タイトルは、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ作曲、教会カンタータBWV207「鳴り交わす絃の、相和せる競いよ Vereinigte Zwietracht der wechselnden Saiten」より。
登場人物:「キリエ~吸血聖女~」より、キリエとラーラマリア。「デスとハイエロファントの物語:REBOOT」より、デスとハイエロファント。
注:小説ではなく、脚本風読み物です。残酷なシーンあり。
作中、スティーブン=フォスターの歌詞を掲載しております。
同一内容を、下記サイトにも掲載しております。
pixiv:https://www.pixiv.net/novel/member.php?id=323663
【挿絵表示】
★ 1872年・アメリカ合衆国・アリゾナ州・廃墟となった街
曇天。ところどころの雲の切れ間から、薄く陽が射し込む。
太陽の位置は、西側地平より45度の高さ。
乾いた、少し涼しい風が吹く、荒野の道。
一頭ずつの馬に跨り、並んで進んでいるキリエとラーラマリア。
キリエは傘を差し、荷を載せたもう一頭の馬の手綱も持つ。
ラーラマリア、右手で手綱を握り、左手で地図に目を落としている。
やがて、前方に街の端を確認。
そのまま、並足で馬を進めるふたり。
街の外周と思しき位置に、杭の柵。ただし、既に大部分が朽ちており、用を成していない。
家屋が見える街の入口付近。倒れている看板。街の名も読めない程に掠れている。
ふたりの乗る馬、それを横目に、街の中に進み入る。
目視出来る家屋、建屋は、すべてに動く者の気配がしない。
壊れたままの窓や扉、空の水桶。砂を被った状態の軒。
数軒が左右に並ぶ通りを過ぎ、眼前のT字路の手前で、馬を停めるキリエ。
ラーラマリアの馬も、続いて停まる。
キリエ、目を細めて、5ヤードほど先の角、更に先の右側に注視している。
前方に投げられたキリエの目線に気付き、彼女の横顔を見詰めるラーラマリア。
ラーラマリア「(訝し気に)・・・どうかしたか?」
キリエ「誰か、いる・・・」
スッ、とすかさず下馬するキリエ。
ラーラマリア、間髪を入れず、同様に馬を降りる。
足音を殺し、静かに建屋の角に近寄っていくふたり。
キリエは傘を畳み、両手で構えて身を低くしている。
ラーラマリアはホルスターから銃を抜き、音を立てずに撃鉄を起こす。
ふたりとも、身体を家屋の陰に隠したまま、顔を僅かに出す。
T字路から右側5~6ヤードほど奥、やはり両脇に建屋がある、通りの中央付近。
ふたりの人物が、こちらに背を向けて屈み込んでいる。
ひとりは、紫の髪。群青色のフード付きのマント、巨大な鎌を肩に掛けている。
ひとりは、蒼い髪。白地に緑の部分が装飾された法衣、ミトラ(司教冠)を被る。
よく見ると、その2名の向こう側の地面に別の誰かが地面に座り込んでいる。
一瞬で、思い切り眉間に皺を寄せるラーラマリア。
ラーラマリア「(小声で)見たことない服装だな・・・異国の連中か?」
キリエ「(小声で)髪の色も、見たことない。それに・・・(きっ、と目付きを鋭く)大きな鎌・・・」
ラーラマリア「(更に声を潜め、頷き)武器だとは思うが・・・今時あんな馬鹿でっかい鎌なんざ使うのかよ。昔の欧州じゃあるまいし」
キリエ「(呟くように)奥の人、狂血病みたい」
路地で背を向けてしゃがむ2名の前、地面に正座して、頭を抱え込んでいる男性。
ボロボロの衣服。時折身体を起こそうとし、苦しそうに胸を両手で押さえ、荒い呼吸。
その男性に右手を翳している、法衣姿の蒼髪の人物。
掲げた掌が、気の所為か薄ぼんやりと光って見える。
マントの人物「どうだ?」
法衣の人物「(首を振って)体力は戻っても、症状が治まらないみたいだ・・・」
フード付きマント姿の人物は、女性の声。綺麗な響き、やや幼さの残る声質。
白地の法衣姿の人物は、男性の声。清廉な響き、一本の芯が通る明瞭な声質。
ふたりの前で、ビクン、バクン、と座り込む男性の身体が細かく跳ねる。
痙攣をしている模様。
胸元から喉を掻きむしり、両目を、クワッ、と見開いて苦悶の表情。
座り込む男「(喘いで、苦しそうに)頼む・・・こ・・・殺してくれ・・・もう・・・グ・・・グガ・・・ガアッ・・・」
マントの人物「限界か・・・魂が、悲鳴を上げている・・・」
すっ、とマント姿の人物が立ち上がる。
左手に下げた大鎌を、くる、スチャッ、と両手で握り直す。
マントの人物「今、楽にしてやる・・・下がっててくれ、ハイエロファント」
法衣の人物「判ったよ。お願いするね、デス」
ハイエロファントと呼ばれた法衣の人物、立ち上がって、くる、と踵を返す。
デスと呼ばれたマントの人物、フードを頭に被り、懐から面を出して装着する。
面は髑髏を模った物。被った途端、彼女のローブの裾が、ふわ、と浮いて前面を覆う。
数歩の距離をとったハイエロファント、改めて身体を返し、両手を胸の前で組む。祈るような仕草。
デス、大鎌を右側から後方に、水平に引く。
眼前の男性の全身に、ボコ、ボコボコ、と血管が一気に浮き出る。
彼の目が反転し、白眼となり、口が大きく開き、鋭利な牙が剥き出しになる。
直後。
渾身の力で大鎌を振り抜くデス。
刃の延長線上に、男性の首筋。
斬撃が、ザシュウッ!と躊躇なく薙ぐ。
男性の首が落下するのと、身体が側方に倒れていくのが、同時。
ドサ・・・と地面に伏す、遺骸。
間髪入れず。
キリエとラーラマリアの後方の二頭の馬、ブルブルッ!と全身を震わせる。
即座に、ヒヒン・・と小さく嘶き。
思わず振り返って馬を凝視する、キリエとラーラマリア。
ラーラマリア「(大きめの声で、右手人差し指を唇に縦に当て)しっ!」
通りの角の向こうにいるデスとハイエロファント、ラーラマリアの声に気付く。
バッ、と振り返るハイエロファント。
マントを翻して振り向き、髑髏の面を速攻で外してこちらを睨むデス。
デス「(警戒を全面に表し)誰だっ!?」
慌てて身体を引っ込めるラーラマリア。
ラーラマリア「(口を右手で塞ぎ)やっべっ!」
キリエの瞳が、一瞬、爛と赫く煌く。
傘を両手でしっかり握り、ダッ!と地面を蹴って飛び出す。
体躯を低くして駆け始めるキリエの背に、思わず左腕を伸ばすラーラマリア。
ラーラマリア「(驚いて)待て! キリエっ!」
キリエ、一気に間合いを詰めていく。
はっ、と彼女に気が付いたハイエロファント、くる、と身体を返して右腕を伸ばし掌を翳す。
途端。
ふっ・・・とデスの姿が消える。
ハイエロファントを追い越すように、一陣の風がキリエに向かい移動する。
瞬間移動したように、キリエの真横に現れるデス。既に大鎌を後方に振り翳している。
デス、間髪入れず、鎌の柄を振り抜く。
即座に、ジャキッ!と傘の先端をデスに向けるキリエ。
左手で柄をしっかり握り、尖った先をデスの眉間に、スチャッ、と合わせる。
キリエが右手の指を掛けている柄の部分、銃の引鉄のような形状。
ピタ・・・と、デスの大鎌の刃が、キリエの首筋の真横で停止する。
1ヤードにも満たない距離で向かい合い、互いの武器を寸止めしているふたり。
キリエの赫い瞳からの目線と、デスの紅の瞳からの視線が、宙でぶつかる。
デス「(眼光鋭く)何の真似だ?」
キリエ「(重い声で)これはただの傘じゃないの。動くとあなたの頭に風穴が開くわ」
デス「武器か? 見たこともない」
キリエ「傘にしか見えないでしょうけど、これは銃よ」
デス「(不思議そうに)銃? 何だそれは?」
キリエ「(短く息を飲み)・・・銃を知らない?・・・」
僅かの戸惑いを表すキリエ。
キリエ「(張りのある声で)答えて! あなた、何者!? どこから来たの!?」
ハイエロファント、翳そうとしていた右手を、すっ、と静かに下ろす。
キリエの動揺を感じ取っている様子で、穏やかな視線を向けている。
ラーラマリア、銃を構えながら慎重に歩み寄ってくる。
順に、奥のハイエロファント、手前のデスに目線を繋げる。
デスの眼を見た途端、驚いたように息を飲むラーラマリア。
ラーラマリア「(絞るような声で)その眼っ・・・こいつも狂血病かっ!?」
デス「(キリエを見たまま)きょうけつびょう、とは何だ?」
キリエ「病気よ。ここで流行している、病気・・・今さっき、あなたが首を刎ねた人が罹ってたのが、狂血病よ」
デス「あたしたちの知らない病、か。道理で、ハイエロファントの力でも回復しない訳だ」
ハイエロファント「デスは健康体だよ。病気には罹ってない」
ラーラマリア「しかしその眼・・・その赫い眼、狂血病以外の何だって言うんだ?」
ハイエロファント「(ラーラマリアに目線を繫げ)デスの瞳は、生まれつきだよ」
後ろ手に両手を組み、落ち着いた口調で言葉を発するハイエロファント。
武器を向け合ったまま対峙し続けるデスとキリエ。
鋭利な目線で、構えた銃口の照準をデスに合わせるラーラマリア。
暫く、そのまま。
尚も、そのまま。
乾いた風が、凪ぐ。
キリエ、デスへの視線を微かに緩める。
キリエ「ラーラマリア、こっちの人の言う通りよ。この人は、狂血病じゃない」
ラーラマリア「そっか・・・(ふう、と短く息を継ぎ)あんたがそう思うんなら間違いないだろうね」
ハイエロファント、デスに眼差しを結ぶ。
ハイエロファント「(大きく頷きながら)デス・・・」
キリエを見たまま、すっ、と大鎌を下ろすデス。
そのまま刃を下にして、右手に持つ。
デスを見たまま、チャッ、と仕込み傘を手元に戻すキリエ。
漸く銃を下げ、腰のホルスターに収めるラーラマリア。
肩から力を抜き、若干安堵した笑みを浮かべる。
ラーラマリア「どうやら、あんたら敵じゃあなさそうだね。防疫修道会の連中とも違う。しっかし見たことない服装とか・・・旅人にしても妙な格好だしな」
キリエ「(ラーラマリアに視界を向け)銃を知らないみたい」
ラーラマリア「(驚いて)うえっ!? 銃を? ウソだろ?」
ハイエロファント、デスとキリエに歩み寄ってくる。
デス、キリエに半身を向け、ハイエロファントが来る方に歩を進める。
ラーラマリア、キリエに歩き近付く。
キリエ、振り返ってラーラマリアを見詰め、彼女が隣に立つまで目線を繋げる。
そして。
デスとハイエロファント、キリエとラーラマリアが並んで立ち、向かい合う。
少しの間、眼前のふたりを注視している4名。
ハイエロファント「まず、名乗らせて。僕の名前は、ハイエロファント」
デス「あたしの名は、デス。死神だ」
ラーラマリア「(軽く笑って)死神? こりゃまた大層な“ふたつ名”だね。確かにアタシの知ってる死神の姿によく似てる格好だけどさ」
デス「(意外そうに)いるのか? この世界にも死神が」
ハイエロファント「(デスを見詰め)君と同じ“仕事”をしているのかな?」
ラーラマリア「いるっつーか何つーか・・・」
会話の流れに、妙な違和感を覚えるラーラマリア。
ラーラマリア「(ジト目で)気のせいか、なーんかズレた話になってる気がする」
キリエ「私の名は、キリエ」
ラーラマリア「アタシはラーラマリア。(キリエを右手親指で指し)キリエと旅をしてる」
ハイエロファント「はじめまして、キリエ、ラーラマリア。早速だけど、いろいろ尋ねたいことがあるんだ」
ラーラマリア「その前に・・・(鋭い目付きで)あんたら、何処から来た?」
デス「マジカルランド・・・と言う場所を知っているか?」
ラーラマリア「(首を左右に振って)いーや、知らないね。そこは、アメリカ合衆国からどんくらい離れてるんだ? ここまでどうやって来た? 海を渡ってきたのか? 鉄道で行ける先にそんな国がないことは、判る。馬も連れてないあんたらが、このアリゾナまで歩いて来たのか? 旅支度もロクにしてないような、銃も知らないあんたらがどうやって?」
ラーラマリア、段々と尋問口調になっていく。
一度顔を見合わせ、何度か瞼を瞬かせるデスとハイエロファント。
それから再度、ラーラマリアに視線を戻す。
デス「(眉を顰めて)・・・お前は何を言っているんだ? さっぱり解らない」
ハイエロファント「(右手を顎に当て、考える仕草で)うーん・・・いろいろ聞かれたけど、何から答えた方がいいのかな?」
キリエ「質問し過ぎじゃないの? ラーラマリア。せめて一問一答でないと」
ラーラマリア「(ハッ、と我に返ったように)そうだね、ちょっと勢い余った気がする。すまないね」
ハイエロファント「いや、気にしないで。聞きたいことはこちらもいっぱいあるから」
ふと、空を見上げるラーラマリア。
曇り空の上空にある太陽が、更に西の地平に高度を下げている。
茜に染まってはいないが、夕刻に近付いている気配。
ラーラマリア「あまりモタモタしてると、今日中に目的地に着かないかも知れない。アタシは初めて行く場所だから、あとどれくらいで着くのか判らないからな・・・(デスとハイエロファントを見て)まず答えてくれ。あんたらの目的地は何処だ?」
デス「(頭を振って)いや、ない」
ハイエロファント「突然この世界に来たんだよ。何処かに行こうとしていた訳じゃなんだ」
デス「あたしたちは、この世界の住人じゃない。お前たちの魂の質が違うので、それはすぐに判断出来た」
一度顔を見合わせ、何度か瞼を瞬かせるキリエとラーラマリア。
それから再度、デスとハイエロファントに視線を戻す。
キリエ「(眉を顰めて)ごめんなさい・・・ちょっと何を言ってるのか解らない」
ラーラマリア「いやぁ・・・(頭を掻いて)いろいろ認識の擦り合わせが必要みたいだね。でもまあ、取り敢えず敵じゃないことが判ったから・・・(明るい口調で)どうだい? アタシらの目的地まで一緒に行かないかい? 今夜はそこで寝泊りするつもりだから、飯でも食いながらお互い聞きたいことを質問して答え合うってのは?」
ハイエロファント「願ってもない話だけど・・・(デスに視線を繫げ)どうする? デス」
デス「(ハイエロファントに視線を繫げ)ハイエロファントがいいのなら、あたしは構わない」
ラーラマリア「(大きく頷いて)じゃ、決まりだね」
ラーラマリア、隣のキリエに目線を投げる。
はっきりと表情には出していないが、何気に面白くなさそうな雰囲気。
ラーラマリア「何だいキリエ、不満そうな顔して」
キリエ「(目を伏せて)不満、って訳じゃない・・・」
ラーラマリア「(にひっ、と明るく笑い)まあ、アタシとふたりっきりでなくなるのが嫌なのは判るけどさ!」
キリエ「(カアッ、と頬を染めて)なっ!・・・何言ってるの! ウザいっ!」
プイ、と横を向いて、別方向に顔をそむけるキリエ。
頬の赤みが取れていない。
愉快そうにそれを見てから、視線を戻すラーラマリア。
デスとハイエロファントは、先刻斬首した男性の傍らに近付いていく。
ラーラマリア、それを視界に映して、怪訝そうに目を細める。
ラーラマリア「おーい、何してんだ? 遺体を埋めてやりたいのかも知れないけど、モタモタしてると夜になっちまうぞ」
デス「(振り返って)首を持ち帰らなきゃならない」
ラーラマリア「(呆れたように)首ぃ? 何でだ? アフリカの部族出身なのか?」
デス、遺体の傍らに屈み込む。
途端。
思い切り眉間に皺を寄せ、異様な物を見る目となる。
デス「(不可思議そうに)おかしい・・・魂が、もうない」
ハイエロファント「(デスの横顔を見詰め)え? 君が“送って”ないのに?」
立ち上がりながら、ハイエロファントに眼差しを結び、一度頷くデス。
くる、と踵を返してキリエとラーラマリアに向き直る。
ハイエロファントも同じ調子で、ふたりに身体を向ける。
デス「ひとつ、聞きたい。この世界の死神は、姿が見えないのか?」
キリエ「(訝し気に)見えないも何も・・・首を刎ねられたら死ぬものよ、普通」
デス「死神が“仕事”をしなくても、か?」
沈黙。
沈黙。
デスの言動が理解不能、という様子のキリエとラーラマリア。
さも当然、といった雰囲気の、デスとハイエロファント。
尚も、間。
4名の視線が、宙で組まれたまま動かず。
更に、間を置き。
ラーラマリア、ふうう、と長い溜め息を吐き、肩を窄める。
ラーラマリア「・・・こりゃあ・・・認識の擦り合わせどころの騒ぎじゃなさそうだね」
ひゅう、と幾分冷えた風が、向かい合った全員の間を吹き抜ける。
その状態で、皆が暫く立ち竦む。