突然の、声。
全員が、一斉にその方向に視線を繫げる。
開け放たれた門の奥、丸い飛び石が交互に並ぶ先、玄関の格子戸が全開になっている。
その前に立つ、壮年の人物。
藍色の、草臥れた着流し。使い込んだ草履。体躯は、中肉中背。
山吹色の、炎が逆巻いたような髪型の短髪。一部、赫色。太く、端がふたつに分かれた眉。
杏寿郎と千寿郎と、よく似た顔付き。
しかしふたりと違い、両目は切れ長で、突き刺すような鋭い眼光。
眉間に深く皺が刻まれ、厳つい表情。無精髭も残る。
腕組みをして、少し顎を引き、こちらを睨み付けている。
千寿郎「(困ったような顔で)父上・・・」
サンタミカエラ「(目を正円に見開いて)アニキの親父さんっ!?」
キリエ「(唖然として)煉獄さんそっくり・・・」
蜜璃「(心配気に)槇寿郎さん・・・」
驚いた顔の、キリエとサンタミカエラ。
気遣うような顔の、蜜璃と千寿郎。
ザッ、と草履を擦り、重みのある歩調で門に歩を進める槇寿郎。
半拍後。
小芭内、すいっ、と二歩前に進み出て、槇寿郎の前に立つ。
小芭内「(頭を下げてから)槇寿郎殿、ご無沙汰しておりました」
槇寿郎「(腕組みを解き、小さく会釈して)伊黒くん、久し振り。健勝そうだな」
小芭内「(顔を上げて戻し)杏寿郎殿の訃報にも駆け付けられず、申し訳ない」
槇寿郎「気にしないでくれ。任務遂行は鬼殺隊の責務、当然のことだ」
小芭内「本日は急に押し掛けてしまい、お時間を頂くことになった」
槇寿郎「お館様のご命令で来てくれたのだろう。しかし・・・」
ずい、と小芭内の横に足を踏み出し、キリエとサンタミカエラに目線を投げる槇寿郎。
ふたりの両脇にいる蜜璃と千寿郎が、ごく、と生唾を飲む。
槇寿郎の両目の端が一層尖り、突き刺す眼光を放つ。
槇寿郎「杏寿郎と逢った、というのは、お前らか・・・(ギッ、と睨み)何が目的だ? 死んだ杏寿郎の名前を使ってまで、日本に来た理由は何だ?」
キリエとサンタミカエラ、戸惑った表情。
互いに視線を向け、結ぶ。
何から話していいか、説明に窮したような、雰囲気。
再度、槇寿郎に顔を向け、尚も困惑している。
槇寿郎、右手人差し指でキリエを差す。
槇寿郎「(怒気を含め)しかも・・・片方は鬼だと! 米国の鬼と聞いたが、いくらお館様からのご命令とは言え、鬼に家の敷居を跨がせる訳にはいかない! 鬼を滅しての鬼殺隊! (小芭内と蜜璃に視線を向け)それが判らぬ君たちでもあるまい! 帰ってもらおう!」
左から右に、バッ、と右腕を払い、ギリ、と奥歯を噛む槇寿郎。
キリエ、一度大きく目を見開き、すぐに顔を伏せる。
全員の視界が、キリエに向けられ、留まる。
沈黙。
沈黙。
暫くして。
キリエ「(悲嘆な声)当然、ね。煉獄さんは、鬼との闘いで命を落としたのだもの・・・」
瞼を伏せ、独白のように言葉を発するキリエ。
門の内側、槇寿郎の隣に小芭内、普段と変わらぬ表情。
門の外、キリエの横に立つサンタミカエラ、引き締まった顔。
その両隣の蜜璃と千寿郎、刹那気に眉を下げ、口を結ぶ。
数拍後。
小芭内、槇寿郎に身体を正対させ、居住まいを正す。
小芭内「槇寿郎殿・・・(深く頭を下げ)それを承知で、何卒お願い申し上げる」
キリエ、思わず顔を上げる。
場の皆の視線が、一斉に小芭内に照準を合わせる。
小芭内「(姿勢を戻し、キリエを見て)確かに、こやつは米国の鬼。邸内に立ち入らせまいという気持ちは理解出来る。だがここに、柱がふたりいる。元柱の槇寿郎殿も含めて、三名の手練れがいる。こやつが鬼の本領を発揮した際に、如何なる対処も可能だ・・・このふたりが杏寿郎殿と米国で逢った話は、俺も聞いた。俺も信じていない。だが・・・(槇寿郎を見て、静かな声で)まず、話を一通り聞いてはくれまいか? その上で真偽は判断して頂きたい」
蜜璃、弾かれたように、ずずい、と二歩進み出て、小芭内と肩を並べる。
蜜璃「(真摯な声で)私からもお願いします! キリエちゃんは禰豆子ちゃんと同じ、人を襲わない鬼なんです。お館様も鬼殺隊の一員として認めてくれてると思います! キリエちゃんとミカエラちゃんの話、聞いてくれませんか!?」
バッ、と頭を思い切り下げる蜜璃。
小芭内も再度、深々と頭を垂れ、最敬礼の姿勢。
ふたりの姿を網膜に灼き付けるように、両眼を向けるキリエ。
ぐっ、と喉の奥に、何かが突き上がり、涙腺を刺激しようとする。
涙は流れないが、目頭が熱くなる。
キリエ「(声を震わせ)伊黒さん・・・甘露寺さん・・・」
キリエの様子を確認し、ふっ、と口端を緩めるサンタミカエラ。
今も、不安気に槇寿郎の様子を窺っている千寿郎。
眼前の小芭内と蜜璃を凝視し、驚いた表情の槇寿郎。
少しの、間。
ややあって。
槇寿郎、ふうう・・・と長い吐息を漏らし、眉を下げ、幾分表情を緩和させる。
槇寿郎「ふたりがそこまで言うとは、思ってなかった。特に伊黒くん・・・(小芭内を見て)まさか君の口から擁護の言葉を聞くとはな・・・(目を閉じ、小さく息を継ぎ)竈門くんの妹の話は、知ってる。この米国の鬼も、同じ存在だということか・・・(ギリ、と奥歯を噛んで)しかし・・・」
足を踏み出し、すいっ、と門の真下に起立し直すサンタミカエラ。
しっかりとした、振れない目線。
サンタミカエラ「(重厚な口調)アニキ・・・煉獄杏寿郎さんには、アメリカで世話になった」
小芭内と蜜璃、身体を起こして、サンタミカエラに視線を送る。
他の目線が、今度はサンタミカエラへと繋がる。
サンタミカエラ「全集中を教えてくれたのもアニキ、闘いの手解きもアニキから教わった。本当に尊敬出来る、凄ェ人だった。アニキが正式に継子にしてくれるって言ってくれたんで、一緒に船で来たんだけど、何故かアニキは途中で行方不明になっちまった。だから証明出来る手段がねェ。口で何言っても信じてもらえねェのは重々解ってる。だから・・・」
サンタミカエラ、槇寿郎を真っ直ぐに見詰める。
サンタミカエラ「(きり、と真剣な表情で)親父さん、オレっちと手合わせしてくれねェか? 今、ここで」
槇寿郎「(目線鋭く)・・・何ぃ?」
槍で突き返してくるような、槇寿郎の眼光。
それにもまったく怯まず、正面から受け止めているサンタミカエラの両目。
サンタミカエラ「もしそん中で少しでも、オレっちがアニキの鍛錬を受けたと感じたら・・・キリエの話を聞いてほしいんだ。こいつもアニキと共闘してる。そん時の話を、親父さんにも聞いてもらいてェ」
キリエ、サンタミカエラの背中に眼差しを注ぐ。
再び、喉の奥に競り上がってくる、何か。
キリエ「(目線を緩ませ)サンタミカエラ・・・」
槇寿郎の表情が、惑ったものへと転化する。
判断に迷っている、様相。
小芭内「(サンタミカエラを見て)こいつが全集中を使うのを見ている。少なくともそれは嘘ではない。(槇寿郎に目線を移し)杏寿郎殿の教えかどうかは、俺では判らない。一番判るのが、槇寿郎殿だろう。悪くない提案だと思う」
蜜璃「私も見てるわ。炎の呼吸から派生した呼吸を、ミカエラちゃんは使ってた。私の『恋の呼吸』とはまた別だったの」
腕組みをして、目を閉じる槇寿郎。
全員の視線が集まり、彼の次の言動に注目。
暫くの、間。
尚も、間。
槇寿郎、腕組みを解き、目を開き、ザッ、と右足を踏み出す。
そしてサンタミカエラの真横で、彼女を、ギロ、と睨む。
サンタミカエラ、跳ね返すような目で、槇寿郎を見る。
槇寿郎「(重く低い声で)一度、だけだ。それで違うとなったら、引き取ってもらおう」