「キリエ~吸血聖女~」二次創作読み物   作:桁石スミオ

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我は欣びて、十字架を負わん【第参章/浅草開戦編】ー3

★ (ほぼ同時刻)浅草公園一区・浅草寺境内・観音堂付近

 

 夜空の雲が段々と間隔を開け始めている、丑三つ時。

 浅草公園一区の中央に鎮座する、巨大な仏閣。

 有無を言わさぬ存在を示す、金龍山浅草寺『観音堂』。

 深夜である現在の時間、ここの広大な境内に、参拝客の姿はない。

 そこを、キリエと蜜璃が並んで歩いている。

 ふたりは、六区から四区、『瓢箪池』と緑地横の道路を通り、この敷地に進行。

 広い境内には、常夜灯が数ヶ所に灯り、まったくの暗闇ではない。

 キリエも蜜璃も、移動しながら周囲を見回し続けている。

 警戒を保ったまま、いつでも攻撃を繰り出せる状態で。

 観音堂に接近していく、ふたり。

 ふと、キリエが足を停止。

 左側の方面の連なる樹々の彼方に、一際高い尖塔が見える。

 突端に近い高さの両脇に白い光が灯り、照らし出され、浮かび上がる高層建築物。

 下層は煉瓦色だが、頂点から五分の一ほどの範囲が白塗りで目立つ。

 その尖塔は六区からも見えており、五階建ての建築物もある繁華街からでも、それを越えて可視出来る。

 ここ、公園緑地越しの位置からは大変良く見え、明瞭に姿が判る。

 キリエも、移動先から時折目に留めて、何であるか興味を抱いている。

 蜜璃、立ち止まったキリエを振り返り、小首を傾げる。

 

蜜璃「(キリエを見詰め)どうかしたの?」

キリエ「(目線を塔に投げ)・・・あの、塔・・・」

蜜璃「(同じ方向に視線を投げ)浅草十二階のこと?」

キリエ「(蜜璃に目を向け)十二階?」

蜜璃「(頷き)そうなの。すっごく高いでしょ? 浅草は高い建物多いけど、十二階は特別よね」

 

 暫く『十二階』に視線を繋げる、ふたり。

 ややあって。 

 キリエと蜜璃、再び警邏行動を再開する。

 観音堂と『仁王門』を結んで敷設されている石畳を横切り、更に進む。

 ふたりは本堂の裏手に回り込もうと、左方向に歩行の舵を切っていく。

 突然。

 悪寒。

 キリエ、背筋に、ぞわあっ!と冷感が走るのを感じる。

 得体の知れない、戦慄。

 表現しようのない、怖気。

 またも、彼女が、ピタ、と足を止める。

 そして、進行方向とは反対の、右側に身体を返す。

 浅草寺仁王門側方十数メートルの位置に、周囲の仏閣よりも遥かに高い建屋がある。

 仏殿建築の推移を集めた楼閣形式の層塔、『五重塔』。

 朱褐色に塗られた木造の五層の塔で、灰黒色の瓦が見事な重厚さを醸す。

 キリエ、建屋の雰囲気には目も呉れず、視線を一気に上方へと上げていく。

 天空に向けられた塔の天辺、心柱の突端、長い九つの相輪の横に、人影。

 誰かが、いる。

 人が登れぬ場所に、誰かが、いる。

 夜目の効く彼女は、認識する。

 両目を正円に見開く、キリエ。

 そこには上空の風に棚引く、漆黒の外套。

 両の角が生えた、仮面。

 そして何より、自分と共鳴するような、昏き気配。

 間違いない。

 片時も忘れたことなどない。

 

キリエ《(絶句しつつ)・・・黒衣の者!!!》

 

 40メートル越えの高さの塔の屋根に立つ、姿。

 背景の闇に溶け込むほどの漆黒の衣服に、禍々しい面。

 その目の穴を通して、キリエを見下ろしている様子。

 遂に。

 年月を超え、この異国の地にて、対峙する親子。

 キリエ、わなわなわな・・・と全身を震わす。

 体内の血液が逆流し、沸騰。

 怒り、敵意、そして、殺意。

 瞬間、彼女の裡に、猛烈な心理が間欠泉の如く噴出。

 余りに巨大な感情の容積に、動けない。

 言葉すら、出ない。

 刹那。

 黒衣の者が、スッ、と右手人差し指を、正面方向に示す。

 キリエ、その方向に振り向き、目線を投げる。

 指した方向に、浅草十二階の尖塔が見える。

 短く息を飲み、改めて黒衣の者を睨むキリエ。

 直後。

 ふわ、と身体を屋根から躍らす黒衣の者。

 即座に、ズワアアッ、と背中の位置から、両翼四枚の翼を広げる。

 そして、数度羽ばたいて宙に浮かび直し、更に、ブワサッ、と空気を押して高く飛ぶ。

 一際白目を剥き、その姿を凝視するキリエ。

 その姿を眼下に、黒衣の者が飛行を開始。

 だが、こちらに降りては来ない。

 50メートルの高度で、頭上を通過し、浅草寺境内を斜めに横断。

 そのまま、ヒューッ・・・と公園緑地上空へと、滑空していく。

 飛行する延長線上には、浅草十二階が夜景に浮かび上がっている。

 キリエが悪寒を覚えてからここまで、僅か数拍。

 蜜璃は、キリエの様子に気が付いていない。

 黒衣の者がいたことも、認識していない模様。

 刹那の、後。

 黒衣の者が空を飛び始めたのを見た、直後。

 キリエの裡の何かが、点火。

 突き上げる、衝動。

 鮮血の如き色の瞳が、発光。

 地面を蹴る。

 ズッドオォォン!!!と、爆発音。

 蜜璃、ハッ!と右側方に身体を返し、音の方向を確認する。

 残留する、土埃。

 それを尻目に、キリエが駆け出している。

 彼女の姿を見て、蜜璃も只事でない雰囲気を察した模様。

 

蜜璃「(驚きつつ)キリエちゃん!」

 

 すかさず足下に力を籠め、ダン!と走り始める蜜璃。

 キリエを、追う。

 

キリエ「(絶叫に近い発声)あいつが! 来た! やっと見付けたっ! 十二階に行くつもりだっ! 逃がさないっ!!!」

 

 キリエは両腕を後方に翼のように靡かせ、地面擦れ擦れの前傾姿勢で疾駆。

 両眼を全開にし、爛々とさせ、紅色の透過光を空間に描き。

 

蜜璃「(大声で)待って! キリエちゃん!」

 

 『薬師堂』と『淡島堂』の間を抜け、ドドドドドドッッ・・・と、全力疾走するキリエ。

 境内に植えられた樹木の隙間を縫い、一目散に駆ける。

 更に先、左に公園緑地、右に『花屋敷』のある浅草五区の道路に向かっている。

 彼方に見える、浅草十二階の雄々しい姿。

 蜜璃も、追い付かんとばかりに速度を上げ、猛烈な勢いで走る。

 『柱』を名乗れるほどの健脚を、惜しみなく発揮している蜜璃。

 だが、キリエとの距離は、開く一方。

 彼女は見る見る点になっていき、街灯が届かない夜陰に溶け始めている。

 何かに憑依されたかのような、異次元の疾走。

 蜜璃、どうしていいか判らないような、困った表情。

 途端。

 後方からふたつの影が、蜜璃に追い付く。

 サンタミカエラが、バッ、と軽やかに宙を跳ね、蜜璃の右横に。

 小芭内が、ずぬぅっ、と湧き出るように路面から競り上がり、蜜璃の左横に。

 三人が、ダダダダダダダ・・・と並走し始める。

 蜜璃、左右に視線を投げ、瞬間、安堵した様子。

 だがすぐに、引き締まった面持ちを浮かべる。

 

小芭内「(並走しながら、訝しげに)何事だ」

蜜璃「(小芭内を見て)キリエちゃんが急に走り出しちゃって! 十二階に向かってるみたいなの!」

サンタミカエラ「十二階? (前方を見上げながら)あの高ェ塔か!?」

小芭内「(同じ位置を見上げ)『凌雲閣』か・・・何か見付けたのか?」

蜜璃「キリエちゃん、『あいつが来た』って言ってた! ミカエラちゃん、心当たりある?」

サンタミカエラ「(目を丸くして)あるも何も、キリエがそう言うのは黒衣の者しかいねェ!」

 

 短く息を飲む蜜璃。

 小芭内、チッ、と舌打ちし、眉を顰め、前方道路の闇を睨む。

 

小芭内「(苦々し気に)勝手な行動を・・・まだ鬼が一体不明だというのに」

サンタミカエラ「伊黒さん、勘弁してやってくんねェか? (小芭内を見て)もし近くに無惨がいる、って知ったら、伊黒さんも落ち着いてらんねェだろ?」

 

 蜜璃も小芭内に目線を結び、こく、と小さく頷く。

 ふたりに目を向け、ふう、と気付かれないほどの微かな溜め息をし、僅かに目を伏せる小芭内。

 それから、鋭利で切れのある眼光で、サンタミカエラに目線を放る。

 

小芭内「(重厚な声で)お前はこのまま凌雲閣に向かえ。相手が黒衣の者だとすれば、手数は多い方がいい。(蜜璃を見て)俺たちは残る一体の鬼を捜し、斃した後に凌雲閣に移動する。いいな?」

サンタミカエラ「(勇ましい声)おう! 先に行ってんぜ!」

蜜璃「(張りのある声で)ミカエラちゃん! 気を付けてね! 私たちもすぐに行くわ!」

 

 サンタミカエラ、深呼吸。

 しいいいぃぃぃ・・・と、食い縛った歯の両端から、吐息。

 脚を止めることなく、全身を丸め、短距離走のクラウチングスタートのような姿勢。

 半拍後。

 ドゴォン!と炸裂音が起き、蒼白い閃光。

 バリバリィッ!と空間を稲光とプラズマが迸り、前方遥かに吸い込まれていく。

 サンタミカエラの姿が、同時に消える。

 小芭内と蜜璃、疾駆の速度を落とさず、並び進行する。

 

小芭内「甘露寺、駆けながらでいい。聞いてくれ。先程一体目の鬼を斬った時の話だ・・・」

 

 蜜璃、小芭内に真剣な眼差しを繋ぎ、大きく一度首を上下に振る。

 そして、花屋敷の敷地の角を、右方向に曲がって走っていく。

 ふたりの姿も、街の暗闇に見えなくなる。

 

 

 

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