「キリエ~吸血聖女~」二次創作読み物   作:桁石スミオ

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我は欣びて、十字架を負わん【第弐章/駒澤編】ー7

★ 煉獄家・門の前・路上

 

 陽は天頂。

 煉獄邸の正門前に、六名。

 棟門に背を向け、槇寿郎と千寿郎が立つ。

 向かい合って、キリエ、サンタミカエラ、蜜璃、小芭内が並ぶ。

 キリエは傘を差し、トロリーケースを右体側に置く。

 サンタミカエラは、ボストンバッグを左手に下げている。

 

千寿郎「今日はご足労頂き、感謝申し上げます。(キリエとサンタミカエラを見て)また、いつでもお越し下さいね」

サンタミカエラ「ああ、また寄らしてもらうぜ」

槇寿郎「杏寿郎と再会出来たようで、良い時間を過ごさせてもらった。僭越ながら、武運長久を祈らせてもらうよ」

キリエ「アメリカに帰ったら、煉獄さんに伝えておくこと、あるかしら」

 

 軽く目を伏せる槇寿郎。

 やや、間を空け。

 

槇寿郎「(言いづらそうに)親として本当に申し訳なかった。達者で暮らしてくれ、と」

 

 キリエとサンタミカエラ、申し合せたように、顔を見合わせる。

 数拍後。

 同時に、これも既に打ち合わせしていたかのように、流暢な動作で槇寿郎に目線を向ける。

 

サンタミカエラ「(にっ、と笑い)前半は、親父さんの胸に仕舞っててくれ」

キリエ「(ふ、と微笑み)後半は、間違いなく伝えておくわ」

 

 槇寿郎の視線が戻り、両眼が緩やかに、大きく開かれる。

 二拍、そのまま。

 眉を下げ、目を細め、静かな笑みを口端に浮かべ、首を上下に大きく振る槇寿郎。

 懺悔を受け止めてもらえ、咎を許されたかの如き表情。

 まるで、眼前の少女ふたりに、慈悲を賜ったかの様相。

 蜜璃、その様子を確認し、一際明るい笑顔となる。

 

蜜璃「槇寿郎さんも、千寿郎くんも、お身体大切にね。またね!」

小芭内「(軽く会釈して)では、これで失礼する」

 

 小芭内の言葉が、合図。

 キリエとサンタミカエラ、踵を返し、元来た方向へと歩を進め始める。

 小芭内と蜜璃、ふたりに続いて身体を翻し、後に続いて足を前に出す。

 四名が門から離れていくのを見遣り、槇寿郎と千寿郎が門前に直角に立ち位置を変える。

 そして、礼。

 槇寿郎は体側に両腕を付け、千寿郎は両手を身体の前で組み、頭を下げる。

 ふたりとも、深々と、最敬礼。

 四つ角まで到達した時、小芭内と蜜璃が、ちら、と振り返る。

 尚も最敬礼の姿勢を保っている、ふたりの姿。

 全員が角を左方向へと曲がり、煉獄邸の見えない位置へと進んでいく。

 先に歩行するキリエとサンタミカエラの背に目線を投げ、刹那気な微笑を湛える蜜璃。

 

蜜璃「(しみじみと)私もミカエラちゃんの気持ち、判るなぁ・・・煉獄さんがいなくなるなんて、考えもしなかったもの」

小芭内「(小さく頷いて)俺も、初報は信じなかった。あの煉獄が、と疑った。今も・・・すべて信用していない気がする」

蜜璃「また煉獄さんに逢えたらいいのに、ね」

小芭内「(短く息を吐き)そうだな・・・」

 

 くる、とサンタミカエラが歩きながら、振り返る。

 

サンタミカエラ「次って、行先決まってんだっけ?」

蜜璃「(首を左右に振って)ううん、まだ指令は来てないんだけど・・・」

 

 ふと、小芭内とキリエが、同時に上空を見上げ、足を停める。

 釣られたように、続いて停まるサンタミカエラと蜜璃。

 

キリエ「(傘の端越しに目線を向け)噂をすれば、ね・・・」

 

 四人の真上に、一羽の鴉。

 狭い円の飛行を、正確に数回描き、螺旋状の軌道で地上へと降りてくる。

 小芭内、左腕を、すい、と肘を折った形態で水平に差し上げる。

 そこを止まり木に、スタン、と自然な動作で着地する鴉。

 全身が細身、嘴は苦無のように鋭く尖り、切れ長の両目、艶やかな羽根。

 

雄鴉「小芭内殿! 伝令! 伝令!」

 

 緊張感を包括したような、ピン、と張ったような声。

 キリエとサンタミカエラ、鴉を凝視している。

 

小芭内「俺の鴉だ。名は『夕庵』」

サンタミカエラ「(関心した様子で)へぇ・・・何か真面目そうな顔立ちしてんな」

小芭内「(サンタミカエラに目線を投げ)当然だ。夕庵は規律正しく、真摯な性質だ。(夕庵を見て)伝えてくれ」

夕庵[鎹鴉]「浅草ニ鬼出現! 深夜、七区デ人ガ襲ワレタ! 速ヤカに悪鬼ヲ滅セ!」

 

 場の空気が、引き締まる。

 キリエとサンタミカエラ、互いに目配せし合い、短く頷く。

 

キリエ「(小芭内を見て)私たちも同行するのは、差し支えないかしら?」

小芭内「(ふう、と息をつき)好きにしろ。ただし、邪魔はするな」

サンタミカエラ「てやんでェ、邪魔にはなんねェよ。手が足んなきゃいくらでも貸せるって」

蜜璃「私宛ての指令はまだだから、一緒に行くね! みんなで行けば心強いわ! こういうの何て言うんだっけ・・・(ピン、と閃いた様子で)『呉越同舟』とか、『乗り掛かったドロ船』って言うのよね!」

 

 小芭内と夕庵が、固まる。

 キリエとサンタミカエラは、蜜璃の例えの意味が解らず、きょとん、としている。

 間。

 間。

 小芭内、顔の上部に縦線と陰を下ろし、右手を額に当てて俯く。

 どう発言したらいいのか、窮している模様。

 蜜璃、小芭内に視線を結び、目を点にして、強張った笑みを浮べている。

 

蜜璃「(小首を傾げて)あれ?・・・違った?」

キリエ「言葉の意味は解らないけど、多分、当たってないと思う」

 

 サンタミカエラ、右頬を軽く搔き、困ったように苦笑い。

 夕庵、こっくり、と頭の上下に振り、生真面目そうな硬い目線を蜜璃に向けている。

 

 

★ (日没時)東京府・浅草・六区

 

 夕陽も沈み、暮色に染まる上空。

 数本の雲が靡いて、天の風景に彩りを添えている。

 東京府随一の娯楽の中心、興行街である浅草。その中でも最も賑わう六区。

 芝居小屋、映画館、劇場がずらりと軒を並べている。

 白昼、宵の口、深夜と、この街に人が途切れることは、ない。

 この時間も、通りを何百という人が行き交い、道筋を埋め尽くしている。

 街灯と建屋からの灯りが、昼間のような明るさを、街全体に構成。

 その中、六区の主筋と、そこに面する公園の池を見下ろす屋根の上。

 路角に建つ洋風建築の劇場の尖塔、その最も高い位置に、黒い姿。

 地上から数十メートルの、僅かな足場に立つ、異様な人物。

 大きな角が二本生えた仮面、全身黒づくめの服、漆黒の外套。

 仮面の目の位置から奥にある、虚無の色彩の両眼。

 人物は、歓楽街の屋根を越えた、遥か遠くを眺めている。

 

仮面の人物「(地の底から鳴るような声)来るか、キリエ・・・」

 

 ふと、人物が地上を見下ろす。

 人混みから離れた場所に停車した自動車から、数人が降りてくる。

 男性一名、女性一名、幼い娘が一名。

 若年の雰囲気の男性は、波打った黒い短髪、長身、眉目秀麗の青年。

 月彦と、恐らくはその家族。

 目を細め、笑顔で他のふたりに話し掛けている月彦。

 こちらに気が付いている様子は、ない。

 月彦のみならず、多くの通行人も、尖塔に立つ人物を認識していない。

 じっ、と月彦の姿を凝視している、漆黒の人影。

 

仮面の人物「そして奴も来た・・・漸く、すべてが揃う。待ち侘びた答えが、導き出される・・・」

 

 直後。

 ぶわあっ、と一陣の風。

 大きく翻った外套が戻るより早く、人物の姿が消滅する。

 瞬時に、闇に融け、見えなくなる。

 眼下の賑わいとは裏腹の、奇怪な気の流れが、上空へと昇り、やがて消散する。

 

 

 

【 To be continued...『我は欣びて、十字架を負わん(第参章/浅草開戦編)』 】

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