目が覚める。

 全身から嫌な汗が出ているのか、嫌に身体が湿っている。

 どうやら書類仕事しながら居眠りしてしまったようで、書類が机の上に何枚か置かれている。

 幸い、変な跡がついたりはしていないようだ。

 窓の外を見ればまだ空は青く、まだ時間がそれほど立っていないことを教えてくれる。

 

「...ハァ....またか...」

 

 この夢はあの日...彼女(ユメ先輩)を殺した日から何度も見ている。

 自業自得とはいえ、かなり心に負担が来る。

 その時用の薬を処方してもらっている。

 

 その薬を取るためにポケットに手を入れたときだった。

 

「カナコ先輩...?」

 

 突然声をかけられ身体が少し跳ねる。

 声の方を見れば、私の隣に調停室長...岩櫃アユムが心配そうな顔をしながら立っていた。

 

「あの、大丈夫ですか...?」

 

「あ、あぁ...大丈夫だ、ありがとう」

 

 なんとか表情を誤魔化しながらポケットに入っている薬を取り出す。しかし、手が震えているせいで取り出した瞬間にその場に落としてしまう。

 

「カナコ先輩、それは...」

 

「ホントに平気だよ、アユム。それで、私になにか用が?」

 

「え、あっえぇと...この書類を確認して頂きたくて...」

 

 半ば無理矢理に彼女を黙らせながら用を聞きながら落とした薬を拾い、飲む。

 彼女から渡された書類に目を通せば、ある文字が目に入る。

 

「...シャーレ」

 

「はい、そのオフィスを建てる為に土地の申請を...」

 

「なるほど、確かにこの書類に書かれている場所はコチラの管轄ですね」

 

 書類を軽く流し読みし、間違いがないかを確かめてまだ少し震える手でサインをする。

 

「で、オフィスを建てるのはどこに依頼を?」

 

「あ、カナコさんの会社に依頼する予定です」

 

「可能な限り身内で済ます、という魂胆ですか。まぁ、安くしておきますよ」

 

 そう笑いながら彼女に書類を返す。

 

「あ、ありがとうございます...」

 

「では、私は少し風に当たってきます」

 

「あ、あの! カナコさん!」

 

 その場から少しでも離れようと立ち上がり、扉へと向かう。しかし、声をかけられ振り返り彼女の方を見る。

 

「あの、えっと...何かあったら、相談して下さい」

 

「...ありがとう」

 

 そう一言だけ返してそのままその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ...」

 

 空き室の窓を開け、そこに肘を付き外を眺める。

 そこから見えるのはいくつかの学園と人々が行き交う交差点が見える。平和そのものだ。

 

 不意に携帯が鳴る。画面を見れば、副社長からなのがわかる。

 

「どうした?」

 

『社長、ミレニアムの方から武器の営業が来ています』

 

「武器の営業...?」

 

『はい、なんでも護身用の武器の営業だそうで』

 

「...分かった。迎えを寄越してくれ、すぐに向かう」

 

『畏まりました。それと、先日起きた輸送襲撃の件ですが...』

 

「それも、その時に詳しく聞かせてくれ」

 

『畏まりました』

 

 通話を切り、ため息をつく。

 あの夢の所為で疲れが溜まってきている。

 寝床ならまだしも、さっきの様に居眠りしてしまった時にあの夢を見れば周りに悪影響を及ぼしてしまう。

 その場凌ぎの対応として薬を服用しているが、いつかは根本的な治療を受けなければならないが...

 

「この(ユメ)から逃げることは...したくない」

 

 小さく呟き、無意識に握りこぶしを作る。

 これからも逃げてしまえば、私は楽になることが出来るだろう。

 だが、それはしてはいけないことだ。

 勝手な理由で殺して、辛いという理由でその事実から目を逸らそうとする事は、私には出来ない。

 

「はぁ...酒や煙草でもやりたい気分だ」

 

 項垂れ、空を見ながら黄昏れる。

 そうしてボゥっとしていると声をかけられる。

 

「カナコ経済室長。お迎えが来ています」

 

 どうやら、もう迎えが着いたようで、ふと見れば連邦生徒会の誰かが私を呼びに来ていた。

 見慣れない顔だが、恐らく今年から入った新人だろう。

 未だに重い体を動かしながら窓から離れる。

 

「あぁ、そうか...かなり早いな。すぐに向かうよ」

 

「では、お迎えの方の場所までご案内しますね」

 

「そうだな...助かるよ」

 

 新人の子に案内されながらエレベーターに乗り、ロビーへと向かう。

 エレベーター内で壁にもたれながらぼぅっとしていると新人の子が口を開く。

 

「あの、浅見さんって...会社も持っていて、重要なポストにも就いていて、アビドスに支援金を出していたり色々やっていますけど、やっぱり大胆さがあるからですかね...?」

 

「...キミはいつかポストに就きたいのかい?」

 

「え、まぁ...はい、烏滸がましいですが...」

 

「...ふふふ、そうか、ポストに就きたいのか」

 

 目の前の新人の子は大人しそうな見た目をしているが、かなりの野心家の様だ。

 そのギャップについ笑ってしまう。

 

「笑ってしまって申し訳なかった。そうだね、確かに大胆さも時には必要だ。だが、一番大切なのは準備と慎重さだ」

 

「準備と慎重さ...ですか」

 

「あぁ、慎重に準備をしているからこそ、大胆に動ける。ただ大胆に動けば簡単に足元を掬われてしまうからね」

 

「なるほど...勉強になります」

 

「まぁ、後の事はリン...行政官に聞くと良いよ。彼女に暇が出来ればの話だけどね」

 

 チン、という音が鳴りエレベーターが止まる。どうやら、ロビーに着いたようだ。

 

「それじゃあ、案内の続きをお願いしても良いかな?」

 

「あ、はい。分かりました」

 

 彼女はそのまま私を連れてロビーを通り抜け、外へ出る。

 そして、出入口から少し離れた場所に停まっている黒塗りの車両を見つける。

 

「あぁ、もしかしてあそこかな?」

 

「はい、あそこで待っていると言っていました」

 

「分かった、ありがとう。戻ってくれて構わないよ」

 

 新人の子にそう言って車へ歩き出す。外に出てまっていた護衛は私を見ると敬礼をし、車の扉を開く。

 どうやら今回は迎えに来たのは影ではないようだ。

 開けられた扉から中へ入る。一息つき、中を軽く見て小さいが、小骨が引っ掛かったような妙な違和感を感じた。

 

「迎えありがとう...ところで、キミたちの所属は――」

 

 ガンッと頭に衝撃が走る。

 突然の事に対応できず、そのまま横に倒れる。頭が酷く揺れるが、起き上がろうとする。

 しかし、それよりも先に護衛の一人が私の顔面に銃床を叩きつける。

 その様子を最後に私の視界は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある黒塗りの車がサンクトゥムタワーの前に停車する。

 そして、中から武装をした護衛...影の隊長が降りる。

 

「...出ないな」

 

 彼女は先ほどからカナコに対して連絡を取ろうとしているが繋がらない。

 若干の妙な胸騒ぎを感じながらロビーへ足早に向かう。

 

 受付に向かい、PMC部門の部隊章を見せる。

 

「済まない、カナコ経済室長を迎えに来た。呼んできてもらえるだろうか」

 

「カナコ経済室長ですか...? でしたら先程迎えに来た護衛の方と一緒に出られましたが...」

 

「...何?」

 

 すぐにインカムを入れ、全隊員へ繋げる。

 

「すぐに出せるように準備をしておけ」

 

『隊長、どうしたんすか?』

 

「社長が行方不明の可能性がある。事実確認をするまで全員待機だ」

 

 そう言って直ぐに携帯を取り出し副社長へと繋げる。

 

「副社長、護衛を私以外にも寄越したか?」

 

『いえ、あなた達以外には向かわせていません。それに、現在はあなた達以外に付近には別部隊はいません』

 

 チッと小さく舌打ちをして苛立ちを見せる。

 

「...副社長、PMCを総動員してくれ。社長が護衛を騙った集団に誘拐された可能性が高い」

 

『分かりました、直ぐに全部隊に捜索をさせます』

 

「頼んだ」

 

 通信を切り、速足で車へと戻る。

 後部座席の扉を開け、中に入る。そして、バンッと乱暴に閉め険しい顔をしながら座る。

 

「で、どうだったんすか?」

 

 その隣に座っていた隊員が興味ありげに聞く。

 

「十中八九誘拐だ。副社長が今、PMCを総動員して捜索に当たらせてる」

 

「じゃあ、うちらも捜索っすか?」

 

「あぁ、廃墟や空き家を中心に潜伏して良そうな場所を徹底的に捜索する」

 

「はいよぉ」

 

 気の抜けた返事をして隊員は椅子の背もたれに体を預ける。

 隊長はその様子に少し呆れたように溜息をつき、運転手へ目をやる。

 

「すぐに出せ」

 

「了解」

 

 黒塗りの車はキキッと急加速しながらサンクトゥムタワーの前から走り去っていった。

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