「キリエ~吸血聖女~」二次創作読み物   作:桁石スミオ

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我は欣びて、十字架を負わん【第弐章/駒澤編】ー5

★ (15分後)煉獄家・客間

 

 太陽が天頂近くに昇った頃。

 バサバサッ、と羽音を鳴らし、要が、煉獄邸に降りて来る。

 中庭に面した塀に、トン、と止まり、姿勢を直す。

 眼前には庭を挟んだ縁側、その奥に開け放たれた障子、中の客間に六人の姿。

 キリエとサンタミカエラが、こちらに背を向けているのが視界に入る。

 この位置からでも良く見える身振り手振りを交え、話を続けているサンタミカエラ。

 小芭内と蜜璃は、時折茶を啜り、卓向かいのサンタミカエラを見ている。

 槇寿郎と千寿郎は、茶碗にも手を伸ばさず、真剣な面持ちで耳を傾けている様子。

 要、うんうん、と満足気に幾度か頷き、サンタミカエラの喋りを途中から聞いている。

 客間内で、皆の視線が集中する中、話を紡いでいくサンタミカエラ。

 やがて。

 

サンタミカエラ「・・・で、船でアニキの姿が消えちまったんだ。オレっちが寝てる間に・・・(一度息を継ぎ、キリエを見て)そして船が着いた港でキリエと遭って、(蜜璃と小芭内を見て)アネキと伊黒さんと遭って、今ここにいる、って訳だ」

 

 サンタミカエラ、胡坐をかいている脚の内側に、両手を下ろす。

 それから、ふうっ、と肩を上下させて息をつく。

 徐に茶碗に手を伸ばし、微温となった茶を、ごくん、と呷る。

 話が、終わった模様。

 暫し、余韻が客間に漂う。

 槇寿郎、両目を閉じ、噛み締めるように幾度か頷く。

 千寿郎も瞼を下げ、やや顔を上に向け、しみじみとした表情を醸す。

 

槇寿郎「(ふううう・・・と、長い溜め息を吐いて)・・・杏寿郎の姿が浮かんでくる」

千寿郎「(緩やかに息をついて)ええ・・・兄上がすぐ近くにいらっしゃるようです」

 

 キリエ、ふたりに向けて交互に視線を送り、微かな笑みを湛える。

 小芭内と蜜璃もふたりを見遣り、安心したような目線を結わえている。

 少し、間。

 槇寿郎が瞼を開け、遠くを見るような目を座卓の上に投げる。

 

槇寿郎「杏寿郎は、私が指導を放棄してからも、おのれで鍛錬を重ね、指南書を自分に叩き込み、柱となり、強き者としてこれ以上ないほどの責務を果たした。我が息子ながら、立派な子だと感じている。杏寿郎も千寿郎も自己研鑽を積んで成長してくれた・・・妻の・・・瑠火の血が濃いのだろう。ふたりが気高き心を持って生まれて来てくれたことに、感謝せねば・・・」

 

 数拍後。

 急に、ギリ・・・と奥歯を噛み、苦渋の顔となる槇寿郎。

 

槇寿郎「(重苦しい声で)それに引き換え、私はとんでもない大馬鹿者だ。人を救えない自分自身の不甲斐なさ、無能さに挫け、最愛の妻を失い、酒に溺れ、柱を辞し、自堕落な日を送っていた。杏寿郎にも千寿郎にも辛く当たり、最低な父親だった・・・」

 

 一瞬で、場の空気が沈下。

 五名の視界の中で、槇寿郎は項垂れ、顔を伏せる。

 誰もが、言葉に詰まった様子。

 

槇寿郎「最近、思うのだ。私がもっとしっかりとしていれば、杏寿郎を死なせるようなことにはならなかったのではないか、と・・・」

 

 悔悟と、自責に染まった言語。

 槇寿郎、両手を正座の膝に置き、ぐっ、と痛いほどに握っている。

 肩が震え、眉を顰め、目を固く閉じている。

 小芭内が座布団の上で、すい、と身体を槇寿郎に向ける。

 真摯な、堅固な視線。

 

小芭内「槇寿郎殿・・・(芯の通った声質で)そこまで責任を感じる必要はない」

槇寿郎「(顔を伏せたまま)しかし・・・」

小芭内「恩人である貴殿に、これ以上御自分を責めて頂きたくない」

 

 斬り込みのような、鋭利な声色。

 しかし、言葉の色彩は、深く、慈しい。

 槇寿郎の震えが止まり、ゆっくりと、静かに顔が上げられる。

 目は開いていれど、未だ、後悔に満たされた鈍い光のまま。

 

キリエ「私は・・・(深遠な響きの声)私に関わった人が大勢死んでいくのを見てきた。それは明らかに私が原因。私に流れる血が原因」

 

 全員の視線が、一気にキリエに繋がれる。

 数拍、置いて。

 

キリエ「(槇寿郎を見て)聞いているかどうか判らないから言うけど、黒衣の者、っていうアメリカの鬼の始祖の子が、私なの・・・鬼舞辻無惨に娘がいたら、って説明すれば、解りやすいかしら」

 

 槇寿郎と千寿郎、目を見開く。

 息を吸い、停め、驚いたような面持ち。

 少しの間を、置き。

 ふーっ、と溜めた息を長く吐く槇寿郎。

 

槇寿郎「黒衣の者、という米国の鬼が日本にいる、と鴉から伝え聞いていたが・・・君が、その娘とは・・・」

 

 こくり、とキリエが頷く。

 槇寿郎と千寿郎の目には、驚異を含んだ色が宿る。

 キリエ、視線を卓上に落とし、目を伏せる。

 憂いを帯びた、顔。

 

キリエ「私が黒衣の者の娘だから、浄滅しようと大勢の人が私を狙い、私と親しくしてくれた人も大勢死んでいった・・・黒衣の者の血さえひいてなければ、その人たちの命は失われることはなかった・・・(槇寿郎を見詰め)私は鬼だけど、亡くなった命への責任は感じてるわ。だから鬼でない貴方は、責任を感じなくていいと思う」

 

 真っ直ぐな、眼差し。

 しかし、対する槇寿郎、驚きを上書きしたような表情で、口を結んでいる。 

 千寿郎も、数度目を瞬かせ、やや小首を傾げている。

 はっ、と我に返ったように、キリエが頬を朱に染め、目線を外す。

 

キリエ「(恥ずかし気に)ご、ごめんなさい・・・こういう時、何て言ったらいいか判らなくて・・・上手く話せない・・・」

 

 小芭内、短く息を継ぎ、キリエに視線を繋ぐ。

 

小芭内「話の脈絡が振れていると思うが、こいつはこいつなりに槇寿郎殿に気を遣ってるのだろう。(槇寿郎に目線を戻し)責任を感じなくていい、に関しては、俺も同じ意見だ」

サンタミカエラ「(頷いて)オレっちもそう思う。親父さんがそこまで気に病む必要はねェ。それによ、親父さんや千寿郎のこと、それとお袋さんのことを話す時のアニキは、本当に楽しそうに、んで誇らしそうに話してくれたよ」

蜜璃「(サンタミカエラを見て、感心した口調)やっぱりそうなんだ。師範って誰に話す時も、家族のことは嬉しそうに話してたわね。本当に大事なんだなぁ、って、横で聞いてても思えたなぁ」

 

 槇寿郎が、少し俯き、ぐっ、と奥歯を噛む。

 千寿郎、少し身を乗り出すような姿勢で、キリエに目線を向ける。

 

千寿郎「キリエさんは、米国で鬼狩りをされているのですよね?」

キリエ「(こく、と頷き)ええ」

千寿郎「貴方の父親になりますが・・・黒衣の者、とやらを斃すことが、目的なのですか?」

キリエ「(頷いて)そう、それだけが、狂血病・・・鬼になる病をなくし〝明日〟を取り戻す、たったひとつの手段だから」

 

 瞼を閉じるキリエ。

 再度、全員の視界が彼女に据えられる。

 

キリエ「私に関わって死んでいった人たちに、許してほしい、なんて言えない。だから誓ってきた。狂血病を撲滅する為に、黒衣の者を斃し、〝明日〟を取り戻す、って・・・」

 

 キリエ、小さく二度、呼吸をする。

 何かを噛み締めるような、反芻するような、仕草。

 それから再び両目を開け、槇寿郎を見詰める。

 

キリエ「(清んだ声で)亡くなった人を蘇らせることは、出来ない。時間を巻き戻す方法は、ないわ。だから、生きて前に進む」

 

 不動の、意志。

 揺るがない、力強い瞳の色彩。

 キリエの信念を、皆が目の当たりにしている。

 数拍。

 槇寿郎、ふっ、と口元を緩め、目端の力みを解く。

 

槇寿郎「(静かな、落ち着いた声)そう、だな・・・成すべきのことは、先にある」

 

 ずい、と座布団の上で座り直し、キリエとサンタミカエラに身体を向ける槇寿郎。

 続いて、千寿郎も父と同様の動きで、ふたりに正面を向ける。

 

槇寿郎「話を聞かせてくれて、感謝する。(頭を下げ)ありがとう」

キリエ「(申し訳なさそうに)お礼なんて・・・頭を上げて」

サンタミカエラ「そうだよ。オレっちたちは、あったことをありのまま話しただけだって」

槇寿郎「(頭を上げ、姿勢を正し)私は、君たちの話を信じよう。杏寿郎は時代を遡り、米国の地で鬼殺の責務を貫いている。本当に、親として大変に誇らしい」

千寿郎「(柔らかな笑みで)私も、おふたりの話を信じます。兄上のご活躍をお聞かせ頂き、ありがとうございました」

 

 再度、首を垂れる槇寿郎と千寿郎。

 やや困った雰囲気で、思わず顔を見合わせるキリエとサンタミカエラ。

 目線を宙で絡ませ、こく、と頷き合い、安堵した空気を醸し出す小芭内と蜜璃。

 少しの、後。

 漸く頭を上げた槇寿郎と千寿郎を見遣ってから、サンタミカエラが、ふと、真顔になる。

 

サンタミカエラ「にしても・・・(声を落として)アニキがいきなり消えちまった理由が、判らねェ。一緒に時間を跳べたらよ、また親父さんと千寿郎に逢えたってのに・・・」

槇寿郎「(やや間を空け)それは、やはり・・・」

 

 言葉が、途切れる。

 槇寿郎の視線が外され、遥か先の彼方まで向けているように変化。

 全員が、彼に目線を繫げる。

 暫し、そのまま。

 そして、思い切った如く、槇寿郎が座布団から起立し、キリエとサンタミカエラを凝視する。

 

槇寿郎「(重い声で)見てほしい物がある。来てくれ」

 

 改めて顔を見合わせ、何事かと言いた気な表情となるキリエとサンタミカエラ。

 それから、槇寿郎と同様に立ち上がり、彼を向く。

 千寿郎、小芭内と蜜璃、続く。

 

 

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